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バレた秘密!

人間とオーガは、長年にわたって敬遠、或いは牽制しあっている。
泉黄時代になる時に人間界に世界ルールが定められた後も、人間とオーガの関係は変わっていない。
変わらないのも当然で、その関係を維持する為に、世界ルールには定められていたのだ。
人間とオーガとの間で定められた約束を守るという事を。
それは『お互い干渉し合わない』という取り決め。
人間は正当な理由なくオーガの里には踏み入ってはならず、破った者は殺されても文句は言えない。
無暗に近づく事さえ罪に問われかねない。
この約束を定めた世界ルールは、人間たちに課せられたものだ。
しかしそれは何時しか、人間のオーガに対する行動に免罪符を与えるものとなっていた。
オーガの事を悪魔の生まれ変わり、或いは悪魔との子供と恐れていた人間は、だからこそ迫害も弾圧も差別も許されるのだと理解するようになっていった。
オーガは町に踏み入ってはならず、近づいてくる事さえ許さない。
そんなオーガは殺しても構わない。
そんな人間が世界の多数を占めるようになっていた。

サカシーの町を出た俺たちは、四十八願領内を西へと向かっていた。
途中四十八願女王の乗る馬車とその一団が魔物に襲われている所に出くわし助けたりもしたが、屋敷で話した時のようなやり取りはなく、女王とそれを助けたただの冒険者パーティーになっていた。
外での女王は、俺たちのような冒険者と親しくするわけにもいかない。
或いは一団の中に、そういう所を見られるわけにはいかない人物がいたのかもしれない。
皆それを察して、直ぐに女王とは別れた。
ただ、もう一度会えた事に、女王とみゆきが喜んでいたというのはなんとなく伝わってきていた。
もう心は繋がっているのだと思えた事が、俺はなんだか嬉しかった。
それにしてもみゆきの境遇は複雑だよな。
母親も自分も、生きていると分かったら困る人がいる人間。
転生前の世界では、『生きていて駄目な人間なんてこの世にはいない』なんて綺麗ごとが当たり前のように言われていたけれど、そうでは無い世界もあるのだ。
四十八願家は国を守る為に自分たちの能力を確実に受け継ぐ必要があって、双子は能力が半減するというのなら、何かしらの対処は必要になる。
双子として生まれた人は子供を残さないとか、四十八願家を出るとか、本当はそういうのでも良いはずだ。
でも悪いヤツがいて、あえて能力が劣る人間に後を継がせようと工作したりもする。
殺してしまうのが最も確実だと言えばそれはそれで納得する所もあって、そういった掟を一概に否定もできない。
その中で女王は『死んだと見せかけて他国へ逃がす』という選択をしたわけだ。
そのおかげでみゆきがこの世に産まれて来たわけで、俺は女王様、あんたに感謝しかないよ。
「もうすぐ『ブエン』の町ですね。魚が美味しい町と聞きますよ」
「鯉はあるかのぅ」
「鯉は川とか池にしかいないから、多分無いアル」
「海の町だもんねー!」
「残念じゃのぅ」
四十八願領のこの辺りは魔物も少なく、最近はピクニック気分で旅をしている。
女王の馬車が魔物に襲われていたが、アレはレアな話だとか。
それにその魔物だって最下級のものだったから、俺たちが助けなくても余裕で対処できる程度のものだったわけで、この辺りは本当に良い所だ。
そう思っていた矢先、辺りの監視をしていた陽菜が声を上げた。
「前方の森の中で人が魔獣に襲われてるでぇ~!子供もおるし助けんと死ぬかもやで~!」
京都か大阪かよく分からない関西弁で報告されると、なんとなく緊迫感に欠けるなぁ。
標準語の後に『ピヨ』を付けて喋るよう特訓でもするか。
それもまあ緊迫感はないだろうけど。
さて、俺がそんな事を考えている間にも、風里が森の方へとすっ飛んでいった。
その後をみゆきとエルが追う。
