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テロリストから村を守れ!

大日本帝国はかつて、中華民国と戦争をした。
満州事変から|愛新覚羅溥儀《アイシンカクラフギ》皇帝の『領土を取り返して』と言うお願いを聞いた事もあり、結局最後は挑発に乗って盧溝橋事件から通州事件と戦争へ向かって行った。
ただ帝国陸軍はメチャメチャ強くて、中華民国国内を蹂躙し蒋介石を追い詰めていった。
でも結局戦争には負けた。
何故負けたか。
『アメリカに負けたから』と言ったらそれまでだけれど、対中華民国だけを考えれば、それは『中華民国が広すぎて逃げ回る蒋介石を捕らえる事ができなかったから』かもしれない。
もしも捕まえる事が出来ていたら、歴史は少し違ったものになったのだろうね。

昨晩リンは三度出撃をした。
村が襲われたとの報告で駆け付け、三度目でようやく実行犯一人を捕らえた。
しかしそれは『劉邦という者に頼まれた』というただの野良冒険者で、九貴族とは全く関係が無い者だった。
「今日は寝不足よ‥‥」
「別に誰かに交代で任せてもいいぞ。円光や猫蓮は強いからな。遊撃隊のメンバーももう豊穣作業は終わったんだから、活用してやってくれ」
「そうね‥‥任せる事にするわ」
今回の相手はそれほど強い相手でもないと思うしな。
ただ劉邦ってのだけは注意が必要かもしれない。
今回も名前が出て来たし、妙に気になるんだよな。
「それで襲われたのはいずれも村長の家なんだな?」
「そうね。村長の家が襲われて、それを今回配置した報告係が通報してきたのよ」
つまり対応した事はしっかりと生きている。
ただしそれでも完全には間に合ってはいない。
幸い昨晩にあった三件の襲撃で死者は無かったが、収穫前の野菜などが盗まれていた。
村の奥にある食料貯蔵庫は襲われてはいない訳で、早い対応の効果は十分あるんだけどな。
とは言えこれだけの対応をしても逃げられているのだから、瞬間移動魔法のような何かが使える者もいるのだろう。
碁竜も建物間とは言え移動が可能だったしな。
それに地の利は完全に九貴族の方が上だ。
瞬間的な移動手段を国内に張り巡らせている可能性だってある。
それに対抗し得る速さで村に駆け付けなければならないなら、一度全部の村へ行っておく必要があるのだろうな。
「リン、ミケコ。俺と視覚共有できる奴を全員貸してくれ。手分けして全ての村を見て回ってもらう」
「いいわよ」
「兄上様。今晩は自ら捕らえに向かうのですね」
「早い所捕まえないと被害は増える一方だし、俺が行くのが一番早いからな」
これでなんとか捕まえられればいいが‥‥
そんな訳でこの日俺は、とにかく仲間を総動員して全ての村に瞬間移動できる体制を整えた。

夜になった。
俺は元九頭竜領内の中心にある竜口洞窟辺りで待機していた。
村からの連絡があればすぐに俺の所にテレパシー通信が入る。
夜と言っても現地時間で二十二時、マイホームじゃ十六時頃なんだけどな。
ここまで村が襲われた時間は、だいたい二十三時から明けて四時くらいまでの間だった。
今晩はまだ何処も襲われたという連絡は無い。
俺は簡易で建てた拠点で、少女隊らと共に待機していた。
「待つだけってのは暇だな」
「そうなのね?」
「だったら何かゲームをするのです」
「ゲームか。いいだろう。だが何のゲームをする?」
「トランプなんかどうなのね?」
「分かった」
俺は異次元収納からトランプを出した。
ちなみにトランプはこの世界には無かったが、俺が此花特産として作り始めたものだ。
他にも将棋や囲碁などを売ろうと目論んでいた。
「それで何をするんだ?」
「じゃあ大婆抜きはどうなのです?」
「なんだそれは?ババ抜きとは違うのか?」
「とにかくやってみるのね」
よく分からないが俺は言われるままにカードを四人に配った。
妖凛も参加だからね。
「じゃあいくのね。大婆だーれだ?!」
「大婆誰なのです?」
「えっ?そういうゲームなの?王様ゲームみたいな感じなのか?」
「とにかくババを引いた人はカードを出して手を上げるのね」
妃子がそう言うと、妖凛がカードを出して手を上げた。
「分かったのね」
「ではみんな、妖凛から順番にカードを引いて行くのです」
「お、おう」
俺は妖凛から、ババ抜きのようにカードを一枚引いた。
「ババなのね?」
「いや違うが?」
「誰かがババを引くまで交代で引いていくのです」
よく分からないな。
どうなったら勝ちなのだろうか。
俺と菜乃と妃子は、順番に妖凛からカードを引いていった。
すると三順目に妃子がババを引き当てた。
「やったのね!私が大婆なのね!」
どうやらババは引いた方がいいみたいだな。
「それで妃子が勝ちなのか?」
「違うのです。これで妃子が大婆なので、みんなに命令ができるのです」
なるほど、ババを引いた人が大婆、つまり王様ゲームの王様になる訳か。
「でもそれだと最初にババを引いたらもう大婆にはなれないのか?」
「違うのね。最後までババを残せば大婆になれるのね」
つまり最初にババを引いた者は、大婆になる可能性はかなり低そうだ。
「それで命令はどうするんだ?」
「カードを指定するのです」
そうなると最初にババを引いた者は命令される可能性も低い訳か。
「それじゃ命令するのね」
「おう」
「スペードのエースがぁ~」
俺じゃねぇかよ。
「ハートのエースを抱きしめるのね」
「おい待て!両方とも俺なんだが?」
「このゲームは同じ人になる可能性があるので、一人でもできる命令をする必要があるのです」
「つまり俺は自分で自分を抱きしめるのか?」
「そうなのね」
嫌すぎる。
これはヤバいゲームじゃないのか?
