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本当の九頭竜?

日本には少しの間、韓国を併合していた時期がある。
これは韓国の皇帝に頼まれて行った訳だが、失敗の歴史と考える人も多い。
伊藤博文は反対していたが、韓国人である安重根に暗殺され併合へと向かって行った。
その際それなりの犠牲があったと云われているが、問題はそれよりも併合後だった。
当然韓国内では併合に反対する者もいて、それを鎮圧するのが一番大変だったという話だ。
外の敵よりも内の敵の方が厄介ってね。

俺は全ての発表前、早急に弥栄というか皇大化に連絡を取った。
『九頭竜の領土を預かる事になったんだが、昔皇の領土だったんだろ?返した方がいいか?』
『いらん!策也くんが預かったのだから、自分でなんとかしてくれたまえ』
やっぱ今の状況じゃ、どう考えても厄介者だよな。
『じゃあ魔力蝙蝠の魔生の魔石もいらないのか?』
『それは返してもらっていいかな?』
我がままだな。
そんないいとこ取りは許せないよなぁ。
『だったら今後アルカディアからの魔石の無料提供は終わりだぞ。それとこれからは魔法通信ネットワークの商売はこちらも自由にさせてもらう』
『ああ構わんよ。魔生の魔石さえ返してもらったらこっちのもんだからな!ははは!』
『分かった。じゃあそういう事で、魔生の魔石は黒死鳥王国の環奈に預けておくから、明日以降取に行ってくれ』
『分かったぞ』
ってなわけで、皇との話はこれでついた。
早速九頭竜から七魅を王にすると発表させ、その後七魅にも此花に領土を譲る旨発表してもらった。
『あたしが九頭竜の新たな王九頭竜七魅なのだ。あたしが統治する全ての領土は此花策也に譲るのだ。今この時から九頭竜領の全ては此花領となるのだ!』
形式とは言え、七魅は炎龍から九頭竜になってしまった。
正直なんだか嫌な感じなんだけど、九頭竜領内の事を知る内にその気持ちは薄れて行った。
なんというか、聞いていたほど悪い統治では無かったからだ。
まず一般の国民は、割と楽しく暮らしている。
教育が偏っていたり問題点も色々とあるのだけれど、民がそれなりに満足して暮らしているのだから一概には否定できない。
そして何より驚いたのは、立ち入り禁止区域内だ。
奴隷を集めていたというのは間違いないし、人権侵害的な行いもあるにはあるけれど、ここで暮らしている人には笑顔も見られた。
職は選べないし、一日四時間から八時間の労働が強制されている。
その代わり、食べ物と住まいは最低限保障されていて、生きる事には困らない。
鳥かごの中の生活だけれど、例えるならオリンピック村でずっと暮らすような感覚か。
しかもその中には障碍者もおり、単純に批判もできないと思える環境だった。
もちろん奴隷を他国から集めてくるような真似は、間違っても肯定はできないけれどね。
この環境が必ずしも間違っているとは言えない理由として、『此処に残りたい』という人が結構な数いた事だ。
障碍を持った人はもちろん、他から奴隷として買われてきた人もね。
そもそも行く当ての無い人も大勢いるわけで、結局八割は此処に残す事となった。
ただしいつでも出て行く事は自由だ。
出て行く人には多少の金も持たせるし、就職先を決めてから出られるようにもした。
職種もいくつか増やして、多少選べるようにも変えていった。
何より自由を奪ったりはしないようにした。
それら対応するのに一週間を要した。
当然その間、食料問題の対応も大変だった。
蘇生魔法が使える奴らを集めて、残っているミノタウロスの魂や食用になる動物として蘇生できる魂を蘇生しまくった。
早く育つ野菜や新米も収獲が始まり、とにかくまずは全員に食料を届けた。
この先小麦や米は不足してくるだろうが、ジャガイモでその辺りの栄養は補えるだろう。
毎日米やパンが食いたいって人には申し訳ないが、一年ほどは我慢してもらうしかない。
俺は民への説明映像をいくつもネットにアップして、ようやく忙しい怒涛の日々が終わった。
