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覇権争いは権利の奪い合い

物事への対応は、ゼロか百かで考えてはいけない。
よく『賛成か反対か?』なんて聞かれるけれど、そんなに単純に答えられるものなら問題になったりはしないのだ。
俺は伊集院の作る運河については賛成だった。
でも此花から見れば反対するべき事だった。
結局運河は作られたが、俺が思っていたようにはならなかった。
こんな事なら賛成はできなかった。
だから対応が必要になった。
何かに賛成したり反対したりする前に、情報を集めてあらゆる可能性を考えないと駄目だよね。
そして結論は、『条件付きの賛成』か『条件付きの反対』が言えれば及第点なのかもしれない。

武田家の隠し本の中に有ったたった一つの情報が、俺の前に立ちふさがる壁をぶち壊してくれた。
『対になる二つの魔石は、距離を克服し魔力を高め合うだろう』
その対になる魔石の中に、赤鬼と青鬼の魔石が書かれてあったのだ。
なんてご都合主義的強運な展開だろうか。
まともな作家が見たら泣いてバカにするレベルに都合がいい。
でもこれがあれば、物を右から左へ動かす程度の魔力で何処までも長距離移送が可能となる。
これで転移ゲートを作れば、大きな船でも遠くへと送り届ける事ができるのだ。
ただそれだけでは、維持運営に魔力と費用が多く必要になってくるので、今回の目的にはそぐわない。
伊集院や有栖川の航路よりも、安くて早くて安心を実現しなければならないのだ。
そこで転移ゲートではなく、俺はハスターの空間操作能力の魔法化を思いついた。
魔力を使わない能力を追い求めて来た俺だけど、逆が必要な場合もあるんだね。
魔力ってのは、魔素から魔力を自分の力として取り込んだエネルギーのようなものだとされている。
それを使って色々な現象を引き起こすのが魔法だ。
一方能力とされるものは、自分が本来持っているエネルギーによって発動するものが多い。
当然魔法よりも能力スキルの方が個人の能力を必要とするわけで、魔法への転換は難しいものではなかった。
逆に魔法を自分の能力として取り込むのはまず不可能だけれどね。
空間操作にはいくつか種類があるようだ。
空間そのものを移動したり、空間を平面で仕切って別の空間と隣接させる変更したり。
前者なら船そのものを瞬時に移動も可能だし、後者なら転移ゲートのような形で使う事ができる。
しかしハスターの空間操作は別で、元の空間はそのままにコピーするような感じだ。
そこにある物を一緒に持ってきたりはしない。
こちらがそこに|入る《アクセスする》事で初めてその場所に干渉できるし、その場所に移動する事になる。
この能力だと困るのは、水面の高さを調整しなければならない事。
行った先の水面が低ければ落ちる事になるし、高ければ水中に突っ込む事にもなりかねない。
そこでまず波の影響を受けないように、島を作ってそこにトンネルを掘った。
魔法を発動する赤鬼と青鬼の魔石をトンネル内の海水に浮かせるように設置し、空間の水面の高さが一定になるようにした。
そしてトンネル内に船が侵入した時にだけ魔法を発動させる事で、魔力消費も抑える。
ちなみにハスターの能力は二キロくらいが限界であるが、そこは赤鬼と青鬼の魔石による『対の効果』でゼロ距離として使用が可能だ。
感覚としては、大聖や霧島の見ている場所なら俺が瞬間移動できてしまうような感じだな。
赤鬼の魔石が見ている海は、青鬼の魔石が見ている海と同じという訳だね。
ただしこうやって説明は簡単にできるが、実際に作るとなると少しの誤差が問題に繋がる可能性もあるので、慎重にしなければならない。
一メートルも距離を誤れば、そこに船が入った時、空間の狭間で破壊されてしまうだろう。
或いは故障もあってはならない。
途中で壊れて魔法が解除されれば、船はきっとバラバラに砕け散る事になる。
壊れないように何重にも安全装置を付け、工事は俺の能力を最大限に発揮して行った。
