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武尊の目的!妖凛ガー!?

日本も昔は義理人情がある国だった。
そして日本人は、正義の為には命がけでも行動を起こせる民族だった。
しかし最近は、そんな所は影を潜めている。
昔はなじみの店で常に買い物をし、価格や商品を融通してもらうなんて当たり前にあった。
でも最近の人はドライで、とにかく安い店を見つけてはそちらで買う。
どちらがいいかは社会の状況などにもよるけれど、義理人情の無い世界はちょっと寂しさを感じるね。

俺は九頭竜武尊がどんな人物なのか知る為に、本人宛てに大量の酒を贈った。
そしてリモート飲み会をしないかと提案してみた。
実はその前に伊集院や皇が『世界会議の招集』を提案したのだが、武尊はそれを拒否していた。
ならばやっぱりここは酒を共に飲むしかないと、俺はこれを実行する事にしたのだ。
あちらの時間に合わせて行うので、こちらは朝の四阿会議時間に飲み会だよ。
飲みたいヤツはガゼボに集まり、それぞれ席について酒を飲む。
給仕は山女ちゃんや夜美ちゃんが担当してくれていた。
「ありがとう山女ちゃん、夜美ちゃん」
「大丈夫ですよ。また酔っぱらった策也さんが見られそうです」
山女ちゃんは楽しそうだった。
一方夜美ちゃんは、ちょっとムスクレていた。
「こんな朝っぱらから‥‥私も一緒に飲みたかったよ‥‥」
給仕の仕事が嫌という訳ではないけれど、どうやら一緒に飲み会に参加したかったようだ。
でも今回はただの飲み会ではないんだよ。
相手をいい気分にして友好的に話ができるようにしなければ駄目なんだ。
そんなわけで四阿会議メンバーと賢神、あちらも何人かが参加する事となっていた。
「マスター策也様、時間です」
「じゃあみんな準備はいいな!?神功頼む!」
俺は皆が頷くのを確認してから指示を出した。
「イエッサー!」
俺たちみんなの映像をリモートに乗せ、向こうからの映像だけが投影されるようにした。
一斉に相手側の姿が映し出された。
さて、何時も思うんだけど最初ってどうやって話していいか迷うよなぁ。
第一印象って割と大切な気もするしどうするかね。
「はははは!先日はどうも!私は上杉賢神だ!此花策也の叔母だ。よろしく頼むぞ!」
賢神の『最初はとりあえず笑っておけキャラ』が定着してきているな。
でも流石にこの場面それはないだろ。
「俺は此花策也だ。今日はリモート飲み会に参加してくれてありがとう」
こんな感じで大丈夫かな?
流石に小国の国王相手に敬語も違うだろうしなぁ。
やっぱ一国の元首ともなれば、その辺り重要になってくるよね。
「俺は九頭竜武尊だ。ふーん‥‥こんな感じで酒を飲むのか。既に酒はいただいている」
「構わないよ。じゃあ俺たちもいただきながら軽く話をしようじゃないか」
こうしてとりあえずリモート飲み会は始まった。
しかし武尊にはNGワードが結構ありそうだから話しづらい。
親や血統の話ってしづらいし、国を興す経緯を指摘すると批判している感じになるからな。
酒が回って酔ってくるまでは、何気ない話で盛り上げていかないと駄目だ。
当然皆にはその辺り話してあるが、うちの面子そういうの苦手かもしれない。
「九頭竜王国の復活おめでとう。九頭竜王国を併合した俺がいう事じゃないかもしれないけれどな」
「いや。九頭竜王国ではあるが、別に前の国との関係なんてないからかまわない。俺が国を興した。偶々俺が九頭竜の家系だった。それだけの話」
アッサリ血統の話をしてくれたな。
やはり九頭竜の者だったのか。
もうほぼ間違いないだろう。
武尊がKAMIだ。
この映像を世愚に確認してもらえばおそらくハッキリする。
後はどうして国を興す為に有栖川の町を奪ったのか。
或いはその後も町を襲って領土を広げているが、目的はなんなのか。
そしてそれを辞めさせる事はできないのか。
その辺りをなんとか聞き出したい。
「そうだったか。所でこちらから贈った酒には満足してもらえたかな?」
「ふふふ。もういいだろ?まさか世界一の国家元首が俺に声をかけてくるとか、目的はだいたい分かっているんだよ。どうして他国に侵攻しているのか。止めてもらえないか。そういう話がしたいんだよな。俺が怖くて力で止める事もできないから」
まあそりゃ分かるよなぁ。
俺が逆の立場でも、酒を飲んで話をしようとか怪しすぎて笑っちゃうわ。
「その通りだよ。だったら単刀直入にその辺り話してはくれないか?」
こいつ少し酔ってるし話してくれるかも。
「別に構わないぞ。有栖川の町を襲ったのはオヤジに頼まれたからだ。目的は有栖川の全滅。そしてそれをやめる事はできない」
