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暗君?明君織田信長

第二次世界大戦、日本で言う大東亜戦争が終わった後、昭和天皇はおっしゃった。
『どんな植物でも、みな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方でこれを雑草として決めつけてしまうのいはいけない』

昨日の内にイナゴの危機は全世界へと発信した。
そして本日朝には、此花帝国による四十八願王国の吸収合併も発表を終えた。
かなりの騒ぎとなったが、まあ当然だよね。
ようやく上位の大国に並びつつあった国が、いきなり最大国力を持つ大国になったのだから。
尤も現状は、厄介事を引き受けた影響で国の評価は大きく下がっているかもしれないんだけどさ。
「全く、四十八願領を引き受けて大丈夫なの?!」
リンはかなり荒れていた。
まあそうだろうな。
俺が勝手に決めた事で此花も当然他国同様の食料不足に陥った訳だからさ。
「全く考えが無い訳じゃないよ。ただ、美味い食事はしばらくできなくなるかもしれないけどな」
俺たちがではなく民たちがね。
「私、みんなに此花だけは大丈夫だって言っちゃってるわよ!嘘つきになっちゃうじゃない!」
「悪かったよ。でもそんなに悪い食事にするつもりはないし、当面は三週間乗り越えればなんとかなる」
「その三週間をどうやって乗り切るのよ‥‥」
感情的になったら議論なんてできやしないんだよな。
相手の意見を尊重してこその議論なんだよ。
尤も、今回はどう考えても俺が悪いんだけどさ。
「まず、食べられる物は何でも食べて行こう。実はその辺の草だって食べられる物は多いんだ。それを魔法通信ネットワークで広めていく」
「草ねぇ‥‥そんなの本当に食べられるの?」
「食べられるぞ?食べてる物の原種は実は雑草だったりするからな。カタバミ、カラスノエンドウ、ドクダミ、タンポポ、ヨモギ、花が食べられる物も多い」
転生前の世界では、俺結構こういうの調べていた事があったんだよね。
明日食べ物が無くなっても生き抜けるようにさ。
まさかこんな形で役立つ時がこようとは思ってもみなかったけど。
「それだけなの?」
「いや、むしろ食べられない物以外は食べられると考えていい。食べられない植物は、トリカブト、ヨウシュヤマゴボウ、キョウチクトウ、シャクナゲ、チョウセンアサガオ、ハナニラ、馬酔木、スイセン、アヤメ、まだまだあるけれど、食べられる物の方が圧倒的に多いんだ」
「食べられない物も多いじゃない」
並べてみると覚えきれないな。
「とりあえず食べられるものは、覚えている範囲でリストを作ってネットにアップさせる。後はイネ科とキク科はだいたい食べられるから分かりやすいだろう」
「まさか雑草を食べる事になるとはね」
「大昔の人はドングリだって灰汁を取って食べていたんだ。今でも十分食べられるさ。銀杏だって毒があるけど、数を制限すれば食べられる。藤の豆だって炒れば数個なら食べても問題がない。食べ物としても行けるのに、食べられていない物も多いんだよ。違った味に案外喜ぶ人もいるかもしれない」
「そうね‥‥今更だしやるしかないわね」
「もう決まった事だからさ」
決まったら何を言っても無駄なのです。
それよりも更に問題は元四十八願領だよな。
調べたら盗賊の多くは九頭竜に繋がっている者だった。
つまり九頭竜は食料確保の為に既に動いていたって事だ。
他国の作物を奪いにね。
ただ此花になった事で動きにくくはなっただろう。
俺が言うのもなんだけど、今の此花と正面から事を構えようなんて普通は考えない。
盗賊の数は減っていくものと思われる。
とは言え九頭竜だからなぁ。
バレないと思って逆に増える可能性も無いではない。
