ネット小説

問題は、解決しないから問題だ。

転生前の世界。
日本では『学校の歴史教科書には嘘が書かれている』なんて言われていた。
でもこの指摘は正確ではない。
書かれている事には『一応』嘘はないのだ。
でも嘘は書かれている。
一体どういう事だろうか。
過去の歴史は、解釈の仕方や視点によって本当の事が違って見える場合がある。
だから書く人によって、書かれている事が違っているのだ。
Ａの教科書から見ればＢの教科書は嘘だし、Ｂの教科書から見ればＣの教科書は嘘になる。
そういう意味で嘘が書かれていると言える訳だ。
例えば日本の歴史教科書は『自虐史観で書かれている』と言われている。
日本が悪い事をしたという前提、視点から教科書が作られているのだ。
『日本は権利を交渉の末に得た』というのが本当の事実だとしても、視点を相手国側からにすれば『日本は権利を奪った』とも書ける。
こういう与える印象の嘘というものが、日本の学校教科書には多いのである。
その為に、事実を書かない嘘というのもある。
『石油を止められ敵国から喧嘩を売られたから戦争を始めた』と書かなければ、大東亜戦争は単なる侵略戦争に思えなくもない。
歴史というのは、一つの事実だけを見ても本当の事なんて分からないのだ。
何故なら歴史とは、点でも線でもなく面だからである。
その時にあった事だけが全てではない。
日本の事だけが全てでもない。
世界のあらゆる国や人や事象や事件が、色々な形で絡み合っているのが歴史なのである。
でも歴史教科書には、出来事だけが書かれていたりする。
点を並べた線だけで見ても、本当の事なんて分かる訳がない。
だから『日本の歴史教科書には嘘が書かれている』と言われている。
そんな問題を解決しようと頑張る人は結構いた。
でも未だにそれは解決されていない。
それが『学校教科書問題が解決されない問題』なのである。
どうして解決されないかはいくつか理由もあるが、一つ挙げるなら『日本が敗戦国だから』ではないだろうか。
『戦後レジームの脱却』なんて言った総理大臣もいたが、学校教科書問題の解決も含まれていたのだろうな。
本当に、問題は解決しないから問題だね。

妖凛が二人になった。
さてどうしようか。
『やったね！二倍になってお得だ！』
そう単純に思ってもいい訳だが、どちらも首に巻き付かれるとちょっと動きづらくなるかもしれない。
それに呼ぶ時も困る。
なんとか一つに戻ってもらわなければ。
「妖凛。妖凛はアメーバ状になれる訳だから、合体も簡単にできるはずだ。ちょっとやってみてくれ」
（コクコク）
（コクコク）
二人は俺の目の前で、アメーバ状となって溶け出した。
そして渦巻きを作るように混ざり合い、そして一つになった。
「そのまま人間の姿に戻ってみな」
俺がそう言うと、アメーバ状の妖凛は一人の女の子に戻った。
「おお！元通りだな！」
「違うのね。なんだか身長が伸びてるのね」
「良かった良かった元通りだ」
「だから違うのです。七歳から十一歳くらいまで成長したのです」
こいつら空気読めないかな。
今までは幼女だから首に巻き付いていても、膝の上で会議に出ても大丈夫だったんだぞ？
もしも成長なんてしようものなら、そんな事をしたら犯罪者のように見られるじゃないか。
「妖凛良かったな！完全に元通りだ」
（コクコク）
よし、妖凛も納得しているようだし、これで今まで通りで大丈夫だろう。
あれ？成長を自覚させて、今まで通りじゃない方向にもっていった方が良かったんじゃないか？
俺がそんな事を考えていると、妖凛はいつものミンクマフラーになって俺の首に巻き付いてきた。
少し長くなっているような気がする。