「オヤジか。それは俺の知っている人なのか?」
「知っているとは思うが、会った事はないんじゃないか。それ以上は口止めされているから言えない」
オヤジねぇ。
普通に考えれば碓氷の戦士ファームで種付けしていた奴なんだろうけれど、俺はそんな奴を全く知らない。
洗脳されていたとしたら碓氷の王である可能性はある。
或いは旧九頭竜の生き残りの誰かって事もあり得るが、何にしても目的は分かった。
とりあえず此花は関係が無いし、有栖川ならと思わなくもない。
有栖川家は天照兄弟の仇でもある訳だからね。
でもこれ、見て見ぬふりをしてもいいのかな。
だからと言って止める術も今はないだろう。
全員でかかれば止める事も可能かもしれないが、こちらに多くの死者が出て蘇生も間に合わないかもしれない。
そして当然辺り一帯は焼け野原確定だ。
結局何かを守るにしても正義を貫くにしても、力がないとどうにもならないんだよ。
「そうか。じゃあもう聞く事は無くなってしまったな。だからこちらから伝えておきたい事を一つだけ言っておく」
「伝えておきたい事?宣戦布告でもしてくれるのか?」
そんな大それた事は言えないよ。
でもさ、世界を乱す奴に何も言わなかったら、リンやミケコが暴走しちゃうかもしれないんだよな。
「今は止める事ができないけどさ、このまま武尊が他国領土を侵攻していくなら、いずれどこかでは止めにいくよ。それが早まらないように、できるだけ民に犠牲は出さないようにしてくれ」
此処までも、町を襲ってはいるが民に犠牲者はほぼ出ていない。
領主も殺さず領地を差し出させているだけだ。
簡単に人を殺すが、殺す必要の無い所では無駄に殺したりはしていないと聞いている。
それが続くのなら、今しばらくはリンもミケコも我慢してくれるだろう。
そしてその間に対応策を考えるしかない。
「俺は邪魔な奴だけを殺しているつもりだ。もしも邪魔をすると言うのなら、その時はお前も殺させてもらう」
怖い怖い。
でも顔を見て話して分かった。
こいつとはいずれ戦う事になるだろう。
武尊が俺が倒すべき悪い神なのかどうかは分からないけれど、倒さなければいけない敵なのは間違いなさそうだな。
世界を平和にするとか、マジで神でもなければ無理ゲーだっちゅーの。
「聞きたい事も聞けたし、始まったばかりで悪いけどこの辺で締めさせてもらってもいいか?」
リンや賢神辺りがとんでもない事を言いそうだしな。
リンは言いたい事を我慢しているのが分かるし、賢神は空気読めないからさ。
「構わんよ。酒を貰った分くらいは此花の言う事も聞いてやる」
酒いっぱい送っておいて助かった。
「ありがとう!じゃあまた」
「はいはい」
武尊はそう言って、もう興味なさげに手を振るだけだった。
状況を見て神功がリモート飲み会を終わらせた。
「何よあいつ!メッチャヤバそうなんだけど!」
「はははは!麟堂姫の言う通りだぞ。私なんて見に行った時は目から小便を漏らしそうだったぞ」
いや流石に目から出たらビックリするわ。
でもリモートでもリンがそう感じるのだから、ヤバい奴に変わりはない。
強いのはもちろんだけど、旧神なんかとは訳が違う。
話ができない相手と言うのだろうか。
誰だよ『一緒に酒飲めば仲良くできる』とか言った奴。
そもそも一緒に酒すら飲めねぇよ。
「じゃあこのまま四阿会議にするが、特に急ぎの問題はあるか?無ければ九頭竜武尊の対応について話したい」
「防衛問題に直結する話よね。九頭竜武尊以外は問題ないわよ」
「此花商人ギルドに問題はありません」
「領民ギルドも大丈夫です。むしろ九頭竜武尊の行動は、有栖川商人ギルドにはマイナスの影響が出るでしょうしね」
「アルカディアの方では今後も情報収集はする予定なのだ」
「私が見に行くぞ!いやぁ~、奴を前にするとドキドキして猛るわ!」
賢神は猛り過ぎて変な行動は止めてくれよ。
「金魚も洋裁も特に無いか?」
「私はニュースを届けるだけなんだよ」
「自分も死ぬだけだから‥‥」
なんかもう少し良い役をやらせてやった方が良かったかな。
ぶっちゃけ総司や千えるが此処まで活躍するキャラになる予定じゃなかったんだよ。
いやこっちの話だけどさ。
でもいざって時は頼むぞ。
きっと活躍できる未来はあるはずだから。
「じゃあ対応について話し合うぞ。何にしても武尊をなんとかできないと、世界の混乱は徐々に大きくなる。俺が倒せるようになる必要はないが、現時点ではそれが一番可能性があると思っている」
「策也が強くなる必要があるって事よね。望海の力を使うのは駄目なの?」