船が航行する通路はトンネル内にあるので、しっかりとアダマンタイトで固めて壊れないように徹底する。
此処を通って抜ければ、遠くにある別の海に来ているという塩梅になる。
この工事は、俺が人員を総動員しても一週間を要する大工事になった。
「なんとか完成したぞ。ほぼ永久に稼働し続ける転移トンネルの完成だ!」
トンネルは往路と復路が有り、トンネルへは一隻ずつ入るように魔法によって監視する。
トンネル手前の信号が赤なら入っては駄目、青になれば一隻だけ入って良いといった感じになる。
魔力消費を抑える為に、博士に頼んで魔法通信ネットワークを利用したシステムにした。
八千キロ届く送受信アンテナを作るのではなく、既にあるインターネット回線で会話するみたいな感じかな。
ちゃんとテストも繰り返して安全は確認できた。
さて、通行料はいくらの価格設定にしようか。
今までよりも圧倒的に速く東の大陸へと行けるわけで、四五日分の輸送コストが削減できる。
船は主に魔力で動いているので転生者の俺が考えるほどのコストはないが、それでもそこそこにはなるはずだ。
更に価格でも優位に立てば、もう運河航路を使う者はほとんどいなくなるだろう。
運河を抜けた先にあるいくつかの町以外なら、俺の作った転移トンネルの方がいいからね。
「ミケコ、価格は超大型船で二千万円にしよう。これくらい取れれば維持管理にかかるコストも余裕でペイできるはずだ」
仮に向こうが無料に近い値段を付けて来たとしても、生ものなど早く届けたい物の輸送にはこちらが選ばれるに違いないのだ。
今まではそういう物は近場でしか取引できなかったが、これからは多少遠くても取引できるようになるぞ。
「分かりました兄上様。二千万円でファイナルアンサーです!」
さあこれで伊集院や有栖川はどう出てくるか。
こりゃかなり反感を買いそうだなぁ。
おそらくきっと‥‥
俺が予想した通り緊急世界会議が開かれる事となりましたよ。
「それでは緊急世界会議を始めるぞ!」
今年に入ってからの世界会議では、議長が九頭竜の者に変わっている。
九頭竜は今年に入ってかなり領土を失ったから今ではほぼ皇と並んでいるが、一年はこのまま議長国だ。
有識者ランキングでも意見が分かれるくらい並んでいるから、確実に来年は皇に戻るだろうな。
「今回開催を要請したのは、伊集院と有栖川の両国だ。謎乃王国と神武国を繋ぐ転移ゲートのようなものを使った新たな航路に関してが議題だ」
「ではまず、伊集院から質問させてもらう。一週間でこのような大工事をやってのけた訳だが、かなりの費用がかかったのではないか?」
「それはそれなりにはかかっているさ」
「謎乃王国も同じです!でもやりたい事をする時はお金の事は気にするなと兄上様が言ってくださいました」
神武国は東征、謎乃王国はミケコが参加している。
俺は当然此花王国の代表だ。
ちなみに現在は、帝国所属の王国以外すべての国が参加できる事になっていた。
尤も今回の話に神武国と謎乃王国が呼ばれないなんて事はあり得ないんだけどね。
「なのに何故あれほど安い価格に設定したのか。我々はある程度回収するまでは高い価格に設定せざるを得ない」
「有栖川も今までは価格を抑えさせられてきた訳で、正統な値上げだったと主張する」
自分たちの価格の正当性をアピールかよ。
どう考えても取り過ぎだって。
「神武と謎乃、どうなんだ?何故安い価格に設定したんだ?」
「ミケコ王と相談してこれで十分だと判断しただけだ」
「そうなんです!それに工事にアルカディアがかかわっているのはもうお分かりかと思いますが?」
アルカディアとの繋がりは、もう隠しても仕方がないと判断していた。
だって工事に青い三連星が参加していたわけだしね。
普通『なんで黒死鳥王国の主力戦闘員だった者たちが?』ってなるよね。
どうせ調べられて、ほぼバレバレな状態で隠しておくよりは、こちらから話した方が変に疑われないで済む。
「アルカディアというのはどういう秘密組織なんだ?」
「それは俺が話すよ」
どうせ俺とミケコの繋がりもハッキリしているのだ。
