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ヒュドラのヒドラの里

政治家はよく『飛ばし記事』を報道させる。
嘘か本当かよく分からないニュースで、『観測気球』なんて云われたりするね。
それでその報道への反応を見て、政策を実行するかどうか決めたりする。
例えば『政府役員の話として、タバコ増税を検討中』みたいなニュースだ。
これに反対する声が少なければ、政府は静かにタバコ増税を決めてくる。
しかし反対する声が多ければ、『そんな検討はしていない』としらばっくれるのである。
まあ要するに民の顔色を窺う為に飛ばし記事ってのを報道させるわけだ。
それだけ政府にとって、民の意思とは重要なんだよね。
民が革命だとか言って反乱しても困るわけだからさ。
当然戦争をするにも、似たような免罪符が必要になってくる。
それは戦争の正当性というものだね。
どんな国であっても戦争をするなら、必ず正当性は必要になってくる。
誰もが批判するような戦争をしようものなら、当然世界中が敵に回る可能性だってあるのだ。
だから正当な理由を用意しなければならない。
今回伊集院は、早乙女に攻め入る前にその正当性を訴え民意を固めに来ていた。

『此花の王、此花策也だ。伊集院に尋ねたい。その要求は正当なものなのかと。確かに映像を見れば、麟堂が倒した魔王に似ている。しかし似た奴はいてもおかしくないし、人間に魔人の顔の違いをハッキリと区別する事はできるのだろうか?!』
転生前の世界でも、人種が違えば顔を区別するのは難しかったりした。
まして魔人の顔なんて、見慣れない人が見てどれだけ分かるというのか。
『仮にこの映像の彼女が復活した魔王だったとしても、国を動かすような罪があったと言えるのだろうか。襲われたテヤンデーの町はほぼ無傷、蘇生によって死者も出なかったはずだ。麟堂の活躍あっての結果かもしれないが、この魔人にそこまでの罪はあるのだろうか?!』
依瑠になっていたこの魔王は、当時ずっとリンと戦っていたから誰も殺してはいない。
軍の指揮はとっていたが、それは戦争だからだ。
戦争に参加する事が罪なら、世界中罪人だらけだよ。
『それに仮に罪が有ったとしても、一度死んで罪は償っているともいえる。誰が蘇生したのか知らないけれど、生まれ変わった人にまで罪を背負わせるべきだろうか?更に早乙女に対して制裁を考えているようだが、早乙女は助けてもらったに過ぎない。別にかくまっている訳でもない。伊集院の訴えは、賢い人には届かないと思うぞ』
こういう風に『賢い人なら』って言っておけば、馬鹿はまず伊集院を否定してくれるのだ。
『十数年前、早乙女は大魔王に操られていた。しかし今は助けてもらっている訳で、あの時の関係ともまるで違うではないか。そもそも大魔王が復活した様子も無いのではないか?!』

伊集院が魔王の引き渡しを要求し、それができない場合は早乙女に制裁をすると言ってきた。
これを知った時、俺は伊集院の考えが分かったのだ。
魔王を差し出さない早乙女が悪いという|世論《セロン》を作る事で、戦争の正当性を確保しておきたいのだと。
魔王が早乙女の所で復活していようが、別に過去の事に関して早乙女が悪いわけではない。
そして伊集院も、過去に早乙女と魔王が繋がっていたと確証を持っておらず、とりあえず早乙女は魔王に操られていたと理解している。
それでも伊集院は感情的に、武力による行動を起こしたいと考えているのだ。
その為には戦争の正当性の確保が必要なのである。
ならば戦争を止める方法は単純だ。
戦争の正当性を与えず、尚且つ感情的に思わせない事。
別人かもしれないとなれば、全てはお門違いとなる。
本人だとしても誰も殺していないのだから、憎むべきは別人だ。
早乙女との関係もハッキリしないのなら、早乙女を責める正当性も失われる。
となると慎重で賢い伊集院なら、少なくともすぐに行動を起こす事はないだろう。
俺はそうして伊集院を止めようと声を上げたわけだ。

