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風里を守れ!それと魔法通信メールの暗号化!

魔法通信を使った連絡には大きな欠点が存在する。
それは、通信記録が全て九頭竜にバレてしまうという事だ。
何時誰が誰にメールを送ったか、メールの内容は何か、通話で話した内容はなんなのか。
とにかく全てだ。
もちろん、世界中の人が使っているものだから、全てを確認するなんて事は不可能かもしれない。
それでも主要人物だけなら容易いだろうし、そもそもゴールドカード以上を持っている人間は世界人口の一パーセントにも満たないわけで。
それなりに有名人な俺たちがチェックされていないなんて事はなく、記録を消せる皇との連絡以外は不用意にはできない。
乱馬だって孝允との連絡は細心の注意を払って、メールの前に適当なニュースをアップし、その日時を利用した暗号文や隠語を交えつつ話しているくらいだ。
それは二人の信頼関係とか、長年共にいた間柄だからできる事であって、出会って半年にも満たない俺たちの間でメールはリスクが高く、ほぼ使えない状況だった。
つまりリンや乱馬から話がある時は、セバスチャンとの意識共有を通じて呼び出してもらうしかなく、今回もまた俺たちは家族の家まで戻ってこなければならなかった。

「とうとうバレちゃったみたいね。西園寺から連絡が来たわよ。そしてその時点で九頭竜にもバレてると考えていいわね」
「そうだな。これで世界的に公表されるのは確実だろう。それで此花はどう対応するんだ?」
此花は西園寺との関係を大切にしなければならず、オーガである風里の味方に付く事は無理だろう。
かといってリンが風里を見捨てるとも思えないわけで、その辺り聞いておく必要があった。
「此花としては西園寺に同調したい所だろうけど、私がそんな事許さないわ。でも味方できるのは私だけで、此花としては中立になるでしょうね」
「敵にならないならいいさ。リンは情報が公開されたらどうなると思う?」
「そうね。風里を殺せっていう勢力から、魔王を倒してくれた英雄として自由にさせて良いという勢力まで色々出てくると思う」
当然そうなるだろうな。
その時力を持つのは当然伊集院であり有栖川になるだろう。
それと情報を公開する西園寺か。
姫さんが助けられた事をどう処置するか。
西園寺の器がハッキリする。
弥生は少し頼りないが、人は良いし西園寺も同じであってほしいとは思っている。
だけど、どうも西園寺はオーガを特に嫌っているようなんだよな。
オーガの隠れ里の一件でも、裏で西園寺がかかわっていたという疑念は残っている訳で。
「西園寺って特にオーガを嫌ってそうだよな。何があるんだ?」
「詳しくは知らないけど、昔オーガとのいざこざで一族の何人かが殺されたらしいわよ。それ以来憎んでいるというよりは、恐れているって話を聞いた事がある」
憎しみというのも非情に残酷になり得る要素だが、恐れというのもまた同じだ。
転生前の世界でも、黒人はとんでもない差別を受けていた時代があったが、あれも恐怖故のものだったと思う。
自分たちよりも身体能力の高い人種は恐怖の対象になり得るわけで、それを排除しようという気持ちは当然出てくる。
俺がこの世界であまり目立ちたくないのもそのためだ。
強さをひけらかせば、それに恐怖を持つ人も出てくる。
そしていくら俺が強くても、世界を相手にすればやられてしまうだろう。
たとえ勝てたとしても一人では生きてはいけない。
「憎しみは時が徐々に消してくれるが、恐怖ってのはなかなか消えないからな」
「悪魔に似てるって、それだけでも怖いもんね。しかも能力的に五種のヒューマンの中ではエルフと並んでトップレベル」
「俺たちは悟空や風里を知っているし、自身が強いからそういう感情は全くないけど、知らない弱い人たちにとっての感情は、どうにもならないのかもしれない」
だとするなら分かってもらえるまで訴え続けるしかないのだ。
実際に見せるしかないのだ。
魔王を倒し、姫さんを助け、風里は自分の行動でそれをアピールしてきた。
分かってくれる人もきっといる。
「よし。こうなったらアピールするしかないだろう。人間にだっていいヤツもいれば悪いヤツもいる。オーガだってそうだろう。恐怖もあるから今すぐオーガ全てと仲良くしろとは言わない。でも風里はいい子だって伝えるんだ」