でもこの状態なら、特に何か言われたりはしないよね？
つかそれよりも、妖凛の魔力がやたらと上がってないか？
なんか知らんけど、概ね結果オーライな気がするな。
人の姿になった時、ちょっと扱いに困るかもしれない所を除けばね。
とりあえず妖凛の分裂はすぐに解決したのだった。
「策也タマは結局『何も変わってない』で押し切ったのね」
「でもきっと会議の時に後悔するのです」
俺もそう思ってるけど、今だけは忘れさせてくれ。
「さてそんな事よりも、望海の能力に関して術式が分かった。二ヶ所に違いが見つかったから、この組み合わせの違うバージョンを試してみるぞ」
術式の二ヶ所の違いの一ヶ所は、おそらくターゲットの違いだ。
霧島であるか策也であるかだね。
もう一つは分からないが、より効果の大きい方を採用すればいいだろう。
最初にコピーしていた方がＡＢの組み合わせで、後の方がＣＤの組み合わせだとしたら、ＡＤの組み合わせとＣＢの組み合わせも試してみるのだ。
そんな訳で俺はチョチョイと新たな指輪を作り、もう一度四種類の術式全てを試してみた。
するとＡＤ、ＣＤ、ＡＢ、ＣＢの順番で効果が高い事が分かった。
これでＡＤの組み合わせでリングを作るのが一番いい訳だが、まだまだ望海の効果には程遠い。
おそらくまだ何か術式で間違っている所があるのだろう。
効果そのものの術式は同じのはずだ。
先ほどの実験でおそらくＤが、或いはＡが俺を表す術式箇所と考えられる。
そして余った別のが何らかの条件を現すのだろう。
そんな訳で俺は、三人ほど別の者を新たに呼んできた。
一人はみゆき、後は洋裁と伊集院領の町で声をかけた全くの他人である町民Ｅだ。
町民Ｅは俺の事を知ってはいたが、伊集院の民で特に俺の事を何とも思っていなさそうなのを選んできた。
この能力は『愛』が重要な訳で、もしも術式のＡかＤにそれが関係しているのなら、他とは違う結果になると予想できる。
「じゃあまずはみゆきから頼む」
「うん！分かったよー！ぬおぉぉぉ！！」
いやそこまで気合を入れなくても効果は変わらないんだけどさ。
でも可愛い。
結果は、少女隊たちと変わらなかったが、ＣＤとＡＢの差はほぼ無かった。
「じゃあ洋裁頼む」
「うん、分かった‥‥」
こちらも結果は同じだが、ＣＤとＡＢの差は逆に大きくなった。
次に町人Ｅに頼んだら、ＡＤとＣＤではわずかに魔力が上がったが、ＡＢとＣＢは全く魔力に影響を及ぼさなかった。
「ありがとう。これは約束の報酬だ」
「うひょー！ありがてぇ」
「じゃあ町まで送るぞ」
俺はそう言ってそのままその町人Ｅを瞬間移動で送った。
ちなみに町人Ｅに与えた報酬には、口止め料も含まれている。
さて実験の結果、分かった事がある。
みゆきの俺への愛を信じるのなら、Ａが愛情を効果に反映させる為の術式であり、Ｄが対象を俺にする為の文字列だという事だ。
つまりこの部分はＡＤの組み合わせで問題がないだろう。
そして他に変えるべき所があるはずなんだよな。
この問題を解決しなければ、この強化作戦は意味がない事になる。
誰かが『問題は解決しないから問題だ』なんて言っていたけれど、なんとか解決して問題では失くしたいよ。
こうやって実験している間も、俺は分割した思考で魔法記憶内の本をずっと調べていた。
でも本によって記述が違うんだよね。
一体どれが本当なのか。
或いは全部嘘なのか。
本に書いてあった事、全部は試せねぇぞ。
その辺りは魔法研究をしている乱馬や、賢太の魔法アイテム研究チームに任せるか。
という訳で、俺はこの件に関しては一旦それぞれに任せる事にした。

俺はガゼボへと戻ってきた。
さて次は、相手の情報集めだな。
