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さよなら天照兄弟

『日本の常識は世界の非常識』
そんな風に転生前の日本では云われていた。
国内では当たり前の事でも、そんなものは外交では通用しない。
日本人なら人を騙すのは恥だと思うし、やってはいけない事だと認識するだろう。
でも外交の場では騙される方が悪いのだ。
みんながしたたかに自国の利益を追い求める中、日本は『お人よし国家』とか『世界のATM』なんて云われていた。
そんな日本人の甘さを、やはり俺も持っていたようだ。

『神武国如きがなめた真似してくれるな。何が支援金だ!望み通り潰してやるよ‥‥』

何処かで誰かがそんな事を思っているなんて、俺はまるで考えていなかった。
いい事をしたからむしろ自己満足に浸っていた。
神武国から救助員も派遣したし、これで有栖川との関係も良くなるだろう。
本気でそう信じていた。
しかし結果はまるで逆だったのかもしれない。
この日の深夜、連絡は王仁からのテレパシー通信だった。
『運搬トンネル内で大きな爆発が確認されました。獣人王国にいる円光からの連絡です。ブレイブにいるはずの炎魔や他天照兄弟とも連絡が取れません』
信じられない。
一体何があったというのだろうか。
『分かった。すぐにブレイブに飛んで確認する』
『お待ちください。円光が言うには、まだトンネル内は灼熱地獄のようで入る事も難しいそうです』
どうなっているのだ?
仮に有栖川だとして、奴らの大量破壊魔法は外からの攻撃のはずだ。
別の何かを作り出したとでも言うのだろうか。
『だったら外から確認する』
『お気をつけて』
俺は獣人王国近くにあるトンネルの出口へと瞬間移動した。
炎が噴き出し、トンネル内は超灼熱地獄と化していた。
とりあえず酸素の侵入を止めてみるが、炎が弱まる気配はなかった。
こりゃ酸素がなくても燃えるように魔法で何か細工してあるな。
或いは闇の業火か。
これでは入るのも難しい。
と言いたい所だが俺ならきっと入れる。
かなり結界に魔力を取られるが、行って行けない事は無いはずだ。
俺は自分を結界で守りながらトンネル内へと入っていった。
流石に頑丈に作られたトンネルで、崩れるのは辛うじて防げている。
熱にも一時間くらいなら耐えられる仕様だ。
しかし逆に言えば一時間しか持たない。
この熱量がどのくらい続くのか予想できない以上、タイムリミットはおそらくあと五十分くらいしかなかった。
それにしても厳しいな。
どうやってこの熱量を維持しているのか分からないけれど、これはかなりの魔法技術だろう。
これに対抗する方法はないだろうか。
そうだ!アレを使ってみよう。
俺は織田家の能力を使って小さくなった。
小さいと魔力を凝縮し繊細に扱う事ができるようになる。
こりゃ楽だ。
先日は織田家の事をバカにする発言をしたけれど、これは撤回せねばなるまい。
とは言え流石に熱くなってきたな。
いくら衣服に自動温度調整機能がついているとはいえ、此処まで熱いと調整が追い付かなくなってくる。
その分は自分で熱を遮断するか下げなければならない。
小さくなって結界は楽になったが、他で魔力を使うから厳しいな。
瞬間移動魔法で一気に行くか?
いや、奥に行くほど熱はヤバいだろうし、耐えられる保証はない。
じれったく思うけれど、俺は慎重に進んだ。
まあオリハルコンの体に変化しているから、死ぬ事は無いと思うけどさ。
慎重に進んで、俺はなんとかブレイブの町のある場所までたどり着いた。
正直ヤバい。
マジヤバい。
水をばら撒きたい所だが、そんな事をすれば水蒸気爆発が起こる事請け合い。
こんな中で生きてる者はいないだろうな。
俺でも死にそうだわマジで。
なんでこんなに熱いのか。
ん?一人だけこの熱の中で生きてる者がいるだと?
