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2013年11月4日【月】19時43分21秒
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領主を辞めて旅に出ます!

遠い昔、魔物たちが住む魔界に移り住んだ人たちがいた。
その人たちは、魔界の環境に徐々に適応し、姿を変えていった。
ツノが生え、肌が少し黒くなった。
そんな人たちが再び人間界へと戻って来た時、人々はその者たちを悪魔と呼び恐怖した。
単純に、その姿が恐ろしかったのだ。
恐怖は残酷。
人間たちは怖いが故にその者たちを排除していった。
やがてその行いは人間と悪魔の対立へと変わっていった。
遠い過去の出来事は、少し見方が変わるだけで印象もがらりと変わる。
そしてそのどちらが本当の事なのか、或いはどちらも嘘なのか、事実を確認する事はできない。
ただどちらを真実とした方がいいのか、伝え残すものの気持ち次第だ。
どちらを信じたいのか。
或いは自分にとってはどうあって欲しいのか。
歴史というのはそういうものである。

ドズルたちドワーフを神武国へと送り届け、住まいや鍛冶場の用意をした後、俺たちは再び西へ向かって歩き始めていた。
歩くといっても魔物を倒したりしながら結構な速さで進むので、移動速度は自転車でぶっ飛ばしているよりも速いかもしれない。
そんな旅の次の目的地は『ガガンモ』の町だ。
ドワーフの町を出発する前に冒険者ギルドで確認した所、最近『おばけ』騒ぎが頻発しているとか。
おばけが本当にいるのなら、俺は是非見てみたかった。
そんな気持ちが、進むペースを少し上げていたりもしていた。
「この辺りも特に強力な魔物はいないな」
「山の近くだけど普段から人が多く通るとこアル」
「山に入ればおるかもしれんがのぉ」
別に今は強い魔物を探しているわけでもなく、むしろ気持ちは先を急いでいるわけだから、そんな話をしつつも俺たちが山へと入る事はなかった。
念の為に一応言っておくけれど、先を急ぐのは別に不老不死を早く解除したいからではない。
最近はむしろ今のままでも良いと思っている。
大人の自分は既に大聖や資幣、妖精霧島がいるのだ。
ハーレムを作るのなら別だが既にそんな願望も全くなく、『ならば今を楽しみたい』そんな気持ちだった。
子供の方がいい事も多々あるしね。
そんなガガンモに向けての旅は五日目に入った。
似たような景色、似たような移動を繰り返しているとソロソロ飽きてくる。
見える景色は山から森へと変わってはいたが、やっている事は雑魚モン狩りだ。
いい加減何か刺激が欲しいと思っていた。
「森の中に怪しい二人組がおるえ?近くにあるんは魔界の扉ちゃうやろか?」
上空から柔らかなのに大音量で陽菜の声が聞こえて来た。
やっぱりこの喋りは違和感あるよなぁ。
緊張感も高まらない。
絶対鳥に似合う言葉を喋らせよう。
俺は今度こそ心に誓うのだった。
おっと怪しい二人組だったな。
俺は千里眼で見てみるが、距離が遠く引っかからない。
「陽菜!どっちだ?」
「あっちやでぇ~!」
陽菜が羽で指す方向は、進行方向の丁度左側だった。
「よしみんな。ちょっと見ていくぞ!」
「魔界の扉か。強い魔物でも出てきていたら面白いんじゃがのぉ」
「思ったより魔界の扉ってあるんだねー」
「有栖川は仕事してないアル」
俺たちは久しぶりの刺激に、スピードを上げてそちらへと向かった。
間もなく千里眼でも確認できた。
「ありゃ悪魔だな。生き残りか?傍にあるのは確かに魔界の扉だな。でも少し違う気もするな。なんだろう」
「悪魔か。多少は楽しめる相手かもしれんのぉ」
「お話しできるといいね!」
「悪魔にも良いヤツと悪いヤツがいるアル」
さてどっちなのか。
俺は沢山の悪魔をゴーレムの体に蘇生してきたが、そのまま蘇生しないのはまた悪さをする可能性が高いからだ。
いう事を聞かせる為、或いは悪い事をしようとしたら止める為に細工を施したゴーレムに蘇生している。
それでもそれなりに付き合いをしていけば、割と普通に話せるようにはなっていた。
津希も依瑠も今では普通にこの世界で生きているし、不動や仙人もちゃんと仕事をしている。
多少我がままな所もあるけれど、人間とほとんど変わらない。
むしろ悪魔たちは真っすぐで分かりやすいから、人間の方が怖く感じる時もある。
それは俺に力があるからだろうけれど、人によるとするならば、もう敵対だけが悪魔との付き合いではないかもしれないと思う。
「一応警戒はしておくが、いきなり襲ったりはするなよ。悪魔とも話せば話せるかもしれないからな」
「ふむ。それは残念じゃのぉ」
言っておかないとマジで環奈は殺してしまうからなぁ。
その時は蘇生したらいいんだけど、死ぬのはやっぱり嫌だよね?
