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作戦成功?武尊との戦い!

百聞は一見に如かず。
人から聞いた事だけで知った気にならず、自分で体験して確認せよって話。
俺はそれを大切にしてきたつもりだったけれど、忙しさの中で思いっきり怠っていた。

俺は夢を見ていたようだ。
それも転生する前の夢。
妻が最初に書いた小説の中に俺は溺れていた。
ただラスボスを倒すだけの話でも、その色は俺を染めてゆく。
ラスボスは強大でレベルがカンストしても倒せない。
主人公はアーティファクトを使って敵を撃ち滅ぼしていた。
「夢か‥‥」
なんとなくこれから挑む戦いを思わせるな。
そうすると、この作戦は上手く行くと言う事だ。
俺はベッドから飛び起きた。
魔法の解析をしてから眠る日が続いているので、夜はずっと専用個室にこもっていた。
武尊を迎え撃つ準備はできていた。
そしてもう間もなく武尊が有栖川を全て飲み込む。
有栖川の王族のほとんどは、既に国外に避難しているらしい。
流石に此花には来なかったな。
情報は皇からのものだ。
俺はいつも通りガゼボに行った。
「おはようございます、策也様」
「神功、おはよう」
毎日コンピュータのような人ではないモノと挨拶していると、少し自分がヤバい人にも見えてくる。
先にみゆきや子供たちと挨拶していなかったら、寂しい王様だよな。
「いくつかニュースがありますが、ご覧になられますか?」
「いややめておくよ。金魚が可哀想だからな」
俺が会社の上司だったら、メチャメチャ優しいよな。
社員が進んでやっている仕事を奪ったりはしないのだ。
さて、そろそろやってくるだろう。
屋敷の玄関のドアを開く音が聞こえてくる。
そしていつもの足音だ。
今日は少し慌てているようだ。
これはきっと何かが起こったな。
「こら金魚!今日は眠いから起こさないでほしいって言ってるだろ!」
「でも早起きは三文の徳なんだよ。いい加減起きるんだよ!」
なんだよ‥‥。
こういう日に限って夫婦喧嘩とかしやがって。
金魚の足音が早かったのは逃げていたからかよ。
全く、こんな事ならさっさとニュースを見ておけば良かったな。
「神功!ニュースを頼む」
「イエッサー!そんな日もありますよ」
「そうだな」
俺は映し出されるニュースタイトルを見た。
『有栖川の領土が全て九頭竜の領土へ!いよいよ世界が次の時代に?!』
とうとうやっちまったか。
となると早ければもうなん時間後には東郷への侵攻が開始される可能性があるな。
「おいコレ、かなり急ぎのニュースじゃね?」
「そうですね。でも策也様なら一時間もあれば準備ができるかと」
その通りだけれど、みんなは心の準備とか大丈夫かよ。
むしろ俺の心の準備がまだなんだけどさ。
前世の夢とか見ちまってスッキリもしないし。
まあでも夢占いみたいなものがあるとしたら、必ず作戦は成功するだろう。
それに間違いはない。
そういう予感もあるからな。
「全く洋裁さんは‥‥せっかく起こしてあげたんだよ」
「まあ戦いには行きたくないよな。毎回死ぬ役だし」
「そうなんだよ!大変なんだよ!ニュースを‥‥」
金魚は、既に表示されているニュースに気が付いた。
少し寂しそうだった。
そんなに寂しそうな顔をされると、俺が極悪人みたいじゃないか。
「飴ちゃんやるから元気出せ」
俺は飴玉を一つ金魚に手渡した。
「分かったんだよ‥‥」
金魚は飴を口に放り込んだ。
「神功!作戦に参加する全員に通達!今から一時間以内に配置に付くように!」
「イエッサー!」
さて、切り替えていくぞ。
テンションが上がらないなんて言ってはいられない。
「金魚、洋裁を連れて来てくれよ!」
「分かったんだよ。任せてほしいんだよ」
良かった。
飴ちゃんでなんとかなったな。
では俺はみゆきと子供たちを連れて行くか。
一応愛のパワーの試運転も兼ねているし、みゆきには大和を結界で守る役割がある。
元々大和には、水中に潜る時の為に大きな水圧にも耐えられるだけの結界魔導装置が付いている。
それを利用してみゆきには大和を守ってもらうのだ。
ソーラーレーザーの指揮を執るのはエルで、発射や操作は風里に一任する。
こういうギリギリの戦いの中で、最もタイミングと操作をミスしないのは風里だろう。