「それで千える、イナゴの被害状況は入ってきているか?」
「はい。ハッキリ言うと元四十八願領内は壊滅的です」
おいおい、そんな領地を押し付けられたのか。
被害があるとは思っていたけれど、完全にやらているとはな。
これで余裕のあった此花もいっぱいいっぱいで、他国に手を差し伸べるどころではなくなった。
「とはいえ今年に収獲した小麦がまだ残っていますから、しばらく主食類は大丈夫でしょう」
この様子だと主食類は一年後まで余裕はゼロか。
「パンが無ければおむすびを食べる‥‥で済めばいいが‥‥」
カロリーは他でも取れるし大丈夫だろう。
「よし、もしもの為にジャガイモの栽培量を増やしておこう。リンはできる限りジャガイモ畑を増やしてくれ」
「了解」
「ところで策也さん、妖精に頼む事はやはり無理なんでしょうか」
「ふむ‥‥」
千えるの提案を実行するのは難しい。
妖精は植物を育ててそこに残す為に力を発揮する。
だから食べる為の野菜に関しては無理なのだ。
しかし木々ならどうだろうか。
果物は妖精だって食べる訳だし、食べられる木の実が豊富な森を作ってもらえればとも思う。
もちろんこちらの都合で妖精を使うのは無理だから頼めない訳だけど、何か見落としてはいないだろうか。
そう、妖精に関係なく、木の実を集めるってのは食料危機を救う対策として一つある。
食用はほとんど人間が栽培しているものだけど、野生の木の実だって十分美味しいのだ。
木の実が沢山採れる森ってのが、きっと何処かに存在するはず。
あれ?妖精の作る森はどうして木の実が多くないのだろうか。
自分たちが食べられる量あればいいからだろうけれど、でも多くてもいいよな。
何故そういう森を作らない。
そりゃ獣が増えるし、それにつられて魔獣も増えるからだ。
騒がしい森になってしまう。
逆に考えると、騒がしい森ってのは木の実が豊富なのではないだろうか。
魔獣が多い森‥‥。
四十八願の領地は、他よりも魔獣が多い地だ。
だから農業がしづらく食料自給率も低かった。
もしも魔物がいなかったら、もっと多く色々な物が生産できただろうね。
「妖精に頼むのは無理だけど、一つ解決方法を思いついたぞ!野菜が無ければ果物を食べればいいじゃないか!」
「果物なんてもっと生産が大変よ?」
「麟堂の言う通り、桃栗三年柿八年って云うよね」
「策也さん、何かいい方法があるんですか?」
「元四十八願領は世界でトップクラスに魔獣の多い地だった。それは魔獣が暮らしやすい森や山が多かったからだ。逆に言えば魔獣がいる所に果物や獣が多いんだよ」
それに魔獣だって食べられる奴はいるし、ミノタウロスのように蘇生で食用の動物になるものもいるだろう。
ミノが牛なら、オークは豚や猪、知能の低い鳥獣なら食べられる鳥になる可能性もある。
熊だって食べられるし、鹿やヤギの魔物もいたはずだ。
「ゆかり、ミケコに連絡してくれ。汽車を元四十八願領内の魔物狩りに出し、魂と死体を集めるようにと。素早く終わらせたいので、できるだけ堕天使部隊を連れてな」
「了解であります」
「魔物の肉を食べるんじゃないわよね?」
「あくまで材料だよ。魂を蘇生して食用動物になるのを探す。それなら食べられるだろ?そして魔物がいなくなった森なら、木の実も沢山採れるはずだ。獣もいるだろう」
「策也!私もその狩りに行ってもいいか?」
賢神が行くと森まで破壊しかねないな。
「森を壊さないように手加減してくれるなら‥‥」
「任せておけ!」
「ゆかりそういう訳だ。賢神はアルカディアの基地で待たせるから、準備ができたら迎えに来るように言っといてくれ」
「了解であります」
まあ賢神が手伝ってくれるなら早くに終わるだろう。
そしたら後は狩猟と果物集めでかなり食料が集められるな。
三週間、なんとか乗り切れそうだ。
賢神は転移ルームへ意気揚々と歩いて行った。
