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初めての狩りとゴブリン退治

ゆっくりと歩き始めた俺だったが、正直だんだんと嫌になってきていた。
この程度では全く疲れないチートな体なので、そういう意味では嫌にはならない。
ただ、歩けども歩けども景色が全く変わらないのが苦痛だ。
しかも、落ち着かない格好でいる事も気分が優れない理由となっていた。
どうやらスタート時の難易度は、俺にとってハードモードだったらしい。
尤も本気で進めばすぐにでも町なりなんなりを見つけられるとは思うが、せっかくだし転生ゲームをじっくりと楽しみたいという気持ちも何故かある。
俺は無敵モードなんかでゲームをする方が好きなタイプだが、やはりゲームは最初からちゃんとプレイするのだ。
自分でいうのもなんだけど、どうやら俺は面倒くさい性格のようだった。
そんなわけでただ黙々と歩く時間が続いていた。
とはいっても、俺は常に千里眼と邪眼を駆使して、周りの様子は確認して歩いている。
チートな俺には最初から思考を百分割する事が可能であり、色々と同時に考える事ができた。
左目の千里眼で辺りを探索しながら、右目の邪眼でそれを鑑定する。
今までに無い物があれば拾っておくといった事を同時にしながら歩いているわけだ。
しかし実際に何かを拾ったのは最初の頃だけで、後は延々見ているだけだった。
気が付けば歩みは速くなっていった。

さて、そんな時間がどれだけ続いただろうか。
気持ちとしてはもう一日中そうしていたように思えるが、太陽の位置がやや前方に来ている辺りを見ると、丁度六時間くらいだろうか。
ようやく前方に今までと違う景色が見え始めていた。
この世界での日付や時間は、前世と全く同じである。
ついでに言っておくと、お金の単位も同じで円が採用されていた。
全て貨幣で紙幣は無いけどね。
前方に見えてきたのは、少し木の生えたオアシスのような所だった。
小さな湖があって、いくつか動物の姿も確認できた。
俺は動物たちに気づかれないよう気配を消して、ゆっくりと近づいていった。
動物たちは湖で水を飲んでいた。
俺は早速動物を狩る事にした。
素材を手に入れて衣服を整えたいからね。
俺は手でパチパチパッチンするように指をはじいて魔法を発動した。
カマイタチの魔法である。
連続してはじくと、沢山のカマイタチが四方八方に飛んでいき、動物たちの首を刎ねていった。
鹿のような動物や、猪のような動物、或いは水中にはワニのような動物もいて、見つけ次第全て狩って行った。
中には魔物もいたようで、魔石の自動回収によりいくつも魔石を回収していった。
その辺りの生命反応が概ね無くなるまで狩り尽くした。
「ふぅ~‥‥ちょっとやり過ぎたかな。まあ大丈夫だろう」
俺は倒した魔物や動物を全て回収していった。
さて、これで何か作れる衣服はあるかな。
衣服や装備品を作る魔法は、材料が揃っていればどういう訳か作れてしまう。
まあ魔法の不思議は考えても無駄なので、俺は作れるものを作っていった。
別に寒さや暑さを気にする必要はない。
俺は魔法で全て調整できるようにしている。
最低限普通に着られるものがあればいいのだ。
俺は作れるものの中から、前世で着ていたものに近いものを作った。
上半身はランニングシャツに普通のカッターシャツのようなもの。
色はそれぞれ白と|臙脂色《エンジイロ》になった。
着心地は今まで着ていたそれとは違って、サラサラフワフワな感じでむしろ良かった。
下はメンズ水着のような長めのトランクスに、ジーパンのような質感のズボンにした。
色はそれぞれ黄土色とほとんど黒に近い焦げ茶色といった感じになった。
靴下はカッターシャツに合わせて臙脂色、靴も黒に近い臙脂色の革靴みたいなのが作れた。
「この世界の服装とはちょっと違うが、まあこれくらいならいいだろう。あまりに目立つようならどこかで買えばいい」
ただ、自分の魔法で作ったモノの方が、おそらく質は断然良いはずだ。
かなりの魔物や動物を狩って、その中から最高級の素材を選んで作ったからね。
一仕事終えた俺は、少しだけ水を飲む事にした。
不老不死で飲食も不要ではあるが、やはり何かを食べれば美味しいと感じるし満足感も得られる。
水を飲めばスッキリもする。
ここの湖はとても綺麗だし飲む事もできるだろう。
それに俺にはあらゆる状態異常に対する耐性魔法がかけてある。
仮にお腹を壊すような毒が混じっていても問題はないはずだ。
俺は膝をついて湖を覗き込んだ。
水面に俺の顔が映った。
「おいっ!目が怖いよ!」
ずっと千里眼と邪眼を発動したままなのだが、左目の千里眼は金色に輝き、右目の邪眼は黒い煙が揺らいでいるような怪しい色をしていた。
こんな目を見られたら完全に怖がられるだろう。
俺は姿を変える事はできないが、イリュージョン魔法や認識阻害魔法で見え方を変える事くらいはできる。