邪眼で見れば炎魔だと分かった。
俺は炎魔の元へと向かった。
たどり着くのも大変だ。
「大丈夫か炎魔?」
「僕を助けに来てくれたのかな?」
「そうだけど、なんでお前秘密基地に飛ばなかったんだ?死にそうになれば自動で飛ぶはずなんだけどな」
「駄目だよ。あの一瞬じゃ魔法が反応するよりも早く体が消滅したはずだよ。天照兄弟のように」
「えっ?もしかして、自動魔法が間に合わなかったのか?」
どんな爆発だったんだ。
いや、自動で発動する魔法でも、瞬間移動魔法ってのは瞬時に発動できるものではない。
僅かではあるけれど時間を必要とするんだ。
その時間すらなかったというのか。
ならばイチかバチかでもいいから早く来るべきだったか。
「勇者の魂も見当たらないな」
「どうやらみんな成仏したみたいだね。満足したって事でしょ」
「そうか‥‥」
なんだろうな。
良かれと思ってやってきたけれど、こんな事になって本当に良かったと言えるのだろうか。
予言では此花にとっては良いと出ていたけれど、本当にこれで良い結果だったのだろうか。
成仏できたって事は、満足できたと解釈していいのかな。
「とにかく炎魔は三日月島に送ってやる」
「よろしく頼むよ。いくら炎の邪神と言ってもそろそろ限界だ」
「そうだったな」
それで炎魔はなんとか助かったのか。
でもこの炎が異常に熱いのって、こいつの力も上乗せされているからだったりして。
俺は瞬間移動魔法で炎魔を秘密基地の転移ルームへと送った。
そこへ送れば誰かが緊急に対応してくれる事になっている。
まあこの場から出られたならば大丈夫な奴だけど。
思った通り、少し温度が下がったかもしれない。
炎魔だから助かったのだろうけれど、それで俺が来るのが遅れたと考えれば‥‥。
どちらにしても天照兄弟の蘇生は間に合わなかったか。
天照兄弟、助けられなくてゴメンよ。
十数年、色々と助けてくれてありがとう。
少しずつトンネル内の炎が弱くなってきた。
そろそろ魔法の効果も切れてきたのだろう。
しかし洞窟内でもよく燃えるよなぁ。
酸素が無くても大丈夫なようにしてるって事は、明らかに此処を狙う為に作られた魔導兵器だ。
先日有栖川が大量破壊魔法の実験を行っていたが、正にこれだった可能性がある。
でも有栖川のは降下式だったんだよな。
今回はおそらく設置型。
設置型の開発に成功したのか、それとも伊集院など別の勢力の仕業なのか。
今の状況では分かるはずもなかった。
この後俺は一応町を一回りして生存者を探したが、生きている者は一人も見つからなかった。

昼になって、俺は報道陣をシャットアウトして中を確認に行った。
トンネル内はしっかりと大量破壊魔法に耐えられるようにしていたのでほとんど無事だった。
しかし町のあった部分は溶けた岩が町の中を埋め尽くしていた。
幸いまだほとんど外から来た者はいなかったので、被害は最小限だったと言える。
この状況ならすぐにこのトンネルは利用が可能だろう。
「トンネルの中に町があって、そこで一泊できるってのは魅力的だったんだけどな」
俺はもう町を元に戻す気にはなれなかった。
やってやれない事はないけれど、此処には勇者たちと天照兄弟が眠るのだ。
大きな墓にしてやりたいと思った。
また少し悲しくなった。
「目からミミズが出てきそうだよ」
冗談でも言ってないとやってられないよな。
俺は傷心のままトンネル内の補修に一日を費やした。

直ぐにトンネルは再開通したが、利用する者は現れなかった。
やっぱりこんな事があればみんな様子見をするだろう。
まあしばらくはいいさ。
俺が利用していればその内利用者は集まってくるだろうから。
それよりも、誰がやったのか犯人は見つけないとな。
仇は取ってやらなければならない。
「この夜に洞窟内にいた馬車は三台だな。そして全てが町に入っていた。荷物の確認はしたのか?」
荷物の確認は、十年以上前に設置型爆破魔法の凄さが確認された事で、多くの町で行われるようになっている。
住民カード内のアイテムも、町に入る時に自動で確認されるようになっていた。