「本当に策也は悪知恵が働くわね」
「悪知恵か」
この世界はやはり日本に似ている。
そうでなければ、これは悪知恵ではなくただの優秀な策となるはずだからな。
「なんでもいいんだよ。戦争が回避できるなら平和なんだよ」
そのままだなおい。
「まだ回避された訳じゃないけどな」
それに今回はあくまで先延ばししたに過ぎないかもしれない。
おそらく伊集院は今後調査を進め、早乙女と魔人の関係について調べるだろう。
そしていずれは知る事になる。
早乙女が大魔王の子孫である事を。
そうなると早乙女は操られていたのではなく、自ら進んで魔王の復活に協力したと誰もが思うのだろうな。
そこまでくればもう事実と差は無くなる。
改めて伊集院は早乙女を潰しに行くかもしれない。
そしてその時は世界も呼応するのかな。
なんせ千年以上にも及ぶ戦いな訳だし。
そうなる前に何かしら解決策を見つけるしかないか。
「それで総司、千える。衣服の製造販売はどんな感じだ?」
千えるは家族ごと引っ越してきて、生活のサイクルをこちらに合わすよう変えてきた。
「此花商人ギルドでの販売は順調ですよ。九頭竜を完全に排除する事は無理ですが、既にシェア七割にまで達しています」
「神武商人ギルドも似たような感じですね。こちらは出荷も楽ですから価格も抑えられますし、本当ならもっとシェアを奪えるはずなんですけれどね」
「そうか。一気にシェアを奪おうと広げ過ぎているのかもしれないな。他は在庫が余っている所もあるようだし」
正直衣服の製造は間に合わないくらいだ。
余っていると言ってもそんなに多くはない。
本当は妖精王国でも生産体制を整えたい所なのだが、僅かだが精霊魔術を必要とする部分あって不可能だと分かった。
となると元謎乃王国領土である転移航路に近い町『モツバル』で製造したい所だが、民の魔力レベルが全体的に低い。
これは元謎乃王国の町すべてに言えるようで、どうも元々の所有者であった九頭竜はこの地をしっかりと統治してこなかったように思える。
あのオモヤミのような重税に民が苦しんでいる町ても放置だからな。
九頭竜にとって西の大陸にある領土は、元々そんなに重要な場所ではなかったのかもしれない。
現に先の作戦時にも結局は攻め込んでこなかった訳だし。
「とりあえず今の所は俺たちの側を利用してもらえるよう良い付き合いを続けていこう。エルフ王国印のシャンプーとコンディショナーとトリートメントがあるから、利用して客を確保だ」
「アレは人気ですからね。ついでに別の作物なんかも売り込めます」
「ああいう目玉商品がもっとあれば良いですね」
目玉商品か。
丸薬とか余って来てるから、売り出したら爆売れするんだろうな。
でも敵を利する可能性があるから売れる訳もなく。
状態異常や病気の魔法薬は普通に売ってるし、スクロールや魔法書なんかは売れないだろうか。
正直作るの面倒だよな。
マジックアイテムの方が百倍便利だし。
「一般人が普通に手に入れられる価格で売れそうな、こういう物が有ったら便利だって物を考えておく事にしよう」
こうして朝のミーティングは終了した。
その後すぐ、早乙女が声明をだしてきた。
『伊集院が魔王としている者は全くの別人だ。それに魔人王国の住人でもある。我々がどうこうできるものではない』
そういって伊集院の要求を断っていた。
ネット上の世論も概ね伊集院の武力制裁には否定的で、これでおそらく当面の戦争は回避できただろうと俺は判断した。

しかし安心したのも束の間、問題とは次々とやってくるものだ。
そろそろ寝ようかと思った時間に、突然駈斗からテレパシー通信が入った。
『旧謎乃王国領内に大量のヒドラが現れました。麟堂様と共に防衛部隊を連れて現地へ急行中です』
『ヒドラ?もしかして越えられない山の方からか?』
『そのように聞いておりますね。伝説の魔獣が群れを成すなんて何かおかしいですよ』
『ああそうだな』
いや、昔あそこの山を越えた時、俺たちは一度ヒドラの大群に出くわした事がある。
