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此花策也の血統

生物にとって、血統ってのは意外と大切なものだ。
人にとって人種の違いは能力の違いにも繋がる。
これは数字を見れば明らかなのだが、『差別に繋がる』という言葉によって認めない人も多い。
でもそれを認める事から始めないと、本当に悪い差別ってのは無くならないと思うよ。

山の中で見つけた勇者たちは時の迷い子だ。
生活様式は三千年前のままで、獣人やオーガが築く里に近い生活をしている。
まずは今の生活様式を理解しで実行きるようになってもらわなければならない。
そんな訳で俺は、三百人ほどの勇者たちに知識を叩きこんでいった。
当然理解を示す者もいれば、別のヒューマンや魔物などとの共生を否定する者もいる。
この山の中の世界をどういう風にしていくか難しかった。
一応此処は神武国に所属する町にする事になった。
そして北と南を結ぶルートの大切な通り道となる。
人間以外のヒューマンも通るわけで、此処で誰もが休憩できるようにもしたい。
勇者たちだって、自給自足だけで今のこの世界は生きてはいけない。
里に閉じこもって生活する事はできるが、こちらの都合でこの場所は使いたいからね。
こちらのやり方を押し付けるのも心苦しいが、そうしないとまた問題が起こって対立する事にもなるだろう。
少しずつでいいから何とかしてもらうしかなかった。
山の中の世界は、直径十キロの円形をしている。
俺たちが掘ってこのエリアに入ってきたのは、北北東からだいたい三時の辺りだった。
そこからぐるっと七時の所まで円周上を移動し、改めて南南西に向けて掘り進めていった。
だから三時から七時の辺りまで防壁を作り、その内側を町のエリアとした。
通り道は完全に町の外となる。
町も真ん中で二つに仕切った。
防壁門の入り口に近い方は、別のヒューマンなどともなんとかやって行こうとする人たちが他の町と変わらない生活をする場所。
奥のエリアは今までの生活を維持し、別のヒューマンとのかかわりを持ちたくない者が住む場所とした。
もちろん勇者が奥のエリアに入るのは自由だが、他はそこへは入れない事とした。
「人数的には半々か。まあでも勇者は優秀な人種だからな。すぐに別の町へと移り住む者も出てくるだろうな」
今は三千年前と違って、勇者はむしろ歓迎される存在だ。
居場所なんて何処でもすぐに見つけられるだろう。
「それで‥‥この町の名前はどうするの?」
夕凪には色々と町の事を任せていた。
夕凪は割と長く生きる闇の神なので、俺たちよりも多少人類の流れを知っているしな。
そしてこの世界では少しヤンチャな勇者たちを制御するのに、それなりの強さも必要だった。
「町の名前は普通に『ブレイブ』の町でいいだろう」
「どう普通なのか分からない‥‥夕凪の妄想だと『ウケ専』の町が普通だよ‥‥」
「そ、そうか。それは良かったな」
あまり深くは聞かないようにしよう。
こんな感じで一応順調に町は作られて行った。
報道陣など部外者の立ち入りは簡単に制限できるので、俺の集められるメンバー総出で五日で完成させた。
「とりあえずこの町は、炎魔と天照兄弟に任せるか」
それなりに強い奴に任せないと、何かあった時に対処が不可能だ。
そして大聖から世界に向けてメッセージを発信した。
『これから多くの勇者たちが世界に出て行く事になるかもしれない。しかし特別扱いは不要だ。みな我々と同じ人間である。いい奴も悪い奴もいると理解しておいてくれ。皆が勇者ではない。元は我々と同じ人間なのだ!』
みんな同じ人間なんだ。
大切な事なので二回言いました。
特別視しない事。
自分も他人もそうする事で不要な差別は無くなる。
三千年前の過ちを繰り返したらただのアホだよな。

こうしてようやく全ての作業が片付いたので、俺はデイダラボウシの蘇生を行う事にした。
流石にこいつを蘇生して勇者の町ブレイブにはおけない。
勇者の魂をエンドレスで食っていた奴だからな。
なのでしばらくは獣人王国に炎魔の代わりとして派遣する。
頼むからいい感じに蘇生されろよ。
どうも闇の神は一筋縄ではいかないのが多いからな。
体を大きめにして魔砂の量を増やすか。
そうすると俺の意思が多く反映される可能性もあるからな。
見た目は元の僧侶姿に近いものにしてやろう。
なんとなく身が清められていそうな気がするし。
俺はデイダラボウシを蘇生した。
「ん?拙者は?」
目が覚めたか。
頼むからまともであってくれよ。
「俺に倒されたんだよ。そして今蘇生してやった」
「まさか、拙者は負けたのでござるな‥‥なのに蘇生してくれたのでござるか?」
「そうだ。お前の能力はこのまま成仏させるには惜しい力だ。俺の為に働かないか?」
デイダラボウシは勢いよく起き上がった。
ビックリするじゃないか。
「もちろんでござる!お主を殺そうとした拙者を蘇生させるだけでなく、まさか働き口までも与えてくださるとは正に神!あなた様のお名前は?」
なんかちょっとやり過ぎた感があるキャラになってしまったが、言う事を聞かないよりはいいだろう。
「俺は策也、此花策也だ。そしてお前の名前は今日から『|円光《エンコウ》』とする」
神々しい名前の方がいいだろう。
名は体を表すって言うからな。
「円光!少し怪しい匂いもする名前でござるが、拙者感激でござる!策也殿、この御恩は一生忘れないでござる」
「お、おう!そうか。じゃあ一通りこの世界の事を教えるから。その後は獣人王国でしばらく監視の仕事をしてもらう」
「了承したでござる」
こいつ、援助交際を援交と言うの知ってるのか?