「オーガではなく風里となら仲良くなれるとアピールするのじゃな」
「本当はみんな普通に付き合えればいいんだけどな。今の世界をすぐには変えられないだろう」
「じゃあ具体的に何をするの?情報が公開されたら私は真っ先に魔法通信で風里を擁護するつもりだったけど」
「それじゃ遅い。やるなら今すぐだ!西園寺が風里の正体を明かす前に、こちらから明かす。その方がこちらのフィールドで戦えるからな。それで良いか?風里?」
「私はみんなが味方になってくれるだけで嬉しいアル。策也に任せるアル」
「よし!じゃあ急ぐぞ!西園寺が発表する前にまずは映像魔法を使った風里のPVを作る。えっと‥‥風里の良い所を映像化するんだ!」
「なんだか分からないけど、頑張っちゃうよー!」
みゆきが元気にそう言ってくれるだけで、俺は自分の作戦が上手くいきそうな気がするよ。
そんな訳で、俺たちの風里アピール作戦が始まるのだった。

『あの魔王にとどめを刺した英雄の風里ちゃんは、実はオーガだったのです!これは素晴らしい事ですね。あの魔王に対して人間とオーガが手を取り合って戦ったわけですよ。もういいんじゃないですか?オーガと仲良くする時代が来ても』
『そんなに簡単にはいかないでしょう。感情的にオーガを恐れる人は沢山いますから。でもあの英雄風里ちゃんなら全く怖くないですし、是非お友達になりたいですよね』
『そうそう。それに最近、西園寺家の第四王女である望海様が魔物に襲われた所を助けられたとか。これはその直後の映像です。風里様と望海様が仲良く喋られているシーンが印象的ですねぇ」
『はい。どちらもとってもいい笑顔をしています。この時の風里様は身を挺して望海様を守られたそうで、その時魔獣に頭を攻撃されてツノが露わになったとか』
『そんなツノを見ても、望海様は全く怖がる様子もなく、お姉ちゃんありがとうなんて言っていたようですよ』
『そんな風里様には、是非我が町に遊びに来てほしいですね!お待ちしています!』
結構疲れたぞ。
俺は声を変えながら一人二役を演じ、風里のPVに台詞を入れて完成させた。
映像は俺が今まで見た風里を魔法映像化したものだ。
残念ながら風里が姫さんを助けるシーンは無かったが、その後のシーンで十分風里の良さは伝わるだろう。
俺はすぐにその映像を魔法通信で流した。
当然捨て垢である拾ったゴールドカードを使ってだ。
下手に伊集院に目を付けられても困るからね。
奴らニュースは全て検閲して配信者に圧力かけてくるらしいからな。
その映像はニュースとして、瞬く間に多くの人に見られる事になった。
概ね反応は良く、映像に同意するものがほとんどだった。
しかし徐々に状況は変わってゆく。
まずは有栖川が反論してきた。
オーガの約束破りは話が別で、やはり処罰は必要だと訴えてきた。
更にその意見にいくつかの国が同意する。
そうなるとやはり否定的な意見もドンドン出てくるようになった。
「この映像だけじゃまだまだ弱い。まずはリン。頼めるか?」
「分かっているわよ。一緒に冒険者パーティーにいた私が言えば、効果が大きいわよね」
既にリンは演説の魔法映像を作っていた。
『私の元仲間がオーガだったって、色々騒がれているわね。当然私は彼女がオーガだって知ってたわよ。式典で彼女が紹介された時は正直感動したのよね。伊集院がオーガの子を称えてくれているって。でもそれは彼女にふさわしいものだと思ったわよ。魔王を倒したり姫さまを助けただけじゃない。旅の中で見てきた彼女はとてもいい子だった。私の方が年下だからその表現は失礼かしら。でも本当にいい人。オーガとか人間とか、そんなのを意識してきた自分がバカに見えるほどに。結局個人なのよね。私はこの先もずっと風里と仲良くするわ。もう友達だもの』
「なかなかいいと思うぞ」
「そう?」
「風里が泣いているなんて初めて見たんじゃないか?」
「泣いてないアル。目から蟬のおしっこが出てきただけアル」
俺はなんとなく風里の頭をポンポンと叩いていた。
リンの演説が魔法通信に流れてからしばらくすると、思わぬ勢力が味方についてきた。
伊集院だ。
流石に式典の事まで言われては仕方がないといった所かもしれない。