でもなんかまだ油断はできない気がするんだよな。
「リン、色々と悪いけど、元四十八願領の町の防衛体制も見といてくれ。結界の構築も順次な」
「誰か他に頼める人が欲しいわよねぇ‥‥」
確かになぁ。
リンの仕事は安全保障な訳だけど、食料安全保障と軍事防衛は分けた方が良いかもしれない。
あっ‥‥そういえばあいつ‥‥。
「リンの仕事を軽減できるように一つ思いついたぞ」
「ホント?」
「ああ多分な」
この後は特に何もないようなので、朝の四阿会議は解散となった。

そんな訳で俺は、リンの仕事を楽にする為の切り札を蘇生する事にした。
本当は俺が直接動くか、妖凛が俺から離れて働ければいいんだけどさ。
妖凛に指揮をとらせるとか無理だしね。
いつも通りドラゴン王国の地下実験場へとやってきた。
蘇生するのは当然昨日手に入れた魂たち。
これ以上キャラを増やすなと怒られそうだが、ここまでくればもう六人増えた所で同じだろう。
ほとんどはもう活躍しないから、忘れてもらっても結構だ。
などと誰に伝える訳でもない事を思いながら、ざっとキャラ説明だけしておくか。
全員魔砂ゴーレムでサクッと蘇生した。
まずはベヒモス。
茶髪でマッチョな肉体を持った男戦士にした。
名前は『|熊王隆史《クマオウタカシ》』とする。
次にベルゼブブ。
銀髪は短めで能力高そうな悪役女子といった感じ。
名前は『熊王葉絵《クマオウハエ》』にした。
ちなみにこいつの『豊穣』の能力をこれから最大限利用する予定。
その為の蘇生だからな。
アザゼルは黒髪二枚目主人公な感じで、名は『|熊王烈火《クマオウレッカ》』。
ザマエルは銀の長髪男子で、名は『|熊王氷結《クマオウヒョウケツ》』。
アザエルは金髪童顔男子で、名は『|熊王疾風《クマオウハヤテ》』。
マハザエルはグレーの髪の美形で、名を『|熊王地隼《クマオウチハヤ》』とした。
ついでに超再生のベルトも作っておく。
マハザエルの魔石だけは、資幣のパーフェクトゴーレムをパワーアップするのに使った。
これでかなり我が軍は圧倒的になるだろう。
尤も俺がクトゥルフに勝てないようなら、いくら強い仲間が増えた所で意味はないかもしれないけれどね。
昼過ぎには全て完成し、ベルトは俺が必要と思う者に配った。
洋裁、兎白、霧島。
そして特に今回大抜擢したのは、城戸音羽と|風魔霍砺《フウマカクレ》だ。
朝倉の血を引く城戸音羽は万能なので、今回此花帝国遊撃隊の隊長に任命した。
当面の役割は食料確保の為にリンがやっている仕事を引き次ぐ。
一応リンの部下となる。
その下に熊王葉絵を付けて、農作物の豊穣効果で力を発揮してもらう。
更に遊撃隊なので風魔忍者の隊長だった風魔霍砺を部下として付けた。
残りの風魔忍者と堕天使人間三千人も下に置く。
「頼むぞ音羽。お前の任務はとても重要だ。収穫が増えればその分助かる命も増えるんだからな」
「マジかよ。仕方ねぇな。俺に任せておけ」
音羽は俺を殺しに来た暗殺者だった。
ずっと神武国で特訓してきたし、今では心身共にスッカリ成長している‥‥と思う。
肌が少し黒いので、もしかしたら勇者の血を引く者かもしれない。
「葉絵も頼むぞ。豊穣の効果、どう使うのか見させてもらうよ」
「策也さんには蘇生してもらった借りもあるし、最大効果を発揮してみせるわ」
葉絵はかなり鋭く冷めた目をした、氷の女って感じに仕上がったな。
蘇生悪魔の中で最も良い感じになったのは、やはりベルゼブブが強いって事なのかね。
「霍砺にはこの遊撃隊のサポートをしてもらう。音羽のいう事をしっかり聞くんだぞ」
「えへへ~策也ちゃんだぁ~!あたしぃ~やっちゃうよぉ~うふふふ~」
結局これがデフォルトなんだな。
嬢ちゃんが洗脳していい子にした訳だが、ぶっちゃけ変になったと思っていた。
でも他の風魔忍者に聞いたら元からこんなだったらしい。
