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ハッキリと見えた勝算

戦争なんてするものではない。
しかし相手はこちらの都合なんて考えてはくれない。
脅威で無くなれば攻められやしないとどうして言えるのだろうか。
戦争をする理由なんてそれだけではないのだ。
世界には悪い奴が沢山いて、だからこそ国を作って守ろうとしているんだよ。
武力を持たなければ争いにならないなら、そもそも国自体必要ないんだよね。

ようやく俺の体は元に戻った。
仲間も続々とガゼボに戻って来て、とりあえずは一安心。
しかしその頃には既に、東郷王国は滅亡していた。
国の大きさからすれば、次に狙われるのはオーガ王国となる。
俺は早速オーガ王国とエルフ王国を傘下に入れると発表した。
今までせっかく独立を守ってきたというのに、苦しい決断だよ。
とは言え止める術が無い訳だし、これもただの時間稼ぎにしかならない。
いずれは此花も攻撃対象となるのだ。
そして現時点でなんとかできる見込みはゼロに等しい。
俺たちはすぐに次の手を考えるべく、四阿会議を緊急招集していた。
「武尊は前からあの強さだったのか?」
「いや違ったな。私が見た時は本当にもっと魔力は小さかったぞ」
つまりこの短期間の間でガンガン強くなっているという事か。
その理由は分からないけれど、なるべく早くに対応しないとヤバい気がする。
放置すればするだけ強くなりそうだ。
「現状次に攻められそうな国は何処だ?」
「おそらく長宗我部でしょうね。現存する唯一の女系国で、色々と謎に包まれた国ですよ。どんな国なのか気になります」
長宗我部か。
能力は『眼中に入らない』ってヤツだ。
更に相手が人外の者かそうでないかを見抜く事もできる。
ちなみに俺はこの能力を松姫から得たのだ。
つまり松姫は武田に所属はしているが、長宗我部の継承権も持っている事になるのかもしれない。
「どういう意味で謎に包まれているんだ?比丘尼のように鎖国しているのか。或いは立ち入り禁止区域が多いのか」
「私は分かりませんね‥‥」
「私も知らないわよ」
「僕も同じくです。気にした事が無かったですよ」
「あたしは多少分かるかもしれないのだ」
意外にも七魅が知っているようだった。
「七魅が?人間界の事だぞ?」
「詳しくは分からないのだ。ただ昔住まいを探していた時に偶々長宗我部王国の辺りを通ったのだ」
「ほう。それで何か分かったのか」
「あの辺りは認識阻害がとても強いのだ。大きな島だけど全体が隠れ里のように隠されているのだ」
なるほどそういう国もあるんだな。
だけどだったらどうしてそういう情報も出てこないんだろうな。
そうか、眼中に入らないのは長宗我部の能力だもんな。
東雲の能力とは少し違うから、敵視されたりはするかもしれない。
でも意識的にも物理的にも長宗我部は眼中に入らないのだ。
ならばおそらく次に武尊が攻撃するのは長宗我部という事で間違いないだろう。
でもこれはひょっとすると武尊でも手こずるかも知れない。
世界を飛び回っていた俺ですら行った事のない国だからな。
長宗我部の島まで行く事ができるかどうか見物だ。
「もしかしたら長宗我部が時間を稼いでくれるかもしれない。その間になんとか倒す手立てを考えないと駄目な訳だが‥‥」
皆もう万策尽きたといった感じだろう。
誰も何も提案できるものはないといった表情だった。
そんな時に声を発したのは神功だった。
「策也様、冷泉博士よりビデオ通話が入っております。回線をつなぎますか?」
博士が?俺にビデオ通話だと?
ビデオ通話はリモート会議を一対一で行う機能で、やろうと思えばできるのだ。
なんだろうか。
もしかして俺たちが九頭竜の魔法通信ネットワーク事業を受け継いだ事に不満でもあるのかもしれない。
なんてそんな事はありえないか。
「分かった。繋いでくれ」
「イエッサー!」
すると俺の前に博士の立体映像が映し出された。
「策也久しぶりだな」
「博士も。元気にやってるようだな。で、何か用か?」
「用があるのは実は俺ではないんだ。弥栄様なんだが‥‥」
博士はそう言って、少し横にある何かを自分の前に抱きかかえた。
それは小さな子供だった。
ようやく喋れるようになるくらいの年齢か。
「策也さん久しぶりです。弥栄です」
「おお!弥栄か!」
そう言えば大化の親父が言ってたっけか。
弥栄は既にこの世界に産まれているって。
「はい。私が死んだ後、大化様やみこと様とみゆきちゃんは無事会えたのですね」
「そりゃもう。今では頻繁に連絡を取り合っているよ」
「死んだかいがありましたよ」
死んだ人間にそんな事を言われると変な感じだよな。
「それでどうしたんだ?生まれ変わった事を伝える為に連絡してきたとは思えないが?」
「はい。おそらく九頭竜武尊を倒す方法にお困りかと思いまして、一つ思い当たる事を伝えておこうと考えた次第です」
「思い当たる事?」
「そうです。武尊を倒す方法です」
なんと!