王様ゲームよりもヤバいぞ?
「さあ早くするのね。大婆様の命令は絶対なのね」
クッソ妃子の癖に‥‥
俺は仕方なく、両手で肩と腰を掴むように自分を抱きしめた。
「うははは!策也タマ寂しい男なのね!」
「悲しすぎて見ていられないのです!プププ」
こいつら笑い過ぎだろ。
暴力に訴えてやろうか。
そんな事を思っていたら、妖凛が俺の代わりに妃子の頭にチョップをかましていた。
「うごぉ!頭が割れたのね。痛すぎるのね」
こいつ本当に頭が割れるからな。
ぶっちゃけ見ている方が気持ち悪いぞ。
「お前が俺を馬鹿にするから妖凛が怒ったんだぞ。ゲームはみんなで楽しくやらないとな」
「此畜生なのね。でも妖凛にはかなわないのね」
「でもゲームなら勝てるのです。リベンジするのです」
暴力ではどう考えても妖凛には勝てないからな。
だからと言ってゲームでも俺たちにはかなわないよ。
何故なら俺たちには運気上昇スキルがあるのだ。
これを使えば負ける訳がない。
「じゃあ次配るぞ」
俺はトランプをシャッフルしてみんなに配った。
「大婆だーれだ?!」
「俺だな」
おいおい、幸運のはずがついてないぞ?
「じゃあ順番に引いて行くのです。時計回りなので引くのは私からなのです」
こうなったら妖凛に引いてもらうしかない。
どうしたらババを引けないようにできるかな。
ちょっと取りにくい位置にしておくか。
「さあ引いてみろ!」
俺はカードを持った手を菜乃の方へと突き出した。
「ププププ。甘いのです!私たちは策也タマとは以心伝心なのです!」
「うおっ!」
ババは一発で菜乃に引かれてしまった。
「はははは!大勝利なのです!」
「策也タマはこのゲーム、最初から負けていたのね」
そうだったのか。
まさかこんな奴らに負ける日がこようとは。
「じゃあ命令するのです。スペードのキングが~」
また俺かよ。
「ハートのクイーンの穴に何かを入れる!のです!」
おいおい、そんな命令は駄目だろ。
俺の大冒険は少年少女向けだっちゅーの!
「命令は絶対なのね」
「くっ!」
クッソ、穴ってあそこかケツ穴しかない‥‥ってあるじゃん!
俺は妖凛の顔を見て穴を見つけた。
俺は手をピースにして、妖凛の鼻の穴へと指を突き刺した。
「ハグハグ‥‥」
あれれ?
