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みんなバイバイ!

暗黒界は確かに存在する。
最近ではネット上でも話されるようになっていた。
ただ、まだ誰も暗黒界に行った者はいない。
いや、『行って帰ってきた者の記録がない』と言った方が正しいだろう。
そんな暗黒界に、俺はかなり興味を持ち始めていた。
行ってみたい。
魔界にもう敵となり得る者はいないのだ。
人間界でも、闇の神たちを蘇生した兵隊が主流になりつつある。
いずれ行かなければならない。
俺はそう考えていた。

そんな訳で研究していた。
賢神に言われて入ったダンジョンで手に入れた転移の指輪。
おそらくこの指輪は暗黒界と関係がある。
それは分かっているけれど、これがどういう指輪なのか分からない。
とりあえずコピーを作って、今手元には二つある。
試しに魔力を送ってみても、何も反応がない。
暗黒界に転移したらそれはそれで仕方がないくらいに思って試しているのだけれど、それは全く反応しなかった。
「ん~‥‥」
他の奴らにも調べさせてみるか。
乱馬に調べてもらっても、賢太に調べてもらっても、使い方は分からなかった。
あと分かる可能性があるのはみゆきくらいか。
神の力でチョチョイと分かったりしないかなぁ。
予言者や占い師の血も流れているわけだし。
期待はできないけれど、一つはみゆきに渡しておくかな。
結構綺麗な指輪だから、普通にアクセサリーとしてもみゆきに似合いそうだしさ。
これは後で渡しておこう。
次は‥‥超再生のベルトだな。
レヴィアタンとパイモンの魔石が手に入ったし、二つ神クラスのが作れる。
一つはミケコだな。
これでミケコも名実ともにナンバーツー、いやナンバースリーになれるだろう。
もう一つは、とりあえず七魅かな。
いつかは一緒に冒険の旅に行く約束もしているし、世界情勢が落ち着いているなら短期で行くのも面白そうだ。
そんな訳で、レヴィアタンの魔石で作るものは七魅仕様、パイモンの魔石で作るのはミケコ仕様で作成していった。
直ぐにベルトは完成した。
もう作り慣れてきたからね。
魔石の効果で悪魔の能力も使えるようにしてある。
これを付ければその悪魔と遜色ない程度には戦えるかな。
後は本人のセンス次第だ。
次は魂を蘇生しておこう。
レヴィアタンは依瑠の体で、パイモンは死志の体でそれぞれ蘇生した。
レヴィアタンはまずまず今までの依瑠に少し似た感じになった。
これで家郷ファミリーが復活だ。
リヴァイアサンの上位種とも云われるレヴィアタンだし、上手くやって行けるだろう。
他の家族はみんな水中の魔獣だからな。
それで死志の体で蘇生したパイモンなんだが‥‥。
「策也様、ようやく蘇生してくれましたか!」
「えっ?何?もしかして死志なのか?」
見た目が死志だからってのもあるんだけれど、この喋りは死志そのものだった。
「正確には違うんですけどね。死ぬ間際に記憶だけ体に定着させておいたんです。体が無事なら蘇生してくれると信じてましたよ」
「じゃあ一応パイモンではあるんだな?」
「そうですね。両方の人格を持った死志の誕生って感じですか。それにしても素晴らしいですよ。そしてまた戦える!くぅー!」
この体、蘇生して良かったのだろうか。
こいつ戦闘大好きだからなぁ。
大丈夫かねぇ。
そうは思っても、体は感情通りの反応を堪えていた。
まさか死志に再び会えて、涙が出そうになるとは思わなかったぞ。
嬉しかったんだな。
少し笑えてきた。
涙を見られるのもアレなので、俺は二人を直ぐに秘密基地へと送った。
どちらもミケコを助けてくれるだろう。
間違いないと思った。
次は‥‥ずっと忘れていたけれど、バエルとブエル、そしてゲイザーの魂が沢山あるんだよな。
魔石もあるし、これらを使って賢神の武器を考えよう。
賢神のだから、並みの武器じゃ面白くない。
この魂と魔石、全て使えないだろうか。
