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フレイムドラゴンの里と島津洋裁?

俺たちは、イテコマスの町を出た後北西を目指していた。
昨日貴信に聞いた所、此花領内ではイテコマスの町が一番魔物が集まってきていたらしいのだ。
即ち此花領内では、おそらくイテコマスの町が一番魔界の扉に近い可能性があるという事。
伊集院領内の情報も集められるだけ集めた結果、おそらく魔界の扉は、フレイムドラゴンの住み家に近い所にあるのではないかという結論に至った。
それはイテコマスの町から北西に行った所で、人が登るにはかなり険しい山の上になる。
俺たちくらいの高レベルパーティーでもない限り登れないであろう山。
そしてドラゴンと言えば環奈の目的とも一致するわけで、俺たちはそこへ向かう事にした。
尤も、そんな険しい山の上に魔界への扉があるとは本心では思っていない。
どうやって魔物たちがそこから降りて来たのかという疑問もあるからだ。
でもそこに行けば、何かが分かるかもしれないという予感はあった。
「なんせドラゴンだからな。聞けば何かしら情報を持っているだろう」
「ドラゴンかぁ。生きてる間に見る事になるとは思ってなかったわ」
「魔獣の頂点だしね」
「草子殿。でもそれももうすぐ終わりじゃ。わしがフレイムドラゴンの王を倒すからのぉ。ふぉっふぉっふぉっ!」
フレイムドラゴンと言えば、ドラゴンの中でも特に攻撃力の高い種とされている。
このドラゴンに勝つ事が出来たら、黒死鳥がドラゴンよりも上と言ってもなんら問題がないだろう。
更に強いドラゴンもいるにはいるが、黒死鳥だって環奈がトップというわけでもない。
新たに生まれた王は環奈以上になりそうだったしな。
まあ何にせよ、面白い戦いが見られるのではないかと思う。
「それにしても、過ぎゆく村々は何処も壊滅状態だな」
この世界の地図には、載っていない村が数多く存在している。
特に世界地図には多すぎて書ききれないからだ。
俺たちは町から町へと旅をしてきたが、当然その途中には村が多数存在していた。
町と村の違いは、王族や貴族の統治者がいるかどうか。
或いは防壁で囲まれているかなどの違いもあるが、俺たち冒険者にとってはギルドの有無は大きなポイントだろう。
村にはほとんどギルドはなく、飲食できる場所や寝泊まりする場所もない。
夜になれば真っ暗だし、住んでいる人から得られる情報もまずない。
そんなわけで村を見つけても全て素通りが当然だった。
「生きた人間は一人もおらんのぉ」
「さっきの村でもそう言ってましたね」
「魔物が視界からいなくなる事もないわ。これじゃ村は壊滅して当然ね。防壁もないし騎士隊すらあり得ないもの」
「あったとしても自警団くらいだろうしな」
こんな状態が続けば、この世界の村は全滅しかねない。
村が全滅すれば、当然穀物や野菜も作れなくなる。
これが魔界の扉の解放によるものだとするなら、一刻も早く扉を閉じる必要があると思えた。
先に進むにつれ、ますます魔物は増えてきている。
そして凶暴性が増している。
魔界の扉へと近づいている実感はあった。
しかしそうなってくると、魔物を倒しながら進んでいてはなかなか先へは進めなくなってきていた。
「今日はこの辺りで休むか」
「そうじゃのぅ。それでもゆっくり休めるかは分からんぞい」
本当なら飛んでいくなり、休むならホームに戻ったりした方が楽ではあるが、ちゃんと魔物を倒していかないと、いずれその魔物はイテコマスの町を襲撃するだろう。
そうなると結局戻ってまた町を守らなければならなくなるわけで、できるだけ霧島だけで対応できるようにしておきたかった。
夜は交代でやってくる魔物を狩っていた。
仙人による夜中の金集めもやめて、できるだけ皆を休ませるようエアゴーレムを中心に見張りを立てた。
夜が明けて俺たちは再びフレイムドラゴンの巣を目指し、夕方にはようやく巣がある山の麓に到着した。
「よし。今日は此処で休んで、明日は山登りだな」
フレイムドラゴンの住む山は、普通の人間が登れるような山ではなかった。
マスタークラス以上の冒険者でないとまず登れない。
高山病に対する備えとして、自分の周りの気圧調整や酸素確保も必要だ。
この世界の人たちは自然と魔力を使ってそれらをやってのけたりするようだが、それ以上に高山にはそれを阻害する力も働くらしい。
簡単に言ってしまえば、主に標高の高い山には何かしら人の侵入を拒む空気のようなものがあり、マスタークラス以上でないと越える事ができないとか。
主に標高の高い山ではあるが、どのくらいの高さと決まっている訳ではなく、高山でも人間が越えられる山もある。
その原因はハッキリと解明されたわけではないが、とにかく何か違う空気のようなものがあるという話だ。
俺は移動用の家を出して皆を中へといれた。
今日は俺とエアゴーレムだけで見張りをしよう。
移動ではおそらく俺が一番疲れていないし、本体が回復するくらいの時間は眠れるだろうからな。
