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世界ルールの変更

誰かの陰謀が、自分たちにとって良い結果をもたらす場合がある。
そう思った後に、それが間違いだったと思う事もある。
望海が襲われた事件が誰かの陰謀だったのかどうかはハッキリしていないが、さてここから続く展開は好転か暗転か。
俺はこれからその先を決める会議に、神武大聖として出席する事になった。
この世界の世界会議は、住民カードを使ったリモートで行われる。
通常はダイヤモンドカードを持った皇族王族の代表三十四名と、その推薦を受けたプラチナカードを持った貴族それぞれ一名の、合計七十二名で執り行われる。
これはもちろん最高人数で、推薦しなくてもいいし、どちらかが欠席したり、両方とも出席しない事だってあり得る。
会議で多数決を取る場合、或いは満場一致で何かを決める時は、皇族王族の三十四名の投票となる。
その時、脅迫や賄賂、取引など何でもありで、主に伊集院、有栖川、九頭竜、三ヶ国の意向が反映される事が多い。
そんな会議に今回から神武の国の代表として、神武大聖の参加が決定していた。
更に俺はエルフ王国スバルの国王エルグランドを推薦して参加させていた。
本来推薦は貴族のはずだが、人間社会でのエルグランドは『貴族相応』の立場であり、参加が認められていた。
会議の議題は、世界ルールの一部を変更するかどうかである。
この話を持ち込んだのは有栖川で、まずは有栖川の発言から始まった。
「先日、オーガである風里氏の処遇について話し合い、今まで通り自由に活動できるようにする事が決定した。我々はそれに反対はしていたが決定にとやかく言うつもりはない。ただ、気になる事が一点あってその確認と、今後について話し合わねばと思い集まってもらった」
おいおい、リモート会議だっていうからそのまま受け止めていたけど、みんな顔は黒塗り、名前も伏せている奴らばっかりかよ。
まあ神武の国の代表は俺だけだし隠す必要もないけれど、なんだか納得いかねぇぞ。
「気になる一点とはなんでしょうか?」
議長は皇家の代表が務めるようだ。
それにしてもなんで俺が参加できるんだろうな。
推薦したのは有栖川っていうじゃねぇか。
「気になる一点というのは、此花麟堂率いる勇者パーティーに、どうやって風里氏が入ったのかという事だ。お互い干渉し合えない中で仲良くなるきっかけなんて作れないはずで、もしも此花麟堂から何かしらのアプローチをしていたなら、それは罰しなくていいのだろうか」
ああなるほど。
それで今回リンが必ず出席するように使命されていたのか。
「その辺りどうなんですか?麟堂氏」
「何時何処でといった話は他国の守秘義務に違反するので話せませんが、簡単に説明しますと、人間とオーガとの間に争いが起こりそうな場面に出くわしまして、それを止める為に間に入って話を聞いたのがきっかけでした」
「なるほど。その時に人間ではなくオーガと仲良くなったと?」
有栖川、嫌味な感じだな。
「この争いの原因はそれまでに我々が突き止めていて、両方が被害者である事が分かっていました。人間側の方は私が王女だった事もあり説得は楽でしたが、オーガの方は時間がかかりました。話を付けるのに時間がかかった分、理解も深め合えたわけです」
「その話は冒険者の間では有名な話だな。嘘ではなかろう」
伊集院が味方してくれるとなんか妙な気分になるな。
でもついこの前英雄として持ち上げた分、直ぐに否定は難しいのだろう。
人を支持するのはリスクになり得るって云われるけれど、納得納得。
「伊集院がそうおっしゃるなら信用しよう。いや、これはただの確認だったので気にしないでほしい。それで皆に考えてもらいたいのは、今後のオーガとの関係についてだ。風里氏は例外と決められたが、今後このような事が続いた場合どうするのか?或いは本当に今のままでいいのか?」
「有栖川は世界ルールを変えるべきだとおっしゃるのか?」
九頭竜か。
正直この国の事はまだまだよく分からないんだよな。
噂ではかなり好戦的で多くの国と敵対しているって話だけど、今の所表向き悪い印象は持っていない。
魔法通信を盗み見しているとか、魔法通信ネットワークに必要な三種の神器の一つを奪ったとか、悪い話は聞くけどね。
「そうだな。例外を認めるくらいなら、いっそオーガとの項目をすべて削除したらどうだろうか。国民感情に配慮するなら各国各々が対応すればいいだけだ。神武国やエルフ王国スバルではオーガを受け入れると既に公表している。そうだったな?」
えっと‥‥
何か話した方がいいのか?