バエルにしてもブエルにしてもキメラ悪魔だ。
そしてゲイザーは蝙蝠。
一緒にする事はできると思うんだよな。
小さなゲイザー蝙蝠をオリハルコンで沢山作り、左右のブレスレットで一緒にして槍と刀にする。
バエルの槍とブエルの刀だ。
ブレスレット状態の時、或いはゲイザー蝙蝠が烏帽子頭巾の状態で装備されている時は魔力供給や能力発動に使える。
ブレスレットよりも、リンが付けているような足輪の方が良いかな。
腕には何もつけない方が戦いやすいだろう。
魂も憑依させれば今までにないインテリジェンス武器となる。
個別に行動したり、賢神と一体化も可能になるかもしれない。
貴重なオリハルコンを結構使うが、此処は使い所だ。
俺はじっくりと作り上げていった。
三時間くらいかかったが、満足いくものが出来あがった。
試してみたが使い勝手はいい。
きっと喜んでくれるだろう。
さて最後に、昔手に入れてすっかり使うのを忘れていた魔石を二つ取り出した。
菜乃と妃子がシャドウデーモンだった頃のヤツだ。
これを使って、俺は更に一心同体少女隊となるように進化する。
魔石は魔砂にした。
そして二つの魔砂を、俺は戦闘時の体であるオリハルコンの中に取り込む。
こうする事で、俺は更に二人と一心同体になるのだ。
簡単に言うと、二人を手足のように動かす事が可能となる。
尤も一番の目的は、俺の能力によって守る事なんだけどね。
魔砂ゴーレムは装備によって強化しづらい。
装備を付けると魔砂であるメリットが無くなるからだ。
魔砂の状態だと物理攻撃をほぼすべて無効化できるからねぇ。
その分強化しづらい欠点を、俺が直接カバーしようという訳。
一応アイテムを取り込めるよう研究はしているが、今の所は上手く行っていなかった。
「でも面白いな。俺が自由にお前たちを動かせるの」
「やめるのです!変な恰好させないでほしいのです」
「破廉恥なのね。恥ずかしいポーズをさせるのね!」
いや、ただコマネチさせただけだろ。
お前らの言葉を何処かで聞いている人がいたら、期待しちまってるかもしれないぞ。
「俺の魔力を送ってみたぞ?どんな感じだ?」
「何かいやらしい気分になってくるのね」
「なのです。策也タマがいやらしい事を考えているせいです」
「ただ魔力を分けてるだけだろうが!お前らのその発想の方がエロいわ!」
逃げる菜乃と妃子の動きは、今までと比べものにならないくらいに速かった。
「今なら策也タマに勝てそうな気がするのです!」
「そうなのね。やってしまうのね!」
いきなり二人が襲い掛かってきた。
「甘いわ!」
分け与えたのは二人合わせて俺の一割程度の魔力。
俺に勝てる訳がないのだ。
それでも二人とも倍は強くなっている。
「おかしいのね‥‥これでも勝てないのね」
「きっと策也タマはドーピングしてるです」
まあ丸薬を飲んで一度はドーピングしたけどさ。
バクゥの魂を取り込んだのもドーピングと言えなくはない。
でも意味が違うんだよ。
「お前らも今ドーピングさせてやっただろ?なのにその程度か。まだまだだね」
「悔しいのです!」
「リベンジするのね!」
こうして又も俺たちは、しばらくの間じゃれ合うのだった。

夕方俺はそれぞれのアイテムを皆に渡してきた。
余った超再生のベルトは、近くにいた山女ちゃんと夜美ちゃんに上げた。
リンが使っていたモノは総司に渡すように言っていある。
とりあえずこれで身近な人にはみんな行きわたったかな。
ただヒドラの魔石は無くなったので、しばらく次は作れない。
ヒドラの洞窟はリンとミケコに訓練用として使うように言ってあるので、またすぐに魔石はたまるだろうけれどね。
俺はみゆきや子供たちと夕飯を食べた後、ガゼボで転移の指輪を眺めていた。
一つはみゆきに渡して見てもらったけれど、やっぱり分からないそうだ。
ただ、『一つは自分が持っていた方がいい気がする』と言っていた。
それにどんな意味があるのかは分からないけどさ。
