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決着!策也とみゆきは神の領域へ

日本という国は二千七百年近く続いている。
それは世界一続いている国家だ。
しかもダントツの一位。
世界中の人が呆れるほど凄い事である。
でも実際に二千七百年も続いているのかと言えば、もちろんそうではないだろう。
研究や口伝など色々と情報を集め分析した結果、おそらくはだいたい二千年ほどらしい。
それでも凄すぎて世界がひっくり返るほどだけどね。
そう教えてくれたのは、現代も続く『|武内宿禰《タケノウチノスクネ》』の後継者だ。
武内宿禰は古くから天皇に仕える者である。
その人曰く、昔は一年を二回に分けていたそうな。
春秋歴とか月読暦とか言うのだそうだ。
だから古事記にある年齢や年月は半分と考えられるらしい。
そうすると、日本が始まったのは今から二千年くらい前だという計算になる。
嘘か本当かは分からないけれど、俺は『武内宿禰が言うなら』と信じる事にした。
なんせずっと天皇に仕え続けた者たちだからな。

もうどうすればいいのか分からなかった。
皆が頑張ってくれている中、俺はただ終わりを待っている気分だった。
でも未来は別に闇ではない。
まだ何かが起こる。
まだ何かが起こせる。
まだだ、まだ終わらんよ。
空に赤い彗星が見えた気がした。
俺は勝利を三回願った。
その時、突然禰子からテレパシー通信が入った。
『お兄ちゃん!望海ちゃんが西園寺邸で昼寝中だって!』
何を言っているんだ禰子。
この時間ならよくある事‥‥そうか!
『禰子!ありがとう!』
『頑張ってね!』
俺はすぐに兎白にテレパシーを入れる。
『兎白!今すぐ望海を連れて家に戻ってこい!』
兎白とはテレパシー通信はできないが、一方的にテレパシーを送る事はできる。
俺はとにかくメッセージを伝えた。
『早くしろ!一分以内だ!担いでも何でもいい!とにかく戻って来てくれ!』
この難局を乗り越える手は、もうこれしか残されていない。
禰子が俺に伝えてくれた。
禰子が望海しかないと考えた。
禰子の事を俺は信じている。
二千年前から信じているのだ。
そして、だからこそ今も世界は続いているのだ。
俺の中に流れている天皇の血は、宿禰を信じるシステムを標準搭載している。
前に『日本人ならほぼすべてに天皇の血が流れている』って話をしたよね。
俺はまだ神になっていない神の子だ。
禰子はきっと宿禰になっていない宿禰の子だ。
此処を乗り越えた先に、俺が神になる世界が待っている!
俺は霧島の姿へと変化した。
フレイムドラゴンの里に、望海をお姫様だっこした兎白が帰ってきた。
「いきなりなんですか策也さん!兎白たちは気持ちよくお昼寝‥‥ん?何やら明かるいですね?太陽が十個くらいに増えたみたいです。凄いプレッシャーです。なんですかこれは!?」
「眩しいの。何かが変なの」
兎白の相手もしてやりたい所だが、今はそれどころではない。
「望海!霧島はピンチだ!助けてくれ!」
「えっ?霧島がピンチ?望海が助けないと駄目なの!」
望海の能力。
それは好きな者の魔力を跳ね上げる能力だ。
前に霧島で実際に魔力を得て戦った事がある。
確かにあの時は凄い能力だと感じた。
でも正直、それでクトゥルフを倒せるほどの魔力が得られるとは思えない。
所詮は人間の力だ。
クトゥルフを倒せるような力なら、西園寺が既に世界の覇者となっていただろう。
そんな事は分かっている。
それでもだ。
禰子が伝えてくれた。
そして兎白が連れて来てくれた。
兎白は最高の女を連れて来る神様なのだ。
何も起こらない訳がない。
きっと何かが起こる。
次の瞬間、俺の魔力が一気に跳ねた。
跳ねたと表現したが、実際は魔力の容器が一気に膨張したような感じか。
思った通り増えた魔力は些細なものだったが、伸縮を繰り返してきた俺の魔力容器は僅かな魔力でも爆発的に大きくなった。
そして元々あった魔力を大きく引き伸ばした。
これは‥‥神の領域か。
勝てる!