皆にはとにかく美味いものを食ってもらって明日に備えなければ。
人が登れないと言われる高山に登るのは、皆おそらく初めてだろうからな。
ちなみに俺はゴーレムで何度も登っている。
その時は何も感じてはいない。

夜が明けた。
俺たちはゆっくりと朝食をとってから、家の外へと出た。
「みゆき。この指輪を付けてみな」
「なにこれ?」
「昨日の夜、乱馬からセバスチャンが受け取ったものなんだが、魔力コントロールを助ける指輪の第一号ができたらしいんだ。効果はまだまだ弱いけど、一応俺も確認してある。少しは魔力コントロールがやりやすくなると思うぞ」
「そうなんだぁ!」
みゆきは俺から指輪を受け取ると、左手薬指をそれに差し込んだ。
少し大きめの指輪は、指に合わせて大きさを変え、ピッタリと指にはまった。
「あ‥‥わたしの魔力が少し大きくなった気がする!」
「クラーケンに吸われ放題だった魔力の一部がコントロール下に戻ってきたのかな。これで少しクラーケンの効果は落ちるかもしれないが、それは自分で調整できるようになっただけだし、今まで通りの方が良ければ魔力をそちらに送ればいいよ」
「うん分かった!」
とはいっても、今日の高山挑戦でその分はきっと対応する為の魔力として必要になってくるだろうけどね。
「登り方は飛んで行こうが足で登ろうが自由だが、無理はするなよ。昨日も話したけど越えられない高山の謎はまだまだよく分かっていないようだからな」
「それでもマスタークラス以上なら登れるようですし、このメンバーなら問題ないでしょう」
「唯一不安があるとしたら私だけね。基礎レベルはまだマスタークラスに達していないし」
「阿虎と吽龍がいるから大丈夫だろう。そいつらはもう完全にリンに同調しているようだしな。最悪駄目そうなら環奈、助けてやってくれ」
「了解したのじゃ。わしは唯一魔獣じゃからのぅ。高山の空気も問題なさそうじゃしのぅ」
この越えられない山は、どうも魔物には影響がないようだ。
百年以上生きている環奈が言うのだから間違いないだろう。
ただ、陽菜はおそらく影響を受けるだろうな。
一応生物として蘇生しているわけだし。
「じゃあ俺は先にいくぜ!」
まずは悟空がヨコシマに乗って上空へと上がって行った。
「待ってほしいアル!私も行くアル!」
続いて風里がこちらも飛んで登っていった。
その後にリンと草子が跳ぶように山を登っていく。
山は岩山で、あまり植物は生えていない。
斜面も急で、体感はほぼ垂直に近い感じだった。
その後ろを環奈が付いて行き、更に陽菜が飛んでついていった。
「じゃあみゆき、行くか!」
「うん!」
最後に俺とみゆきは手を繋いで一緒に飛ぶように山を登った。
洋裁のエアゴーレムは面倒くさいので召喚しなかった。
最初は山登りも楽だったが、次第に俺とみゆきは先頭をいく悟空たちとの差を縮めて視界に入ってくるようになった。
「おーいどうした悟空?何かあったのかー!?」
俺は大声を出して聞いてみた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥いや、なんか妙に疲れちまってな」
この距離では普通には聞き取れない声量だったが、俺のデビルイヤーでなんとか聞き取れた。
相当疲れている。
高山病にでもなったのだろうか。
「なんかちょっと空気が変わってきた気がするね」
みゆきに言われて気が付いた。
確かに何かが違う。
ファンタジー系の話風に言うなら、魔素が濃いってヤツだろうか。
転生前の世界とこの世界では、ほとんど全てが同じような世界だ。
ただ一つ大きな違いは、魔力を使った魔法が存在する事だ。
それはおそらく空気の違いで、魔素と言い表せるような何かがこの世界にはあった。
それがこの山を登っていくにつれて、ドンドン濃くなっているのだ。
いや、この辺りから急に濃くなっている気がする。
これが越えられない山の正体なのか。
みんな魔力を使って耐えていた。
おそらく魔力レベルの低いものは、この空気の中では生きる事すら難しいだろう。
「みんなー!どうやらこの辺りから魔素が濃くなってきている。おそらく上は更に濃いだろう。一気に上がるのは危険だ!ゆっくりと登って行こう!」
「魔素って何よ?」
「この世界でこれをなんて言い表すのか知らないが、魔力の素となる何かの事だ。エーテルと云われていたりもする」
「そうなのね。何となく理解したわ」
「うむ。なるほどのぉ」
俺がそういうまでもなく、皆ペースを一気に落としていた。
元気なのはどうやら環奈だけらしい。
尤も俺はまだまだ余裕だし、原因さえ分かってしまえば対処もできるわけだが、この上での戦闘が想定される中では、今助けるのは止めておいた方がいいだろう。
それぞれに慣れてもらうか、対処方法を考えてもらいたい所だ。
しかしこの空気の中、過去に誰かが此処を登ったはずだ。
何故なら、この先のドラゴンの巣の情報は公開されている。
誰かが登って発見したって事だ。
そのはずだけど、マスタークラスである草子はもうそろそろ限界に見えた。