伝説の魔獣がどうして群れを成していたのか疑問ではあったが、あの時は魂が集められてラッキーだとしか思わなかった。
でもよくよく考えたらおかしな話だ。
こりゃちょっと調査する必要がありそうか。
俺は睡眠モードを解除して、あの時ヒドラに会った越えられない山へと瞬間移動した。
辺りは既に真っ暗だ。
フレイムドラゴンの里と時差は一時間くらいしかないからな。
俺はライトをつけて山の中の捜索を開始した。
『駈斗、そっちはどうだ?』
『このヒドラたちはかなり強いですね。野生のヒドラとは違うでしょう。何者かが強化させたか、もしくはテイムされているか。或いはその両方かもしれません』
『犠牲を出さずになんとか狩れそうか?』
『ヴァンパイア部隊が力を発揮できる夜ですから大丈夫でしょう。それに円光や津希がいますからなんとでもなります』
『そうか。一応魂を集めておいてくれると助かる。テイムされているならマスターを調べておきたいからな』
『承りました』
テイムして強化されたヒドラか。
もし本当にそうなら、きっとこの山の中に何かがあるはずだ。
俺は千里眼と邪眼を駆使して山中を探し回った。
しかし真っ暗な山の中を一人で動き回るなんて、いくらチートに強くても薄気味が悪いな。
「おい菜乃、妃子、出てきて陽気な歌でも歌ってくれ!」
「ん~‥‥いきなりどうしたのね?策也タマ‥‥」
「起きてすぐ歌うのはレベルが高すぎるのです」
やっぱり寝ていたか。
普段はすっかり寝ている時間だからな。
って、それじゃこいつらを影に潜ませている意味がないんだって。
でも既に一心同体少女隊だからな。
もう寝る時に寝ても構わないから、だったら何処までも一心同体でいてくれよ。
「ぶつくさ言ってないで何でもいいから歌え!夜の山に響き渡って最高だぞ!誰もがお前たちの歌を待っているはずだ!」
「待ってくれているのね?」
「もしかしてアイドルなのです」
「そうだお前たちはアイドルだ。さあ菜乃から行ってみようか!サンハイッ!」
「か~え~る~の~う~た~が~♪」
「き~こ~え~て~こないのね~♪」
そりゃこんな云千メートル級の岩山に蛙なんていないよな。
「ゲコ、ゲコ、ゲコ、ゲコ‥‥」
「ん?おい菜乃!ケツから変な音が出てるぞ」
「私じゃないのです!きっと妃子なのです!」
「妃子かよ。ちゃんと飯はよく噛んで食えよ。ガスが溜まりやすくなるんだから」
「違うのね!ラーメンを食べすぎただけなのね」
そういえば小麦は高フォドマップ食品だ。
消化吸収されにくいから、ガスが溜まりやすくなるんだよな。
しかも便は緩くなるから下痢にもなりやすく、当然オナラは臭くなる。
「お前は米を食った方がいいな」
「ラーメンは控えるのね‥‥って、私もオナラはしてないのね」
「じゃあさっきの蛙の鳴き声みたいなのはなんだ?」
「策也タマ。後ろに蛙が九匹いるみたいなのね‥‥」
「そうなのです。結構大きいのです」
菜乃と妃子が何やらビビっているように見えるな。
たかが蛙くらいで‥‥。
俺は振り返った。
するとそこには巨大なヒドラがこちらを睨んで立っていた。
「お前たちいい歌だったぞ!流石アイドルだ!」
俺はサムズアップとウインクで二人を褒め称えた。
「巨大な蛙は気持ち悪いのです」
「こんなオーディエンスはいらないのね」
ヒドラが現れたって事は、きっとこの辺りに巣があるはずだ。
ちょっと聞いてみるか。
「ようヒドラ元気か?!まだ胃が悪いだと?長いな。俺特性ミノの睾丸から作った勇気リンリン胃腸薬でも飲んでみるか?」
「俺にミノの金玉を食えというのか?」
おっ!喋る事ができるじゃねぇかよ。
だったら質問に答えてくれるだろう。
「そんなに食いたいならいくらでもあるから後でやるよ。全くヒドラは変な物が好きなんだな。所でちょっと聞きたいんだが‥‥」
「そんなもの!好んで食う訳がないだろうがぁ!」
ヒドラはいきなり襲い掛かってきた。
おいおい、せっかく話ができると思ったのに、こいつは何を怒っているんだ?
