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西郷がさいごぉー!で最後には‥‥

『此花策也は流石だな。味方をしてくれた早乙女でさえ討伐したようだぞ』
『普通なら良くやってくれたって感じだけどな。民を無差別に殺すような奴は決して許さないか』
『正義は一貫してブレないな。ある意味西郷の仇を討った訳で、王族貴族もこれ以上此花には逆らえない雰囲気になっている』
『西郷はまだどこかで生きているって話だけど、もう此花を討とうって奴は集まらないだろうな』
ネット上のコメントを見る限り、全ては早乙女の思い通りの結果になったと言えるだろう。
しかしまさか早乙女が汚れ役を引き受けてまで味方をしてくれるとは。
それでも完璧な結果とはならなかったようで、西郷はまだ生きているらしい。
能力もよく分からないし、おそらくは我が領内のどこかに潜んでいる。
流石の俺でも領内全てを索敵なんかできないのだ。
まあいずれ向こうからやってくるだろうけれど、村を襲ったりテロだけは勘弁してほしいよ。
食料危機は去ったとは言え未だギリギリだし、完全に食べたい物が食べられるような状態には戻ってはないない。
村を焼かれりゃその分食料は減る訳で、また対応を考えなければならなくなる。
いや、その前に人が多く殺される事を心配しろよな。
全く王様なんて役割は、人をとことん駄目にするものなのかもしれないね。
王様に限った話ではないか。
転生前の世界でも、仕事の為に悪い事をする人は大勢いた。
大きな電車の脱線事故は、与えられた仕事を全うするが為に起こった。
時間通りに電車を走らせなければならないという仕事が、人命よりも大切になっていたのだ。
売り上げを取る為に違法行為をする人は大勢いただろう。
ビラを撒くのだって道路の使用許可がいる。
役割は時に人に過ちを犯させるのか。
組織の同調圧力ってのもあったな。
日本人がルールを守り、人に迷惑を掛けないよう努めるのはその力も大きい。
日本においては良い面も多かったと言えるが、逆に悪い事もそれによって強制されるから良し悪しあるんだけどさ。
「そんな訳でリン、おそらく西郷は此花の領内で動いている可能性がある。西郷の映像ってのはあるよな。指名手配して民からも広く情報を集められるようにしてくれ」
「了解したわ」
国王クラスの者はあまり表に顔を出さない世界だ。
とは言えそれは大国に限った話で、中規模な国から小国ならネットを探せば見つかる事も多い。
昔は伊集院との関係も影響していたが、最近ではマイチューブもあるのでだいぶ公開されるようになってきていた。
金を出せば更に多くの情報が手に入れられる訳だが、その辺りはまだ伊集院が仕切っている所だ。

さて四阿会議の後は、俺はリンを手伝って防衛体制構築を急がなければならない。
もしも西郷が早乙女に対して恨みを持ったとしたならば、元早乙女領の町が狙われる可能性だってある。
そもそも無差別テロを繰り返してきた奴だ。
守るべき町は全て万全にしておかなければ。
「今日も町の結界作りなのね?」
空を飛ぶ俺の体に付く影から、妃子が顔を出して話しかけてきた。
傍から見ると、俺に顔が二つ付いているように見える。
しかも出て来る場所を選ばないから、偶にマズイ所から出て来る訳で。
「そうだけど、股間から顔を出すのはやめてくれ。なんか嫌だ」
「そう言われるとやりたくなるのです」
今度は菜乃が、妃子の頭に付いた影から頭を出してきた。
股間のナニがでかくなったようで更に嫌な感じだ。
「こらこら、お前たちはナニをしてるんだ」
「割と楽しいのね」
「そうなのです。妖凛も仲間に入るのです」
いや妖凛はそんな事しないいい子だから‥‥。
なんて思っていたら、首に巻き付いていた妖凛も一度影に入ってから、菜乃の頭の上の影からでてきた。
生首トーテムポールの三段重ねみたいになっているぞ。
しかも更に股間が起っきしている感じになっているじゃないか。
とは言え三人はやたらと楽しそうだ。
邪魔するのも無粋かと思い、俺はそのまま空を飛び続けるのだった。
間抜けな感じだけどさ。
作業は少女隊プラス(少女隊と妖凛)も手伝ってくれていて、割と楽に進んだ。