でもその程度の魔法をずっと発動しておくのも面倒だし、見抜ける人間だって大勢いるはずだ。
俺は目だけを隠せるマスクを魔法で作った。
あのアニメで三倍強いあの人が付けているマスクを少し格好良くしたようなのができた。
あの人は金髪で俺は黒髪だからちょっと印象は違うが、ビジュアルは彼を黒髪にして六歳の子供にしたような感じかもしれない。
魔力によって顔に固定されるので、頭の所にあるベルト状の部分は不要だから、断然俺の方が格好いいと思われる。
残念ながら六歳のガキではあるけどね。
俺はマスクを付けてから湖に顔を近づけて水を飲んだ。
冷たくて美味かった。
暑さ調整を魔法でやっているので、通常はあまりそういうのを感じなくなっている。
それもあってか、冷たさがやたらと美味さを引き立てているようだった。
俺は立ち上がると、周りにある木も適当に伐っていった。
実のなっているものもあり、それも異次元へ収納しておいた。
何がどんな素材になるかもしれない。
ついでに湖の水も大量に確保しておいた。
とにかく無い物はドンドン異次元に収納していった。
無限に収納できるのだから、多くて困るという事もないからね。
ちなみに異次元収納の魔法で収納したものは、時がその場で止まる仕様だ。
しまっておいたら腐っていた、なんて事が無いのが助かる。
異次元はどうやらこの世界と時間の流れが全く違うんだろうね。
ひとしきり目ぼしいものを収納していった後、俺は湖の北と南を見比べた。
北には小川が沢山流れ、それが湖に流れ込んでいる。
逆に南は、少し大きめの河が河口へ向かって流れているようだった。
つまり南に行けば町が見つかるかもしれない。
しかしこのまま歩いて西を目指すのなら、小川の方からなら歩いて渡れそうだった。
南に向かうのは何かが違う気がして、俺は小川を渡って更に西を目指す事にした。
ほら、古事記にも書いてあるでしょ。
太陽を背に西に向かうのが吉だって。
日本人だった俺は、割とそういう所を気にする方だった。
とはいえ、既に太陽は西へと傾き始めていて、今はむしろ太陽の方に歩いている感じなんだけどね。

湖を離れると、景色はまた荒野へと変わって行った。
ただ最初に歩いた荒野とは違って、生き物の気配や植物の気配が感じられたので、さほど苦痛には感じなかった。
それでもやや歩くのに飽きてきた頃、少しずつ景色が変わり始めていた。
今までは人がほとんど来ない場所といった感じだったが、前方には林が見え、更に先には一人、また一人と人間の存在を捕らえていた。
俺の千里眼は二キロ先まで見通せる。
しっかりと詳細まで確認できるのは一キロまでだが、そこに存在するくらいの事なら二キロまで大丈夫なのだ。
つまり今捕らえた人は、二キロ前方にいるという事だ。
「四人か」
人の数は四人で、そこそこに魔力も感じる。
おそらく冒険者だろう。
レベルはあまり高そうではない。
どうやらゴブリンと戦闘を始めたようだった。
ゴブリンとは人型の魔物の一種で、比較的弱い魔物に分類される。
故に駆け出しの冒険者が討伐対象とする事が多い魔物だ。
それでも数が相手だと危険度が一気に増す魔物でもある。
ゴブリンの反応が一気に増えていった。
二十体。
いやこれは、完全に群れの一部とみた。
冒険者と思われる四人は、直ぐにゴブリンに取り囲まれていた。
まだ遠く離れた場所で、裸眼で確認はできない。
それでも、この冒険者がすぐに殺られてしまう事は予想できた。
一人、また一人と生命反応が消えていった。
飛翔して猛スピードで助けに行けば一人くらいは助けられるかもしれないが、別に助けたいとも思わないので俺はそのまま歩いた。
こんなゴブリンの群れに近づくとか迂闊すぎるパーティーである。
助けた所でどうせすぐに死ぬ事になると思った。
間もなく四人全員が死んでしまった。
その四人の反応が消えた辺りにゴブリンが群がっているので、装備やアイテムを回収しているのだろう。
そうだそうだ、俺も林で動物や植物の回収をしておこう。
俺は今まで通り素材を回収しながら、四人が死んだ辺りを目指して歩いて行った。

一時間ほど経っただろうか。
俺はようやく四人の冒険者が死んだ辺りに到着した。
この辺りは人の手が入っており、少し前までは畑やら何やらしていた場所に見える。
今ではすっかり見る影もないが、おそらくゴブリンによって荒らされてこうなってしまった場所なのだろう。
そこに冒険者が討伐に来たのだろうが、返り討ちにあったという事か。
四人の遺体は全て放置されていた。
衣服は剥ぎ取られ、四人ともほぼ裸だった。
「男が二人、女が二人か。かなり若いな」
まだ冒険者になって一年くらいのパーティーに見えた。
千里眼と邪眼を同時に使い魂を探してみたが、魂は既にその場にはなく、当然蘇生ができる状態ではなかった。
普通は三十分、生きたいという思いが強い者でもだいたい一時間もすれば魂は成仏すると言われている。