「策也タマは話をする気がないのです」
「普通に怒るのね」
そうなのか?
こいつらと話してる延長で話したのはマズかったかもしれない。
仕方ない、ミンチにするか。
俺は妖糸でクビチョンパを九回繰り返した。
「駈斗から聞いていたほどの強さはなかったな」
俺はいつも通り魂を回収した。
「でも一般的に言われているよりも強いのね」
「なのです」
ふむ、確かに言われてみれば前に狩った時よりも強かった気がする。
「とにかくこの辺りに巣があるはずだ。探すぞ!」
「か~え~る~の~う~た~が~♪」
「き~こ~え~て~こ~な~い~♪」
「おいおい、流石にもう集まってはこないって‥‥」
今度は一目で数えきれないくらいのヒドラが集まって来ていた。
「あれれ?お前らマジでアイドルになれるかもな。ヒドラのだけど‥‥」
「嬉しくないのです」
「でも一度ちゃんとしたステージで歌ってみたいのね」
「とりあえず今は、こいつら全部片づけるぞ!」
俺たちはとにかくヒドラを狩りまくった。
十分ほどで全て狩り終えた。
「一匹くらいは残しておいた方が良かったかな?」
「策也タマは蘇生できるから大丈夫なのね」
「私が蘇生してもいいのです」
「いや、お前らの蘇生は闇属性だから、なんか相手が可哀想だ。それに既に目的の場所は見つかったよ」
戦っていたら、いつの間にかヒドラの里と思われる場所へと到着していた。
フレイムドラゴンの里と少し似た感じだが、住んでいるヒドラの数が多いせいかそんなに綺麗な場所とは感じなかった。
ただ里にはもうヒドラの姿はないけどな。
「里ごと全部やっちまったようだな」
「これで絶滅危惧種になるのね」
「既に絶滅しちゃってるのかもです」
俺たちはとりあえず空から里に入っていった。
なんだろうか。
どことなく人の手が入っているような感じがする。
「あそこに家があるのです!」
「ヒドラが人間に変化して住んでいたのね?」
ヒドラが人間に変化してワザワザ家で暮らすか?
とりあえず俺たちは家に入ってみた。
するとそこには、人が一人通れるくらいの小さな転移ゲートがあった。
こりゃアレだな、誰かが此処でヒドラを飼っていたか、或いは兵隊として育てていたか。
そしてそんな事をやりそうなのは‥‥。
「九頭竜かな‥‥」
「転移ゲートの向こうに行ってみるです?」
「やめておこう。これがもしトラップだったら何処に飛ばされるか分からないしな」
「出てきた奴を懲らしめるのです」
「ん~‥‥」
待つのも面倒だし、ヤバいのが出てきても困るよな。
「レッドブルーライトニング!」
俺は魔法で転移ゲートを破壊した。
「壊しちゃったのね」
「ここは一応此花の領地内だしな。勝手な転移ゲートの設置はお断りさせていただきます」
国境線ギリギリだから四十八願領かもしれないけれどね。
四十八願が設置したものだったらビックリするけど。
『策也様、ヒドラの討伐が終わりました。こちらの死亡者はゼロです』
『ありがとう。リンにもお疲れって言っておいてくれ』
『承りました』
「リンたちの方も片付いたってさ、じゃあそろそろ俺たちも帰る‥‥」
そこまで言った所で、俺の察知能力に何かが引っかかった。
この家の外か‥‥。
「策也タマ?帰らないのね?」
「ああ、ちょっと外で何かが引っかかった。確認してみる」
俺は家を出て裏にゆくと、そこには小さな祠があった。
とりあえず祠の扉を開けてみる。
するとそこには、『魔生の魔石』が埋められてあった。
「これはヒドラの魔石なのね」
「でも少し大きいのです」
俺は邪眼で確認した。
「この魔生の魔石に使われているのは、ヒュドラの魔石だな」
ヒュドラとは、ヒドラの上位種とも云われているが神に近い存在だ。
ポセイドンやヴリトラ、或いは悪魔王サタンなどと同じ、神クラス以上になれる魔物の一つである。
尤も、神クラス以上になる奴なんてなかなか存在しないんだけどね。
俺は魔生の魔石を掘りだした。