太陽エネルギーは一発分しかためておけないからな。
山女ちゃんは基本自由行動で、何かあれば好きに行動してもらう。
武尊をなんとかする役割は、俺以外にはいつものオリハルコンメンバーだ。
洋裁、うらら、夕凪、駈斗、賢神、そして今回はパワーアップをしたゆかりも参加してもらう。
パワーアップする為の超再生のベルトを作る為に必要な魔石は、エルが持っていた魔石を譲ってもらった。
佐天の前の代のサタンの魔石だった。
流石エルフ、ええもん持ってましたなぁ。
後は俺をパワーアップさせる係と、みゆきと一緒に大和を守る係となる。
果たしてどれくらいパワーアップできるかねぇ。
予定通り準備は整い、一応東郷の島の周り全てを監視させて俺たちはただ武尊が来るのを待つのだった。

俺は一人上空で待機した。
一人と言っても当然一心同体の少女隊プラス妖凛は傍にいる。
「おい菜乃!お前はまだ面白い話をしてくれてなかったよな。何か話してくれ」
「なんなのです?いきなりなのです」
「でも確かにその通りなのね。面白い話が聞きたいのね」
(コクコク)
「分かったのです。面白い話をするのです」
思ったよりも素直に話すんだな。
もう少しごねると思っていたけれど、もしかしたら本当に面白い話を持っているのかもしれない。
「何か面白い話があるようだけど、ウンコネタは禁止だからな。ミノのウンコを食った話はもう知ってるしな」
「そんなの話さないのです。ちゃんと面白い話なのです」
「そうか。なら話してくれ」
期待はできないけど、まあ暇つぶしにはなるだろう。
「実は私、昔コンビニでバイトをしていた事があったのです」
「そうなのね。私もやっていた事あるのね」
いやそれおかしいだろ?
そもそもこの世界にコンビニなんてないぞ?
「毎日毎日いらっしゃいませいらっしゃいませ。正直頭がおかしくなるのです」
「ありがとうございましたって、全然ありがたくなかったのね。客が来ない方が楽なのね」
そうだよな。
俺も某ファストフード店でバイトしていた事があったけど、ぶっちゃけ『いらっしゃいませ』と『ありがとうございました』は人生で最も声に出した台詞に違いない。
「ある時私はハンバーガーショップで食事をしていたのです」
「いつ行ったのね?私は誘ってもらってないのね」
この世界にもハンバーガーショップはあるけど、店内で食べられる店はあったかな?
「そしたら食事を終えたお客が店から出て行く時、つい『ありがとうございました』って言っちゃったのです」
「それ俺の転生前の話やんけぇー!」
「策也タマの話は自分の事のようなのね」
こいつら俺の記憶を勝手に見やがって。
「他にもあるのです。野球をしていた時の事なのです」
「知ってるよ!『ばっちこーい!』って言う所を『いらっしゃいませ』って言っちゃったよ!それ俺だよ!」
「その通りなのね」
俺の恥ずかしい過去を暴くのは止めてくれよ。
「他にも友達と泊りがけの旅行に行った時の話なのです」
「ああそれな!夜中に寝ぼけて『ご一緒にポテトはいかがですか?』って言っちゃったよ!」
「その話じゃないのです。顔も尾も白い猫を見たって話をしようとしたのです」
俺自爆かーい!
「策也タマは結構黒歴史が多いのね」
今自覚させられたよ。
人間探せば案外黒歴史ってあるもんだよな。
さてそんな話をしていたらとうとうやってきたようだ。
思ったよりも早い。
『来たぞ!戦闘準備だ!』
俺はテレパシー通信でみゆきに伝えた。
『了解!伝えておくねー!』
そこから大和にいる全ての者へと伝わる。
外で戦う者が飛び出して俺の周りに集まってきた。
「はははは!ようやく来たか!何処までやれるか分からんが、精一杯やろうぞ!」
「自分は適当にやるっすよ‥‥」
「頑張るであります!」
「うららも、頑張りまーっす!」
「妄想だと‥‥勝ってる‥‥」
「相手に魂をなんとかするような能力がない事を祈りますよ」
確かに駈斗の言う通り、そうなんだよな。
でもそこは一応劉邦に警戒はしてもらっている。
妖凛もいるし大丈夫だろう。
俺の思考でもその辺りは警戒しているしな。
予想通り西から、武尊は一人でやってきた。
「勝てる算段は立てて来たか?」
実際に会うのは初めてだが、これはちょっとマズくねぇか?