「どうなんですか?神武は?」
皇議長ナイス。
指名してくれると話せるよね。
「ああ。俺たちは悪魔や妖精も含めて、全てのヒューマンを受け入れる。更に知能が高く精神の落ち着いた魔物もだ。ぶっちゃけ人間よりもみんな穏やかだぜ」
「神武はこうおっしゃっている。魔物や悪魔と上手くやっていけるかはともかく、このまま世界が続くとどうなるか。みんな想像できるだろ?」
このまま世界が続くと、か。
美しく考えるのなら、やがては全てのモノが共に暮らせる素晴らしい世界になる、なんて話になるのかもしれないけれど、今の有栖川の云い方は違うな。
俺たちだけがあらゆる戦力を取り込み、いずれは人間に牙をむくのではないかと、そんな所だろう。
「少し個別に話せる時間がほしい」
「こっちもだ」
「私もです」
「では、今から一時間個別会議時間を設けます。一時間になる前にこちらに戻ってきてください」
ふぅ~‥‥
結局世界会議といっても、主に伊集院と有栖川なんだよな。
この一時間の間に、有栖川があらゆる手を使ってこの話をまとめようとするのだろう。
それにしても変な話だよな。
オーガを嫌っていると思われていた有栖川が、オーガを受け入れようとしているなんて。
全然考えが分からない。
いや、世界ルールが無くなれば、大手を振ってオーガに戦争を仕掛けられるとか?
まさかね。
そんな事をしたら全オーガは神武国に集結だ。
そして我が国にはエルフ王国スバル、ドラゴン王国、黒死鳥王国、空中都市バルスが傘下にある事になっている。
愛洲との関係も密接だし、此花となんとなく繋がりがある事も分かっているだろう。
そうなると東雲、西園寺もついてきて、島津も仲間になる。
九頭竜と早乙女も俺たちと手を組みたいらしいし、皇もこちら側に来てくれる可能性が高い。
そしたら世界を二分した世界大戦だ。
あり得ないな。
だったら普通に有栖川の提案に賛成していいだろう。
おっとエルから呼び出しか。
「どうしたエル?」
「どう思いますか?普通に歓迎すべきだとは思うのですが、有栖川ですからね。なんだか気持ち悪いです」
全くその通りだよな。
「心を入れ替えたとポジティブに捕らえるにはいささか早計だとは思うけれど、考えても分からないなら普通に歓迎していいんじゃないか?問題が有れば後で対処するしかない」
「ですよね。有栖川が早まった事をするようなバカな国ならここまで大きくはならないでしょうし、国益に反するような事はしないですよね」
普通に考えればそうなんだけどね。
ただ転生前の世界では、そういうバカが大国の指導者にいたりもしたんだよな。
周りが賢かったから世界大戦にはならなかったけれど‥‥
というか、早乙女も魔王を手に入れたくらいでよくも戦争しようなんて思ったものだ。
国是というか早乙女の悲願というか、そういうものだったのかもしれないけれど、とにかく『常識で考えてあり得ない』は、『あり得る』として準備は必要と思った方がいいかも。
「一応準備はしておこう。リンにも話しておくか。最悪此花にも協力してもらう事があるかもしれないしな」
「やはり何かが起こると考えますか?」
「いや、一応念の為だよ。大きな事が起こる可能性はほとんどゼロだと思う。でも、今まで上手く行っていたものを変えた時は、何かしら問題も出てくるものさ」
「そうですね」
俺は別に戦略家でもなんでもないからな。
問題にならない事を祈るだけさ。
さて、リンにも一応伝えておくか。
たしかリモートは九頭竜でも盗聴できなかったよな。
伊集院と有栖川、それに皇もこのシステムには関与しているわけだし。
俺はリンに、何かあったらオーガをコッソリ受け入れられる準備が必要だと伝えておいた。
妖精保護区の東側の地域なんか使えるだろう。
俺が目覚めた場所とか、何にも使われてない場所だったからな。
その後は誰とも話す事なく一時間が過ぎた。
予定通りリモート会議は再会された。
「それではまず、有栖川氏からどうぞ」
「皆と話した結果、概ね賛成がいただけた。後は此花と神武の賛成で決定できると思われる。尤も神武はゲストだから投票には参加できないがね」
えっ?マジ?
俺は意見いうだけなんかい!