簡易設置はこの日の内に全ての町で完了する事ができた。

その日の夕方、四阿会議には忙しいリンは出席せず特に問題はなく終わった。
何も無くても一時間ほどは、何でもない話をしながらお茶をする。
参加メンバーは『リン』『総司』『千える』『七魅』『金魚』『洋裁』だ。
洋裁は朝会議にはほとんど出てこないけれどね。
時に望海や兎白、或いは賢神やミケコが参加する事もある。
みゆきの席にはいつも千えるが座っているので、みゆきが参加する事はほぼ無い。
ただこの日は何故か参加していた。
きっと話があるのだろうと、会議の後俺はみゆきと二人ガゼボに残った。
「それでどうしたみゆき。何か話があるんだろ?」
「やっぱり分かっちゃってるね」
みゆきは何故か嬉しそうだった。
みゆきの事はだいたい分かるのだ。
なんせ十四年の付き合いだからな。
いや、愛するが所以かもっと長い付き合いにも感じる。
「あのね、多分だけどもうすぐ西郷さんたちがナンデスカの町を襲いにやってくるよ。なんとなくそんな気がするんだ」
みゆきは出会った頃から勘が鋭い。
それは最近更に鋭くなってきているような気がする。
そして今回、こうもハッキリと言うのだ。
おそらくそれは間違いないだろうと確信できた。
「そうか。じゃあこれから来るんだろうな。一応俺も待機しておくか」
「簡単に信じちゃうのね?」
「そりゃみゆきの言う事だからな。特に間違っていたとしても問題無いし、何故か俺もそうだと確信できるんだよ」
「そっか。じゃあきっと間違いないね」
みゆきも俺の言葉で確信を持ったみたいだ。
お互いの気持ちがリンクした時、それは確実に現実となる。
そんな感覚を俺はなんとなく持っていた。
「もうすぐ来るよ。あと十分もないかもしれない」
「ならば急がないとな」
俺はみゆきと話しながら、別の思考でリンについている駈斗や禰子へとテレパシー通信で伝えておいた。
俺は立ち上がった。
「じゃあ行ってくるよ。もうすぐ色々と終わりそうな気もしている。そしたらマッタリ毎日をグータラ過ごそう!」
「うん。子供たちもまだお父さんと遊びたいみたいだしね!」
神様になって世界が落ち着いたら、王様なんて誰かにやってもらおう。
世界は皇に任せれば大丈夫だ。
多分皇は神の意思を実行する者たち。
きっと上手くやってくれるさ。
「じゃあね!」
俺は瞬間移動魔法でナンデスカの町へと移動した。
上空から千里眼と邪眼で索敵する。
するとすぐ町の外に、西郷たち他十名ほどを確認する事ができた。
完璧だな。
最高だぜ我が妻みゆきはさ。
西郷以外は見た事はないが、なんとなく何人かは有栖川の生き残りだと感じられた。
間もなく西郷の姿が別人へと変わる。
女性の姿に変化されたら、傍から見て確認は不可能だ。
能力は本人のものではなさそうだが、こんな奴らを野放しにしていたら町の中に入り込まれてしまう。
そしたら何をされるかも分からない。
ここで仕留めないとな。
俺は空から西郷たちの前へと降り立った。
「は~い!怪しい人たち。何処に行くのかな?」
俺は満面の笑顔で話しかけた。
「此花策也だと!?」
「何故我々の行動がバレている?!」
せっかく姿を変えたのに、そんな事言っちゃダメじゃない。
突然何かがあると人間素で話ちゃうよね。
転生前の俺は人前では常に明るくさわやかな男を意識して作っていたけれど、一人の時に突然話しかけられるとそれが出来なかったりしたんだよな。
裏表がない人ってうらやましいよ。
「わ、わ、わたくしたちは、ただの冒険者だ、なのですわ。ほっといてくれ、なのですわ」
見た目が女性に変わっても、中身は西郷はオッサンだからな。
無理があり過ぎて笑えるレベルだよ。
「西郷よ。今が俺を討つチャンスじゃないのか?それが目的なんだろ?」
「くっ!バレたら仕方がない。ここでお前を倒し俺が世界の王になってやる!」
あらあらそれが本音かよ。
転生前の世界の西郷ドンとは似ても似つかない中身だな。
先ほど確認した見た目も、あの銅像の西郷ドンにそっくりなんだけどさ。
所詮は異世界か。
「お前たち!やっておしまい!」
「アラボラサッパー!」
おいそのセリフは際どいだろ?!