陽菜は魔力レベル的に草子と変わらないのに、体が小さいからか丈夫だからかは分からないが、まだ余裕には見える。
それでも影響は受けているようで、やはり魔物じゃないとこの魔素には苦しめられると考えて良さそうだ。
「みゆきは大丈夫か?」
「わたしはへっちゃらだよ!むしろ体が軽くなっている気がするよ」
「そうなのか?」
どういう事だろうか。
邪眼でみゆきの魔力を見てみると、クラーケンのベルトから魔力が流れ出てこの濃い魔素に対応しているようだった。
もしかしたら魔素の濃い所でこそ、今のみゆきは本来の力を発揮できるのかもしれないと思えた。
ほとんどみんなが一団となった頃、ようやく頂上が見えて来た。
マスタークラスなら登れるという話が嘘じゃないかと思えるくらいに魔素は濃くなっていた。
草子はもう限界だった。
「草子大丈夫か?」
「策也さん‥‥もう駄目かもしれないです」
「仕方ない。これでどうだ?」
俺は草子に結界魔法を施した。
結界の中は下界の空気と同じくらいに調整した。
「これは楽ですね。助かりました」
「おう」
ただこれだと、山頂での戦闘で草子は魔法が使えなかったりするんだけどな。
まあ最悪フレイムドラゴンは俺一人でもなんとかなるだろうし、皆には休んでもらうか。
そんな中、ようやく悟空たちが頂上に到着した。
「なんじゃこりゃー!」
「凄い‥‥アルよ‥‥」
大量にドラゴンがいたのだろうか。
二人は驚いていた。
俺はすぐに千里眼と邪眼で確認してみた。
半径二キロの中に、ドラゴンの気配は無かった。
一体何が凄いというのだろうか。
続いて頂上についたリンと陽菜も同じような感想を述べた。
「これは凄いわね。まさかこんなになってるなんて」
「これはドラゴンの巣ぅいうよりは、里ゆうた方がしっくりきますわ」
そしてようやく山頂に到着した俺たちも、同じような感想を言わずにはいられなかった。
「まさか山の中にこんな場所があるとはのぉ」
「これは素晴らしい景色ですね」
「凄い凄い!こういうの『らくえん?』っていうのかな?」
「そうだな。まさに楽園だ」
そこは、山の頂上がクレーターになっていて、そのクレーターが底まで掘り下げられたような空間になっていた。
山自体が超絶高い防壁になっている巨大な町のようにも見える。
しかしそこは町ではなく、自然豊かで全ての生物が幸せに暮らせそうな、そんな場所だった。
「こんな所で暮らせたら幸せだよね!」
「俺も今そんな事を考えていたよ。よし!みゆき、何時か此処で暮らすぞ!」
「ホント!?やったね!」
俺はマジでここで暮らす気満々になっていた。
尤も、あくまでホームを置くという意味でだけどね。
でも子供ができたらこんな所で育ってほしいし、俺は『いつか此処で暮らす』と固く決意するのだった。
さてしかし、何時までもそんな素晴らしい景色を惚けて見ている訳にもいかなかった。
「おいアレ!ドラゴンじゃねぇか?こっちに向かって来てるんじゃね?」
「いや違うのぉ。どうやら目標は地表にいるフレイムドラゴンのようじゃ」
少し距離が遠くて千里眼は届かないが、ドラゴンは大きいので目視できる。
やってきたのはダークドラゴンで、楽園にいるフレイムドラゴンに向けて攻撃をしかけようとしていた。
「ドラゴン同士の戦いか?みんな降りてみよう!」
俺がそういうのと同時に、環奈は黒死鳥の姿となってドラゴンの方へと飛び立っていた。
「あのツノの長いダークドラゴンはわしの獲物じゃ!皆、手を出すでないぞぃ!」
環奈のいうドラゴンは、ダークドラゴンの中で一際大きな魔力を持った、おそらくは群れのボスのようだった。
「分かったよ。みんな!攻撃するのはあのボス以外な!リンや草子はドラゴン相手は厳しいから、リンは基本草子を守れ!そして他のヤツの援護な!」
「了解。吽龍の鎧があるからやられはしないわよね」
「まあな。でもあのボスだけには近づくなよ。アレはおそらく環奈よりも力が上だ」
「それで大丈夫なの?」
「強いドラゴンと戦うのが環奈の望みだったからな。死んでも助けたりしたら怒られるよ。やられたら適当にゴーレムに蘇生してやればいいさ」
まあ環奈が人間の姿になって月の刀を使えばおそらくは勝てるだろうけどね。
でもきっと武器は使わないのだろうなぁ。
勝算は低いぞ環奈。
そんな事よりも、俺たちは俺たちでやれる事をやってやろう。
二人の戦いに邪魔が入らないようにな。
「行くぞみゆき!」
「うん!」
俺はみゆきと手を繋ぎ、頂上から飛び降りるようにして空を駆けた。
魔素の濃かった空気は、一気に薄くなっていく。
これならリンや草子もそれなりに動けるだろう。
草子がある程度降りた所で結界は解いた。
俺は一応不動を召喚しておいた。
そしてリンと草子につけておく。
間もなく地上へと降り立った。
おそらく海抜は千メートルもないだろう。
空気が薄いようにも感じないし、人間も普通に生活できる環境だ。
益々ここに住まいを置きたいと思った。
先行していた悟空は、既にダークドラゴンと戦っていた。
それに風里が茶々を入れていた。