まあ会議での発言権があるだけでも良しなのかもな。
つかこの話で反対する意味もないよな。
多くは最初から仲良くできるなら仲良くしていこうってスタンスだったし、有栖川の心証は良くしておきたいだろうし。
思った通り反対はなく、泉黄歴が始まって初めて世界ルールの変更が成された。
追加はついこの前にされたけどね。

その頃本体の俺たち冒険者パーティーは、海を渡って東の大陸セカラシカへと来ていた。
海を渡ったといっても、瞬間移動魔法でなんだけどね。
資幣が既にこちらに来ており、飛んでくる手間が省けた。
俺とみゆき、それに環奈と風里だけだから楽勝ではあるんだけどね。
このメンバーが飛ぶ練習も必要ないし、海の上で何かがあるわけでもない。
クラーケンが見つかったら倒して魂だけでも欲しい所だけど、この辺りは船の行き来も多いのに目撃情報は無い訳で、自力で渡るメリットは無いと判断した。
セカラシカの町は既に来ている資幣でだいたい見て回っている。
前に有栖川のミジョカの町は原宿だと言ったが、セカラシカは渋谷だろうか。
「やはり有栖川の町じゃのぅ。ミジョカに似ておるのぉ」
「人が多い町アル」
「愛洲との国境の町でもあるからな」
「町の外はもう愛洲なんだよね!?」
「そうそう」
国境に町を作るのは割とあるんだけど、それでもこの町はやり過ぎなくらい国境ギリギリだ。
国境線が後から引かれたのなら分からなくもないけれど、この町は割と新しい。
愛洲側からすれば威嚇されているようにも感じるのではないだろうか。
だから神武に助けを求めて来たのかもしれないと感じる。
そう考えるとこの町に傭兵の拠点が置けたのは良かったと思えるわけだが、それを提供したのが有栖川というのもおかしな話だ。
愛洲が恐れているのは有栖川ではないのかねぇ。
こんな事を考えながら、俺たちはいつも通りギルドで情報を確認した後、宿屋を取って一日を終えた。

次の日の朝、資幣の元に有栖川の使いである『|兎束迅雷《トツカジンライ》』がやってきていた。
迅雷はこの町の領主の弟で、名前の通り兎束家の者だ。
有栖川に近い貴族で、この家系はどうやら恰幅の良いのが特徴らしい。
豊来もでかかったが、迅雷は更にでかいと感じた。
「わしが有栖川の使い、兎束迅雷であーる!」
はいはい存じておりますよ。
この町に到着した時にお会いしたじゃないですか。
もうお忘れでしょうか。
鳥頭なんでしょうかね。
「これはこれは迅雷殿、こんな朝からどういったご用件でしょうか?」
資幣の俺はそう言いながら部屋に招き入れ席を用意した。
迅雷はソファーに巨体を下す。
ソファーが壊れるかと思うくらいに体が沈んでいた。
それを見てから俺は向かいのソファーへと座った。
「依頼だ」
「初仕事ですか。どういった仕事になりますか?」
元悪魔たちがやるというから有栖川の準専属の傭兵隊となったが、さてさてどんな仕事をくれるのやら。
「オーガの‥‥」
「オーガの?」
「オーガの里を制圧してきてもらう」
マジでいきなりやるのかい?
オーガとの戦争は流石にしないだろうと思っていたけど、世界ルールが無くなった途端にこれか。
もしかしたら逆説的ではあるけれど、有栖川が風里の処罰を訴えていたのは、初めから世界ルールを壊す為だったのかもしれない。
風里が殺されれば、当然オーガの里暁の連中は怒るだろう。
軽率な行動に出て町を襲うオーガもいる可能性がある。
そこから本格的な戦いへと発展すれば、世界ルールは結果的に破棄されていた可能性がある。
違うのは今回世界ルールが破棄された理由は、あくまで関係の改善、友好を目的としている点だ。
そこで俺たちのような傭兵をオーガにぶつける事で、徐々に対立を煽る作戦かもしれない。
考えすぎかもしれないが、さてどうしようかな。
「流石にそれはやり過ぎではないでしょうか。世界ルールは無くなりましたが、人間とオーガの約束は一応あったわけですし、世界ルールの破棄もこれから関係を改善していく為に皆同意したと考えられます」
「おいおいお前、勘違いしていないか?俺たちは喧嘩をする為に制圧してこいと言ってるんじゃない。上手く丸め込んでオーガの戦力を我々有栖川が使えるようにしてこいって言ってるんだ」
それならそうと先に言っておけよ。
いや、それでも大した差はないだろう。
結局の所オーガを支配するのが目的だ。
殺すか部下にするかの違い。
一見残虐思想のチェスと融和思想の将棋のようなイメージにも感じるけれど、有栖川は部下ではなく奴隷にしようとしているに過ぎない。
こんな事俺たちができる訳がない。
「断っても、別の誰かが代わりにやるだけだぞ?」
俺たちに上手くやった方が得だと言いたいのか?