仕事の時はちゃんとやるから問題ないとか。
メチャメチャ不安だけどさ。
こうして四十八願王国吸収に伴っての大改革は一応完了した。

それから一週間はかなり偏った食生活が続いた。
不老不死やゴーレムの者たちは食事を控え、できる限り他に回るようにしていった。
人間として蘇生した堕天使たちも、倒した魔獣を食べたり、魔物の魂を蘇生した動物を食べる事で、普通の食材にはほとんど手を付けなかった。
尤もそれが全体に影響するものではないけれど、なんとなくそうしたい気持ちだったんだよね。
あくまで自主的な行動だった。
賢神はずっとアルカディアを手伝っていた。
もうこのまま帰ってこない雰囲気だ。
『秘密組織って楽しいな!しばらくこちらで遊んでいるぞ!』
四日前にそんな事を言ってから帰ってくる事はなかった。
「銀杏食って死亡者続出だと?!だから毒があるって言ってあったのに」
此花領内では死者は確認されていないが、中央大陸では銀杏を沢山食って死ぬ人が大勢出ているようだった。
まだ実が落ちてる所は少ないだろ。
もしかして去年から落ちてるヤツかな。
まあでも落ちてる所はあるにはあるんだよね。
それに銀杏って美味しいからなぁ。
あればついつい食べちゃうよね。
日本も戦争の後、食べ物が無い時に銀杏食って死んだ人が多かったとか。
歴史は別世界でも繰り返されるのだね。
でもようやくナシなどの果物はそこそこ流通に乗り始めたし、蘇生肉も出荷が可能になった。
尤も肉や魚は戻ってきているので、足りないのは野菜類なんだけどね。
そしてこれからは、小麦や米といった主食類が足りなくなってくる。
イナゴの被害が大きく広がっており、愛洲でもその被害は深刻になりつつあった。
元四十八願領が自国領となった事で、正直他にかまっている余裕はなかった。
「イナゴ被害は四十八願領周辺だけではなかったようです」
「総司、他には何処がヤバそうだ?」
「北半球の地は既に小麦を収獲し終えている所が多いので、被害は四分の一程度で済んでます。ただ、元々少し減っていたので、今期の収穫は例年の三分の二から二分の一程度でしょうか。織田や北条辺りは火山の影響で壊滅ですけれどね。稲作地は我々が守っているので周辺は大丈夫です。ただ九頭竜では、かなり被害も出ているという話が聞こえてきています」
「千えるの方は?」
「南の大陸は壊滅的と聞きました。ただ伊集院にしても有栖川にしても、他で対応できているようです。この二国は我々同様多少対処していたようです」
愛洲や大山祇、織田や北条なんかはちゃんと備蓄もあるようだから今年は乗り切れるか。
つまり直近残る問題は九頭竜。
そしてまだ二週間は野菜不足が続く。
「リンは当面イナゴの防衛。音羽には引き続き豊穣巡りな。魔界での農地開拓も予定通りで」
「了解」
「ミケコたちには更に領内の魔物狩りと魂集めを頼んでおいてくれ。盗賊への対応もよろしく」
「了解であります」
「総司と千えるには流通を任せるが、出来る限り大丈夫そうな所には数を減らしてもらうよう調整頼む」
「分かりました」
「はい」
千えるは自国が大変なのに、なるべく愛洲に回すのを我慢してくれている。
イナゴが無ければ愛洲は十分になんとかできたんだけどな。
「では以上で今朝の四阿会議は終了する」
さてこの後は‥‥。
確か信長がナンデスカの町に来てるんだよな。
頼みたい事があるって話だけど、まあ当然『食料をなんとか譲ってくれ』とかそういう事だろう。
織田の領地は火山灰の被害が最も大きいと聞く。
この先も含めて不作が続くはずだ。
厄介な話じゃなければいいんだけどな。
俺は瞬間移動魔法でホームへと移動した。
一応言っておくと、ホームってのは俺たちの元祖拠点であったナンデスカにある屋敷ね。
俺は応接室のソファーに座った。
約束の時間の三分前だからもう来てるかな?