これなら百パー勝てるぞ!
賢神笑いがこみあげてきた。
「はははは!みんな下がっていろ!後は俺が片づける!」
俺はやっぱり賢神の親戚か。
「はははは‥‥流石の私もそろそろ限界だったぞ。後は頼んだ‥‥」
賢神は持久力無いくせによく頑張ってくれた。
「自分も下がるっす」
洋裁は死ぬのが仕事だけど、今回は生きていてくれ。
「近くで‥‥見ていていいですか?」
こんな時まで夕凪は何を言っているんだ?
マイペース過ぎるだろ。
「お、おう。少し後ろならな」
俺も何許可しているんだ?
甘い‥‥甘すぎる。
でもそれくらいの方が俺の戦いらしい。
「私は下がっておきますよ。怖い怖い」
駈斗は夕凪の旦那だろ!
少しはコントロールしろよ。
「うらら、下がりまーっす!」
はい、素直でよろしい!
これでとりあえず準備は整った。
みゆきもそろそろ限界のようだ。
普通のアニメやなんかだと此処で引っ張る所だが、俺はリアリティを求める漢だからな。
素早く仕留めてしまうぜ!
レヴィアタンの火炎旋風と仁竜の超絶ブレスの合わせ技!
「超絶!(ドーン!)火炎ブレス!」
俺は炎のブレスを口から吐いた。
ドラゴンブレスは一キロ先にまで届く。
七魅のブレスは今や百キロも超えるだろう。
そして俺のは一万キロだって届くかもしれない!
俺の吐いたブレスが旧神を襲う。
庇うようにヨグソトースが立ちふさがった。
馬鹿だな。
クトゥルフならこれにも耐えられただろうに、ヨグちゃんじゃ相性最悪で消し炭コースよ!
避けられても困るから旧神を狙った訳だけどね。
超絶火炎ブレスがヨグソトースを焼いてゆく。
焼き邪神って美味しいのだろうか。
俺は程よく焼けた所でブレスを止めた。
「妖凛、食いたいか?」
(コクコク)
「ホラ行け!」
俺の掛け声に妖凛がヨグソトースに飛びついた。
一瞬にしてヨグソトースをアメーバ状となった妖凛が包み込む。
ヨグソトースは徐々に溶けていって、間もなく消えた。
「魂は回収させていただきました兄上様!」
「うむ。良きかな良きかな」
「貴様!何故?どうしてそんな魔力を?」
旧神は既に里への攻撃を止めていた。
それに合わせて里の結界も解かれた。
間に合ったな。
「何故何故何故?どうしてかなぁ~?それは俺らも知りたとこさ」
いや知ってるけどさ。
※世界昔話の曲ネタだよ。
つっても分かるのは俺だけだな。
「あり得ない。その魔力あり得ない。何がどうなっている?」
「俺も正直此処まで強くなれるとは思ってなかったよ。ただお前を倒す為に諦めず修行し続けた。それがさっき開花しただけの事」
「ははは‥‥人間とは恐ろしいな。偶にこういう奴が現れて神になる‥‥」
あらこいつ、流石に邪神だ。
その辺りの事は知っているのね。
「そういう訳だ。おとなしく降参しないか?まあ流石にそのまま生かしてやる事はできないけどさ。蘇生して俺の人形として仲間にしてやるぞ?」
「無理だな。俺はお前に一度は提案したはずだ。三国で世界を支配しようと。小国を全て一掃しようと」
「それが何か関係あるのか?」
全く意味が分からないんだけどさ。
「どうして俺がそんな提案をしなければならなかったのか。このままじゃこの世界が別の奴に支配されると思ったからだ」
「別の奴?」
「その内お前も知る事になるだろう。奴の存在を。俺は奴には抗えなかった。今此花策也は本当の意味で神の領域へと足を踏み入れた。しかし奴は神の領域で更に力を高めている」
なんだかよくわからないけれど、旧神はそいつに従って行動していたという事なのかな?