でもまあ、たぶん上手く行ったよね?
それにしてもドンドンキャラが増える一方で、俺も把握しきれなくなってくるよ。
いやこっちの話なんだけどさ。
そんな感じで円光を蘇生した後、色々と教えるのは大聖や他の面子に任せて、俺はなんとなく自分の血統について考えていた。
父親は織田の家系。
母親は母系が上杉家だ。
だったら父方の婆ちゃんと、母方の爺ちゃんは一体どうなのだろうか。
普通こんな事を考える必要はないけれど、俺もみゆきもそもそも両親が誰なのかすら知らなかった訳で。
となると調べたくもなる訳だ。
おそらく父方の婆ちゃんは朝倉家だろう。
朝倉家の能力は俺に受け継がれているようだが、男系以外での継承は数代が限界と聞いた。
となると婆ちゃんが朝倉家である可能性は高い。
それよりも前だとほぼ受け継がれなかっただろうからね。
そして母方の爺ちゃんだが、これは賢神に聞けばすぐに教えてくれた。
『|青岩院《セイガンイン》』の家系なのだそうだ。
この家系の特徴は、賢神曰く『時々特別な子が産まれる』という事らしい。
まあ分からなくはないよね。
転生者の俺が生まれてきたわけだし。
ちなみに能力が期待できるのは男系の女子だ。
つまり普通にしていたら、青岩院家自体に特別な子が産まれる事はほとんどんない。
しかしこうして見ると、俺ってナイス血統って感じだよな。
メインの男系が織田家ってのはアレだけど、競馬で言えばかなりの良血なんじゃないだろうか。
何度も言うけど、織田家ってのが残念過ぎる。
朝倉家だったら最強だったんだけどな。
一方みゆきは、父方が皇の家系。
母方の母系が四十八願の家系。
未来を見る力を持った両家の血が合わさる中々の組み合わせだ。
みゆきの父である大化の母は旧島津の家系で、現在は|颯斗《ハヤト》を名乗る貴族から嫁いできたらしい。
元々皇と旧島津は同じ家系だった。
そこで皇では、薄くなった血を濃くする為に偶に颯斗や冷泉から嫁をとるのが習わしとなっているとか。
そんな行為が本当に役に立っているのかは俺には分からないが、上手く行っているのだから変える必要もないのだろう。
四十八願婆ちゃんの旦那は、既に亡くなっているがこれまた青岩院の家系だそうだ。
つまり俺とみゆきは特別な子として生まれて来た可能性があるって事だな。
当然同じ青岩院と言っても二人は別人だよ。
でも能力って事で言えば、俺とみゆきの子は青岩院の三掛ける三のインブリードって事になるのよね。
転生前の世界じゃ、自分の血統を気にしている人なんてほとんどいなかった。
偶に歴史上の人物の子孫に会ったりするとテンションが上がったりもしたが、だからと言って上下関係は何もない。
それは別に悪い事ではないだろう。
一方この世界ではこうやって血統を見ると、案外ほとんどの人が近い関係にあるように感じる。
指導者層に限るけれどね。
王族や貴族がある訳だから上下関係は当然あるけれど、家系が百八に抑えられてきた事でみんなが近しい関係になる事ができたのではないだろうか。
それによって争いも抑えられてきた可能性がある。
どっちがいいかは俺には判断しかねるが、ただ一つ言えるのは、血統を意識すると上手く行ったりもするって事。
俺は既に自分とみゆきの血統にある家とは争いたくないと思っているし、親類となっている東雲や西園寺とも敵対はできないだろう。
良くも悪くも凄い影響力があるんだよな、血統ってさ。
そしてその血脈をハッキリ表しているのが、容姿であったり人種であったり。
本当なら、人間同士で争うなんてできないよな。
でも人間は弱いから、数を増やすしかなく増やしすぎた。
弱い者が数を増やすのは自然の摂理だからね。
人間はヒューマンの中で最弱なのだ。
だから数を増やし、強い能力を持った者を誕生させ、その血を受け継いできたと考えられる。
女系が少ないのは、数を増やしにくいってのもあるんだろうな。
最も人類が残したいであろう上杉女系の血は、もう潰える事がほぼ確定している。
何処か一般庶民の中に残っている可能性はあるけれど、賢神が『自分で上杉家は最後だ』って言ってたもんな。
話がそれたが、数が増えすぎた事で何かしら分断が生まれ人間同士が争うようになったのだろう。