「そんな事しなくても勝てる可能性はあると思っていたよ」
思っていたけど、今はかなり不安だよ。
なんだよこの魔力の桁違いさは。
禍津日神に近い魔力があるんじゃねぇか?
俺は賢神を見た。
(おいどういう事だ?俺の倍くらいの魔力じゃなかったのか?)
(強そうだの。血がたぎるぞ!)
全然伝わってなさそうな表情を返された。
賢神は頭がおかしいわ。
「しかし‥‥俺を相手に空で戦うつもりなのか?」
「なんだ?何か不都合でもあるのか?」
「ふむ。ちゃんと敵の事は調べておかないと、勝てるものも勝てなくなるぞ?尤も、最初から勝てる可能性はゼロだけどな」
そう言って武尊は指を鳴らした。
すると一斉に空にいた仲間たちが落下を始める。
「おお?はははは!魔法が使えないぞ!?」
「これ、駄目な奴だ‥‥」
「自然落下であります!」
「うらら、飛べませーん!」
「妄想では飛んでる‥‥」
「これはアレです。魔法を封じられています」
これは、武尊の力か。
俺はすぐに魔法を妖精魔術に切り替えてその位置を維持した。
なんて横暴な力なんだ。
魔力によって精霊魔術や他の魔術まで力技で封じてきた。
劉邦のドラゴンの英知は、相手の魔法を無効化して封じるものだ。
でもそれは、『技術的』に封じるもの。
武尊のは『力技』で封じて来る。
圧倒的魔力を持った者にしか使えないやり方って訳だ。
そしてそれを封じようとしても、力技で返されて封じる事ができない。
「凄いな。俺の力に抗えるのか。妖精魔術か」
「よく分かったな。妖精魔術は元々人間の干渉を受けないものだから、流石に力技では止めらないようだな」
とはいえギリギリだぞ。
並みの妖精魔術使いならそれでも封じられていただろう。
こんなヤツ相手に勝てるのか?
一応決め手に用意したソーラーレーザーは通用しそうだ。
アレは大和に設置してあって、みゆきたちの結界で守られれている。
流石にこいつでもすぐにあの結界を突破はできない。
でも早くなんとかしなければいずれは突破される。
「だからと言って、俺とお前では力に差があり過ぎるように見えるが?お前は色々な能力を持っていると聞いているが、妖精魔術に限定されては戦えまい」
その通りだよ。
だから今必死にほとんどの思考を動員して、能力の妖精魔術化を行っている所だ。
なんで先にやっておかなかったかなぁ。
やっていたとしても全部は無理だろうけれどさ。
つか何より、こいつがこんなに強くなっているのは計算外だ。
実際に自分で確認しておくべきだった。
とりあえず封じられているのは外部に対しての魔法だ。
自分自身の中で完結するものだけでしばらくは戦うしかない。
「別に妖精魔術だけじゃないだろ?体の強化はできるみたいだぞ?」
「フッ‥‥。そんなものが役立つと思っているのか。おめでたい奴だな。ではそろそろ死んでもらうか。お前も単なる通過点。道に落ちていた石ころ程度だったよ」
来るか。
もう少しマッタリ話を続けたかったが、こりゃ駄目だな。
俺は超高速移動で横へと移動した。
次の瞬間元いた場所に武尊が移動しパンチを繰り出していた。
速過ぎる。
俺の超高速移動と同じくらいの速さを素の肉体で出せるというのか。
次の瞬間、俺たちの戦闘は始まっていた。
パンチやキックの打ち合いは互角か。
こちとら色々な能力でパワーアップしてるんだぞ。
しかもみんなから多少なりとも魔力を貰っている。
それでこれとか、みんな海に落ちたけどそれで良かったよ。
いても何もできない。
そして、相手は魔法も使える訳で。
「うおっ!ヤバいヤバすぎる!」
瞬時にあの混沌除ノ異子や小鬼嘆のような魔法が襲ってくる。
アレを食らえば俺は消滅してしまって魂だけになるだろう。
こんな奴倒せるのか?