そんなものがあるのか?!
「おお!今も丁度それについて話し合っていてな。全くどうにもならなくて困っていたんだ」
「そうですか。ただあまり期待はしないでくださいね。あくまで私が転生する際に思い出した遠い過去の記憶ですから」
またよく分からない事が起こるんだな。
穢れが無ければ記憶を持って生まれ変われるとかもう訳の分からない設定に、更に訳の分からない設定が追加されたみたいだ。
あれ?違う。
多分今の弥栄は転生者の記憶も追加されているんだ。
俺と同じように。
おそらく今子供の弥栄の母の血統は、青岩院ではないだろうか。
まあその辺りは別にどうでもいいんだけどな。
「教えてくれ。今は何でも情報が欲しい」
「分かりました。九頭竜武尊は、遠い昔世界を一度は統一した者の血統です。そしてそれを撃ち滅ぼしたのは‥‥」
「打ち滅ぼしたのは?」
「誰だか分かりません」
ズコッとなー!
分からないのかーい!
「ですがその者は『ヤマトタケルの剣』という武器でその支配者の魂を斬ったそうです。どうやらその剣が有れば九頭竜武尊を打ち滅ぼす事もできそうなんですが、この世界に現存するのかは謎なんです」
そりゃ転生者の記憶なら、今あるかどうかなんて分からないだろうよ。
でも俺は運よくその剣が何処にあるのかを知ってるんだよな。
ナイスご都合主義だぜ!
つか誰だか分からないって、それ『|日本武尊《ヤマトタケル》』じゃね?
ヤマトタケルの剣なんだしさ。
大昔に日本武尊に負けた家系が、今になって『武尊』と名乗って再び世界の覇権を握ろうとしている。
武尊と名付けた奴はそれを知っていたのだろうな。
「ありがとう。それだけ分かれば勝てる可能性は見えてきたよ」
「そうですか。お役に立てたようで良かった。それでもう一つ伝えておきたい事が‥‥」
もう一つ伝えたい事?
この物言いだと次はあまりよくない話かな?
「な、何かな?」
「九頭竜武尊の能力は『皇帝』というのですが、これが厄介なのです」
「知ってるぞ。良血だと強くなる感じだろ?」
だから伊集院や有栖川の血が入って強くなった。
「ではその良血の定義は分かりますか。どういう血統が良血と言えるのか」
そう言われると難しいな。
強い能力と言っても一概には言えない。
小鳥遊の能力は凄く厄介だったし、あちらの方が良血と言えなくもない。
逆に此花なんて良血と言うにはほど遠いだろうが、それでも世界八位だった訳で。
「分からないな」
「それで正解です。血統自体に意味はないのです。簡単に言うと、血統にある勢力が大きければ大きいほど、領土が広ければ広いほど強くなるのです」
「えっ?それってヤバくね?」
「そちらからの情報では、伊集院、有栖川、それに御幸がかなり濃いとか」
「そうだけど」
「最も問題なのは御幸でしょう。何故なら御幸は、皇、四十八願、そして此花の力が反映されるのですから」
もしかして、他国を傘下に入れてしまった事が武尊をパワーアップさせていたのか?