「クッソ疲れたわ」
「お疲れさまー!」
今はガゼボにみゆきと二人だった。
菊花もいれば妖凛もいる訳で、正確には違うんだけどね。
みゆきの出してくれたお茶を飲みながら、俺は精一杯だらけていた。
「九頭竜、かなり暴力的な国だったけど、やはり強国だけはあったな」
『民あっての国なんだよ。当たり前だろ?民が富んで数が集まってこそ強国は作られるんだ』
九頭竜の元王であるヒュドラ君はそう言っていた。
ようやく体制の見直し再編が終わって、今は領主などの引継ぎを行ってもらっている。
そしてそれが終われば、一応七魅の国を作る予定だ。
此花傘下の国としてね。
流石に九頭竜の者たちは、俺に素直には従えない。
何かあるたびに七魅を経由するくらいなら、七魅をトップとした組織を作るのが楽だ。
七魅は嫌がるだろうが、九頭竜を引き受けるのだからそれくらいはやってもらわないとな。
「強い国は支えてくれる国民が必ずいるんだね」
「みゆきの言う通りだ」
そして国家は国民を映す鏡でもある。
お人よしな国民ならば国家もお人よしになるし、国民が悪い事に目をつぶるなら国家は悪い事もする。
転生前の世界で云われた事だが、『指導者が悪いのであって国民は関係がない』ってのがあった。
でも大抵は国民も同じだったりする。
政府の悪行に目をつぶる時点で同罪でもあるし、案外そういう指導者を国民は支持していたりもするのだ。
この世界なら、例えば俺のやり方が気に入らない民は、他の国へ移り住むだろう。
そして賛同する者だけが残る。
ただ九頭竜は国民を甘やかしすぎていたかもしれない。
だからこの食料危機を自力で乗り切れなかったのだ。
もしも俺が何もしなかったとしても、元此花領内だけならきっとなんとかなっていただろう。
民こそが国家なりってね。
何にしても全てが上手く行ったな。
俺はそう思っていた。
しかしすぐにそれは幻想であったと思い知る事になる。
それは駈斗からのテレパシー通信だった。
『策也様。大変な事が起こりました。九頭竜の元王都オートで引継ぎを行っていた元九頭竜皇帝他ドラゴンたちが、何者かによって殺害されました』
なんだって?!
ヒュドラはかなり強い王だったんだぞ?
それをアッサリと殺せる奴がいるのか?
『それは本当なのか?』
『はい。円光や猫連が確認しております。現在現場にいますから視覚共有で確認も可能かと思います』
『分かった。確認してみる』
一体何が起こっている?
もしかすると此花に吸収されるのを良しとしない勢力か。
そもそも大きな国家ほど一枚岩ではない可能性もある。
王とは別の勢力があったのだろうか。
視覚を共有して見ると、確かに九頭竜の元王やその他主力だったドラゴン人間たちが倒れていた。
外傷は見当たらないが、魂が存在しない。
殺られて結構な時間が経っているな。
現地を確認してみるか。
ヒュドラを倒したような奴だ。
俺に近い魔力を持っているか、それ以上の可能性だってある。
迂闊に飛び込んでいって大丈夫だろうか。
弱気になる必要なんてない。
俺には皆が付いている。
俺は現場へと瞬間移動した。
「こられたか策也殿。一応現場はそのままにしてあるでござる」
「どうやって殺したのか全く検討が付かないんだお。魂が抜かれたように死んでるんだお」
「円光、猫蓮、この部屋に最初に入ったのはお前たちか?」
「いや、あちらのメイドが。この部屋に九頭竜のを呼びに来たら、こうなっていたらしいでござる」
円光の言葉を受けてメイドが俺にお辞儀してきた。
「ふむ‥‥」
彼女は全く関係がないだろう。
となるとその前に誰かがこの部屋へと入ってきた。
窓は二つあるがどちらも内側から鍵がかかっている。
つまり犯人は入り口から出て行ったか。
となると内部犯の可能性が高いな。
俺は半径二キロを邪眼と千里眼で調べてみた。
俺が知る者以外にマスタークラス以上の魔力を持った者はいない。
「ん?彼は誰だ?一人知らない者がいるが」
俺が九頭竜で知っているのは、王であったヒュドラ、ウロボロス、ニーズヘッグ、アンピプテラが人間に変化した四人だけだ。