あくまで、何故か存在する俺に追加された記憶によると、だけどね。
「さて」
俺は視線を北に向けた。
既に千里眼はゴブリン全ての存在を捕らえ把握していた。
この先にある洞窟が、どうやらゴブリンの巣のようだ。
別に仇を取るつもりもないけれど、装備品を回収したという事は、そういったものを集めている可能性がある。
ならばそれをいただくのもアリかと考え、俺はゴブリンを討伐する事に決めた。
「その前に‥‥」
俺は遺体を異次元収納に回収した。
人間の体というのは、傷を治したりするのに必要な素材になる可能性がある。
どうせ収納は無限にできるわけだし、邪魔にもならないからな。
俺は改めてゴブリンがいる場所へと歩き始めた。
陽は少し傾き、景色が少しずつ色づき始める時間だった。
ポツポツと木が生える林に入り、直ぐに小さな岩山の袂に出た。
そこに五メートル四方の穴が開いていた。
ゴブリンの住む洞窟の入り口のようだった。
その入り口の横には、ゴブリンの遺体らしきものが十体ほど並べられていた。
おそらく先ほどの冒険者にやられたのだろう。
ゴブリンは肌が緑色をしていて背は低く、いかにもゴブリンといった感じの見た目をしていた。
直ぐに穴からゴブリンが三体ほど出てきた。
こちらには気が付いていなかったようだが、出てきてすぐに気が付いたようだ。
一体が再び穴に戻って行き、二体がこちらに向かってきた。
俺は両手の指をはじいてカマイタチを飛ばした。
二体のゴブリンは一瞬にして首と胴体が切断され、その場に倒れた。
ハッキリ言って俺の敵ではなかった。
邪眼で確認した所、俺の魔法による鑑定ではレベルは十から二十にも満たない強さだ。
殺られた人間の冒険者は三十くらいだったから、一対一ならこの辺りのゴブリンに負けるレベルじゃない。
運もなかったのだろうなと感じた。
俺は倒したゴブリンも、寝かされていた死体ゴブリンも、全て異次元に収納していった。
魔石は倒した時点で既に自動回収してあるが、先に死んでいたゴブリンの魔石はそこにはなかった。
仲間を呼んできたのか、ゴブリンが再びゾロゾロと出てきた。
俺は色々と試す事にした。
マジックミサイル、エネルギーブラスト、ファイヤーボールという異世界三大初心者用魔法を使ってみた。
どれも俺が普通に使うと威力が強すぎて、ゴブリンが粉々に砕け散っていた。
これでは死体という素材が回収できない。
俺は魔力をコントロールして、極力威力を抑えてゴブリンを倒していった。
気が付いたら三十体ほどのゴブリンがその辺りに倒れていた。
俺は全て異次元に収納していった。
これだけゴブリンの死体があれば、魔法で巨大ゴブリンでも作れそうだ。
まっ、作らないけどね。
ゴブリンが出てこなくなったので、俺は自ら中に入って行った。
一応灯りはあって、暗いけど歩いて行くのに問題はなかった。
尤も、自分でライトをつける事もできれば、暗闇でも千里眼は全てを見通すのだけどね。
中は、通路の所々に部屋があると言った感じになっていた。
俺は一つずつ部屋を確認していった。
ゴブリンがいればサクッと倒し、めぼしいモノがあれば回収した。
「おっ!木彫りの熊とか、こっちの世界でもあるんだな」
部屋の中に、木彫りの熊が飾ってあった。
北海道土産で有名、なのかどうかは知らないけれど、鮭を口に咥えたあの熊だ。
なんとなく懐かしいし、俺は当然回収した。
更に俺は洞窟を進んでいった。
徐々にゴブリンのレベルが上がっているように感じた。
俺にとってはどれも雑魚だが、邪眼鑑定によると、この辺りのゴブリンはレベルが三十近くあった。
「こりゃ、どれだけ頑張ってもあのパーティーじゃ勝てなかったな」
俺は更に奥へと進んでいった。
ほどなくして洞窟の終着点が見えてきた。
残す部屋は二つ。
大きな部屋と、更にその奥に小さな部屋といった感じだった。
俺は何を警戒するでもなく、普通に部屋に入った。
一斉にゴブリンが襲ってくる。
今までのどのゴブリンよりも速い動きだ。
しかし俺から見ればほとんど止まっているも同じだった。
それでも俺は、自分を中心とした爆裂の魔法で一掃した。
自分も当然爆裂を受けたが、全くのノーダメージだった。
この程度ではダメージを受けないチートな体を、一度試しておきたかった。
まだまだ大きな魔法でも大丈夫そうだった。
さて、残るは特別な個体であろうゴブリンが十体ほど並んでいた。
流石に俺の魔法を見て太刀打ちできないと悟ったのだろう、顔からは不安がうかがえた。
ゴブリン語で命乞いしているのも分かった。
俺、ゴブリン語も理解できるのね。
でもそいつらの顔が醜かったので、俺はゴブリン語で一言『死ね』と言って、複数の魔法を連続発動して全員を瞬殺した。
「はい、おしまいっと」
俺はそいつらの遺体も含め、とりあえずあるモノを回収していった。
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