こんな蛮行、世界の国々は許すのだろうか。
二分する結果にはなると思うが、オーガとの全面戦争からの神武国を敵に回す可能性を考えるなら、有栖川に自重を求める辺りに落ち着く可能性があるな。
とは言え俺がばらした所で信用もされないし契約違反にもなる。
傭兵は雇い主の情報を一切漏らしてはならないのだ。
俺の信用も無くなるし、愛洲も困る事になるだろう。
「オーガの里の場所は何処でしょうか?」
「場所は俺が案内してやる。ちゃんと働くか監視は必要だからな」
「でも戦闘能力が無ければ危険ですよ?」
「わしが弱いとでも思っているのか!」
「失礼しました。おそらく私なんかよりもお強いとは思っておりますが、一応確認したかったもので‥‥」
こいつも一緒に来るのか。
話し合って妥協点を見つけるのも難しそうだな。
いや待てよ。
こいつ弱いと思われたくないみたいだし、確実に一緒に来るのなら‥‥
「分かりました。引き受けましょう。ただオーガの中にどんな強敵がいるやもしれません。私もついて行きますが十分注意してください。それと作戦は明日以降でお願いします。今日は別の仕事が入っているんですよ」
「じゃあ明日だ。明日又この時間に来る。傭兵どもを集めておけ」
「招致しました」
迅雷がソファーから立ち上がった。
凹んだソファーが元に戻らない。
なんて巨漢なんだ。
これだけ強そうなら明日はなんとかなるだろう。
迅雷は帰っていった。

「というわけで、俺たちは今からギルドで近くにあるオーガの里を調べるぞ」
「オーガの里ってのは全て人間が把握しているもんなのかのぉ」
「地図を見る限りだとそんなに多くは載ってないから、知らない所も多いかもな。夕暮も確か載っていなかったはずだ。ただ、明日傭兵隊で向かう先は、ある程度知られている所だと思う。有栖川は有栖川以外の者が襲撃したとしたいわけだからな。誰も知らないような里ではないさ」
ギルドに到着した俺たちは早速オーガの里を調べた。
直ぐに一つ、セカラシカの町の近くにみつかった。
「明日襲撃させるのはここで間違いないだろう」
「愛洲の領内じゃのぉ」
「里の襲撃を愛洲に押し付ける気アルか?」
場所を今日資幣に言わなかったのはその為だったか。
それにこのオーガの里の位置。
国境線をはさんでセカラシカの町と向かい合うような形だ。
有栖川からすればウザいかもな。
それでもこれは止めさせてもらうぞ。
「じゃあ今から行くぞ。まずは話し合いだ」
俺たちはすぐにオーガの里『曙』へと向かった。
場所は町から近いので、俺たちはすぐに目的の場所へと来ていた。
そこに来て俺たちは少々驚いた。
オーガの娘と、近くの村の人間だと思われる初老のおばさんが普通に話をしていたからだ。
世界ルールが廃止されてまだ四日程度。
どうしたらこんなにすぐに仲良くなれるのだろうか。
俺たちもすぐに風里とは仲良くなったけれど、それはオーガに負けない強さを持っていたからだ。
この村の人間はハッキリ言って強くない。
オーガが本気になればこんな村の人たちは簡単に皆殺しにできる。
恐くないのだろうか。
「こんにちは」
「こんにちわー!」
俺たちは挨拶をして近づいていった。
オーガは少し警戒していた。
「何か用ですか?」
「まあ少しそっちのオーガの子と話したい事があってね。それよりも先におばさんに聞きたいんだけど、此処では人間とオーガが仲良くしているんだな」
「何よ!悪い!?」
オーガの娘、村の人とは仲良くするが、部外者には警戒を緩めないか。
「オーガとはずっとこの地で一緒に暮らしてきてるからねぇ。と言ってもずっと話す事もできなかったんだけど、最近領主様が『もう話しても大丈夫』だって言ってくれてね」
「そうなのか」
話さなくても一緒に暮らしていれば信頼関係は生まれるという事か。
「あれ?あんた風里じゃない?人間と仲良くなって、変なルールを取っ払ってくれたオーガ」
「そうアルよ」
このオーガの子、風里を知っているのか。