伊集院も傘下を増やし、有栖川は全て九頭竜本人の領土となっている。
それでやたらと強くなっていたのか。
まあでも分かってしまえばどうって事はないか。
これで今後の強さは測りやすくなる。
小国から狙っていたのはその為もあるんだろうな。
「ありがとう。でも大丈夫だ」
「そうですか。良かった」
逆に言えば、これ以上領土が動かなければヤツが強くなる事はないんだ。
十分やれる。
「しかし‥‥。子供の姿でそんなにペラペラ喋られると、若干気持ち悪くも感じるな」
「だからこの年になるまでなかなか喋る事ができなくて困りました。普段はまだ片言で喋ってますけどね」
何にしてもやるべき事は決まった。
俺は早速南に『山武の家宝の剣を借りてきてくれ』とテレパシー通信を送った。

そんな訳で、南が山武からヤマトタケルの剣を借りてやってきましたよ。
「えっとこれでいいんですよね?」
「おお!助かったよ南!」
既に四阿会議はお開きになっていて、ガゼボには俺しかいなかった。
正確には神功と少女隊たちはいるんだけどね。
「ウニ十字結社への寄付の恩返しができると、山武さんも喜んでましたよ」
「そうか」
寄付して良かった。
やっぱ一日一善だよ。
俺は早速コピーできるか解析を始めた。
「ところで策也さん、魔法の解析とかやってるって聞いたんですけど‥‥」
「ああ、やってるぞ。それさえ分かれば武尊に勝てる可能性は高まるんだけどな」
ふむふむなるほど。
この剣ならコピーは可能だな。
術式等意味は分からなくてもそれだけなら問題なし。
「あー‥‥。俺、魔導書とかスクロールとか割と分かる方なんで、ちょっと見させてもらっていいですか?」
「おおマジか。この指輪を付けて発動させると、俺をパワーアップさせるものなんだけど、何処かスムーズにいかない所があるみたいなんだ。発動はしてるんだけどな」
これはなかなかいいな。
魔石も大した物は使われていないし、すぐにでもコピーできそうだ。
後はこれで武尊を斬る事さえできれば俺は勝てる。
「ああこれですか。使う人の指定があるんですよ。このままだと術者本人に合わせたものになるので、そこが違ってくると汎用指定で威力が落ちるんですよ。その部分を自分に変更すりゃオッケーですね」
「そうかそうか。ってええっ!?マジで分かるの?」
「えっ?あ、はい。さっきも言いましたけど、魔導書とかスクロール作るのが俺の本業っていうか」
俺は一体何をしていたんだろうか。
身近に分かる奴がいたんじゃないか。
こいつらよく分からない奴だし、ボランティア活動がしたいとか言うから放置してたわ。
「南、助かったよ。それでどの術式を変えれば‥‥」
俺は南に細かく術式の意味を教えてもらった。
「ありがとう。これで武尊を倒せる」
「そいつは良かったです。ところで、そいつが神なんじゃないかって話も聞いたんですけど、マジですかね?」
「どうだろうな。俺は多分違うと思っているよ。産まれてまだ十六年だし‥‥」
俺が悪い神を倒す神候補って話はあまり広めるとマズイんだっけかな。
「十六年ですか。確かに違いそうですね。あ、分かりました。じゃあ武尊を倒すの頑張ってください」
「ヤマトタケルの剣をコピーできたら誰かに持って行かせるから」
「取りにきますよ。大切な物らしいですから」
「そうだな。じゃあ頼む」
「では!」
南は瞬間移動魔法で去って行った。
あいつ瞬間移動魔法使えたっけか?
まあいいや。
とにかくコピーコピー。
俺は即行でヤマトタケルの剣をコピーした。
更に予備も何本か作っておこう。
この剣ならコストもかからないし、もっといい素材でも作っておいた方がいいよな。
ほぼアダマンタイト製だったものを、ミスリルやダイヤモンドミスリルでも作っておいた。
アダマンタイト製を三本と、其の他一本ずつで合計五本。
簡単に終わってしまったな。
さっき帰ったばかりだけど、またすぐに取りに来てもらうか。
『南か?もうコピーできたから取りに来てくれ』
『ああはいはい。すぐに行かせます!』
『よろしく!』
ん?行かせます?