まっ、この二人は大丈夫そうだな。
俺とみゆきは更にその先へと進んだ。
まずは一体何が起こっているのかを確認したかった。
すると何やら聞きなれない声が聞こえてきた。
「『ちょっ!おまっ!何するのだ!?えーん!誰が助けてほしいのだぁ~』」
ドラゴン語で助けを呼ぶ声が聞こえて来た。
見るとそこには、かなり巨大なフレイムドラゴンがいた。
おそらくこの巣、或いは里といった方がしっくりくるか、ここのボスと思われた。
しかし言ってる事は子供のようだけどな。
「『なんだ?お前フレイムドラゴンのボスだろ?助けてほしいのか?』」
俺がドラゴン語でそう話しかけると、一瞬ビクッと驚いてからこちらを振り返った。
フレイムドラゴンに襲い掛かっていたダークドラゴンには、みゆきがダリアパンチをかましてフッ飛ばしていた。
「なんかついついダリアパンチしちゃったよ!てへっ!」
「オッケーオッケー!」
みゆきはドンドンたくましくなっていくなぁ。
「お前ら人間?どうしてこんな所にいるのだ?いや今はそれどころではないのだ!人間でも良いから助けてほしいのだ!」
割と憎めない感じの愛嬌のあるドラゴンに見えた。
「やっぱ人間の言葉も喋れるのな。オッケー助けてやるよ!その代わりっていうか、一つお願いを聞いてくれるか?」
話をしている間にもダークドラゴンが襲い掛かってくるが、みゆきのダリアパンチと俺の魔法で軽く追っ払い続けた。
「お願い?あたしにできそうな事なら良いけど‥‥っていうかあんた強いのだ?」
「約束だぞ。まあ強さはお前の百倍は強いな。じゃあ契約成立って事で」
俺は振り返って皆に声をかけた。
「倒すのはダークドラゴンだけだ!今フレイムドラゴンとは手を結んだ!」
俺がそういうとフレイムドラゴンのボスらしきそいつも言った。
「あたしたちの敵はダークドラゴンだけなのだ!人間は味方なのだ!」
こうして俺たちは共にダークドラゴンと戦う事になった。
とりあえず状況は、フレイムドラゴンの里がダークドラゴンに襲われているって事だった。
それが理解できたなら、気になるのはやはり環奈の戦いだった。
皆空気を読んだのか、二人の対決に割って入る者はいなかった。
この勝負で全てが決まるような雰囲気だった。
いや決まらないんだけどね。
しかし黒死鳥とダークドラゴンの戦いなんてまず見られるものじゃない。
俺は普通にこの勝負を観戦したいと思った。
力では環奈が負けているように見える。
流石はドラゴンの中でもトップクラスに強いダークドラゴンのボスだ。
やはり黒死鳥よりも強いという判断には間違いがなさそうだ。
とはいえこれは環奈との戦い。
結果はやってみないと分からないだろう。
月の刀は使わないとしても、環奈には決め手がある。
あのオウムビームだ。
この名前は俺が名付けた。
本当はオームが良かったが、せっかく鳥の必殺技でもあるしオウムにしておいた。
アレを近距離からぶち込めれば、いくらダークドラゴンとはいえただでは済まないだろう。
ドラゴンのウロコがあるから致命傷は無理としても、それで決着がつく可能性は高い。
ただ一発では仕留められないだろうし、完全に勝つには三発くらいかましたい所だ。
しかしそんな隙をこのダークドラゴンが見せるとも思えない。
普通に考えて勝率は一割くらいだろう。
やはり肉弾戦では押され気味だ。
かろうじて攻撃をかわしてはいるけれど、ダークドラゴンの攻撃は重い。
当たればヤバいと思える。
早々に何か対応しないともう五分もしない内に負けるのではないか。
そう思った時、環奈が仕掛けた。
なんと人間の姿になったのだ。
それも環奈ではなく、最初に人の姿になった時のあの爺さんの姿だ。
おそらくだけど、ドラゴンや黒死鳥が人間の姿になる場合、ある程度何か制約があって、この姿に変化するのが一番自然で楽なのだろう。
だからこのギリギリの状態ではこの姿に変化せざるを得なかったに違いないのだ。
そんな姿を見て、ダークドラゴンはチャンスと見たのか、高速で食らいつきにいった。
それが想定通りと云わんばかりに環奈はその攻撃をかわし、自分と一緒にダークドラゴンを巨大な金魚鉢を逆さにしたような結界内に閉じ込めた。
「これは俺が使ったオメガエンドか?!」
これは俺が考えた技だが、決して他が使えないような魔法ではない。
ただ普通の人が使っても大した効果は得られないだけだ。
でも環奈なら、もしかしたらドラゴンの魔石を砕くくらいの効果を期待できるかもしれない。
勝てるか?
いやしかし環奈が魔法を発動した直後、直ぐにその意図を察したダークドラゴンは、人の姿へと変化した。
その姿は、俺が見た事のある人物そのままだった。
赤い目、銀色の髪のイケメン。
「えっ?どうしてその姿に‥‥」
戦いはとても緊張感のある局面だった。
しかし俺は戦いの事よりも、ダークドラゴンが変化した姿に驚いていた。
「あの姿、島津洋裁って人だっけ?」
みゆきの言う通り、ダークドラゴンが変化した姿は、まさしく先日死んだばかりの洋裁そのものだった。
生きていた?