俺は指輪は異次元へと収納した。
そしてテーブルに突っ伏した。
すると菜乃と妃子が影から出て来た。
「どうしたのね?」
「暇そうなのです」
「そうだな。リンや洋裁に国の事を任せて、ミケコや汽車にアルカディアを任せて、総司や千えるに食料や商人ギルドの事を任せたら、割と俺がする事が無くなってしまった」
それは願っていた事のはずだけど、どうもスッキリしない気持ちだった。
世界は別に平和じゃない。
一時の平和に過ぎないのだ。
本当に心の底から安心できる世界じゃないと、どうやら俺はマッタリ生活をエンジョイできないのかもしれない。
俺は世界をどうしたいのだろうか。
何をするべきなのだろうか。
争いがあれば被害に遭う人はいるだろうし、かといって争わずに平和な世界は作り得るのだろうか。
少なくとも今のままだと、きっかけがあれば争いは起こる。
人間はより良くあろうとするから、必ず覇権を争う事になる。
かと言ってこれで良いと諦める訳にもいかない。
諦めたらそこで衰退が決定するからだ。
「策也タマはよく頑張ってるのです」
「そうなのね。むしろ働きすぎなのね。休める時には休んでいいのね」
「そうだな」
でもできる事は多分まだまだあるだろう。
実際に各国のトップと会って話をしたり、交流を深めたり、積極的に世界会議の開催を提案してルールについて話し合うのも良いかもしれない。
でもさ、そこは俺の役割じゃないよな。
だって俺、単なる転生者なんだぜ。
ただのリーマンだったんだぜ?
それが王様とか言われてそう簡単に変われるかよ。
ただ、あの頃よりは充実はしているよな。
自分から積極的に仕事をするとか、思ってもみなかったよ。
なんか眠いな。
このままここで眠るのも悪くない。
そんな事を思って眠る寸前、普段ここではあまり聞かない茜娘の声が聞こえてきた。
「大変だにゃ!策也は何処にいるにゃ!」
俺はその声で一気に頭が覚醒した。
俺は顔を上げた。
目の前に茜娘の顔があった。
「大変だにゃ!策也、寝てる場合じゃ無いにゃ!佐天が、佐天が‥‥何だったかにゃ?」
「いや俺に聞かれても‥‥」
でもこの慌て方はおそらくただ事ではない。
茜娘がこんなに慌てるなんて想像できなかったくらいだからな。
「そうだにゃ!佐天が、深淵の闇に落ちたにゃ!」
「なんだって?!」
「有栖川が魔界に捨てたマジックアイテムの処理をしていたにゃ。そしたら変な奴にいきなり襲われたにゃ!」
魔界には佐天でも敵わない強い奴がいる事は先日確認できた。
だったら少し対応しておくべきだったのではないだろうか。
いや、町ならすぐに連絡が来て対応できたはずだ。
「分かった!助けに行くぞ!」
俺は何を言っている?
深淵の闇の中だぞ?
本当に行くのか?
帰ってきた者はいないと云われているんだぞ?
「にゃんですと!でも策也ならそう言うと思っていたにゃ」
「当然だ!」
当然なのか?
でも思考とは別に、俺はどうやら佐天を助けたいようだ。
もう仲間は失いたくないんだよ。
それに暗黒界に行ってみたいという想いもある。
たとえ俺が帰ってこられなくても、この世界には俺の思考を持つ者が他にもいる。
みゆきだっているし何とでもなるはずだ。
騒ぎを聞いてみゆきと賢神がマイホームから出て来た。
「どうしたの策也?」
「騒がしいぞ?何かあったのか?」
「佐天が深淵の闇に落ちたらしい。だから俺は‥‥助けに行く。それでだけど、みゆきは俺のいない間、この世界を頼む」
みゆきを一緒には連れて行けない。
子供の事もあるけれど、やっぱり最愛の妻を危険な場所へは連れて行きたくないんだ。
「分かったよー!でも、ちゃんと帰ってきてね」
「当然だ。俺はちぃとチートが行き過ぎてるからな。どんなピンチも必ずなんとかする」
俺はみゆきと見つめ合った。
ああ、やっぱ可愛いなぁ。
マジで俺、みゆきを置いていくのかよ。
ずっと一緒だって決めてたのに。
いや、絶対に戻ってくるんだ。
頑張れ俺!