普通の魔生の魔石と違って、実験に使われるタイプの形をしていた。
これは明らかに人の手によって作られたものだな。
普通の魔生の魔石は、魔石に直接術式が刻まれている。
しかし実験に使うものは直接術式を刻んだりはしない。
変更が難しいからだ。
だから別の魔石に術式を刻み、それをコピーするように使う。
メッセンジャーRNAワクチンと似てるかもな。
DNAを直接書き換えたらヤバいけど、そのコピーを接種して免疫力を付ければ危険が軽減されるってね。
それで回避できているのかどうかは知らんけどさ。
何にしてもこの里自体、誰か人の手によって作られたものだと言えるだろう。
そしてそれが可能なのは、此処を領土としていた九頭竜か。
後は魂を蘇生して聞けば分かるだろう。
「じゃあ帰るか」
「疲れたのね。歌まで歌わされたし、策也タマ、人使いが荒すぎるのね」
「これはパワハラなのです」
「そうやってパワハラだと文句が言える時点で、それはパワハラとは言わないぞ?」
「ん~‥‥言われてみれば確かにそうなのです」
「パワハラじゃなかったのね?」
「そうだぞ。良かったな。菜乃、妃子。いい上司を持ってお前たちは幸せものだ」
「良かったのです!」
「私は幸せだったのね」
うんうん、これで世界は平和だな。
菜乃と妃子を影に沈めて、俺はマイホームへと戻った。
しかし睡眠時間削ってまで仕事とか、残業手当を貰わないとやってられないな。
そんな事を考えながら、俺は眠りにつくのだった。

次の日、俺はいつもの地下魔法実験場で魂に尋問していた。
「吐け!お前がやったんだな!」
「はい、私がやりました」
なるほどな。
どうやらヒドラの里と思われた場所は、ヒュドラという者によって作られた里であり、ヒドラの兵隊を育てる場所となっていたらしい。
全てがテイムされているので、当然ヒュドラの命令には逆らえない。
そして昨晩は、ヒュドラの命令によって此花領内の町を襲うよう言われたとか。
出撃したのは里でも上位クラスの者たちばかりだったようで、俺が倒したのは残っていた雑魚だったようだ。
それでも前に戦った時よりは強くなっていた。
あの時のはテイムもされておらず、あくまで自然体だったしね。
おそらくまだ魔生の魔石の効果を試しているくらいの段階だったんだろうなぁ。
ヒュドラは人間の姿をしているという。
尤もドラゴン族は皆人間に変化できるから、つまりはそういう事なのだろう。
九頭竜にはヒュドラの仲間がいるのか。
しかもあれだけのヒドラをまとめ上げるのだから、神クラスなのは間違いないだろうなぁ。
やっぱ(俺の中で)悪の三大国は何処も強いよ。
駈斗に集めてもらっていた魂はみんなかなり強かったので、兵隊として蘇生できそうなのは全てダイヤモンドミスリル人形にした。
そしてリンに預ける。
これで多少は防衛力もアップかな。
強いの一人出てきたらあまり関係の無い戦力だけどね。
さて次は乱馬の所だ。
昨晩手に入れた魔性の魔石を解析する。
俺は乱馬の所へと飛んだ。
「どうだ?何か分かるか?」
「ゴブリンの魔生の魔石、そしてヒドラの魔生の魔石。魂の召喚がどのように行われるのか、この二つはまるで違う術式になっているよ。法則を解き明かすにはまだいくつかの魔生の魔石が必要だね」
「そっか‥‥」
俺が邪眼で見てもよく分からないんだよな。
ただ、ゴブリンの方は力が弱い感じで、ヒドラの方はかなり力が強い感じがしている。
おそらく魔力蝙蝠はこの間なんじゃないだろうか。
なんとなくそんな事を思った。
「とりあえず術式をコピーしておいて、この魔生の魔石は有意義に使わせていただこう」
「ダンジョンを作るのかい?」
「そりゃね。こんなのがいつでも狩れるダンジョンがあれば、強力な魔石が集めやすくなるからな」
あまり強くはならないから、戦闘員として魂は使えないけどね。
俺はゴブリン洞窟に近い妖精保護地域の奥にダンジョンを作る事にした。
このダンジョンは一般向けに開放するつもりはないし、とにかく外から壊されないように作るか。