いや、間違いなく死んでいた。
となると、もしかしてダークドラゴンとして生まれ変わったのか?
だったら何故ダークドラゴンたちは俺たち人間にも襲い掛かってくる?
生まれ変わったら記憶は無いか。
それに魔獣は何故か人間を襲う邪悪な魔力に支配されている。
洋裁であっても説明はできる。
ふと戦いの事を思い出した。
とりあえず戦いを止めなければならないのではないか?
いやしかし環奈はずっとこの戦いを望んで‥‥。
既に環奈は再び黒死鳥の姿に戻り結界を解いていた。
ダークドラゴンが人型になるのを見越していたようなタイミングだった。
そして既にオウムビームの発射準備も整っていた。
流石に人間の姿でコレを食らったらひとたまりもないだろう。
よっぽどの防具を付けているか、俺クラスの魔力がなければ‥‥。
次の瞬間、島津洋裁に変化したダークドラゴンは消滅していた。
環奈の勝利だった。
この後俺は、急ぎダークドラゴンのボスの魂を確保しておいた。
もしかしたらこの魂は洋裁かもしれないからだ。
それにそうでなくても強い魂は取っておきたかった。
ボスが倒されたダークドラゴンたちは戦意を失い、間もなく一掃する事ができた。
戦いは終わった。

「で、お願いとはなんなのだ?」
俺たちはフレイムドラゴンのボスと話していた。
「この場所に俺の家を建てさせてほしい。いやぁ、こんないい所で家を持ちたいと思ってな。今回はダークドラゴンが来てピンチだったけど、普段はきっと安全な場所だろうしな」
俺の願いは、この地を見て思った事そのままだ。
「えー?ここで暮らすのだ?」
「どうかな?いずれ子供ができれば此処で育てたいとは思うが、ずっといるかどうかは分からない。ただ自分のホームを此処に起きたいだけだ」
「いやあたしたちフレイムドラゴンだよ?人間に恐れられる魔獣の頂点よ?」
「頂点は黒死鳥じゃがのぉ。ふぉっふぉっふぉっ」
今回は環奈が勝ったけど、頂点はやはりドラゴンかな。
口に出しては言わないけどね。
「お前なかなか面白いヤツみたいだしな。割と気に入ったんだ。お前らとなら仲良くできんだろ?」
俺は確信していた。
このフレイムドラゴンも環奈と同様、普通の魔獣とは思えない。
魔獣にある禍々しい闇の魔力が感じられない。
普通に付き合えるヤツだ。
「いやまあ‥‥別に人間をどうこうするつもりはないけどさ‥‥でもなぁ‥‥」
「お前も人間に変化できるんだろ?だったら人間の町に入れるようにしてやるぞ?」
「本当なのだ?」
ありゃりゃ。
えらい食いついてきたな。
そんなに人間の町に行ってみたかったのかな。
町は住民カードが無いと入れないからなぁ。
「ああ。俺が建てる家には転移ゲートを設置して、町にある俺たちのホームと行き来できるようにするつもりだ。そこを利用して好きに行き来していいぞ」
「おお!分かったのだ!好きにすればいいのだ!」
よし!
これで此処に家が建てられるぜ。
「じゃあ早速建てたいんだけど、どの場所ならいいんだ?」
「今?別にあたしたちは自分のスペースを持っているわけじゃないから、好きにしていいのだ」
「それならここに建てるけどいいか?」
「いいのだ」
俺は許可を得たので、魔法を使って家を建て始めた。
既にどんな家にするかは決まっている。
ナンデスカの町にあるホームとほぼ同じものにするのだ。
違いは三階を俺とみゆきが暮らすスペースにして、二階をパーティーメンバーに開放し、転移ルームは一階に設置する。
そうすればドラゴンたちも気軽に町へ行けるだろう。
ただし向こうの転移部屋は三階の奥だけどな。
いや、この際だから作業小屋の地下にでも転移ルームを新たに作るか。
俺はその方向で既にセバスチャンを動かしていた。
「すごいのだ!みるみる家が建って行くのだ!」
「一時間もかからずにできるし、お前も人間の姿に変化して入ってみるか?」
「分かったのだ」
フレイムドラゴンは人間の姿に変化した。
その見た目は、ちょっと眠そうな目をした小さなガキの女の子のようだった。
ツインテールで赤い髪、どう見てもボスには見えなかった。
「で、まだ聞いてなかったが、お前名前はなんていうんだ?」
「名前はボスだ!」
やっぱり、こいつもちゃんとした名前が無いのな。
だったら俺がつけてやるか。
見た目があのアニメのドラゴンの子に似てるからイリ‥‥にしようかと思ったけど、流石にそれはマズイな。
「それは名前じゃねぇよ。よし今日からお前の事は『|七魅《ナナミ》』だ!俺はそう呼ぶ!」
「おっ?そうなのか?ななみかぁ~なんか可愛いのだぁ~」
割と気に入ってくれたようで良しとしよう。
ところで確認はしていないが、こいつ女でいいんだよな?