そしてそいつの力は俺や旧神よりも更に上。
もしかしたらそいつは、俺が倒すべきこの世界の悪い神様なのかもしれない。
「そいつは今どこにいるんだ?」
「さあな。これ以上策也には教えてやらんよ」
まあ殺してスマホにして聞くか。
厄介な能力も持っているみたいだけど、スマホなら全部封じて何でも聞けるからね。
「じゃあそろそろ終わりにするよ」
「勝った気でいるようだが、俺もただでは殺られないけどな。キーン!」
いきなり旧神は不快な声で叫んだ。
ジャージーデビルのよりも更にヤバい声だけれど、既にお前の能力は全て解析済みなんだよね。
音は空気の振動な訳で、真空エリアを作る事で防げるんだよ。
では倒してしまうか。
クトゥルフは水属性だから風属性の攻撃に弱いんだよね。
ならばレッドブルーライトニングとロイガーツアールの合わせ技。
「ん?名前が思いつかないな。もう『適当!』でいいや!」
俺の魔力は一気に凝縮され、旧神に向かって放たれた。
適当魔法はクトゥルフを襲う。
「まだまだやられんぞ!そんな魔法に当たるかよ!」
いやこれ、適当だけど追尾式魔法だし。
それに一瞬お前の動きを止めるくらいなら、いくらでもあるんだよな。
「(えびだもん!)」
ホラね。
しかし妖凛、『えびだもん』好きだよな。
なんか可愛い女の子が「えびだもん!」とか言うと更に可愛いよね。
「うおぉっ!グハッ!」
俺の魔法が旧神を捉え、更にそこから焼きミンチにしてゆく。
流石に苦手属性の魔法をこれだけの魔力でぶち込まれたら虫の息だろう。
「ふはははは!この程度か?ならば奴には絶対に勝てないぞ。魔力ほどの力を感じないわ」
そりゃな。
魔力容器を強制的に大きくして魔力を大きく見せているだけだからな。
思ったよりも若干威力は落ちるんだよ。
でもお前を行動不能にするくらいの威力はあるだろ?
そこから‥‥。
「友愛、友愛、友愛、友愛」
山女ちゃんの友愛がお前を地獄へ送り届けてくれるさ。
間もなく四本のレーザービームがクトゥルフを串刺しにした。
でもまだ旧神は生きていた。
流石にしぶといな。
やはり最後は食わないと駄目か。
「妖凛、食っていいよ」
(バァ!)
満面の笑みを浮かべた妖凛が、アメーバ状となって旧神を包み込んだ。
溶けてゆく旧神。
そこにあった姿は、小さくなってやがて消滅した。
ようやく終わったな。
俺は一気に気が抜けた。
すると俺の影から、菜乃と妃子が飛び出してきて妖凛の方へと向かって行った。
何かあるのか?
「魂は私がゲットするのね」
「嫌なのです。妃子には渡さないのです」
「クトゥルフの魂をゲットしたら英雄なのね」
「私も英雄になりたいのです!」
なんだかよくわからないけれど、最後は仁義なき魂争奪戦で幕を閉じたのだった。
勝者は結局ミケコだった。

戦いの後、菜乃と妃子は拗ねていた。
俺は元気づけようと、超再生のベルト・ベルフェゴールバージョンを二人にプレゼントした。
一つしかないので、妃乃へという事でね。
妃乃に合体した後、人間バージョンへと一度変化する。
その状態でベルトを付けて魔砂ゴーレムに戻る事で、装備を本人の一部として吸収する。
更に分裂する事で、それぞれがベルトを装備した状態の能力を手に入れる事ができた。
なんてご都合主義なと思わなくも無かったけれど、この世界はそういう世界なのだ。
よく分からないけれど都合よく行くのだから仕方がない。
そんな訳で菜乃と妃子も機嫌を直してくれた。
「チャンピオンベルトなのね!」
「勝者の証なのです!」
「はいはい良かったね」
俺は結局何もしなかった二人の頭を、グリグリと撫でてやった。
撫でたよね?