俺が話した方が妙な疑いを掛けられないで済むよね。
「秘密組織アルカディアってのは、各国にあるような民間軍事組織が多少自立したモノと考えてもらっていいと思う。軍事以外にも工事とか手伝ってくれるみたいだな」
俺がそう言うと皆が少し騒ぎ始めた。
「此花はアルカディアと繋がっていたのか」
「繋がっているって言えばそうなるのか?ただ仕事を依頼する程度の繋がりはあるって事だぞ。別にアルカディアが此花領内に存在する訳でもないしな」
この辺りで線引きしておけば大丈夫だろう。
国家と民間軍事組織の関係は皆が理解している。
依頼さえあれば別に他国の仕事だって請け負う。
それは伊集院の運河造りで明らかにしてあるのだ。
「依頼するにはどうしたらいいのでしょうか?」
東郷王国の者か。
守ってもらえる組織があるなら頼みたい所なんだろうな。
でもこれ以上は話せないんだよね。
「アルカディアへの依頼方法は、アルカディアが依頼を受けてもいいと思う者だけにしか教えないと聞いている。そして連絡方法を話したらこの先俺の依頼は受けてもらえなくなる。だから話す事はできない」
これである程度は納得してもらえるだろう。
何処の国も似たような組織を抱えていたりするからな。
繋がっているという疑いが、完全に晴れる事はないのだろうけれど。
「話がそれたので戻すぞ。つまりアルカディアへ依頼する事で、工事が素早く安価で行う事ができたという訳だな?」
「その通りです!だから価格に問題はありません」
「一つ聞きたいのだが、アルカディアの連中はそんなに有能なのか?」
早乙女か。
どうしても四大国に比べると力が不足しているからな。
取り込みたいとでも思っていそうだ。
「映像のままです!とっても有能と言えるでしょう」
「確かにその通りなのだが‥‥一週間で完成させられるものなのか」
ああそれはね、俺が姿を消して、松姫からコピーさせてもらった『他人に自分の存在を感じづらくさせる能力』で眼中に入らないように作業していたからなんだよ。
報道記者が俺に注目しないから、何かの映像を録画している間に別のモノが完成しちゃってたりするわけ。
でもそれは伊集院の報道だから、何かを隠していると疑われもしない訳で、だから違和感だけが残る事になるんだろうなぁ。
「完成しました!結果の通りです!」
そう言われたら何も言い返せないよな。
「本題に戻すぞ。伊集院としてはそんなに安くされても困るのだ。重要な航路の話でもあるし、皆が納得できる価格にするべきだと思う」
「有栖川としては後からできた伊集院の運河に関しても問題だ。こちらとしては大きな被害となるわけだからな」
なんだか既得権を守るのが当たり前な言い方だよな。
でも転生前の世界でもひと昔前にはそのような考え方ってのはあった。
例えば町にラーメン屋が有ったとして、近くにラーメン屋を作らないのは暗黙の了解のようになっていた。
仮に作ろうもんなら、ラーメン屋の店主が殴り込みに行く勢いで苦情を入れたと聞いている。
そしてそのような事は、俺が転生する時もまだ日本には残っていたのだ。
新規参入ができないような法律を作ったりしてね。
利用する側の事は何も考えられれてはない。
ただ先に権利を手に入れた者だけが得をする。
それが当たり前ってのもおかしいよな。
できれば利用者を優先し、出来るだけ自由競争にする。
参入障壁は国家を守る時くらいでいい。
そもそも参入が難しい業界やそのままだとデメリットのあるものに関しては、最低限の規制をするのも仕方がないだろう。
だいたいそれくらいのバランスで調整できるれば一番いいと思うのだけどな。
とは言えそもそも国家の覇権争いなんてものは権利の奪い合いだ。
既得権が失われそうになればそりゃ全力で抵抗する。
武力でなんとかなるなら最終的には戦争だ。
世界はそういうもんなんだよね。
でもそれは国民の為だったりもするから許される所もあるわけだが、少なくともこの世界の覇権国家にそのような気持ちがあるようには見えない。
まあ転生前の世界でもそうなんだけどさ。
無能な政治家って大変だよね。