「俺たちも行くか」
「弱い魔物の相手とか、つまらんのぅ」
俺はマスクをしてから環奈と共に後を追った。
とはいえこの辺りの魔物なら、俺たちが到着する頃には当然ケリが付いているはずで。
なんて思っていたのだが、魔物の数が多くみゆきとエルがまだ戦っていた。
そして何故か風里は小さな女の子の前に座っていて、それを取り囲むように騎士と思われる人が何人か立っていた。
「オーガが何をしている!?」
「姫をどうするつもりだ?!」
騎士は剣を構えて風里と女の子の間合いを詰めていた。
風里をよく見ると、お団子ヘアーが解けた状態で、ツノが二本露わになっている。
なるほど。
戦闘中に髪がほどけ、オーガである事がバレちまったようだな。
「アレ?こいつ。勇者パーティーで魔王にとどめを刺した風里様じゃないのか?」
気づかれちまったか。
こりゃ厄介だな。
バレなきゃ姿を消せば終わりの話だったけど、これは嫌な予感しかしない。
いずれはこういう日も来るだろうとは思っていたが、ちょっと早すぎるな。
「あんたたちは騎士団か?どこの騎士団だ?」
俺は間に割って入っていった。
戦闘を終えたみゆきとエルも近くにやってくる。
「子供?あっ、あんたは此花の王子‥‥これはどういう事でしょうか。勇者パーティーにもしかしてオーガが混じっていたのですか?」
風里を見ると表情は笑顔だった。
子供に話しかけている。
「もう魔獣はいないから怖くないアルよ」
「うん。ありがと!」
子供はみゆきよりも下の小さな女の子で、服装や騎士団の言葉から王族の姫だと判断できた。
「そのオーガに、姫さんは助けられたんじゃないのか?」
状況からおそらくそういう事だろう。
ギリギリの状況で、風里でも髪を解かれるようなピンチだったに違いない。
「僕、見てました。確かにそんな気がします」
「お前は黙ってろ!オーガが人を助けるわけないだろうが!」
「オーガは人間の敵なんだ。それと一緒にいる勇者パーティーなんて信じられない」
そこまでオーガを嫌うかねぇ。
助けてもらったのを見ていてもそう言うか。
そうなるには事情もあるんだとは思うが、風里はもう俺たちの仲間だし、そこまで言われて黙ってはいられないな。
「助けてもらってそんな事言っちゃ駄目だよー!風里はオーガかもしれないけど、とっても優しいお姉ちゃんなんだよ!」
俺よりも先にみゆきが怒っていた。
すると今度はエルも怒りを言葉にしていた。
「わたくしは見ていましたよ。風里が身を挺してその子を守っているのを。風里がいなければ間違いなくその子は死んでいましたよね。それを見ていながらなんでそんな事が言えるのですか?!」
「助けてもらった事には感謝する。でもオーガの事は別の問題だ。とにかく姫を返してもらおう。そしてこの件は報告させてもらう」
「小さい奴じゃのぉ」
「なんだと?!」
「環奈。殺しちゃダメだぞ。もういい。お前らが誰にどう報告して何が起ころうと、俺たちは風里を守るさ」
騎士の一人が女の子に近づき、そして手を引いて連れて行く。
「バイバイお姉ちゃん!」
「うん。またねアル!」
事情を分かっていない女の子は手を振り、風里はそれに答えていた。
横転した馬車が見えた。
騎士の連中と女の子はそちらに向けて歩いてゆく。
その方向に一人、身なりなどから世話係に思われる女性が倒れていた。
「みゆき。蘇生してやってくれ。魂はまだ繋がっている」
「分かったよ」
みゆきが馬車の方へ向かおうとすると、騎士がそれを阻止しようと立ちはだかった。
「何をするつもりだ?オーガの仲間は信用できない。後で我々が回収し埋葬する。放っておいてもらおう」
何言ってんだこの男。
蘇生してやるって言ってるのに、それすらも信用しないのか。
いや、それ以上にオーガに対する憎しみか何かが上回っているのだろうな。
「やよい!やよいが‥‥」
ほらお姫様も泣いてるぞ?
そんな姫様を無理やり連れて行こうとするとか、本当にこいつら騎士か?