『彼女がオーガであるというのは、我々も薄々感じてはいました。ただあの場では明かす必要がないと思ったのです。オーガと干渉し合わないという世界ルールは確かにありますが、個人的に交流を持ってはいけないというルールはありません。風里さんに関しては今まで通りの対応で良いと考えます』
伊集院の発表で、状況は一気に風里支持に動くかと思われた。
しかしまだまだそれを許さない勢力があった。
今度は西園寺だった。
娘が助けられたというのに、それでも尚オーガを否定する姿勢は、呆れられると共に熱意に共感する者も多かった。
じゃあ次は神武大聖の番だな。
『お前ら人間は知らないかもしれないが、悪魔とオーガなんて全く関係がない種族なんだぞ?むしろ悪魔は人間に近いんだ。人間が魔界に行って環境適応した姿が悪魔だからな。その辺り詳しいヤツが俺のブレーンにはいてな。何にしても人間がオーガを毛嫌いするのはお門違いなんだよ。風里ちゃん、あの子はいい子だ。是非うちの住人になってほしいよ。そうは言っても本人の意思もあるからな。旅がしたいのであれば俺はそれを応援する。もしも風里ちゃんに何かあったら‥‥おっと、客が来たようだ。そういう訳で失礼する」
「これ、脅しになってない?」
「まあそうだな」
「逆効果になるかものぉ」
懸念は多少当たっていたが、そこに敵意を持つ者よりも、オーガの事実を知って風里を支持する人の方が多かった。
魔法通信上には、一般庶民がほとんどいない事も俺たちに有利に働いた。
庶民は感情で動きやすいが、貴族はバカには見られたくないというプライドもある。
『オーガが悪魔と関係が無い事くらいは知っていたさ』
その声もまんざら嘘ではなく、なんとなくみんな思っていたのだ。
オーガと悪魔に関係が無い事を。
だったら別にエルフやドワーフと同じように扱ってもいいんじゃないのか。
当然そういう話になるわけで、魔法通信上では風里を今まで通りに扱う方向へ進み始めた。
それを決定付けたのが、上位王族の九頭竜家、四十八願家、愛洲家が味方してくれた事だ。
九頭竜が何故味方になったのかは分からないが、四十八願家はおそらく女王の意思、愛洲家は自由をモットーとしているし神武の国との関係が影響したと思われる。
そして最後に早乙女家が味方に付いたところで、風里の処遇は今まで通りという事に決まった。
「結局、わたくしたちエルフの出番はありませんでしたね」
「いや、既にエルフと共に生きている世界だったからこそ受け入れられた所もあるだろ。もしも世界に人間とオーガしかいなかったら、今回の決定はまずなかったと思う」
「確かにそうですね。とにかく風里さんが今まで通り町に入れるようで良かったですよ」
「ツノは隠さないと駄目みたいだけどな」
有栖川や西園寺が最後まで抵抗したのは住民感情の部分だった。
だからツノを隠すという条件がついたのだ。
でもこれくらいの譲歩はいいだろう。
この戦いは俺たちの勝利条件を十分満たしたのだ。
「そんなわけで、結界を張り直す準備もしてきました。策也、お願いできますか?」
「オッケー!」
どういう訳だが分からないが、エルはスバルに戻っている間に、結界を張り直す準備をしていたようだ。
本当の目的は別にあったようだが、とにかく俺はエルと二人でスバルに飛んだ。
そしてあらかじめ用意されていた部屋に転移ゲートを作る。
一度町の結界を外し、その後転移ゲートを設置。
改めて転移ゲートの魔力流を遮らないように結界を設置し直す。
作業は問題なく終了した。
「この後はどうするんだ?俺たちは神武国に寄ってから東の大陸へと渡る予定だが」
「わたくしは今回の一件で国でやらなければならない事を確認しました。エルフ王国でオーガと獣人をまずは受け入れていこうと思っています。人間のルールには縛られない国ですからね。ただドワーフはまだ国民を納得させる事は不可能のようです。ですがいずれはドワーフと悪魔も受け入れられたらと思っていますよ」
「そっか。じゃあしばしの別れの餞別にコレをやる」
俺は以前から睡眠時間を削ってコツコツと作っていたものがあった。
「これはもしかして‥‥」
「雷剣だ。ヌエの魂の入ったインテリジェンススォードでもある。上手く使ってやってくれ」
「素晴らしい剣ですね。素材はダイヤモンドミスリルですね。そんなに余ってなかったのではないですか?」
「ゴーレム一体作るよりも全然少なくて済むからな。大丈夫だよ。それにもう既に有栖川に到着している仙人たちが、新たな地で素材集めを開始しているからな」