戦争を起こさないようにするには、既得権を増やして国民を犠牲にするしか選択肢がないんだ。
民を貧しくするか戦争の覚悟を持つか。
概ね覇権国と有能な指導者がいる国以外はそうなるようにできている。
だから他人の既得権を潰さないように、自分たちが権利を得られるように考えるわけだ。
今回俺がやった事は、民の為とは言え伊集院と有栖川の既得権を脅かす行いをあえて選んだ。
このままなら当然武力による争いを覚悟しなければならない。
でもこうして話し合う場があるのだから、此処で妥協点を見つけないとな。
国王って面倒だよなぁ。
「俺は常に国民の利益を考えている。伊集院の運河通行料の高さも、有栖川の値上げも、この世界に住む住民のほとんどにマイナスとなる。先に権利を奪ったのはそちらじゃないのか?」
「民は我々が築いたものによって富を享受してきたにすぎない。運河を作らなければそもそも東の大陸への海路は開けなかったのだ」
「いずれは誰かがした事だよ。俺は別に指導的立場になくても転移航路は築いたさ。俺は民の代表としてここにいる。お互い歩み寄りが必要だとは思わないか?」
「民の代表だと?」
民をただの駒としか見ていない王族にとっては、そういう意識はないのだろうな。
でもそうではない国が、この世界には意外とあるから捨てたもんじゃない。
「ちょっと待て。今回の転移航路を築いたのは此花だとでもいうような口ぶりだな」
やべっ、うっかり変な事言っちゃったか。
「アイデアは俺が出した。それを神武国と謎乃王国が受け入れてくれた。そういう意味では俺がやったのと同じだろ」
結局俺がやったのと同じだったら、此花が敵視されるじゃん!
でも意外に敵視はされなかった。
「そうか。では歩み寄りとは、例えばどんな解決方法があると言うのだ?」
解決方法か。
伊集院に関しては多少利益を得られれば勝利だから、そちらはまあ何とかなるだろう。
問題は有栖川か。
有栖川は商人ギルドの権利を半分失い、尚且つ九頭竜に参入を許した。
それに対しては九頭竜の領土を多少奪う事で一応収まったが、航路の利権を半分以上失う事になった。
そこは価格調整によって損失が補える所まで持って行った。
しかしそれは世界の民に犠牲を強いるものだった。
そこで俺が立ち上がった。
それは民の利益を取り戻すだけにとどまらず、民が今まで以上の利益を得る事になった。
本当ならこれで良いはずなんだけれど、伊集院は俺たちにもっと利益をよこせと言い、有栖川は自分たちの既得権を奪うなと言ってきた訳だ。
全員が勝ち負け無しという風にはできない。
既に勝者は俺たち民であり、有栖川が敗者である事は誰もが理解しているだろう。
その利益を多少まけてやるくらいが精々だろうな。
「今回の転移航路は、神武国と謎乃王国、そして此花によって行われた事業と言っていい。だからその三国の船は当然転移航路を使う事になる。しかし転移航路は無制限に利用できるものではないんだ。だからその三国以外の国の利用には輸送荷物と船に制限を設けようと思う。それ以外の船は全てそちらを通らざるを得ないのだから、大きなマイナスには繋がらないだろ?」
「その規制とはどんなものにするんだ?」
「三国以外の船の場合、受け入れる船を『大型船』か『野菜果物の運搬船』に限る事とする」
大型船はそれほど多くはない。
そして現状野菜や果物を運ぶ船も少ない。
近場しか無理だからね。
それに金持ちは異次元収納や住民カードのアイテム収納を使って自前で仕入れるからさ。
さて、この辺りの妥協点に乗ってくれればいいんだけど‥‥。
伊集院は利益が増えるか減るかの判断だから、この辺りで妥協してくれると信じているよ。
工事も手伝ってあげたんだしさ。
問題は有栖川だ。
「伊集院としてはそこまでしてもらえるなら受け入れよう」
「有栖川も‥‥それで納得しよう」
やった。
これで少なくとも戦争は回避できたな。
「ちょっと待ってくれ。九頭竜としては東に向かう船がますます減るのだから乗り合いができなくて困るぞ」
「それは皇も同じです」
まさかの九頭竜と皇がキター!