「したはずだよ。僕は内容までは聞いてなかったけどね」
「確かチェック内容は‥‥ネット管理している‥‥はず‥‥」
町の通信システム構築には夕凪も携わっていたな。
「だったら博士に聞いてみるか」
俺はテレパシー通信で博士に話しかけた。
『博士、ちょっと聞きたい事がある』
『何かな?』
『ブレイブの町の出入り記録に、馬車の積み荷チェックもあると思うんだけど残ってるか?』
『ちょっと待ってくれ。えーっと‥‥これだな。小型の馬車二つの内、一つは野菜、もう一つは中級冒険者三人と持ち物って所か。怪しい所はない。大型の馬車にはオーガ王国からの衣服だね。これって策也が頼んでいる輸送業者だろ?』
『そうだったな。となると怪しい所は無しか。設置型爆破魔法装置を持ち込むなら、馬車じゃないと無理だと思ったんだけどな』
『全て神武国の者が運営している業者だし、別の線で考えてみる必要があるだろう』
『分かった。ありがとう』
怪しい所は本当に無かったのだろうか。
小型の馬車で野菜を運んでいて細工は難しいよなぁ。
冒険者ってのも中級程度じゃ何もできないだろう。
一番怪しいのは大型馬車だが、この業者がトンネルを破壊する意味は無いし、むしろ困るのだから手を貸したりする事もないはずだ。
そう思いながらも、俺は何か引っかかるものを感じた。
常識で考えればやるはずもない。
でもそういう状況でこそやる奴もいたりするんじゃないのか?
転生前の世界でも有能な指導者が、メリットがないから絶対にやらないと思っていた戦争を始めた事もあった。
人が動くのは理屈だけじゃないんだ。
感情や金、名誉や面子、思い込みや勘違い、色々な理由が存在する。
普通に考えてあり得ないってのは考えないで調べよう。
「炎魔、夕凪、俺はちょっとオーガ王国に行っている」
「はい、いってらっしゃい」
「分かった。私は妄想してるね‥‥」
夕凪はいつも楽しそうだな。
俺はオーガ王国へと飛んだ。
そこから衣服を製造している工場へと案内してもらう。
住んでいるのはほとんどオーガだが、俺の事はみんな知っているので気軽に挨拶をかわしていった。
知っていれば仲良くもなれるんだけどな。
今は町単位だと、あらゆるヒューマンが共存共生している所は少なかった。
十数年前は一時期盛り上がったんだけどな。
でも実際にやろうとして難しい事が分かって、それぞれの王国はほとんど主であるヒューマンだけが暮らす町になっていた。
例外は神武国のオトロシイ、妖精王国ジャミル、黒死鳥王国ミヨケルだけだった。
でも俺は、今はそれで良いと思っている。
一緒に暮らせる町が無い訳じゃないんだからさ。
ゆっくり分かり合えれば、千年後や一万年後にはきっと夢のような世界になっていると俺は信じていた。
さて衣服の工場が完成してから実際に来るのは初めてだった。
想像していた以上に規模は大きくなっている印象だった。
工場には風里と夜美が来ていた。
「あれ?お前たち来てたのか?」
「策也、久しぶりアル」
「うん。来てて悪い?」
夜美は相変わらずツンデレな感じのようだ。
俺は知っている。
この子が本当は可愛い事を!
「いや、俺は夜美に会えて嬉しいよ!」
「そう‥‥それは良かったね」
可愛い夜美ちゃんが見られて良かったよ。
「ところで聞きたいんだけどさ、此処の衣服の輸送馬車があのトンネル爆破に巻き込まれたんだけどさ、何か不自然な事はなかったか?業者や馬車が突然代わったとか。|御者《ギョシャ》がおかしかったとか」
「特にそのような報告は受けてないアルよ」
「でも、どういう訳か予定していた分の半分くらいの衣服が忘れられて残っていたんだよ。事故に巻き込まれなくて助かったって逆に喜んでいる人もいた」
「輸送予定の衣服が残っていた?」
「そんな話有ったアルね。此処ってオーガの町アルから、町の中に入るのが嫌だって人もいるアル。だから町の外に輸送予定の荷物を出しておいたアルよ。でも何故か全部持って行ってくれなかったアル」
「ふむ‥‥」
それは奇妙だな。
出してある荷物を積み忘れる事なんてあるか?