妖凛にこんな事をして良かったのだろうか。
穴を見つけた喜びに、俺は我を忘れてやってしまったのではないだろうか。
妖凛は少し顔を赤くして色気のある顔をしていた。
俺は静かに指を抜いた。
「口を開けてもらってそこに指を入れれば良かったのね」
「もっと言えば、指で輪を作ってもらっても大丈夫だったのです」
ゴメンよ妖凛。
とんでもない間違いをしてしまったようだよ。
俺は肩を落とした。
その時突然に、円光からテレパシー通信が入った。
『三番鳥の村』
おいおい脅かすなよ。
つか自分の任務を忘れていたわ。
『了解だ!』
村が襲われた連絡の際は、直ぐに急行できるようにまずは村の名前だけを伝えるように言ってあった。
「連絡が来た!行くぞ」
俺がそう言うと少女隊はすぐに影に潜り、妖凛はミンクのマフラーになって俺の首に巻き付いた。
そしてすぐに瞬間移動で三番鳥の村へと移動した。
『襲撃者の確認は二名。村長宅でござる。しかしいつも通り畑も襲撃されているものと思われるでござる』
後はこうやって情報だけを伝えてもらう。
『了解だ』
俺は邪眼と千里眼、更には探索能力も使って村全体を調べた。
「菜乃と妃子は村長宅へ行って犯人確保へ!」
「分かったのです」
「任せるのね」
少女隊は影から出ると真っすぐ村長宅へと向かって行った。
そして俺は怪しい気配の感じる畑へとテレポートした。
そこには野菜を持ち去ろうとするおっさんが四人いた。
顔は見覚えがあった。
|麓竜《ロクリュウ》、|子智龍《シチリュウ》、|蜂竜《ハチリュウ》、|紅竜《クリュウ》だ。
相手の魔力はほとんど感じられない。
俺は超高速移動で魔力ドレインの手枷足枷を付けて行った。
しかし四人は実体がなかったように、間もなく姿が霧散するように消えていった。
なんだこれは?
畑からは野菜が盗まれた後のようだった。
野菜は確かに無くなっている。
だからあいつらが盗んでいったのは間違いないだろう。
だけど俺が来たら消えるようにいなくなった。
それも野菜を持ってだ。
どうなっている?
考える間もなく、直ぐに次のテレパシー通信が入った。
『二番熊の村』
『了解!』
俺は少女隊を置いたまま二番熊の村へと移動した。
「妖凛!村長を頼む!」
(コクコク)
俺は再び畑で感じる何者かの所へとテレポートした。
状況はさっきと同じような感じだった。
今度こそ捕まえてやる。
「魔力ドレインの結界!」
結界は最速で四人を捕らえたはずだった。
しかしやっぱり先ほどと同じように霧散して消えていった。
此処ではどうやら梨が奪われているようだった。
こうやってちゃんと収獲できる所は少ないというのに。
『犯人は捕らえたのね』
『今からそっちに行くので視覚を共有させてほしいのです』
俺はテレパシー通信を受け、少女隊に今の視覚を共有させた。
直ぐに菜乃と妃子が犯人を連れて瞬間移動してきた。
「ご苦労!」
少女隊は俺と常に行動を共にしているからか、瞬間移動魔法を使えるようになっていた。
俺は魔力ドレインの檻を作った。
そして二人の犯人をその中へと入れた。
更に後から妖凛が別の二人を捕らえてやってきたので、そいつらも檻へとぶち込んだ。
「みんなサンキュー。とりあえず村長宅を襲った奴らは全員捕まえられたか」
「村長も無事だったのです」
(コクコク)
今回もまた通信機器狙いだったかな。
或いは意識をそちらに向けさせる陽動か。
それにしてもあまり時間に差はないはずだ。
どうしてそんなに早く野菜や果物を盗んで‥‥
『一番鳥の村』
また来たか。
『了解!』
「次行くぞ!」
俺がそう言うと皆は瞬時に移動体制をとった。
俺は瞬間移動魔法で一番鳥の村へと移動した。
俺が何も言わなくても、少女隊は村長宅へと向かった。
そして俺は盗みをしている四人の所へテレポートした。
今度は逃がさない。
俺はバクゥの目を使って時を止めた。
これなら流石に逃げられないだろう。
しかし既に犯行現場の四人には実態が無かった。
幻影魔法のようなものか‥‥。
俺は全てを悟った。
こいつら、犯行の後に村を襲わせてやがった。
暗い中先に盗む物を盗んで、その後瞬時に盗んでいったと見せかけていたのだ。
おそらく隠密行動の能力者もいるのだろうな。
それにこれはただの幻影魔法じゃない。
実際に人の存在も残っている。
これでは騙されても仕方がない。
とにかくもうこのやり方では捕まえようがないな。
俺は天を仰いで一つ息を吐いた。

次の日からの対応は、再びリンたちに任せた。
村長宅が襲われる以上、対応しない訳にはいかないからね。
そして俺は地道に村を回って、テロリストが来ればすぐに分かるよう仕掛けをしていった。