その後とりあえずパーティーメンバーのみんなと自己紹介をした。
もう今更相手がドラゴンだろうと気にする者はいなかった。
ただ今回はパーティーメンバーに入ったわけではない。
七魅にはこの場所をしっかりと守ってもらわないと駄目だしな。
自己紹介の中で、七魅の年齢には少々驚いた。
百二十八歳は環奈よりも上だった。
「ところで今日から七魅は俺の仲間になったわけで、一つ聞きたい事があるんだが?」
パーティーメンバーではないが、俺の中ではもう仲間だった。
「仲間?仲間かぁ。仕方ないのだ。言ってみるのだ」
「実は近くで魔界の扉が開かれたようなんだが、その場所は知らないか?」
「知ってるのだ。この辺りの事はちゃんと監視しているのだ」
「マジか!?それは何処なんだ?」
まさかと思っていたけど、やはりドラゴン。
やる事やってるぜ。
「此処からほぼ真っすぐ西に行った山の中なのだ。変なトゲトゲした魔力を持った人間たちがそこで魔界の扉を開いたのだ」
トゲトゲした魔力?
もしかして早乙女の者か?
いや今はそれはいい。
「その山ってのはここの山と同じで、人間が入りづらい魔素の濃い山なのか?」
「魔素?うん、まあ違うのだ。そのような山の少し北側で普通に人間でも入れる山なのだ。ただし元々結構強力な魔獣が多いから、人はあまり近づかない場所なのだ」
俺は地図を取り出して広げた。
「此処がこの里のある場所だ。ここから西っていうとこの山の北側の何処かって事かな」
「多分この辺りなのだ」
「思ったよりも遠いな‥‥」
それにイテコマスの町よりもそこに近い町がいくつかある。
全て伊集院の町だからイテコマスと違ってしっかり防衛しているのだろうが、多少心配ではあるな。
実際この里にはダークドラゴンがやってきたわけだし、それクラスのが町に来たらいくら伊集院でも守り切れるかどうか分からない。
尤も、助ける義理も何もないし、助けを求められたわけでもないから、心配しても仕方ないが‥‥。
俺は考えるのをやめた。
「なぁなぁ策也。あたしたちの家も作ってくれたりはしないか?」
七魅がいきなりそんな事を聞いてきた。
ドラゴンに家?
流石にでかくなりそうだし、そういう建築技術となると多少勉強が必要になるかもしれないが、できなくはないかな。
「ドラゴンの家か?でかいと時間がかかりそうだが、できなくはないと思うぞ?」
「本当か?!でもドラゴンじゃなくていいのだ。人間の普通の三十人くらいが住める家が欲しいのだ」
「人間に変化して暮らす家か?ならこの家の倍くらいにはなりそうだから、明日まででいいなら建ててやるぞ」
仲間になったんだしな。
これくらいはいいだろう。
「いいのだ!よろしく頼むのだ!一度人間の生活もしてみたいってみんなとも話していた事があるのだ!」
そうなのか。
確かにドラゴンの生活って、あまり面白そうではないからな。
ただグータラしてるイメージがあるだけだ。
知能は人間の三倍くらい高いと言われているけれど、ただ悟っているようであって人間とあまり変わらないのかもな。
そんな話をしている間に、俺の新しい家は完成に近づいていた。
既に一階リビング兼応接室は完成していた。
「それじゃ、もうできてる部屋もあるからそっちに移動するか」
俺は皆を建物内へと誘導した。
「すっげぇー!これが人間の家かー!?」
「人間と言っても貴族以上の人が住む家って感じですね」
「オーガなんて藁葺き屋根の家で暮らしていたぞ?」
「私は王族だから、もっと良い所に住んでるわよ。それが本当に住みやすいかどうかって聞かれると答えづらいけどね」
「いやいや、細かい事はよく分からないけど、どうしてドラゴンよりも圧倒的にバカで弱い人間にドラゴン以上の者が生まれてくるのか分かった気がするのだ。人間は常に向上心と探求心を持って生きているからに違いないのだ。ドラゴンは高い知能と能力があるが故に結局何もしないのだ」
ちょっと人間を劣等種族扱いする七魅の言葉だが、その表情からは人間への敬意が感じられた。
「じゃあみんな座ってくれ」
「もうこんなソファーまで作ったの?」
「いや、こういったものは先を見越して作ってあったりするんだよ。セバスチャンは暇だしな」
「なるほどね」
全員がゆったりと座ってくつろげるだけの広さのある部屋にしておいた。
此処もどうせみんなが出入りする家になるだろうからな。
「さて次は環奈が倒したダークドラゴンについてだ」
俺はそう言って魂ボールを取り出した。
中には先ほど捕獲した魂が入っている。
「環奈が倒す直前、こいつは何故か島津洋裁の姿に変化したんだ。環奈。環奈はどうして今回戦闘中変化した時、前に見せてくれた老人の姿になったんだ?」
「そうじゃのぉ。一番自然で楽に変化できるのがあの姿なんじゃ。今じゃこっちの方がしっくりくるが、咄嗟の時なんかは何故かああなるようじゃのぉ」