「分かった。みゆき戻っておいで」
「でも‥‥」
俺は必死にアイコンタクトで伝えた。
『みゆき~分かってくれ~見捨てたりしないから~」
でもよく考えたらマスクをしていて目が見えない状態だった。
そういう問題でもないか。
例え見えていてもアイコンタクトは不可能だろう。
あれ?
みゆきは笑顔で戻ってきていた。
どうやら伝わったみたいだ。
「じゃあみんな行くぞ」
俺たちは一旦この場から離れた。
少しして再び戻ると、倒れた女性はそのまま放置されていた。
「あいつらの仲間が戻ってくる前に、みゆきは治癒の蘇生だ。もう水はつかえない。俺は魔獣を回収する。この辺りでは見かけない珍しい魔獣だからな」
「アイアイサー!」
「この魔獣は番犬としてよく使われる『ガルム』ですね。テイムモンスターとして有名です」
こりゃまた何かきな臭いな。
十中八九誰かが襲わせたと考えられる。
「何処の姫さんだったかは知らないけど、その辺りはその人に聞けば分かるだろう」
みゆきは既に蘇生を完了し、姫の世話係と思われる女性も意識を取り戻していた。
「大丈夫ですか?」
「あっ‥‥姫様!姫様は?!」
目覚めていきなり姫の安否を気遣う辺り、この人は信用できる人だと思えた。
「姫さんは無事だよ。あんたたちの騎士たちが連れて行った」
「そ、そうですか‥‥良かった‥‥」
心底安心した表情からも、姫に対する気持ちは仕事関係以上のものを感じるな。
「ところで私は‥‥魔獣にやられたような気がしたのですが‥‥」
「そうだな。死んでたみたいだから仲間はあんたを置いて行ったよ」
「死んでいた?なのにどうして?」
「この世には蘇生魔法ってのがあってね。勝手に蘇生させてもらった」
「えっ?そうなんですか?でも蘇生って、凄くお金もかかりますよね。私そんなお金持ってませんけど」
この場面でまさかそんな事を気にして言う人がいるとは思わなかった。
人の良さそうな所が伝わってきた。
「いやそれは別に構わないよ。それよりちょっとだけ話を聞かせてもらっていいか?」
「は、はい。もちろんです」
「まず、あんたたちは何者だ?ああ、俺たちの事は知ってるかもしれないけれど、俺は此花策也だ。他は勇者パーティーの面々に‥‥そんな感じだ」
「えっと、私は西園寺家第四王女である『|望海《のぞみ》』様に仕える世話係の『|原敬弥生《はらたかしやよい》』と申します。あ、いえ、貴族ですが全然そうではなくて、ただの世話係ですから」
襲われたのは西園寺家か。
しかしなんでまたこんな所にいたんだろう。
「どうやら誰かに襲われたみたいだけど、何か心当たりはあるか?」
「えっ?襲われた?魔獣じゃないんですか?」
「ハッキリとは分からないんだけど、その可能性が高いように思えたんでね」
「そうですか。ハッキリとした事は言えませんが、今回姫様が四十八願を訪れたのは、何か危機が迫っている可能性があったからなんです。予言を聞かせてもらって対処しようと考えたのですが、その途中でどうやら襲われたという事でしょうかね」
「何か危機が迫っていた?」
「はい。国王様曰く、姫様に何か悪い事が起こるかもしれないから、とにかく早急に四十八願に行ってくれと。そう言われました」
つまりそれは、今回襲ってきた相手に心当たりがあるという事か。
また何やら机の下の足の蹴り合いに巻き込まれる予感がするな。
それに今回は風里の事もあるし、もう関わらない選択肢はないのだよね。
「一つ取引しないか?」
「どういう事でしょう?」
「俺たちは今少し困った状況にある。それを解決する為に少し手を貸してほしい。その代わり俺たちが、予言を聞いて西園寺領内に戻るまで姫さんを守る」
「具体的に何をすればいいのか聞かせてもらっていいですか?」
俺は先ほどあった騎士たちとのやり取りや、風里が姫様を助けオーガだとバレてしまった事を全て話した。
「おそらく風里がオーガだって事は、数日中には公になるだろう。でもできればそれを止めてほしい」