俺は千里眼と邪眼で確認した。
すると部屋の隅に信長の反応があった。
「えっ?信長もう来てるの?」
「あれ?バレちゃった?流石は策也だね」
「何やってんだよ」
相変わらずって感じだな。
それにしても完全に気配を断っていたぞ。
魔力はそこそこでもこいつ能力は高いんだよな。
「いやちょっと脅かしてやろうと思ったんだけどさ。失敗失敗」
そう言いながら信長は俺の前の席へと座った。
「久しぶりだな」
「僕にとってはつい最近なんだけどね」
こいつ結構長生きしているんだよな。
神功の話によれば、暗黒界に行って帰ってきたヤツらしいし。
「所で信長って、暗黒界に行って帰ってきたって本当か?」
「まあね。でもどうしてそれを?」
「空中都市のコアが賢者の石って知ってるか?」
「それは知らなかったけど、賢者の石って言うと神功か?」
「そうそう。神功に教えてもらったんだ」
「ふーん。そんな所にいたんだ」
なんか会話が軽いな。
こういう時は『懐かしいな』とか『元気にしてるか?』とかあるだろ。
神功の話から、直接知り合いという訳でもなさそうだったけどさ。
「会いたいか?」
「いや別に」
「上杉謙信と恋人だったのか?」
「そんな時代もあったかも」
「そっか」
「そうだよ」
やっぱりアッサリしている。
過去の事なんてどうでもいいのかもね。
「それで話があるんだよな?」
「おお!それだ!その為に僕はきたんだよ」
会話の熱量が一気に上がった。
過去の話よりも今の話って訳ね。
そういえば転生前、『俺に過去はない』ってのが俺の口癖だったわ。
正にそんな感じか?
「それで?」
「うちの領地が火山灰でどうにもならなくてさ。魔法で吹き飛ばしてリセットしてやろうかとも思ったんだけど、流石にそれはマズいだろ?」
「マズイな」
「でも多分数年は作物も育ちそうになくてさ」
「そりゃな。火山灰によっては作物駄目だもんな」
「だからちょっと領地を貸してほしいだ。策也の所なら空いてる所いっぱいあるだろ?」
「あるな」
こういう話が来るとは思わなかったな。
みんなとりあえず目先の事で精一杯だろうし、先を見ている奴は珍しいんじゃなかろうか。
「当面の食料はあるんだけどさ、数年先となるとちょっと不安でさ。何故か民が増えてるみたいでさ」
へぇ~‥‥。
こいつは伊達に織田信長って名前じゃない。
一応有能な君主なんだ。
「じゃあ元御剣領内でいいか?」
「いや、元上杉領の方がいいかな。育てる作物も同じようなのができるから都合がいい」
「でもあそこも火山灰で復旧が大変とか言ってたぞ?」
「僕の仕入れた情報によると、豊穣の能力でむしろ前より良くなっているって聞いたよ?」
あ‥‥そういえば豊穣巡りしてもらっていたな。
それで元上杉領も今後はなんとかやっていけるとか。
「豊穣の能力ってそんなに効果があるものなのか?」
「多分この能力は凄いよ。北条の能力である豊穣は良く育つだけだけど、策也の所のが使っている豊穣の能力は『土を良くして自然現象にも働きかける』」ものじゃないかな」
「へぇ~‥‥そんなに凄い能力だったんだ。それ、俺も使えるぞ?」
「えっ?マジで?」
「マジだ。だからそれ、信長の領地に施してやろうか?」
「マジか!?おっと今更取り消しは無しだぞぉ!」
そんなに凄い能力だったのか。
実際に見てみないと分からない事もあるし、理屈だけでは凄さは理解できない。
俺は色々なヤツから能力をコピーしてきたけれど、使ってみたら案外凄く使えるモノもあるんだろうなぁ。
「じゃあ今からやってみるか」
「おお!話が早いねぇ~!じゃあ転移魔法で飛ばすぞ!」