俺が強くなる事も大切だけれど、勝つ為に最も必要なのは敵を知る事だ。
もしかしたら弱点があるかも知れないし、弱点とまでは行かなくてもつけ入る隙くらいは見つけられるかもしれない。
俺はまず、血統から考える事にした。
なんせこの世界は血統によって能力が受け継がれている。
ならばその能力が分かれば、こいつの能力もある程度予想ができるだろう。
俺なんて正にそのままだからな。
織田の能力は、小さくなったり小さくさせる能力だ。
それと魔力超回復は織田の血統能力らしい。
俺が魔力の回復に優れているのはその為なんだな。
そして朝倉の魔法習得能力。
更に上杉の限界突破に、青岩院の特別な子を産む力。
此処までそのままだと、結婚相手を血統で選んでしまう人もいるんだろうな。
「どうしたんだよ？私に聞きたい事ってなんなんだよ？」
洋裁に伝言を頼んでおいたんだよね。
金魚には後でガゼボに来るようにって。
「おう！有栖川の能力についてだよ。有栖川の家系ってどんな能力か知ってるか？」
「私には分からないんだよ。でも叔父さんなら知ってると思うんだよ」
「そっか。じゃあ聞いてきてくれ！」
「えー！？いきなりなんだよ。心の準備がまだなんだよ」
「大丈夫大丈夫！えいっ！」
俺は強制的に、兎束一族が住んでいる屋敷に金魚を瞬間移動させた。
帰りは自力で帰ってきてね。
九頭竜の能力は‥‥資幣が劉邦に聞いていた。
なるほど『旧九頭竜の能力は「皇帝」』っていうのか。
とにかく良血であれば力を発揮するが、能力は滅多に発動しない血統らしい。
九頭竜家を作った者はおそらくその能力で成り上がったのだろう。
でもその後継承する者が産まれず、そこを劉邦に乗っ取られたといった感じか。
伊集院の能力は多分調べても出てこないだろうが、ある程度は予想できている。
死者の使役蘇生辺りではないだろうか。
或いは単純にあらゆる者を使役できる能力とも考えたが、強い部下は全て人間として蘇生している訳で、一度は必ず死んでいる辺りが引っかかる。
つまり完全な従属は蘇生とセットになっていると考えられる訳だ。
まあでも伊集院は武尊の母の母だ。
能力はまず受け継がれていない。
だったら伊集院の血が入っているのは、おそらく九頭竜の能力を高める為なのだろう。
伊集院は良血だという事ね。
さて問題は『御幸』という家系だな。
泉黄歴に入ってからは存在しないはずの苗字だが、コッソリと碓氷の所で生きていたか。
或いは苗字ではなく名前かもしれないし、形式的に付けただけのコードネームなのかもしれない。
とにかく知ってそうな奴に聞くしかないだろう。
そんな訳で、俺の目の前には知ってそうな奴がいるんだよな。
「神功。御幸って苗字に聞き覚えはないか？」
みゆきと同じ名前だから何か引っかかるよね。
「御幸ですね。知っていますよ。それ、皇が皇になる前の苗字です」
「マジか！？」
「マジマジ大マジです」
皇が御幸だったと？
つまりそうすると武尊の母は神に近い存在という事にもなり得る。
でも正式な継承から五代離れるとその効果を失くすんだよな。
だったら冷泉と似た家系という事か。
しかしどうして冷泉と分けた？
いやなんで皇に苗字を変えたかだ。
そう言えば昔皇家は三つに分かれたと言っていた。
その時に能力が分散したんだよな。
皇家、此花家、四十八願家。
もしかしたら、それらが一緒の時は御幸家だったのかもしれない。
「その御幸家も、能力は皇家と同様なのか？」
「同様の所もあったかと思います。例えばその頃から神を産む家系ではありました」
同様の所もあった‥‥。
その言い方だと違う所もあったって事だ。
つまり御幸家の能力に変化があったから皇になったと考えて良さそうだな。