しかしここには五人倒れている。
更にもう一つ気になる事があった。
ウロボロス、ニーズヘッグ、アンピプテラは魔石がそのまま残されていた。
「誰でしょうか。拙者も見た事がござらん御仁でござる」
「それがしも知らないんだお。住民カードも持っていなかったみたいなんだお。多分誰かの友達なんだお」
「友達?その根拠は?」
「それがしの勘なんだお。よく当たるんだお」
いや、こいつの勘ほど当てにならないものはないだろう。
なんてったって、ニャルラトホテプは混乱の能力を持っているからな。
いくら民の幸せが生き甲斐だと洗脳した所で、本質は変えられないのだよ。
しかし友達ではないとしても、おそらくはよく知る人物だろう。
俺は住民カードを取り出し、そいつの顔の映像を送って誰なのか調べるようアルカディアに手配した。
死者の住民カードがあれば簡単に調べられたんだがな。
「それにしてもみんな綺麗な顔してるんだお。でも死んでるんだお。それで‥‥」
何処かで聞いた事があるようなセリフだな。
いやでも実際みんなそんな感じだ。
普通に考えればデススペルなんだけどさ、これだけ強い奴らがそんな魔法レジストできない訳がないんだよ。
まるで自殺したような‥‥。
「自殺か‥‥」
「流石に自殺は無いと思うでござる。みんな七魅殿の元で働ける事を喜んでいたのでござるよ」
「ありえないんだお」
そういう意味ではない。
例えば洗脳だ。
山女ちゃんのような能力で頭がおかしくなれば、自殺する事も考えられる。
ただその場合、おそらくこんなに綺麗な死に方にはならないだろう。
だけど多分この線が一番正しい気がする。
『お兄ちゃん、さっきの映像の人分かったよ。劉邦って人だよ』
『こいつが劉邦か!?』
今までに何度か俺の知らない所でコソコソと動いていた奴だ。
九頭竜の手の者だと思っていたけれど、やはりそのような感じだな。
ただコソコソ動き回っていた割には、印象よりも大物な気もする。
なんせこの四人がいる場所に来ているんだからな。
『うん。でも劉邦って人は、今まで何度か色々な所で死亡が確認されているの』
『どういう事だ?』
『わかんないけど、ローカルニュースまで探すと、記事に残っているのが三つあるよ。いずれも死亡は劉邦って書いてある』
ちょっと待て。
冷静に考えよう。
今目の前で死んでいるのは劉邦だ。
そして今まで劉邦は最低三ヶ所で死亡が確認されている。
と言う事は、俺のようなゴーレムを作っているのか、或いはホムンクルスか、あのアニメに出てくるレベルファイブの彼女のような感じだろうか。
頭がコンガラガッチャカだよ。
こんな時にあの『殺人事件現場遭遇率ナンバーワンの未来少年で探偵な子供』がいてくれたら。
『ありがとう禰子。何か劉邦について別の情報があればまた教えてくれ』
『はーい!』
パイプ咥えた探偵だろうと、金田一だろうと、アフロ探偵でもいいから誰か教えてくれ!
(ツンツン)
『ん?どうした妖凛』
妖凛がミンクマフラー姿のまま、俺の胸辺りをツツいていた。
『何々?この劉邦って男の左手をよく見ろ?闇の力が黄泉の国まで続いている?』
どれどれ‥‥。
つか俺いつの間にか妖凛とも以心伝心になってしまっているようだな。
俺は邪眼で確かめてみた。
するとほとんど見えないが、劉邦の左手から黒い闇の糸とも言えるような細い物が、九頭竜の元国王の頭へと繋がっていた。
「これは‥‥グラーキの『奴隷』にする能力だな。グラーキの魂を持つ|棲湖《セイコ》のとは少し違う感じだが、アレを黒魔術として落とし込んだ感じか」
俺も知らないオリジナル魔法か。
「そうなんだお?でもそんな魔術にこの元九頭竜皇帝がやられるとは思えないんだお」
「その通りだ。なんの条件も無ければ、こういった魔法は魔力に圧倒的差が必要になる。この劉邦がとんでもない化け物ならば分かるが‥‥」
「劉邦は死んでるでござるな。命を賭してやったのでござるか?」
命がけで九頭竜皇帝を操り、他の奴らも倒した?