魚の名前が三つだけど台詞の響きがね。
「食らえ!フルバーストメテオ‥‥」
やっぱり有栖川の者か。
だけどただの強い人間じゃ、俺を倒す事など一万年と二千年くらいは早いんだよ。
俺は一瞬にして全員を殴り飛ばした。
魔法を放つ時間すら与えない。
フルバーストメテオなんか放たれたら、この辺りが焼け野原になるんでな。
しかし勢いに乗ってパンチしたから、全員死んでしまったかもしれない。
俺も七魅の事は言えないな。
手加減が難しいくらいに強くなりすぎているよ。
そう思っていたのだけれど、変化が解けた西郷だけが立ち上がった。
「ほう。今のパンチで立ち上がれるか。割と強いな」
「俺は誰にも負けない。戦闘力だけなら上杉や武田にも負けないと自負しておる」
魔力的には神幻よりも圧倒的に小さいんだよな。
でも今のパンチで立ち上がれるのは、魔力以上の何かがある。
神幻も『鉄壁の守り』という能力があったから、賢神の攻撃に耐えてこられた。
さて西郷の能力やいかに。
何にしても攻撃だよ。
「レッドブルーライトニング!」
「さいごぉー!」
西郷に魔法は直撃させられた。
普通今の俺の魔法の威力なら神幻だって即死クラスだ。
しかし西郷はその攻撃に耐え、瞬く間にダメージから回復しているようだった。
「超再生の魔道具を使っているな?しかしそれでもそのタフさは異常だ」
先ほどパンチをした際の解析がようやく終わった。
なるほどねぇ。
どんな攻撃にもギリで耐えられる能力なのか。
HPが壱残る系のスキルだね。
しかしこれはまた美味しい能力を持っていてくれたものよ。
妖凛にも食べさせたいな。
となると超再生アイテムをまずは破壊だ。
邪眼でアイテムの確認をする。
首に付けてるネックレスね。
俺は瞬時に後ろへまわると、そのネックレスを『スティール』で奪った。
「なっ!何を!?」
「お前の強さを支えるアイテムは外させてもらったぞ」
アニメやなんかだとこの後色々と言葉のやり取りをするのだろうが、俺はそんなに甘くない。
直ぐに瀕死の状態にまでしてやるのだ。
「ロイガーツアール!」
「さいごぉー!さいごぉー!」
さっきも思ったけど、なんだよその苦痛に歪む叫びは?
むしろ気持ちが良さそうにも聞こえるぞ?
マニアックなAVで聞こえてきそうだ。
もしかしたらこの超耐久能力の叫びなのかもしれないけどさ。
それだとちょっと使うの嫌だよね。
「さあ妖凛、食べやすく肉を刻んでおいたからたんとお食べ」
(パァ!)
いやぁ~、妖凛がそんなに嬉しそうに食べてくれると、俺はとっても嬉しいぞ。
それじゃ他の奴らも含めて魂は一応確保しておくか。
こいつ誰だか知らないけれど、他人を変化させる能力は割と使えそうだしな。
妖凛は気絶していた他の奴らも食べ始めた。
「ちょっ!」
別にいいけどさ。
邪神であるニョグタは、溶かして何でも吸収する生き物なのだ。
それはこの子にとって悪い事とは言えない。
ちゃんと相手を選んでくれているだけでも良しとしなければね。
さてこれで王族貴族連合は壊滅かな。
残っているかもしれないけれど、旗印を失えば組織はもう駄目だろう。
きっともう盗賊と変わらない。
妖凛が食べ終わるのを待ってから、俺はマイホームへと戻るのだった。

この日の夜、俺はネット上に声明を発表した。
『西郷は先ほど、俺が自らの手で打ち倒した。帝都であるナンデスカでテロをしようとしていたからね。誤解から始まって死ぬのはさぞかし無念であったと思う。何度も言うが、王族と貴族は別の形にはなるかもしれないけれど、高い能力を持っている以上家は存続させるつもりだ。これ以上無駄な血を流さないで済むように俺は願っている』
これで納得してくれればいいのだけれど、しばらくリンには盗賊退治をさせる事になるかもな。
そしてまた、何かが起こるかもしれない。
ネット上では静かに新たな何かが始まる気配を見せていた。
『世界はとうとう五つの国を残すのみとなってしまったな』
『此花、伊集院、皇、近衛、そして愛洲か』
『愛洲は実質此花の傘下と言っていいだろう。国防を依存している保護国だしな』
『それと近衛も実質皇と言っていい。古くは同じ家系って話だぞ』
『つまり残るは三大国か』
『対此花王族貴族連合は終わった。皇は此花と仲良しだし、此花の天下を止められるのは伊集院だけか』
『そんな伊集院領内で、再び疫病が発生しているらしいぞ』
『いや伊集院領内だけじゃない。かなりあちこちで新種が確認されているとか』
『民の味方である此花の仕業では‥‥ないよな』
『伊集院領で広がっている所を見ると、伊集院でもないだろう』
『しかし今回も自然発生するような病原体ではないそうだ。だったら一体誰が?』
ネット民頑張れよ!
お前らなら誰が病原体をばら撒いているか分かるだろ?
つかガセだったらいいんだけどな。
病原体は自然発生のものであるか、或いはこの疫病自体が嘘であるか。
でもアルカディアの諜報員からいくつか疫病についての情報が上がってきている。
その報告から判断すれば、ネット民の見解は正しいと言えるだろう。
なんにしても明日はその辺り調査して、新たな病原体が存在するのならとりあえず薬の作成を急がないと駄目だな。
結局俺には心休まる時はなかなか訪れないのだった。
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