「つまりだ。あのダークドラゴンも一番しっくりくる姿が島津洋裁の姿だったのではないかと思うわけだ」
「それって、もしかしてあのダークドラゴンが島津洋裁だったって事?」
「それは俺も一瞬考えたけど、確かに先日洋裁は町で死んでいた。だからおそらくこれは、生まれ変わった姿だったんじゃないかと思う」
時間的にもギリギリ説明できるのではないだろうか。
死んだのがおそらく四・五日前。
成仏して魔界で生まれ変わり、そしてこちらの世界に出てきてこの里を襲った。
時間的には十分あり得る。
そして島津洋裁だったからこそ、イテコマスの町の方へやってきた。
その途中にこの里を見つけて襲ったとすれば、なんとなく説明できやしないだろうか。
完全な憶測の域だけど、あの変化を見せられてはそう考えるしか俺にはできない。
「可能性はありそうじゃのぉ。陽菜も魔物じゃなくなった途端に普通の人間のように喋っとるし、何処の方言かはわからんが前世が人間じゃないと説明がつかん気がするんじゃ」
「そういわれると、うちも前世は人間やったような気がしてきますわぁ」
「うわっ!鳥が喋ったのだ!」
「陽菜は元魔獣なんだ。小さな鳥の体にして蘇生させたんだが、元々魔獣だなんて全く思えないだろ?」
「確かになのだ」
「そんなわけで、とりあえずこいつもゴーレムに憑依させてみようと思う。もしかしたら本人が何か知ってるかもしれないからな」
「そうね」
そんなわけで、陽菜を蘇生した時のように、一度エアドラゴンゴーレムに魂を憑依させる事にした。
まずは小さなドラゴンの形をしたエアゴーレムを作る。
それに魂をくっつけてゴーレムにしてみた。
さてどうなるやら。
「‥‥」
ドラゴンの目が少しピクッと動いた。
更に続けてゆっくりと開く。
「おい。俺の言葉が分かるか?」
目を見てから俺は話しかけてみた。
するとドラゴンはゆっくりと話し始めた。
「‥‥自分‥‥なんで‥‥あれ?そうださっき殺られたような‥‥」
これは間違いない。
島津洋裁だ。
一人称が『自分』なんていうヤツは数が少ないし、何よりこの喋りは俺が貴信から聞いた話そのままだ。
ボーっとしたような喋りは、今目覚めたばかりだからかもしれないが、俺には間違いないと思われた。
「私にも島津洋裁に思えるわね」
「僕もそう感じました」
会った事はないが、あまりに想像通りの喋りだった。
「あんた。島津洋裁って名前なんじゃないか?」
俺は聞いてみた。
陽菜に前世の記憶はないから、聞いても覚えてはいないだろう。
でも一応聞いておきたかった。
「ん~‥‥それ、自分の名前なの?‥‥言われてみればそんな気がしなくもない‥‥」
生まれ変わってからまだ日が浅いから、もしかしたら記憶が残っているのかもしれない。
でもその後の質問に対しては全く答えられず、やはり記憶は全く無いと言って良かった。
「じゃあ変化はできるか?人間の姿だ」
「ん‥‥できるよ」
そういうと次の瞬間には島津洋裁の姿へと変わっていた。
「あれ?なんか体が安定しない」
「そりゃその体は俺の作ったエアゴーレムだからな。でも分かったよ。間違いなくお前は島津洋裁だ。俺が新しい体を与えてやるから、島津洋裁として生きていかないか?」
こいつは間違いなく洋裁なわけで、記憶は喪失しているがそれは嘘ではない。
そういう話でイテコマスの町に戻れば、とりあえず大きな問題にはならないだろう。
しかしこの洋裁はそれを断って来た。
「いやだ。さっきの質問を総合して考えると‥‥自分は領主とかやるわけでしょ‥‥覚えもないのにできるわけない」
確かにな。
もしも記憶が有ったとしても、こいつなら生まれ変わってまた領主とかやりたくねぇよな。
「だったら記憶を失くしたので療養に出たって事で、俺たちと一緒に来るか」
「ん~‥‥見た所冒険者的な感じだよねぇ。ずっと歩くとか面倒だしどうすっかなぁ~‥‥」
聞いていた性格そのままだが、これでもやる時はやるヤツだったんだよな?
民を守る為に身を犠牲にするくらい。
だとしたらもう一息で島津洋裁としてやってくれる気がする。
そうだ!
「だったら‥‥」
俺は異次元収納から愛用のナイフを取り出した。
このナイフは、自在に形を変えられる事から生きた金属と云われるオリハルコンで出来ている。
今はまだ研究段階のナイフだが、いずれは伸ばして刀にしたり、|撓《シナ》らせて鞭のように使える武器にしようと考えていた。
魂が入れば、即それが可能なのではないだろうか。
それに生きた金属なら、オリハルコンとして蘇生も可能な気がする。
「このオリハルコンのナイフとして生まれ変わってみるってのはどうだ?普段は俺の鞘に収まっていてもいいし、人の姿に変化して普通に俺たちと行動してもいい」
半分俺の願望が混じっているが、是非この線でやってみたい。
「ナイフかぁ‥‥自分、そういうの割と好きよ‥‥よろしく。それでやってくれ」
よっしゃー!