「望海の力ももはや大勢に大きな影響を及ぼせるものではなくなったな。まず魔力を大きくする効果は、人間レベルなら大きなものだった。でも神の領域では大した事がない。魔力容量を大きくする事は既にできているしな。でも容量に魔力が追い付いていない状況だからもう望海の力は意味がないんだ」
「つまり魔力を格段に大きくせんと駄目という事だな?」
「賢神の言う通りだ」
しかし魔力を大きくするのは難しいんだよ。
丸薬で多少上げられたが、基本的には日々の修行が大切になる。
そして俺は既に人間には到達しえない領域に来ている訳で、これ以上普通の修行をしていても意味がない。
「魔力を高めるベルトは駄目なのだ?あたしの魔石を使えばまだ上げられるはずなのだ」
七魅はまだそんな事を。
気持ちは嬉しいが、七魅を殺すなんて絶対にしたくないよ。
「それももうほとんど意味がないんだ。俺の魔力は既に神の領域に達している。確かに今よりも魔力は濃くなるだろうけど、容量には差はでないんだよ」
簡単に言えば、チョッピリ効果が上がるだけで魔力に影響はない。
強くなる方法は修行とアイテム、これが基本だ。
後は皆に『祝福』系の魔法でパワーアップしてもらう事だけど、これも今じゃその程度って感じなんだよ。
他に何か、何か見落としてはいないだろうか?
「策也さん。策也さんなら望海さんの能力は使えないのですか?」
「ああ。コピーはしてあるよ。でも俺が誰かを強くした所で、俺以上になれるとしたらみゆきくらいだ。でもほとんど変わらないレベルになると思うよ。だとしたら生身のみゆきよりも俺が戦った方がいい。戦闘に使える能力も多いしな」
「その能力をマジックアイテム化して、皆さんで策也さんを強くする事はできないでしょうか。望海さんだけでもこれだけ強くなれたのなら、みんなが協力すればもっと強くなれるかもしれません」
千えるの言う通りだな。
この能力をアイテムでみんなが使えるようになったとしたら、みんなが俺を強くしてくれるかもしれない。
ただこの能力は『愛』が必要だ。
果たしてみんなは俺の事をどう思っているのだろうか。
もしもこれで全然強くなれなかったら、俺メッチャショックだぞ?
しかも三流アニメっぽい展開じゃないか。
ベタ過ぎて悶絶しそうだ。
まあその辺りは我慢して、皆を信じるのもアリだろう。
それでも問題はある。
マジックアイテム化するには、術式を解析して魔石や魔砂に付与する必要があるのだ。
そもそもこの世界の標準的な魔法なら。チートの俺は余裕で付与も可能だ。
でも固有能力の解析は難しいし、完璧に解析できないと効果を発揮しない場合もある。
だから超再生の能力を付与するにはヒドラの魔石になる訳だし、それぞれの魔石にあった能力が付与される訳で。
でも一応解析はするべきだろう。
意味は分からなくても術式は分かる訳だからね。
そのまま使える可能性だってある。
「よし!それは試してみよう。他にアイデアはあるか?」
と言っても、そう直ぐにアイデアが出て来る訳もなく。
結局朝の四阿会議では、千えるのアイデアが唯一可能性があるといった感じだった。

そんな訳で、俺は早速望海の能力を試してみる事にした。
やってきたのはいつもの地下、魔法実験場ね。
「よし少女隊。お前たちの俺への愛が試される時がきたぞ!」
「任せるのね」
「私たちの愛は永遠に不滅なのです」
俺は試作した指輪をそれぞれに付けさせた。
「よし!俺に力を分けてくれ!」
「分かったのね」
「任せるのです!」
「うおぉぉぉぉー!・‥‥・‥‥・‥‥!」
ほとんど魔力が増えてないな。
でも微妙には増えている。
これはつまり‥‥。
「なんだお前たち!俺への愛はこの程度だったのか!ずっと一緒にいたのに!」
「そんなはずないのね!」
「いっぱい愛が溢れているのです!」
ふむ‥‥。
こいつらの気持ちは割と分かっているつもりだ。
普通に考えたらこの程度な訳がないんだよな。
一応妖凛にも試させてみるか。
「妖凛もこの指輪を付けて試してみてくれ」
俺がそう言うと、妖凛は人の姿となって指輪をはめた。
「んー!」
うん、やっぱりね。
妖凛でもこの程度だという事は、多分この術式だと望海の力はまともに発揮できないんだ。
術式には必要な情報が全て詰まっているはず。
例えば必要な魔力の大きさとか、対象とか、効果そのものとか。
魔力の大きさはほぼゼロで大丈夫のはずだ。
なんせ望海に魔力はほぼ無いからね。
効果の所はぶっちゃけどうにもならない。
問題は対象って事になるはず。
この魔法の対象は『愛する者』って事だが、そういう指定が術式でできるとは思えない。
となると‥‥。
俺は霧島を呼んだ。
「みんな!今度はこの霧島にパワーを送ってみてくれ!」
「分かったのね」
「なんだか自信を失くしているのです」
「んー!」
妖凛、実際に力を入れる必要はないんだぞ?