「オッケー」
そんな訳で、次の瞬間には織田領内の大地に立っていた。
「策也なら織田の領地内の農地が何処までか分かるよね」
「まあな」
魔法記憶を探れば出てくるだろう。
「だったらできる限り豊穣を頼めるかな?」
できる限りか。
ならば‥‥。
「妖凛、手伝ってくれ!」
俺がそういうと妖凛が女の子の姿へと戻った。
「おおっ!クソ暑い此花でどうしてマフラーって思ってたんだけど、策也の人形だったか」
「そうだけど、こいつは並みじゃないぞ。俺に近いレベルで豊穣の能力も発揮できる有能な子だ」
「確かにかなりの魔力を感じるね」
「じゃあ軽く豊穣をぶっ放してみるか。妖凛、一緒に行くぞ!」
(コクコク)
「一、二の、三!」
俺と妖凛の能力が交わって、辺り一帯へと大きく広がってゆく。
「キタコレ!」
おいおい、自分で言うのもなんだけど、俺たち凄くね?
実際使ってみるとこの能力の効果が分かる。
どんなに問題のある土壌もたちまち最高の土へと変えてゆく。
そして最高の環境を維持する為の結界のようなものが、そこに存在するようだった。
「使ってみて分かったよ。こんな能力使わずにいたら罰が当たりそうだ」
(パァ!)
妖凛がとても晴れやかな笑顔をしている。
だよな。
こんな大地になったらなんだか嬉しくなるよ。
「これは凄いね。じゃあ次行ってみよう!」
「そうだな‥‥」
俺は信長に乗せられるまま、何度も豊穣の能力を使って、火山灰で死んでいた大地をよみがえらせていった。
気が付いたら何時間も経っていた。
「どれだけやらせるんだよ!」
「もうここで終わりかな。いや本当に助かったよ。これなら向こう十年は豊作間違いなし。だったら蓄えていた食材も放出する事が出来る」
「そうか。それは良かったな」
信長の口ぶりから、数年先までの食料を備蓄しているのは分かっていた。
それだけあるなら普通ならもっと余裕があるだろう。
でも信長には余裕が感じられなかった。
それは自分だけの事を考えている訳ではなかったからだ。
もちろん優しさとかそういうのではないかもしれない。
回りの国が食料危機に陥れば、当然織田から奪おうとする国も出てくるだろう。
それを回避する為だったのかとは思う。
そうであったとしても、此処までちゃんと国の事を考えている王ってのは、やっぱり尊敬に値するよな。
「それじゃあこの調子で北条や武田の所も頼んでいいかな?」
「いやちょっと待て。なんで信長が勝手にそんな事を?それに俺はともかく妖凛はもうグッタリなんだよ」
「冗談だよ~」
‥‥こいつ‥‥。
「それにこの場所が最高の環境になれば、近隣もその影響を受ける。北条は自力で豊作にできるしね。今年は火山灰の影響で駄目だったけど、今後飛んでくる事はもうないからね」
「どうして無いと言えるんだ?」
「近隣もこの豊穣の影響を受けるって言ったじゃん。ここは大丈夫なのに、北条領内だけ火山灰が降ってくる事はないのよ」
なるほどそういう意味か。
この能力によって火山の噴火すら止める事が可能かもしれないのか。
ただ、一応伏線になるかもしれない意味で言っておくけど、この火山の噴火が人為的なもので無かったらの話だろうけれどね。
こうして俺と妖凛は、信長の頼みを聞いて豊穣しまくった。
魔力が枯渇するくらいまでやったから疲れたけれど、得るものもあったな。
魔法や能力って色々な使い方ができそうだよね。
時間と機会が有ったら、自分の能力は一度は使っておこうと思った。
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