『弱いから数を増やして分断し争いが起こる』という意味では能力が高いというのはやはりうらやましいが、成長もないから弱い者に支配されるという結果にもつながっている。
結局どうするのがいいのか、どうなるのが安定をもたらすのか。
そんな事俺が分かるかよ。
全く王様なんてやってらんねぇなぁ‥‥。
気が付いたら俺は眠っていた。
柄にもなく真面目に色々と考えすぎたようだ。
何を考えていたかは、魔法記憶でしか覚えていなかった。

三日後、俺はブレイブで行われる運搬トンネルのオープニングセレモニーに参加していた。
特にこの件には参加していない事になっているが、多少関わっていると思わせておいた方がいいだろう。
侮られない程度にはしておかないと駄目なのだ。
そしてそこには、何故か武田の松姫や賢神も列席していた。
まあこの運搬トンネルによって最も助かっているのが、武田だったり上杉だったりもする訳で別におかしくはない。
でも形式的に出しただけの招待状だったんだよね。
しかも俺の名前ではなく神武国の東征の名前でだ。
なのに堂々と参加するのは流石に賢神といった所か。
おかげでこの場を壊そうとする奴はいないだろう。
尤も、勇者が三百人もいる訳だから、馬鹿でもない限りは何もしないだろうけれどね。
「このトンネルは、太陽の光を取り入れる事で、魔力によるライトよりも圧倒的に少ない魔力で明るく照らせるようになってるよ。そんな訳だから夜になると、星空よりはマシって程度の暗さになるから気を付けてね。そのタイミングで休むも良し、暗くても大丈夫なら進むも良し。でも丁度中間にこのブレイブの町があるから、遅い馬車ても此処で休めば二日で抜けられるようにはなっている。速い馬車なら一日で抜けられるし問題ないよね」
参星が説明する通り、いかにコストを下げるか研究して太陽光を利用する事に決めたんだよね。
有栖川が壊そうとしても壊れないように、トンネルを強化する事も必要だしさ。
有栖川は大量破壊魔法を持ってる訳で、それの対策は必要だった。
本当なら通行料を取らないとやってられないんだけど、その分他で利益を出すつもりだからとりあえず無料で始めるのだ。
既に最初の馬車が町の外を通過する音が聞こえてきた。
とりあえず何事もなく運搬トンネルの運用が始まった。

その頃、有栖川領内の魔法実験場辺りで、大きく大地が揺れていた。
マイホームに戻ってから見た報道によると、原因はまだ分かっていない。
ただとにかく大きな地震だったという情報だけがネット上にアップされていた。
俺は久しぶりに庭のガゼボでゆっくりとくつろいでいた。
ガゼボに置かれたテーブルには、最近マジックボックスを設置した。
毎回誰かの住民カードでニュースやら映像を見るのも不便というか見づらいからね。
今回はそれで地震のニュースを見た訳だけれど、遠い異国の話な訳であまり興味はなかった。
興味は無かったけれど、話のネタにはなっていた。
「この世界にもこういう時は支援金とか送ったりするんだろうかね?」
「聞いた事ないねー」
「金魚も聞いた事ないんだよ。有栖川だし放っておけばいいと思うんだよ」
そうか、この世界ではそういうの無いのか。
でも困っている時に助けておけば、どこかで何かの形で返ってくるかもしれないよな。
状況によっては考えよう。
「追加情報が出たわよ。どうやら有栖川は大量破壊魔法の実験をしていたみたいね。それによって大きな地震が起こったみたい」
そう言いながらやってきたのはリンだった。
リンには王都の内政を任せているんだけれど、ほとんど庭で雑談していると感じるのは俺だけだろうか。
まあ俺も王様だから仕事しろって話だけど、やる時はやってるから良いよね。
「トンネルぶっ壊そうと実験してたら、自分の領内の町に被害が出てしまったって所かな」
「でも実際そんな所かもよ?」
「トンネルは一応、十年前の大量破壊魔法くらいになら耐えられるようにはしているつもりだ。山は崩れるかもしれないけどな」
それにしても、結局転生してきたこの世界でも核実験みたいな事をしている国があるんだよな。
人はどうしてそんなものを作るのだろうか。
それは悪い奴がいる以上仕方がないのだ。