俺は心の中でガッツポーズをした。
この洋裁の魂はかなりの魔力を持っている。
俺の思い通りなら、間違いなく環奈よりも強くなるだろう。
あくまで環奈が月の刀を使わなければの話だけどね。
それに仮に使ったとしても、洋裁はおそらく負けない。
何故なら、オリハルコンを完全に消滅させるか別の何かに変えるくらいのパワーが無い限り、オリハルコン生命体は倒せないだろうから。
おそらくこの世で倒せるのは、製作者の俺か、これから蘇生魔法をかけるみゆきか、魂を分離させるような魔法が使える者だけになるはずだ。
「じゃあみゆき。俺が魂をナイフに移すから、そしたら水の蘇生で生き返らせてやってくれ」
「分かった。今日の私は絶好調だよ!」
『絶好調じゃなくても大丈夫だよ』と言いたくもなるが、可愛すぎるのでオッケーだ!
俺はゴーレムから魂を取り出した。
そしてすぐにナイフへと移す。
「今だ!」
「いっくよぉー!」
みゆきは魔力を送り込んだ。
絶好調というだけあって、今までで最高の魔力を感じた。
おそらく指輪の効果だろうな。
蘇生は極短時間で終わった。
「どうだ?人間に変化してみろよ」
俺はそう言いながらナイフをつついてみた。
すると洋裁はテーブルの上で人の姿へと変化した。
「なんだか‥‥不思議な感じだ。この体‥‥ヤバくね?自分超無敵になった感じするっすよ」
「オリハルコンだからな。まず死ぬ事はないだろうな。自在に形を変える事もできるし、切れようが蒸発しようが再び結合すれば再生する」
「なんか凄いわね」
「敵になったりしないでくださいよ」
「いや‥‥助けていただいた方々に、自分刃を向けるような事はしないっすよ」
まあそんな事にはならないように細工はちゃんとしてあるがな。
「じゃあ一応貴信には報告しておくか。洋裁の魂を見つけたから蘇生した。でも記憶が失われているから療養の旅を続ける。こんな感じでいいだろう」
「もうなんでもいいわよ。生きているってなら問題ないだろうしね」
「じゃあ俺はこの家を完成させたらもう一軒に取り掛かるから、みんなは洋裁に洋裁の事をできるだけ教えておいてやってくれ。何かの役にたつかもしれないからな。七魅も好きにしていてくれていいぞ」
俺はそう言って部屋から出た。
それにしてもこの世界、色々と面白いな。
おそらくだが、長くこの世界で生きている魔獣は、七魅のようにどことなく人間らしさを持っていたり。
死んだ人間は洋裁のように魔獣として生まれ変わったり。
そして魔界の扉。
乱馬に聞いてみないとな。
俺は瞬間移動魔法でゴブリンの洞窟に戻った。
「よう乱馬!」
俺は机に座って研究中の乱馬に後ろから声をかけた。
すると乱馬は椅子を回して振り返った。
「策也じゃないか。こんなに夜遅くにどうかしたのかい?もしかして指輪の事かな?」
「いやちょっと聞きたい事があってな。っていうかこっちはもう遅い時間だったな」
結構西に行ったので、四・五時間の時差があるはずだ。
「まあまだ寝るような時間じゃないけどね。で、どうしたんだい?」
「早乙女の事についてちょっと聞きたいんだけど、魔界の扉を開けたのって早乙女の者なのか?」
すると乱馬は少し驚いたような顔をしたが、直ぐに表情は笑顔になった。
「やっぱりそうなのか。僕も正直本当の所は知らないんだけどね。王位継承が済んですぐに魔界の扉が開かれたのには何かがあると思ってたんよ。それにそんな話、子供の頃少し聞かされていた記憶もあったし」
乱馬は知らないのか。
でもおそらくそうだと確信しているようだ。
「それで何をしようとしてるんだろうな。魔界の扉と魔王の復活は、過去の記録では概ね連動しているようだけど」
「おそらくそのままだと思うよ。魔界の扉を開いたのが早乙女なら、魔王の復活も早乙女のやる事な気がするけどね」
「そうなると、逆に考えれば魔王の復活には魔界の扉を開く必要があるって事になるのか。でもそれは既に達成されていて、このままだと魔王は復活すると」
だとしたら早く魔界の扉を閉じれば、魔王は復活しない事にならないだろうか。
「僕がこんな形で生まれ変わったのって、魂がこの世界にあって復活が可能だったからだよね。だから魔王ももしかしたら、魂さえ見つけられれば復活できるんじゃないかって思うわけよ」
「つまり、魔王の魂を見つける為に魔界の扉を開いたという事か?」
「そんな感じじゃないかな。少し違うかもしれないけれど、かなり近い線だとは思うよ」
それなら辻褄も合うな。
しかしそれでどうやって見つける?
魔物が多くこちらの世界へ来ているのは、魂を見つける為なのか?
何かを見落としている気もするが、とにかく言えるのは『早急に魔界の扉を閉める必要がある』って事か。
そしたら魔王の復活は阻止できるかもしれない。
尤も、復活した所で俺が何とでもできるとは思うが、復活してしまったら相応の被害はでるだろう。
やはりまずは復活阻止に動くのが賢明な気もする。
「分かった。ありがとう。そうそう、あの指輪は結構使えたよ。アレでもっとコントロールパワーが上がれば、完全体のみゆきが見られるかもな」
「そうか。良かった」
「じゃあ邪魔したな。何かあったらまたセバスチャンに伝えてくれ」
「了解!」
俺は瞬間移動魔法で再びドラゴンの里に戻った。
この後しばらく七魅たちの家を建設した後、残りはゴーレムに任せて俺はゆっくりと休んだ。
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