「それではありがたく頂戴します。全てが終わったら又パーティーに入れてくださいね」
「その時まだ旅を続けていたらな」
こうしてエルは、エルフ王国スバルの大改革の為に一時パーティーを抜ける事になった。
おいおいどうするよ。
マジでお遊戯パーティーだぞ。
まともな大人をパーティーに入れる必要あるよなぁ。
いざとなったら洋裁を叩き起こして使うしかないな。
霧島でもいいわけだけど‥‥。

その霧島が、ちょっと厄介な事になっていた。
ブエンの町の西園寺望海姫の護衛をしていた中で、目的であった四十八願の予言を聞いたわけだ。
そしたら『望海姫の命を守るには、護衛の仁徳霧島に姫を預け全てを任せよ』なんて事いいやがって、弥生から懇願されたわけよ。
姫さん大好き弥生だから、もう|縋《スガリ》り付くように頼んできて、結局折れるしかなかったわけで。
「どうすんのこれ?」
俺たちはブエンの町の、望海姫が滞在している屋敷へと来ていた。
「よろしくね!」
「一応、私も世話係としてついて行きますし、何でもしますからお願いします!」
「やったー!可愛い子がパーティーに増えたー!」
「いやいやいや。みゆき。残念だけどパーティーには入れられないよ。命を守るように霧島は頼まれたんだ。危険な所には連れていけない」
「そうなの?残念‥‥」
ゴメンみゆき。
流石に四歳の子を、しかも全く魔力を持たない戦えそうにない子を連れては行けないよ。
そうなんだよな。
この子ちょっと不思議なんだけど、全く魔力を感じない。
邪眼で見てもゼロだ。
こういう子もいるんだな。
「どうやって守るかは霧島に任せてもらえるんだよな?」
「はい!予言では『全てを任せよ』となっています。問題ありません」
だったら神武の国の大聖に預けるか、家族の家のセバスチャンに預けるしかないな。
セバスチャンに預けるのはちょっと不安があるし、やっぱり自分自信でもある大聖か。
霧島の俺は言った。
「じゃあ神武国の王、神武大聖に預ける!」
「ええ?霧島様が傍にはおられないのですか?」
「全て任せるんだろ?これが一番安全だ!」
「大丈夫なんですか?あの国はできたばかりで、しかも人間じゃない種族も沢山いるとか?」
「大丈夫。大聖は俺の兄弟みたいなもんだ。安心していい」
兄弟っていうか中身は同一人物なんだけどね。
「分かりました。予言を信じます」
俺たちの事は信じてくれないのね。
まあいいけど。
こうして望海は神武の国で預かる事になった。
「じゃあこれから神武の国に向かうからな。一緒に行くぞ?」
「今から船ですか?でも定期船はまだありませんよね?」
「弥生。これから見る事は全て他言無用だ。西園寺にもだ。約束できるか?」
「えっと?何をするんでしょう?不安しかないんですが?」
「別に怖い事とか悪い事じゃない。あまり知られたくないだけの事だ」
瞬間移動魔法が使える事なんて、出来れば他人には知られたくないよね。
この弥生はペラペラ喋りそうだから釘を刺しておかないと。
「分かりました‥‥ごくっ」
自分で唾を飲み込む音を声に出してるし。
本当は望海も口止めしたいんだけど、子供だししゃーなしか。
「では!」
俺は瞬間移動魔法で大聖のいる屋敷の居間へと移動した。
「なんか少し気持ち悪い‥‥」
「なんか凄い!此処何処?」
対照的な二人だな。
この弥生も瞬間移動魔法で酔うタイプか。
エルもそうだけど、瞬間移動魔法で何故酔うような症状がでるのか少し分かってきた。
移動先に人がいたり物があったりすれば、着地点を微妙にずらして調整が必要なんだ。
その時にブレが起こって酔うような感じになる。
転移ゲートだと先が決まっていて場所が確保されているから酔わない。
僅かな違いだけどな。
「それじゃ望海、あのおじちゃんの言う事を聞くんだよ」
「えっ?霧島は一緒じゃないの?」
霧島は腰を屈め、望海の耳元に口を近づけて小さな声で伝えた。
「あのおじちゃんはね、実は俺の分身なんだ。内緒だけどな」
「どーいつじんぶつ?」
「そうそう。だから俺に接するみたいに接して大丈夫だから」
「分かった!」
「いい子だ」
霧島は望海の頭を撫でた。
一週間も一緒にはいなかったけれど、望海は霧島が自分を守ってくれる存在だと理解していたし、だから少しなついてきていた。
故に少し俺自身も寂しい気持ちはあった。
しょうがねぇなぁ!