「なかなか難しいですね。西園寺はオーガに大きな怨みを持っていますから。私だって西園寺に仕える身としては、正直に言うとオーガをかばうなんて事はできません。でも姫様を助けてくださった風里様は別ですよ。とにかくやれる限りはやってみます」
俺は弥生の後ろの死角に妖精霧島を召喚した。
妖精霧島は直ぐに異次元収納からダイヤモンドミスリル製の体を取り出し、仁徳霧島に憑依する。
その仁徳霧島は弥生の前に歩みでた。
「彼を連れて行ってくれ。姫さんを守る為のボディーガードだ。あんたが雇ったって言えば傍におけるだろ?」
「は、はい。そうですね」
「じゃあ急いだ方がいいだろう。また何時襲われるかもわからない」
「俺は仁徳霧島だ。すぐにあんたを姫の元に連れてってやる」
霧島はそう言うと、弥生をお姫様抱っこで担ぎ上げた。
「えっ?なんですか?」
そして次の瞬間、霧島は弥生を抱えたまま空へと上がって飛んで行った。
後には弥生の悲鳴だけが残った。
「俺たちはしばらくブエンの町で情報待ちだな。いや、町の外の方がいいか。情報が出てきたら風里がどうされるか分かったもんじゃない」
「策也。もし迷惑なら私、一人でどこかへ行ってもいいアルよ?」
「そんな事はさせない。まあ最悪神武の国に行ってもらう事になるかもしれないが、見捨てたりはしないよ。風里はいい子だし好きだからな」
そうだ。
こんないい子がなんでオーガってだけで責められなくちゃならないんだ。
人間とオーガは関わらないという約束が有ったとしても、人助けなんだから良いじゃないか。
魔王だって倒してるんだぞ。
世界ルールも、別にオーガの行動を制限するものではないはずだ。
勝手に人間がオーガに町に来るなとか近寄るなと言っているに過ぎない。
そもそも受け入れられないオーガと、受け入れられているエルフの違いはなんだ?
悪魔に似ているからというだけで、勝手に悪だとしているに過ぎない。
それに悪魔だって悪とは限らない。
魔界に適応できた人間が全て悪なのか?
「ありがとうアル‥‥」
ん?
風里がなんだかわからないけど照れて嬉しそうだな。
まあいいか。
「じゃあ俺たちは町の近くまでいくぞ」
「あやつら殺してしまえば良かったじゃなかろうかのぅ」
「それをしたらあの姫が悲しむでしょう」
「泣かせちゃ駄目アル」
「殺してカエルに蘇生したら良かったんだよ!可愛くてきっと喜んじゃうよ」
みゆきも過激な事を言うようになったな。
冗談だって分かってはいるけどね。
こうして俺たちはしばらくブエンの町近くで様子を見るのだった。

次の日、リンがセバスチャンの元を訪れていた。
『策也!話があるからちょっと戻ってらっしゃい!』
『分かったよ。すぐに戻る』
「リンが話があるってさ。西園寺とは同盟というか連携している友好国だからな。何かしら話が行ったんだろう」
どうやら話が広がるのを止めるのは無理だな。
弥生も多少進言はしてくれたみたいだが、貴族だけどただの世話係っていうのも本当みたいだな。
発言力がまるでない。
ちなみに意識は常に霧島と一緒だから、霧島の元で起こっている事は全て把握してる。
とはいえ現在霧島は姫さんが泊まる部屋の前でずっと見張り役で、状況を調べる事もできないんだよな。
「わたくしは一度スバルに戻してもらってもよろしいでしょうか。話が公になるなら、国としてやる事も出てくると思いますから」
「構わないが、二度転移する事になるぞ?いい加減転移ゲートを設置したらどうだ?」
「結界を張り直すのが大変なんですよね。一度パーティーを抜けて準備をするのも手ですか。とにかく今は我慢しますよ」
「分かった。じゃあみんな。とりあえず神武の国を経由して一度家族の家に戻る」
こうして俺たちは家族の家へと戻り、エルはその後エルフ王国スバルへと帰っていった。
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