一階は準備エリア、二階は通路にして一度に襲ってこられない形にする。
そして三階は乱獲できるように広大なフロアにしよう。
その奥に魔生の魔石を埋めて‥‥。
「はい完成!」
ヒドラの魔石がいくらでも手に入るなら、此花領内の町全てにバリア結界が張れそうだ。
そして町中に設置型爆破魔法装置が持ち込まれないよう、防壁門の所に自動で荷物検査ができる装置を設置できるか。
また俺の仕事が増えるじゃないか。
魔石を集める事くらいは誰かにやってもらわないとな。
そうだ、此処は此花の訓練ダンジョンって事にしよう。
そんな感じで作業が終わったのは既に日が沈んだ後だった。
今日も残業手当貰わないとな。
と言っても俺は王様だしそんなの無いんだよね。
転生前の世界でも管理職の人は大変だったよなぁ。
管理してなんぼだから、労働時間とは関係なく給料は一定。
でも嫌な仕事を時間通りにして給料を貰うよりも、こっちの方がよっぽどいいな。
大切なのは労働時間じゃなく、好きに仕事ができるかどうかなのだ。
労働基準法とか言って労働時間の制限とかやっていたけれど、必要なのは自由な仕事ができるかどうかだと思うんだよね。
好きな事を好きにやっているなら、一日十二時間働いても過労死なんてしないのよ。
いやぁ~達成感もあるし、今日の夜は気分よく眠れそうだ。
何て思ってマイホームに帰ってくると、いきなり大きな地震が襲ってきた。
「うお!この揺れは、け、け、結構ヤバくね?」
「策也おかえりー!今日小さな地震は何度かあったんだよー」
「そ、そ、そうなのか。つか、な、長い揺れだな」
「子供たちはなんか喜んでるみたいだけどねー」
たくましい子供たちだ。
犬でも猫でもこれだけ揺れるとビビるんだがな。
「ちょ、ちょっとガゼボに行っている。き、き、金魚の相手をしてやらんといかんからな」
「洋裁さん、何時も仕事遅くて帰ってくるの遅いからねー」
そろそろ洋裁も仕事から解放してやらんといかんかもな。
ちょっと働かせすぎかもしれん。
それと七魅もそろそろ王様辞めたいだろうしな。
とにかく俺はガゼボだ。
揺れが収まっていく中、俺はフラフラと揺れながら庭へと出た。
俺がガゼボの椅子に座ると、島津邸から金魚が出てきた。
「ゆ、ゆ、ゆれて、ゆれて、揺れてるんだよ」
「金魚、もう揺れは収まってるぞ!」
三半規管がまだ復活していないようだな。
金魚だけじゃなく、望海と兎白も屋敷から出て来た。
「地震怖いの」
「こ、これくら大丈夫なのです!兎白にかかればこの程度の揺れは昼飯後くらいかと」
昼飯後だとかなり最大級な表現だぞ?
せめて朝飯後とか昼飯前くらいにしておけ。
「金魚、もうニュースは見たのか?」
「ま、ま、まだなんだよ。多分大変なんだよ。ニュースを確認するんだよ」
金魚はそう言って席についた。
遅れて望海と兎白も席に着く。
「望海と兎白まで。別に家が壊れたりはしないぞ。俺の作った家だからな」
「そんな事心配してないの。なんとなく出て来ただけなの」
まあ霧島もまだ帰ってないし、寂しかったんだろうな。
兎白だけじゃ頼りなさそうだし。
「今、兎白を馬鹿にするような気配を感じました。策也さん、何か考えてませんでしたか?」
「いや、今日も兎白は頼りになるなって思っていただけだよ」
「そんなのは当然なのです。それよりもニュースを見たらどうですか?兎白は何時も大切な事は忘れないのです」
「そうだな。地震の情報を確認しないとな」
俺はマジックボックスを操作してニュースを確認した。
当然だけど何もニュースにはなっていなかった。
転生前の世界じゃニュース速報とか地震速報とか当たり前だったけどさ、この世界じゃそこまで早い情報はないんだよね。
俺たちはなんとなく無言で、ただニュースがアップされるのを待っていた。
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