「あ、やっぱり!えっ?もしかしてじゃあこの人たちが一緒に旅してる人たちなの?」
「そうアル!」
風里、有名人だな。
でもこれで話しやすくなったかもしれない。
「俺たちはオーガとかそういうのこだわってないからな。良いヤツなら誰とでも仲良くする」
「私は風里と仲良しだよー!」
「わしも仲良しじゃぞ?ホレホレ」
「止めてほしいアル。環奈セクハラアル!」
環奈のヤツ、今ならベタベタできると思って、ここぞとばかりに風里を触っているな。
でも今は我慢してくれ風里。
後でリンの所に連れて行って殴ってもらうから。
「悪かったな。知らない人間はやっぱり警戒しちまうんだ。で、話したい事があるんだろ?なんなんだ?」
「そうだな。ちょっとついてきてくれないか」
「此処じゃ駄目なのか?」
駄目なんです。
村人が知ると話が広がるかもしれないし、明日の襲撃の情報が洩れたら問題なんだよ。
「ゴメンねアル。とっても大切な話アルから、出来れば誰にも聞かれたくないアル」
周りを見ると村人や別のオーガも集まってきていた。
「分かった。風里が言うならそうするよ」
「ありがとうアル」
風里がいてくれて本当に助かったな。
話を伝えられなければ、作戦も何もないからな。
俺たちはそのオーガの子と一緒に、人気のない所まで移動した。
「ここなら大丈夫だろ」
「そうだな。で、話ってなんだ?」
「単刀直入に言うと、明日お前らのオーガの里曙を、襲撃しようとする悪い人間どもがいる」
「なんだって?そいつらバカじゃねぇの?人間のくせに私たちに勝てると思ってるのかね?ははははは」
やけに自信ありげだな。
確かに風里クラスの強いオーガが集まっていたら、俺の傭兵隊では勝てないだろう。
でも邪眼で確認する限り、今の所それほど強いオーガの姿は確認できていない。
「お前は里の中ではどれくらいの強さなんだ?」
「私か?そうだな。私よりも強いのは何人かいるけど、結構上位だと思うぞ」
この子はマスタークラス程度の強さは持っていそうだが、話をそのまま受け取れば、やはり俺の傭兵隊には全く勝てるレベルじゃないな。
「それだとやはりマズイと思うぞ。ちょっと里の者たちとも話したいから、里へ入れてもらえないか?全戦力を見てどうすればいいかを決めたい」
「そんなに強いヤツが人間にいるのか?」
「俺やみゆきはお前より圧倒的に強いぞ?」
「ほう‥‥だったらちょっと手合わせ願えないかな?勝てば里にも入れてやる」
はぁ‥‥
またこの展開か。
オーガは自分たちが強いという自覚はあって、そこにプライドも持っている。
この辺りが問題にならなければ仲良くなれるが、そうでないと結構厳しい所もありそうだ。
簡単にみんな仲良く、理解し合おうなんてい言うけれど、それは両方がそう思わないと無理なわけで。
おそらく村の人たちが仲良くなれているのは、村の人たちがオーガの強さを認めて、自分たちの方が弱いと割り切っているからなのだろう。
でもそれだと、対等な友人にはなれない気がするんだけど、どうなんだろうね。
「いいよ。どっからでもかかってきな。殺したり‥‥」
全て話す前にいきなり攻撃してきたか。
でもそんな不意打ちにやられたりはせんのです。
俺は軽く攻撃を受け流していった。
「魔法はどうだ!死ねぇ!」
いやいや、軽い手合わせでそれはないだろ?
それにしても戦うのが好きなのかねぇ。
生き生きした顔してやがる。
さてしかし、何時までも楽しませてる場合じゃない。
とっとと話をまとめたいのだよ。
俺は攻撃をかわしてから関節を決めてその子の動きを封じた。
「はい終わりね。この程度の力で上位なら、明日の襲撃は万に一つも防げないぞ」
「くっそ!なんでだ?私がこんなに手玉に取られるなんて!」
「心配するな。そこそこは強かったよ。でも俺世界最強だから」
その子は負けを認め体の力を抜いた。
「じゃあ里に入れてくれ」
こうして俺たちは里へと入っていった。
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