では九頭竜皇帝はどうやって他の奴らを倒したんだ。
いや、もしも九頭竜皇帝の命令を絶対に聞く使役されていたドラゴンなら、自殺を命じられて死んだと考えられる。
憶測に近い推測でしかないが、だいぶこの事件の真相が見えて来たぞ。
なんか俺、名探偵になった気分だ。
おっと浮かれるような状況ではなかったな。
これは深刻な問題なのだ。
大切な四人が殺されてしまった事で、此花が九頭竜領土を奪ったと見る者も出てくるかもしれない。
嫌な予感がするな。
(ツンツン)
再び妖凛が俺の胸の辺りをツツいた。
なかなかピンポイントな所を突いてくるな。
これが男女逆だったら完全にいけないシーンになってるぞ。
『どうした妖凛。また何か気が付いたのか?』
(コクコク)
『何々?劉邦の死体を良く見ろと?』
ふむ、何があるのだろうか。
俺は邪眼で劉邦の体を隅々まで調べ上げた。
ヤローの体を舐めまわすように見るとか、正直あまり気持ちのいい物ではないな。
「おっ!この劉邦、もしかしてゴーレムか何かか?」
「そうなのでござるか?」
「ゴーレムには見えないんだお。これは完全に生身なんだお」
「しかし体の中心に魔石があるのが見える」
この場所にあるのは、この人間の操作が目的ではない。
これをゴーレムとして作った線が最も有力だが、どこかで読んだ本にはコピーと書かれていたものも‥‥。
「コピーか!自分と全く同じコピー人間を作る能力だ。劉邦は過去に三人死んでいたのが確認されている。そして今回で四人目だ。つまりコピー人間を作って誰かをコントロールさせるという事かもしれない」
俺も結構やるね。
妖凛のおかげだけど、謎解きもできるではないか。
『お兄ちゃん、追加情報だよ』
『おお禰子か。でも今丁度謎は全て解けたぞ。劉邦は多分自分をコピーできる能力を持っているんだ』
『そうなの?でもそれ間違ってるかもよ。だって死んでた劉邦って、みんな別人みたい。ミケコ隊長も見た事あるみたいなんだけど、この顔じゃ無かったって言ってるよ』
ガーン!
もう何がなんだかサッパリピーマンだな。
でもコピーじゃなかったとしても、多分近い線だとは思うんだよ。
ゴーレムでも死亡判定あるから命がけの魔法もアリかもしれないし、無ければ無いで別の方法でコントロールしたんだろう。
これ以上はもう分からん。
『ありがとう禰子。でも劉邦が何らかの方法で元九頭竜皇帝を操作し、おそらく絶対服従の他の者に自殺を指示したか、或いは契約を利用して全員殺したと考えられる』
『そうなんだね。そう記録しておくよ』
『おう!よろしくな』
「コピー人間でござるか‥‥」
「策也殿も似たような事ができるんだお」
「そうだな」
仮に俺がゴーレムに命がけの魔法を使わせたとして、死んだゴーレムに使っていた魂はどうなるんだろうなぁ。
魂の一部が無くなってしまうのだろうか。
試したいけどこれは駄目な奴な気がする。
魂が欠けたらどうなるのかも分からない。
細かい事は置いといて、これは劉邦の仕業だ。
そして本当の劉邦はきっと生きている。
俺は確信していた。

そしてその夜、ネットに元九頭竜皇帝たちを殺した犯人による声明がアップされた。
『我々は真の九頭竜である。我らが傀儡であったヒュドラが、勝手に国を此花に譲ってしまったようだ。これは我々の意思ではない。よって我々はヒュドラたちドラゴンには退場してもらった。此花策也に告ぐ!我が領土を即時返還せよ。さもなくば力づくで取り戻す事になる』
めんどくさい事になったな。
既に体制の変更や食料の配布が終わった後でやってくる辺り、狙ってたんだろう。
自分たちでは食料をどうにもできなかったから、俺たちにそれをやらせて取り戻すか。
本当に元九頭竜皇帝が勝手にやった事だとしたならば、別に返すのもやぶさかではない。
でもこいつらは『力づくで取り戻す』とか言う奴だ。
まず話し合おうって言うのなら良かったんだけどな。
それにもう魔力蝙蝠の魔生の魔石は皇に返した後なんだよね。
全てが此花仕様になってる後なんだよ。
黙って返す訳にはいかない。
『禰子、真の九頭竜とやらが誰だか分かるか?』
『おそらく九頭竜皇帝の側近となっていた九つの貴族たちだね。|市竜《イチリュウ》家から|紅竜《クリュウ》家まであるんだよ』
そういえばそんな奴らがいるって話はあったな。
なのに領土が譲られて一週間、何処にも姿を現していなかった。
領土内のどこかに隠れていたんだろうけど、探すのは大変だし向こうから出てきてもらうしかないか。
でも一応ミケコたちには、捜索はしておいてもらおう。
『ミケコに伝えておいてくれ。その九貴族を探してくれと』
『分かったよ』
『じゃあよろしくね』
『バイバイ』
もしもこいつらが本当の九頭竜だと言うなら、多分そう簡単には見つからないよな。
『駈斗、リンに伝えておいてもらいたいんだが、九頭竜貴族が領土を奪い返しにやってくるから警戒を頼むと』
『承りました』
劉邦に九貴族か。
こいつらが強力なドラゴンを使って、裏で国家を仕切っていたんだろう。
そしてそれが可能だったとするなら、こいつらは侮れない。
賢いドラゴンをいいように使うなんて、並みの者にはできないだろうからな。
こうして俺たち此花と九頭竜貴族との戦いが、静かに幕を開けるのだった。
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