とにかく俺は俺の役割を成し遂げよう。
少しでも動きを止められたら、風里が狙い打ってくれるはずだ。
しかし突破口が見当たらない。
そう思った時、山女ちゃんが武尊の背後から武尊を羽交い絞めにしていた。
気配を断って隙をついたか。
しかも大和からジャンプして此処まで来たとか、流石に山女ちゃんだが‥‥。
「今です!」
いやちょっと待て。
流石に山女ちゃんだけじゃ無理だ。
今ソーラーレーザーを撃っても逃げられる。
つかそんな事したら山女ちゃんが、死ぬ?
だから待て待て、それは駄目だ。
そんな事を思いながらも、俺はその一瞬の隙を利用して武尊に前から抱き着いて取り押さえた。
なんとか妖精魔術でも使えるようになった魔法と、一瞬でも発動できればいい動きを封じる為の能力を全て解放した。
「止まれ!海老だもん!」
それ以外にもエア神通力や体を強化する魔法を使って動きを封じた。
(えびだもん)
影の中から妖凛も抑えるのを手伝ってくれている。
さあ今だ風里。
いや駄目だ山女ちゃんが。
そう思うのだけど山女ちゃんがなんとか作ってくれたチャンス。
魂さえ回収できればいい。
回収できるのか?
全ては一瞬の出来事だった。
妃乃が山女ちゃんを影の中へと引き入れた瞬間、ソーラーレーザーが俺と共に武尊を打ち抜いた。
妃乃がやってくれたか。
そして風里はよく撃ってくれた。
しかし山女ちゃん無茶しすぎだよ。
危うく泣いちゃう所だぞ。
でもこれで武尊は‥‥!
俺は今、ソーラーレーザーによって気化したオリハルコンの体を再び元の形へと戻していた。
それとは別に、同じように体を形成してゆくオリハルコンの塊が目の前にはあった。
「これで倒せると思ったのか?なめてもらっては困るぞ」
そりゃそうだな。
ゴーレム蘇生は既に知られたものだったし、武尊ならこれくらいできて当然か。
これは勝てない。
力が違い過ぎるよ。
武尊が何かしようとしていると感じた。
おそらく俺の魂を葬り去るような、先ほどの魔法を食らわせようとしている。
かわす事はできない。
そう思った瞬間、俺の体は何処かに飛ばされた。
瞬間移動魔法か?!
俺はマイホームのベッドの上だった。
「全く無茶な戦いをする人ですね。仕方がないので兎白が助けてあげます。感謝してください」
兎白の力か‥‥。
なるほど、神の使いの能力は使えたのか。
「サンキュー兎白」
「素直にお礼を言うのは策也さんらしくありませんね。むず痒いのでやめてほしいです」
「そっか‥‥でも助かったよ」
「背中が痒いのですー!」
兎白は必死に背中に手を伸ばしながら悶えていた。
あれ?でもみんなは?
「みんな大丈夫ですよ。すぐに海に潜って退散してるのです」
影から少女隊たちがでてきた。
「山女は無事なのね」
「私たちのおかげなのです」
「ありがとうございます。助かっちゃいました」
(コクコク)
助かっちゃいましたじゃねぇよ。
マジで泣きそうだったわ。
俺は起き上がって兎白と山女ちゃんを抱きしめようとした。
「あれ?」
「まだ下半身が戻ってきてないのね」
「距離にして一万キロ以上離れているのです。体が復活するには多分一時間くらいかかるのです」
俺の下半身が無いだと!?
一時的とは言えなんか凄く嫌だな。
「という事は、今なら策也タマに勝てるのです」
「日頃の雪辱を果たすのね」
「うわっ!お前ら!」
まあ上半身だけでもこいつらに負ける訳ないんだけどさ。
俺たちはしばらくの間、ベッドの上でプロレスを楽しむのだった。
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