でも可愛いから許す。
幼女が一生懸命頑張る姿って和むよね。
「おっ!俺の時よりも魔力が上がっているぞ?それでも今一だし、望海のよりも圧倒的に劣っている感じがするな」
これではみんなが魔力をアップしてくれた所で大きくは変わらないだろう。
根本的に何かが足りないというか、ネジが二・三本足りない感じがする。
とは言え霧島になって強く感じられたのは収獲だ。
つまり俺がコピーした術式は、『愛する人』ではなく『霧島』と設定されている可能性がある。
ならば『策也』の術式は別にある訳で、それをコピーしてくればいい訳だ。
「ちょっと望海の所に行ってくるから、お前らは此処で待っててくれ」
俺はそう言って瞬間移動を発動した。
しかしその瞬間に、妖凛が俺の首に巻き付こうと飛びついてきた。
「駄目だ!」
瞬間移動の時は、俺は対象をイメージして場所を移動する。
しかし今妖凛は、人間の子供姿からミンクマフラーに変化しながら飛びついてきていた。
つまり、瞬間移動する時のイメージがハッキリとできない状態で飛ぶ事になった。
おいおいこんな時どうなるんだ?
瞬間移動が発動した。
妖凛は大丈夫か?
俺はどんな姿をイメージした?
瞬間移動を終えていつもの庭へと来ていた。
妖凛はどうなった?
見ると普通に俺の首に巻き付いていた。
「ふー‥‥。妖凛脅かすなよ。危うく空間の狭間に置いてきちゃう所だったかもしれないぞ」
(コクコク)
「まあ無事で良かったよ」
本当に。
妖凛には色々助けられているし、今では一心同体の仲間だからな。
いなくなると泣いちゃうよ。
「さて、とりあえず望海だな。そろそろ起きる時間のはずだ」
俺は戻した霧島に望海を外に連れてこさせた。
「なんなの?」
「おはよう望海。ちょっと俺、今ピンチなんだ。魔力が足りなくてな。だからお前の力が必要なんだ」
「そうなの?だったら助けてあげるの」
望海は自分ではよく分かっていないらしいが、それでも能力を発動させた。
「うおぉぉー!来た来た!」
やっぱり本家は違うな。
ただ霧島に対するものよりも圧倒的に魔力は小さかった。
やっぱり霧島は特別なんだな。
俺はポンと望海の肩を叩いた。
「ありがとう望海。今ので大丈夫だ。助かったよ」
「お安い御用なの」
望海って、自分の力をちゃんと理解していないのになんで発動できるんだろうね。
なんとなくは分かっているけれど、ハッキリとは分かっていないと本人が言っていた。
その辺り理解していたら、もう少し解析も楽だったかもしれないな。
「じゃあ望海、霧島も。西園寺での仕事、頑張ってきてくれ」
「行ってきますなの」
まあ仕事はほぼほぼ霧島がやって、望海は昼寝三昧らしいけどね。
なんにせよコピーはできた。
何もしていない平時にコピーした術式と、今能力を発動している時にコピーした術式は微妙に違っていた。
やはり何かが違っていたのだ。
俺はすぐに地下の魔法実験場へと戻った。
「少し分かったぞ!やっぱり術式が‥‥へ?」
戻った先に、何故か子供姿の妖凛が立っていた。
マフラーの妖凛は此処にいる。
「策也タマ、ミンクのマフラー付けてるのね?」
「もしかしてどっちかが偽物の妖凛なのです!」
(プルプル、にぱぁ!)
(プルプル、にぱぁ!)
俺たちは少しの間、乾いた笑顔でただ頷き合うのだった。
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