絶対に無いとは言えないが、可能性としてはかなり低い。
ほぼあり得ないと言ってもいいだろう。
だったら何故積んでいかなかったかだ。
慌てていたか、もしくは積みきれなかったって事じゃないのか?
「時間は予定通り取りに来たのか?」
「特に早かったり遅れたりしたって報告はないアルよ」
となると積み荷にあらかじめ別の何かが積んであった、或いはこの後積む予定があったと考える事もできるな。
「ありがとう。俺はちょっと輸送業者を調べてみる」
「またね、アル!」
「もう?‥‥じゃあね‥‥」
「おう!またな」
俺は輸送業者のあるヤイトの町へと瞬間移動した。
確かあの建物だったな。
俺は空から町に降りるとすぐに影に潜った。
影の中では菜乃と妃子がいつも通り寝ていた。
「ん‥‥策也タマにまた起こされたのね‥‥」
「安眠妨害なのです」
こいつらが働かないのは正直もうあきらめている。
でも、ちょっと寝すぎだろ。
「お前ら寝すぎだ。そんなだと悪い頭が更に酷くなるぞ」
「そんな事ないのです。寝る子は育つのです」
「むしろ頭は良くなってるのね。日々知識を吸収しているのね」
「ほう。具体的にどんな知識が増えたんだ?」
寝てて知識が増える訳がないだろ。
「ウンコとウンチの違いについて知ったのね」
「こりゃ又どうでも良さそうな知識だが、まあいいだろう。で、その違いはなんなんだ?」
「ウンコはバナナでウンチはソフトクリームなのです」
つまり、棒状と巻きグソの違いって事か。
「食べ物で例えたらこの話を聞いている人が不快な思いをするだろうが!」
「そんな事ないのね!むしろ食欲が湧くのね!」
「だったらお前はビチグソを見た後にカレーが美味しく食えるのか!」
「もういつも以上に美味しく食べられるのです!」
「嘘つくな!」
俺は二人にドロップキックとブレーンバスターお見舞いしてやった。
すると二人はクロスチョップとスピニングバードキックを返してきた。
俺たちは当然マジプロレスへと突入するのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ‥‥お前たち、なかなか腕を上げたな」
「寝てても成長する事が認められたのです」
「確かに。認めよう‥‥」
まさか本当に寝ているだけで成長するとは。
恐るべきシャドウデーモンだな。
「策也タマ、少しは元気が出たのです?」
「大丈夫なのね。かなり元気モリモリなのね」
こいつら、俺が元気なかったから元気づける為に相手してくれたのかな。
仕事はしないけどいい奴だし、あまり口五月蠅く言うのはやめておこう。
「上手くいったのです」
「これでしばらく怒られないのね」
聞こえているぞお前ら。
俺の耳はデビルイヤーなんだぞ。
まあでも実際少し元気は出たかな。
天照兄弟がいなくなって、やっぱり少し落ち込んでいたからな。
「じゃあ侵入するぞ。ついてこい」
「分かったのね」
「仕方がないのです」
俺たちは疲れた体でようやく建物内へと潜入した。
一つずつ部屋を見て回る。
大型の馬車を扱う業者なので小さな会社みたいな感じだ。
だから個人経営と違って、一台馬車を失ったと言っても仕事が止まる訳じゃない。
とは言え大型の馬車を一台失った事で、その対処に忙しいようだった。
そんな建物内で、一人だけ別の意味で慌てている男を発見した。
他は皆慌てている感じだったが、こいつだけは何かに焦っているようだ。
「あの男怪しいのね」
「見た目ですぐに分かるのです」
付いて行くと男は鍵を開けて個室へと入っていった。
梅影姉妹の言う通り、確かに何か動きが怪しい。
影に入ったまま追いかけて部屋に入ると、そこには大量の金が置かれていた。
一業者の従業員が持てる金の量には見えない。
十億円くらいはあるだろうか。
この業者が一年頑張っても稼ぐ事はできない金額だ。
男は自分の住民カードを左手から出すと、金をカードに収めていった。
そしてすぐに部屋を出ようとする。
俺は男の前に姿を現した。
「その金を持ってトンズラか?」