すると直ぐに転移してくる者があった。
「おまたせー!取に来ました~よ?」
「えっ?なんで岩永姫が?」
「あっ‥‥」
髪型が前と少し違ってる‥‥。
ていうか、やっぱり神の使いだけあって年はとらないみたいね。
つか不老不死を操る奴が年とってもビビるけどさ。
「はい。ヤマトタケルの剣だ。これを取りに来たんだろ?」
「僕を見ても策也は冷静だね?」
「そうだな。別に敵じゃないし、神の使いだって事は聞いて知っているよ」
そして神の使いが悪い奴な訳がないのだ。
悪い神もいるんだけどさ。
つまり岩永姫は悪い奴ではないと俺は確信しているんだよ。
「南のお使いで来た辺りはどうなの?」
「南たちは何か特別な感じがするんだよ。そして少なくとも敵じゃない。だったらそれでいいじゃないか」
少なくとも俺がどう対応するかに違いはない。
知っても知らなくても対応が変わらないなら、無理に知る必要もないのだ。
話したければきっと本人から話してくるだろう。
問題になるようなら聞くけどさ。
「うん。分かったよ。じゃあ僕から一つだけ言っておくよ。僕は策也が好きだし味方だ。助けて欲しい時はいつでも言ってね」
「そうか‥‥じゃあ俺がこの世界の悪い神を倒す時は助けに来てくれよ」
岩永姫は少し笑顔を見せた後、瞬間移動魔法で何処かへ飛んでいった。
岩永姫がパシリにされてるんだから、南はきっと神か神に近い存在なんだろう。
でも俺が倒すべき神とは違う。
おそらくは、此処とは違う摂理やことわりによって存在する別世界の住人だ。
まあどうでもいいけどね。
さて、俺はやるべき事をやろう。
俺はまず、みゆきに会いに行った。
その道すがら、俺は一匹のバッタを捕まえた。
そして軽く潰してご臨終させる。
「みゆきー!このバッタをちょっと蘇生してみてくれ」
「なーに?バッタ?」
みゆきはパタパタと走ってきた。
擬音語が似合う女の子ってやっぱ可愛くて萌えるなぁ。
「そうそう。ちょっとそれで魔法の術式を解析させてほしいんだ」
「分かったよー!バッタ!生き返れ!」
はい生き返りましたよ。
なるほどこれがみゆきの術式か。
俺の術式と二ヶ所違う所があるんだけど、此処が個人を指定する所なのかな。
まあ何でもいいや。
俺は自分のと比べて違う所を、望海の能力の術式に当てはめて修正した。
「はいみゆき。今度はこの指輪をはめて俺をパワーアップさせてみてくれ」
「もしかして修正箇所が分かったの?」
「そうそう。多分ね」
「よーし!ならばモリモリやっちゃうよ!えい!やー!とー!」
あぁ、やっぱりみゆきは可愛いなぁ。
みゆきは指輪に魔力を送った。
すると次の瞬間、とんでもなく大きな魔力が俺をパワーアップする為に送られてきた。
「なんじゃこりゃー!」
ヤバい、ヤバいって!
望海の霧島に対するパワーアップが雀の涙に感じるくらい小さなものに感じる。
魔力ももちろん大きいし、魔力容量も更に押し広げられていた。
「どう策也?わたしちゃんとやれてる?」
「やれてるなんてもんじゃないぞ?こりゃ完全にチート復活だわ」
「良かったよー!」
いやいや、もうみゆきの愛が十分感じられて嬉しいよ。
なんかホッとしたし、愛ってこうして確認できるのいいよね。
「これくらいでいいぞ。俺の方はバッチリだ。だったら‥‥」
今度は俺がみゆきをパワーアップさせる番だ。
直ぐに指輪の術式を書き換えて、それを指に通した。
そしてみゆきをパワーアップさせる。
「ぬぉー!わたしなんか再び体が小さくなりそうだよ!」
「マジか?」
止めた方がいいのか?
「でも大丈夫。もうコントロールできるよ」
「そうか」
思った通り、みゆきの魔力もこれで押し上げられそうだな。
しばらく魔力をアップさせた後、俺はゆっくりと抑えていった。
みゆきの魔力は高くなったまま維持されていた。
俺と同じとまではいかなかったのは、血の池地獄風呂に入っていないからだろう。
でもこれでみゆきも完全に神の領域だ。
なんとなく準備は整ったと思った。
その後は他の奴らの魔法を解析し、術者の名前に当たる部分を見つけ出しては指輪に変更を加えていった。
ただ、みゆきは俺と二ヶ所違っていたが、他の奴らは皆一ヶ所だけだった。
それでも十分なパワーアップができそうで、武尊対策はこれで万全だろう。
更にこの術式解析ができた事で、俺の持つ魔法や能力の中の問題も見つけられた。
他人からコピーしたものは、その者の名前が術式には含まれていたんだよね。
それを自分の名前に変更する事で、魔法や能力のパワーがそれぞれアップした。
次は必ず武尊を倒す。
俺はパドックで入れ込む馬のように気合がのっていた。
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