作らなければ、作った国の脅しに屈するしかなくなる訳だからね。
「ところでこの世界の地震事情ってどうなっているんだ?あれだけ本を読んだけど、地震に関する研究ってのがなかったように思うが」
「少しは地震に関する本もあるわよ。前は魔法に関する本を探していたから見なかっただけでしょ?」
「そうだったな。それでどんな風に考えられているんだ?」
転生前の世界では、プレートの存在や断層による地震がちゃんと研究されていた。
だからある程度地震が起こりそうな場所とか、エネルギーの溜まり具合なんかも分かっていたよな。
「わたし学園で習ったよ!地震が起こるのは東の大海や中央の海にある島と沿岸地域、後は中央大陸の海沿いなんだって」
「ほう。それで津波なんかはどうなんだ?」
「津波も似たような場所で何度か記録されているらしいよー。だからその地域だけは建物が魔法によって強化されているとかあるみたい」
なるほどねぇ。
どこの世界も似たような感じなのかな。
「他に何か研究されていたりするのか?」
「特にないわよ。地震が有った場所を記録して傾向を調べる以上の事なんてやっても無駄でしょ?」
「ん~‥‥まあそれだけ分かれば対応もできるか」
プレートとか断層とか知っていた所で、対応に大きな違いはない。
でも、プレートを破壊したり断層を活性化させたりして地震が起こる可能性も知っておけば、大量破壊魔法の実験とかしなくなるかもしれないな。
いや、知ってもやる場所を変えるだけか。
「となると此花も割と地震が多い方なのか?ずっとここにいるからあまり知らなかったんだけど」
「そうね。多い地域だとは思うわ。でも本土は弱いのしか記録にないわね。クキの町辺りは大きいのも時々来るらしいけど」
クキの町は第三王国の元王都だ。
東の大海にある島だから教科書通りか。
何にしてもこの時の俺はあまり気にも留めていなかった。

しかし次の日のニュース映像を見て俺は愕然とした。
「なんだこの壊滅的な状況は?どうしたら地震でこんな事になるんだ?」
「これが地震の被害なの?こんなの学園の教科書でも見た事ないよー」
地震の傷痕と言うよりは、大きな地殻変動があったと思われるような惨状だった。
「町の中は、強力な地属性魔法によって何度も破壊活動が行われた後のように見えるんだよ!」
「そういえば昨日地震が有った時間辺りに、西園寺領内でも軽く揺れを感じたって話を聞いた‥‥」
聞いたのは霧島だけれど、西園寺領と地震の震源は一万キロ以上離れているんだぞ?
今更だけどこれは結構ヤバい地震じゃないのか?
俺は確認の為に禰子にテレパシー通信を入れた。
『おはよう禰子!』
『あ、お兄ちゃんおはよう!どうしたの?』
『昨日有栖川領内で大きな地震があっただろ?その時間他でも地震がなかったか、諜報員たちに連絡を入れて確認してもらえないか?』
『うん分かったよ。そうそう、ちなみに三日月島でも少し揺れたよ。きっと凄い地震だったんだろうね』
『そうみたいだな‥‥』
有栖川が大量破壊魔法の実験を行ったとされる実験場は、本土の北西の端の方だ。
三日月島は西園寺領ほど遠くはないけれど、こちらも一万キロ以上離れている。
結構大きな地殻変動があったのではないだろうか。
数時間後、調べてもらった結果多くの場所で揺れは感じられていた。
中でも揺れが大きかったのは、中央大陸の内陸部だった。
「揺れた箇所は今まで通り地震が起こると言われている場所がほとんどだった。ただ今回違うのは、全てが同時に揺れている事と、中央大陸の内陸部の揺れが大きかった事だ」
「それが何かあるの?別に今まで全く地震が無かった訳じゃないし、揺れもそんなに大きいものじゃなかったんでしょ?」
「それはリンの言う通りだが、注意しておくに越した事はないだろ」
そんな訳で俺は数日間注意していた訳だが、特に何も起こらなかった。
どうやら俺の取り越し苦労だったようだな。
一応神武国からは、有栖川に対して支援金を十億円送っておいた。
こうしておけば流石に有栖川も恩を感じるだろう。
俺は平和な気持ちで再びマッタリライフを過ごすのだった。
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