「もう少しだけ、俺たちも此処に滞在するぞ。やりたい事もあるからな」
「わーい!じゃあ望海ちゃん遊ぼ!」
みゆきは望海の方へかけて行き抱き着いていた。
仲良き事は美しきかな。
「それでやりたい事とはいったいなんじゃ?」
「前々から時間が有ればやりたいと思っていた事なんだ。この所ニュース発表を待つだけの時間が多かっただろ?だからそれを進めてきていて、だいたいできる所まで来てるんだ。それは‥‥」
「それは?何アル?」
「使えない住民カードのメール機能を使えるようにする!」
これはずっとやりたかった事だ。
住民カードにせっかくメールや通話の機能が付いているのに全く使えないのは、九頭竜に情報が洩れるから。
だったら情報が洩れないようにするか、洩れても大丈夫なようにすればいい。
転生者の俺ならその方法を知っている。
「具体的にはどうするのじゃ?」
「まず、メールで洩れると困る情報は、誰が何処にメールを送ったかだ。それをごまかす為に、旅の中で集めた死者のゴールドカード五十枚を用意した。ほとんどが手に入れた時ブロンズだったから上げるのに金はかかったけどな」
イテコマスの町が魔物に襲撃された時、ベランメーやイヌの町が魔王に襲撃された時、多くの人が亡くなった。
カードはその時に腐るほど手に入っていた。
「今はまだ動作魔法付与が全て終わってないけど、五十枚の持ち主をこの神武の国の大聖の屋敷に変更する」
「どういう事じゃ?」
「この屋敷に使用する魔力があるだろ?その魔力は時々何人かの人に供給してもらっているんだけど、その魔力は魔石に魔法を付与して同じものになるようにしてある。つまりこのカードをこの屋敷の魔力でコントロールできるようにするんだ」
「理屈では可能アルね」
「そしてやる事は、来たメールを十分以内に宛先に送り、それとは別に内容の違うダミーメールをこのシステムに登録した全ての人に送る。ダミーメールは相手の住民カードに届いたらすぐに消去されるようにするので混乱もしないだろう」
「でもメールの中身を見れば誰に送ったか一発でバレてしまうのぉ」
「だからメール内容を暗号化して送る。内容をよく分からない文字の羅列にしてしまい、どれが本当のメールか分からなくするんだ。例えば俺が環奈にメールを送るとする。そのメールを暗号化して送信すると、ゴールドカード五十枚の内の例えば一番にメールが届く。一番は十分以内にその暗号を解読して、改めて別の方法で暗号化し直す。そのメールを環奈に送るわけだ。そのメールは環奈の住民カードに登録した魔法によって解読され、メール内容が読めるようにする」
「なんだかよくわからんのぉ。暗号は色々とやり方があるじゃろうが、賢いヤツらならすぐに解読できるじゃろうて」
普通はそうなんだろうな。
でも賢い黒死鳥ですらそう思うというのなら、俺のやる暗号化は暗号とすら思われないだろう。
基礎知識って大切だよな。
想像力にも判断力にも大きな影響を与える。
「俺のやる暗号化は、そんなに簡単に解読できるもんじゃないんだよ。人間が一億年考えても解読できないような複雑なものなんだ」
「そんな事ができるのかのぅ」
「そうだな。暗号化だけならすぐに見せられるぞ」
俺は住民カードを取り出し、適当な文字列をメールの下書きとして書いた。
「これを俺の魔法で暗号化すると、こうなる」
俺はその文字列をみんなに見せた。
「なんじゃこりゃ?文章にもなっとらんのぉ」
「それによく分からない文字?もあるアル」
「この偽装メール魔法システムを使えば、誰が誰に送ったメールか特定できなくなるし、中身も読めなくなるからメールが使えるようになるんだ」
「なるほどのぉ」