「予言に関してもか？此花や四十八願に別れる前なら、もっと強力な予言ができたと考えられるが？」
「よくご存じですね。はい。ただし三つの力が合わさる程度で、常にハッキリと未来が見えるものではありません」
いやいやそれにしても、神功が知ってる事の方が驚きだぞ。
もしかして神功を助けようとしたのは、その時の皇族だったのかも知れないな。
「それでその言い方だと、御幸には同様ではない能力もあったって事だよな？」
「はい。御幸の男系女子の子は、母となって子を産む時、旦那の能力を最大限に発揮させる能力があると聞いております」
なるほどな。
つまり競馬で言えば『ノーザンダンサー系』って事か。
ノーザンダンサー系の馬は、繁殖牝馬として優れていると言われていた。
種牡馬のいい所を継承した子を産むってね。
となると、おそらく旧九頭竜にも御幸家の血は間違いなく入っていると考えられる。
九頭竜家を興した者の母はきっとそうなのだろう。
「しかし簡単に教えてくれるんだな。結構大切な情報じゃないのか？」
「問題ありません。別に口止めされていませんから」
そんなんでええんかーい！
『策也様を信じてますから』とか『神になるお方ですから』とか言うのかと思っていたのにさ。
全く気が利いてるのか利いてないのか。
でもこれで全てが分かったよ。
おそらく最強を生む九頭竜の血を御幸が覚醒させた結果ＫＡＭＩが産まれたって訳だ。
そして有栖川や伊集院は、九頭竜の能力を高める為だけに付けられた。
「策也さーん！聞いてきたんだよー！はぁ、はぁ。『フルバーストメテオ』って言う超強力な攻撃魔法だったんだよー！」
「おお、そうかありがとう」
息切らして、早く知らせる為に走ってきてくれたんだろうけどさ。
もう今更どうでもいいんだよね。
そんなこと言えないけどさ。
悪いな金魚。
でもその魔法がきっと『大量破壊魔法』の元になるんだろうな。
いやマジでもうどうでもいいんだけどさ。
「それで‥‥一体何が分かるんだよ？」
「金魚！凄い事が分かったぞ！そんな魔法があるなら、もしかしたら微レ存で有栖川がＫＡＭＩを倒してくれるかもしれないな」
「そうなんだよ！倒してくれると助かるんだよ」
「うんうん金魚のおかげで光が見えたよ」
「役に立てて嬉しいんだよ」
これで納得してくれる金魚っていい子だなぁ。
「じゃあ金魚にはこの指輪を預けておく。これは俺にパワーを与える指輪の試作品だ。付けて少し試してみてくれ」
「分かったんだよ！」
金魚は指輪を付けて試してみてくれた。
なるほど。
少女隊くらいには想ってくれているみたいだな。
良かった良かった。
つかこの指輪、割とヤバいよね。
みんなに使わせたら、『実は嫌われていた』って事が分かる辛さもあるけれど、『秘めた想い』まで知ってしまうんじゃね？
いや流石に無いよね。
俺すぐ勘違いするから、それが無くて済むと前向きに考える事にしよう。
こんな調子で俺たちは、武尊に対抗する術を求めて楽しく過ごすのだった。
こんなんでええんかな？

その後、俺の見た武尊の映像を世愚に確認してもらった所、やはりＫＡＭＩに間違いなかった。
つまりは碓氷の戦士が武尊な訳で、命令したのは碓氷の王なのだろう。
だとすると、一体どうしてそんな命令を出したのだろうか。
ずっと有栖川に舎弟扱いされてきた腹いせか。
それもあるだろうけれど、なんとなく違う気もするんだよな。
武尊なんて名前が付いている訳だしさ。
もしかしたら碓氷の王も、武尊を恐れているのだろうか。
怖いという感情って、割とどうにもならないからさ。
もしもそんな理由で侵略が始まったとしたら、戦争なんて本当にどんな理由で始まるのか分かったもんじゃない。
それもまた恐ろしいね。