「策也よ。是非私も連れて行ってくれ!そんな楽しそうな所独り占めは酷いぞ!」
「えっ?マジで来るつもり?暗黒界だぞ?闇の神が住む場所だぞ?暗黒神はゲロヤバっていう噂だぞ?」
賢神の顔は輝いていた。
俺がこんな事を言った所で聞かないだろう。
それに賢神が一緒なら、生還確率は上がりそうだ。
「望む所ぞ!みゆきちゃん、君の夫は無事帰還させると約束しよう!私が付いて行けば問題はない!」
「よろしくね、賢神ちゃん」
あれれ?みゆきも普通に受け入れているし決定かよ。
でもまあなんとかなるか。
「分かった。じゃあ行くぞ賢神。茜娘、場所はサタン王国の西にあるあの場所だな?」
「そうなのにゃ!策也ならひとっ飛びにゃ」
「じゃあなみゆき!必ず戻る」
俺がそう言って手を上げ、少し別れを惜しんでいると、そこに七魅がやってきた。
「どうしたのだ?何かあったのか?」
何時ものとぼけた顔で聞いてきた。
「ああ、これから大冒険の旅に出発する所だ」
「楽しそうなのだ!策也はあたしを連れて行ってくれると約束していたのだ。置いて行くなんて酷いのだ」
「じゃあ来るか?今からだけど?」
「行くに決まっているのだ!楽しみなのだぁ~」
「そうか。じゃあ行くぞ!」
俺はそう言って、賢神と七魅と茜娘を連れて魔界へと瞬間移動した。
「おお!魔界なのだ。懐かしいのだ。それで何処に行くのだ?」
七魅がそう聞いてきた時、いきなり攻撃してくる奴がいた。
俺は七魅を抱えて攻撃をかわした。
「なんだなんだ?いきなり策也に襲われたのだ」
「違う!敵だよ敵!」
「あいつにゃ!あいつが佐天をやったにゃ!」
「ほう。なかなか強そうな奴だの。私が相手を‥‥」
いやそんなにゆっくりもしてられないんだよね。
つか賢神は疲れた状態で暗黒界に行くつもりか。
そんな事はさせない。
「バクゥの目!そして|王の命令《トマレ》!からのぉ~‥‥|終末闇裁判《デスカーニバル》プラス一閃!そしてとどめのリア充|爆発しろ《シネ》!」
「うげびぃー!」
どうやらベリアルだったみたいだが、俺は一瞬にして絶命させた。
魔石は自動回収、魂もちゃんとゲットだぜ。
「さあ敵はもういない。みんな行くぞ?ああ、茜娘はサタン王国を頼むぞ。リンとミケコに協力を頼んでもいい」
「私は連れて行ってもらえないのかにゃ?」
正直今の茜娘では足手まといだ。
「駄目だ。お前には佐天がいない間のサタン王国を守る義務がある。行きたいならいつか連れて行ってやるから」
「分かったのにゃ‥‥」
「おい策也。私の獲物を‥‥」
「急いでいるんだ。それにあっちに行けばもっといい獲物がいるさ」
「そういえばそうだな」
納得してくれたようだな。
良かった良かった。
「あいつかなり強かったのだ。策也は凄すぎるのだ‥‥」
「ん?今の七魅はそのベルトをしているから、結構今のヤツとも戦えたと思うぞ」
「本当なのだ?実はあたしは強いのだぁ~」
そもそも七魅はドラゴンだし、そのボスだし、実際に強い部類に入るんだけどな。
とにかくそろそろ行かないと、佐天が心配だ。
「じゃあいくぞ!みんな深淵の闇へ飛び込め!」
俺は真っ先に深淵の闇へとジャンプした。
「よし行くぞ!」
直ぐに賢神もジャンプする。
「えっ?深淵の闇?聞いてないのだ!」
俺は空中で答えた。
「だったら残るか?」
「いや、嫌だとは言ってないのだ。おいて行かないでほしいのだ!」
七魅も深淵の闇へとジャンプした。
いやまさか本当に付いてくるとは。
臆病なのか勇敢なのか分からないな。
勢いに乗せられただけかもしれないけれどさ。
「みんなバイバイ!」
「ひゃっほーい!」
「待ってほしいのだー!」
「おかしいにゃ‥‥なんだか楽しそうだにゃ。暗黒界は天国だったのかにゃ?」
こうして俺たちの、暗黒界での冒険が始まるのだった。
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