その後疲れていた俺はマイホームへと戻ってベッドに倒れ込んだ。
ぶっちゃけ疲れましたわ。
他の皆も疲れていただろうけれど、後の事はみんなにお任せした。
夢の中では何故か転生前の嫁がでてきた。
嫁も俺の勝利を祝ってくれているようだった。
目が覚めると既に次の日の昼だった。
それでもまだ眠かったが、眠い目をこすりながら俺専用の部屋にあるマジックボックスを立ち上げて、メールやニュースを確認した。
メールは禰子や駈斗から届いており、国内の状況報告や戦争の終結を伝えるものだった。
有栖川からも正式に終戦を求める文書が届いたらしい。
その辺りはリンが良きに計らってくれたようだ。
有栖川は、元の有栖川一族が国を継ぐ事となっていた。
正直今の情勢でこれ以上統治する領地は増やしたくなかったから本当に良かったよ。
尤もただ一方的に攻められて、こちらも無傷という訳では無かったから、一部領土の割譲を有栖川の方から提案してきていた。
場所は中央大陸にある飛び地。
此処は今回の戦争工作にも使われた場所で、住民たちもかなり振り回された場所だ。
今後の統治という意味ではかなり厄介に思える。
特に有栖川にとってはね。
だから此処の割譲を提案してきたのだろう。
此花も住民と多少の対立は想定されるが、有栖川に任せるよりはマシと考え、直ぐにリンへ受け入れるようテレパシーを送っておいた。
リンとは通信はできないので、一方的に伝えるだけだけどね。
部屋のドアをノックする音が聞こえた。
ノックの仕方からみゆきだとすぐに分かった。
「起きてるよー!」
ドアがゆっくりと開けられた。
そこには菊花を抱いたみゆきが立っていた。
「おはよう!なんとかなって良かったね!」
「おう!まあ俺たちの未来が潰される事は無いって分かっていたけどな」
未来を見る能力がどれだけ信頼できるものなのかは分からないけれど、前向きな気持ちで行動できるだけでもありがたい能力だ。
もちろん、こういった能力だけに頼ったら四十八願のようになっちゃうだろうから気を付けないとね。
みゆきを見ると、少し複雑な表情をしていた。
「どうしたみゆき?」
「ううん。何でもないよ!戦いが終わって気が抜けちゃったんだと思う」
「そっか‥‥」
昨日はみゆきがこの場所を守ったんだよな。
時間にして十五分くらいだったかもしれないが、死と隣り合わせの時間は長く感じただろう。
自分は死なないけどさ。
俺は立ち上がってみゆきに歩み寄り、菊花と一緒にみゆきを抱きしめた。
「昨日は大変だったな。ありがとう。みゆきがいなかったらみんな今頃は死んでいたかもしれない。よく頑張ったな」
「うん‥‥」
俺たちはしばらくそのまま抱き合っていた。
頑張って良かったよ。
もしも負けていたら、今この時間は無かったのだから。
しばらくして、みゆきはいつものみゆきに戻っていた。
「そうだ!汽車くんが報道どうしようかって言ってよ!」
「報道ねぇ‥‥」
勝った所は見せておきたいような気もするし、でもあの場所での戦闘を見せると場所がバレる心配があるな。
いや、既にだいたいの所はバレているだろう。
あれだけの魔法がぶつかっていたのだから、遠くからでも見えたはずだ。
だったら隠していても仕方がない。
フレイムドラゴンの里での生活は快適だったけれど、住まいは別に移すかな。
俺はすぐに汽車へとテレパシーを送っておいた。
『望海の事は分からないように、後は好きに報道してくれ』とね。
そうと決まればさっさと引っ越しの準備をしなければならない。
クトゥルフも倒した訳だからこのままでも脅威なんてなさそうだけどね。
でも旧神は別の強敵、おそらくは倒すべき神の存在を示唆していた。
そいつが襲ってくる可能性が無いとは言えない。
引っ越し先は何処にしようか。
安全で見つからない場所と言えばあそこしかないだろう。
俺は早速引っ越しの準備を始めるのだった。
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