時間はかかるが捕まえる為にはこれしかないだろう。
そんな訳でしばらく九貴族を追いかける日々は続いた。
「くあぁ~!怠すぎる!同じ作業を繰り返す仕事はこんなにも怠いのか!」
「こっちなんて捕まえられないと分かっているのにやってるのよ。本当に嫌になるわ」
テロとの戦いとか転生前の世界では簡単に言っていたけれど、実際相手にするとマジでヤバいぞ。
いっそ元九頭竜領土に超絶大量破壊魔法をぶちかましてやりたい所だ。
でも民がいるからそんな事はできない。
テロリストの卑怯な所は、一般人を盾にする所だ。
そして元九頭竜領は広すぎる。
まだ町には来なくなっている分マシだけれど、広い大陸を逃げ回られては捕らえられないよ。
なんとなく日中戦争を思い起こさせるな。
あの戦いで帝国陸軍が蒋介石を追った時もこんな気持ちだったのだろうか。
今の俺は毎日マイホームでみゆきに癒されているからいいけれど、過酷な中どうやって精神を維持していたのだろうな。
凄い精神力だよ。
四阿会議が終わると、今日も俺は村を回るのだった。

この日、元九頭竜領辺りでは日が暮れたので、俺はマイホームへと戻ってきた。
いくら不老不死だからと言っても、毎日お茶を飲むだけの生活は精神衛生上良くなかった。
そんな訳で今日は久しぶりにみんなで食事をした。
「六華ね。今日クワガタ捕まえたよ!」
「おおマジか!」
「見せて欲しいのです」
六華は虫かごからクワガタを取り出した。
「これは雌なのね」
雌だとゴミムシと変わらないんだよな。
ゴミムシって何を勘違いしているのか知らないけれど、クロゴキブリと一緒に生活していたりするんだよね。
そう考えるとなんとなくクワガタの雌も気持ち悪く見えてくる。
でも大丈夫なのは、動きが遅いからだろう。
ゴキブリ最大の怖さは動きの早さにあるからな。
「食べる?」
「六華。クワガタは食べちゃダメだぞ」
「でも妖凛は食べてたよ」
「マジか!?」
(コクコク)
妖凛はニョグタだからな。
生きてるものなら何でも食べられるのだ。
そして俺もその能力を得ている訳で、美味しくいただく事も可能なのである。
そう考えるとクワガタの雌が美味しそうに見えてきた。
ヤバいヤバい。
流石に六華やみゆきの前でクワガタを食べる訳にはいかない。
でも猛烈に食べたくなってきたぞ。
「六華。お父さんがそのクワガタを逃がしてきてやる。だから貰えないか?」
「はい!お父タマにあげる」
「ありがとう」
よっしゃー!
クワガタの雌ゲットだぜ!
「ではお父さんはこいつを逃がしてくるからな」
そう言って俺はマイホームを出て木の陰に隠れた。
此処なら誰も見ていないな。
俺はニョグタの能力でクワガタを食べてみた。
「美味い!クワガタってこんなにも美味かったのか!」
(コクコク)
「いやぁ、マジで妖凛ありがとう‥‥って!」
クワガタを食べる所を見られてしまった!
って、妖凛だけなら誰にも話さないだろう。
「ん?なんだって?昆虫には馬鹿にできない能力を持ったものも少なくない?」
おお!そういう事か。
これは面白いな。
ならば集めさせてもらおう。
虫の能力。
俺はみんなとの食事の後、妖凛と一緒に虫を食べに出かけるのだった。
虫は人間と違ってアホだから、意識に影響する事もなさそうだしね。

その日の夕方、元九頭竜領では既に二十三時頃、とうとう俺の仕掛けた探知魔法に引っかかる者があった。
ようやく来たか。
夕方の四阿会議の最中だったが、俺はすぐに村へと飛んだ。
ようやく捉えたぞ。
ちまちま作業をして一週間以上は長かった。
絶対に逃がしはしない。
妖凛と一緒に虫を色々食ったおかげで五感がメチャメチャ働くんだよね。
この暗闇の中でもハッキリと奴らが見える。
間違いなく実体だ。
油断はしない。
最初から全力を出し尽くす。
俺はバクゥの目で時を止めた。
そして四人を魔力ドレインの檻へと放り込んでいった。
おそらく一人は瞬間移動系のスキルも持っていそうだから、少し檻は改良してある。
念の為、そういったスキルを封じられるようにね。
「はいおしまいっと!」
バクゥの目を閉じると、世界は再び動き出した。
「うわっ!なんだ?」
「檻だと?」
捕まえてみればあっけなかったな。
こうして麓竜から紅竜までの四人は捕らえる事ができた。
残す九貴族はあと三人だ。
他にも劉邦がいるけどね。
それでも後四人。
テロリストたちは全員捕まえてやる。
事が進むとやる気も出るよね。
俺は決意を新たにするのだった。
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