何かを変える時、全ての人を納得させる事なんて不可能なんだよね。
まあ皇はなんとかなる。
今後魔法通信ネットワーク関係で協力していくわけだからさ、他で利益を還元できる。
でもここにきて九頭竜かぁ。
今後ますます叩く相手だし、いずれは武力で戦う事になりそうなんだよな。
とは言え戦争になったら民が犠牲になる可能性もある。
この程度で武力行使はしないと思いたいが‥‥
ゴネ得が通用する国って、ある意味凄いよな。
この後俺は一旦個別交渉の時間を貰って、九頭竜と皇を納得させた。
皇に関しては話せば何とでもなるから、直ぐに納得してもらえた。
今回参加していた皇の者は、俺と皇の繋がりを知らなかったみたいだしね。
大化から話してもらえれば全く問題がない。
九頭竜を納得させるのも、意外と楽だった。
この国は面子を優先する国だから、お詫びとして宝物を送るという事で納得してもらった。
ただこの方法、多用しているとその内舐められる事になるから気を付けないとね。
これで全てがまとまり、とりあえず平和的解決ができた。
「王様やってらんねぇ~‥‥九頭竜に頭下げるとか、別に悪い事した訳じゃないのにさ」
「でも策也がそうしたおかげで戦争にならずに済んだんだよね。がんばったよー!」
みゆきにそう言ってもらえるだけでいいか。
でも本当なら、この世界に住むほとんどの民が利益を得られたはずなんだ。
今回の決定でそれが無理になった。
まあそれでも俺には策があるんだけどね。
東雲や西園寺の小型や中型の船を、全部大型にしてもらうのだ。
その辺りは一応話しておいたけど、話さなくてもおそらくいずれはそういう対応をしただろう。
尤もすぐにはできないから、当面は精々儲けるがいいわ伊集院さんよ。
こうして俺は策を持って乗り越えようとした訳だが、次の手を考えているのは当然俺だけでは無い訳で。
有栖川は次なる手を打ってくるのだった。

この日も俺はのんびりと庭で子供たちと戯れていた。
すると来ましたよいつのもヤツ。
「策也さん!大変なんだよ!ニュースを見るんだよ!」
なんかもう金魚を見るだけで笑えてくるよ。
「大変な事が起こったか。全く、こう続けて一体何が起こるってんだ」
俺はいつものようにガゼボに行き、金魚が住民カードでニュースを映像表示してくれるのを待った。
金魚は席に着くと、テーブルに住民カードを置いて、いつも通り映像を流す。
「我々有栖川は、航路通行料での損失を他で補わなくてはならない。そこで中央大陸の我が領土において、今後荷馬車に対して通行料を徴収する事とする」
中央大陸の中心地域から南へ行くルートの中心には、小さいけれど有栖川領がある。
その場所はとても重要な場所だから、封鎖されたりなんかすればいくつかの国が壊滅的打撃を受けかねない。
封鎖とまでは行かなかったけれど、荷馬車に対して通行料を設けると発表したのだ。
「こりゃ大変だな‥‥」
「だから大変だって言ったんだよ」
リンと総司もやってきた。
「策也!此処が封鎖されたら商人ギルドの計画が潰されちゃうわよ」
「せっかくオーガ王国での衣服の生産が軌道に乗り始めたばかりなのに、此処で料金を取られたら安く提供できなくなりますよ」
言われなくても分かっている。
分かっているけれど、次から次へと人の嫌がる事ばかりやりやがるな。
今回の事で一番損害を受けるのは、船の面では東雲か。
東雲から船を出す意味が薄れてくる訳で、船による輸送収入がかなり失われるだろう。
輸出入で困るのが、元御剣領を手に入れた神武国でありオーガ王国だ。
ドワーフの町三葉も、武器防具の輸出でダメージを受ける。
他にも織田、上杉、武田辺りも困る事になる。
なんだか俺に関わった人たちが狙い撃ちされているように感じてしまうな。
決して狙った訳ではないだろうけれど、少し責任を感じてしまうよ。
せっかく新しい航路を作ったのに、そこを利用して運ぶ荷物が集まらなくなってしまっては意味ないじゃん。
さてどうしようかな。
俺はただ天を仰いだ。
【<┃】 【┃┃】 【┃>】
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