「とにかく、残りのカードに魔法を付与し、仲間のカードに暗号化と解読化、そしてこのシステムへの参加機能を付与する必要があるんだ。住民カードには常態魔法の付与が可能だから、そこに『偽装メール暗号化魔法』としてを登録すれば楽にできるしな。これから数日かけてそれを行うから、皆には転移ゲートを使ってカードを預かってきてほしい。手放せない人に関しては俺が直接行って付与してくる」
「分かったアル」
「わたしは望海ちゃんと遊んでていい?」
「おう!そのために時間を作ったんだ!あっ!ヤバい。本当の事を言ってしまった」
さて登録する者はドラゴンや妖精、元悪魔の兵士や傭兵たち。
数えたら百人以上。
大変だけど頑張るか。
こうして俺は、魔法通信メールが使えるようにしていった。

三日が過ぎ、ようやく全てが終わった。
このシステム、金は多少かかるが、俺たちの所属はほとんどが神武国なわけで、使用料という名の税のほとんどは自分に返ってくる仕組み。
国があるって良いね。
とはいえ、このシステムを身内だけのものに終わらせておくつもりはない。
本当の目的は実はここからだったりもする。
これは金になるだろうから。
それにこのシステムは参加人数が多いほど宛先が分からなくなるのだ。
「このシステムの使用権を売るぞ!メールが九頭竜に見られる可能性は多くが知っているだろうし、なんとかしたいと考えていた者も多いだろう。きっと金を出してでも参加したいヤツは大勢いるはずだ」
「売れるもんなのかのぉ?」
「多分な」
転生前の世界では、そういう所にお金をかけるのは当たり前にあった事だ。
きっと大丈夫だ。
俺は大聖のいる神武国、資幣が管理しているヌッカの店とセカラシカの拠点で、システム参加者の募集を始める事にした。
しかしこのシステムは当然九頭竜の反感を買うだろう。
通信データをコッソリ販売しているという話だ。
となるとヌッカの従業員の身に危険が及ぶ可能性がある。
そこで俺は彼らに『悪魔のベルト』を装備してもらう事にした。
腐るほど手に入れた悪魔の魂を利用し、以前から資幣が暇な時に作っていたものだ。
このベルトは、それを装備した人間と魂を入れ替える事のできるアイテムだ。
ただしその人に危険が及んだ場合、或いはその人が許可した場合に限る。
インテリジェンスベルトでもあり、装備者は頭の中でベルトの悪魔と会話も可能だ。
プライベートな時間は悪魔を眠らせておく事もできる。
身に危険が迫った時には魂を叩き起こして自動で入れ替わる事になる。
ベルトの役割は危機から退避する事で、力が自分以上と判断したらとにかく逃げる事を優先させる。
悪魔は最低でもドラゴンクラスなので、このベルトを付けていればそうそう殺される事はないだろう。
でも九頭竜が相手となると不安も残る。
俺は仕方なくスフィンクスの魂を使う事にした。
本当は何か別の事に使いたかったが、また強力な魂を手に入れるチャンスはあるだろう。
俺はスフィンクスの魂を女メイド型のダイヤモンドミスリル製の体に繋げて蘇生させた。
金髪長髪のナチュラルツインテールで、やや幼い感じの見た目にした。
まあダイヤモンドミスリルをケチったら小さい体になったわけだが。
「おまえの名前は|夜美《ヤミ》にする。仁徳夜美だ!」
「分かった」
「で、頼みたいのは‥‥」
「やだ。面倒くさい」
こりゃまずったかなぁ。
教育が必要になるとは。
「じゃあ夜美、お前は大魔王セバスチャンの元で教育してもらう」
「えー‥‥」
ヌッカの店は依瑠に任せる事にするか。
またなんか面倒が増える予感しかしないぞ。
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