「お、お前は此花策也」
「その通りだ。で、お前は今何をしていた?十億ほどの金を住民カードに収めたみたいだが」
「いや、この金は‥‥そ、そうだ。ちょっと預かっていてな。これから返しにいく所なんだ」
「ほう。誰に返すんだ?」
「それはちょっと話せねぇよ。悪いが急いでるんだ」
こんな怪しい奴を放置はできないよな。
当然本当の事を聞き出す必要があるだろう。
「先日のブレイブの町爆破事件にお前、関わっているだろ?」
「いや知らないぞ。もういいだろ。帰らせてくれ」
「まだ仕事中じゃないのか?悪いが帰す訳にはいかないな。先日の事件にかかわっていそうだからな」
「知らないって言ってるだろ!」
男はいきなりナイフを抜いて襲い掛かってきた。
悪い奴って殺せばいいと思っている辺りが最悪だよな。
「公務執行妨害で逮捕だ」
「なんだよそれ‥‥」
俺は男に魔力ドレインの手枷足枷を付けた。
「くそう!この金が有れば一生遊んで暮らせると思ったのに」
「とりあえず話は別の場所で聞く事にしよう」
俺は瞬間移動魔法で炎龍の地下にある魔法実験場へと移動した。
「さて、話を聞くよりも記憶に聞いた方が確実だし早いだろう」
俺は一つ蝙蝠型のエアゴーレムを作って召喚した。
「な、何するつもりだ?」
「気にするな。お前には何も起こらないよ」
蝙蝠は男に噛みつき記憶を奪った。
「なるほどねぇ。十億の報酬で頼まれたのか」
設置型爆破魔法装置を馬車に積み込み、その馬車でブレイブの町まで行くよう頼まれたと。
衣服を積んだ馬車を利用したのはこいつの裁量か。
頼んだ奴の顔は知らない女だ。
おそらく有栖川の関係者だとは思うが、俺が知る兎束や蜥蜴の者たちとは似ていないな。
こいつの件に関しては禰子たちに調べさせよう。
俺はゴーレムを解除して記憶を返した。
記憶を返しても記憶を見たという記憶は俺の中にも魔法記憶にも残るので、その映像をアルカディアに送ってその人物を探すように指示をだした。
「じゃあな。お前は一生牢獄の中か死刑だ」
「ちょっと待って‥‥」
俺はすぐに神武国の牢獄へと瞬間移動魔法で送った。
しかしこんな方法で設置型爆破魔法装置を送り込まれたら防ぎようがないな。
荷物チェックで見つけたとしても、その時爆破されたら終わりだ。
俺の管轄する主要な町なら、防壁門の外でチェックして見つけられれば対処はできる。
でもトンネル内に入られたらアウトなんだ。
「トンネルの出入り口にチェックできる魔法装置でも付けるか」
本当、マジで料金取らないとやってられないけれど、こういうのこそ税でやるべき事なんだろうな。
税を集めて使い方を考える政府の役割は、『国家国民の生命財産を守る事』だからね。

俺は二日で装置の開発と設置を行った。
獣人王国側の運営は獣人王国に任せる。
と言ってもこの国は神武国の管理国だから、実質両方とも神武国の管理って事なんだけどね。
積み荷チェック魔法装置の完成に満足していると、禰子からテレパシー通信が入った。
『お兄ちゃん、あの映像の人が誰だか分かったよ』
『マジか!で、やっぱり有栖川関係の奴だったか?』
『それが、薩摩に仕える貴族『|蘭堂《ランドウ》家』の『|梨衣《リイ》』って人だったよ』
あまりよくは知らないが、確か本来は伊集院家に仕える貴族だよな。
報酬が十億円な辺りから有栖川が大本の犯人だとは思うが、薩摩を利用したのか。
薩摩なら設置型爆破魔法の技術を持っていても不思議ではない。
王は伊集院の元王子だから。
どっちにしても梨衣に確認するしかないだろう。
『ありがとう禰子』
『うん。でもお兄ちゃん、あまり責任をしょい込まないでね』
『ああ』
禰子にも心配をかけていたか。
自分ではあまり気にしていないつもりだけれど、やっぱりどこかで出てるんだろうなぁ。
とりあえず今日は休むか。
俺はマイホームに戻って、みゆきとイチャイチャして夜を過ごした。
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