間もなく俺たちは二人の悪魔の元へと到着した。
「見つかった!」
「速いぞこいつら」
二人の悪魔はすぐに戦闘態勢をとって、魔界の扉と思われるものの前にかばうように立っていた。
曲線を描くツノはやや短く見た目も少し幼い事から、かなり若い悪魔のようだ。
「どうしたんだお前ら。悪魔だろ?それにその後ろにあるのは魔界の扉じゃないのか?」
近くで見るとやはりそれは魔界の扉なのだけれど、今までと少し様子が違う。
そうか今までのは全て引き戸だったのに、これは押し戸で奥に扉があるんだ。
扉は開かれた状態だが、魔素がこちらに漏れ出している感じはしなかった。
逆に何かがこちら側から魔界に流れているようにも感じた。
「こいつら強いぞ。間違いない」
「殺さないでくれ!俺たちはちょっと訳あって少しの間こっちの世界に来ているだけなんだ」
どうやらいきなり襲ってくる事もなさそうだし、こちらの力量もある程度理解しているか。
だったら普通に話せるんじゃないか。
俺は少し垂れ流していた魔力を収め、警戒態勢を解いた。
「別にいきなり殺したりはしないよ。ただなんでこんな所に悪魔がいて、魔界の扉があるのかが知りたいんだ」
二人はコソコソと何やら相談していた。
まあ聞こえてるんだけどね。
相談が終わると、悪魔の一人が話し始めた。
「俺たちは、魔界の魔力結晶気体が濃くなりすぎるのを調整する為にこちらの世界に来た。その為には魔界と人間界を魔界の扉で繋ぎ、人間界の『素』を取り込む必要がある」
魔力結晶気体ってのは魔素の事だな。
魔素を薄める為に、人間界の『素』を魔界に送っているって事か。
「素ってのはなんだ?」
「説明は難しいが空気、或いは空気の中に含まれる光の結晶と言えるような何か、か」
ふむ。
もしかしたら魔法を解除したり、魔法を止める時なんかに利用する神の加護の力のようなものだろうか。
「素を魔界に送らないとどうなるんだ?」
「魔力結晶気体が濃くなりすぎて、魔界で俺たち悪魔は生きていく事ができなくなる」
それは俺たちにとっても避けなければならない事だよな。
魔界で悪魔が暮らせなくなれば、全て人間界へとやってくる可能性がある。
どれくらいの悪魔が魔界で暮らしているのかは知らないけれど、この前魔王が復活した時よりも多くの悪魔が町を襲う事になるかもしれない。
「分かった。それでその素を人間界から魔界に送って、人間界に問題は出たりしないのか?」
「この扉の大きさを見てもらえれば分かる通り、少しずつ送っているから多分大丈夫だ。あまりやって人間に被害が出れば俺たちのやっている事がバレる恐れもあるからな」
嘘は言ってなさそうだな。
言っている事もだいたい納得できる。
「それでお前たちはずっと扉の前で警戒しながらそれを続けているのか?」
「みんなの為だからな。一応交代制でやっている」
「その扉を開けておけばいいだけなんだよな?だったら放置しておいてもいいんじゃないのか?人間に見つかればまた新しい扉を用意すればいいだろ?」
「俺たちが警戒しているのは、この扉を使って人間が間違って魔界に入ってくる事と‥‥魔界から厄介な魔物が人間界に行かないようにしているんだ。そのために小さい扉を使っているのもある」
へぇ~‥‥魔王配下の悪魔はともかく、割と悪魔って良いヤツなんだな。
ん?でも何かを隠しているような‥‥。
或いは嘘を言って申し訳ないというか、一瞬そんな表情が見えたような気がした。
まあいいか。
嘘を申し訳ないと思う奴らが、悪い事をしてそのままにしておけるとも思えないし、とりあえずは信じて大丈夫だろう。
「だったらその役目、俺が半分引き受けてやろうか?扉の場所は人間界ならどこでもいいんだよな?」
「どこでもって訳じゃないが、地上であればほとんど大丈夫だ。魔力結晶気体は人間界の空気よりも微妙に軽いから上空に溜まってゆく。魔力結晶気体の濃い所でなければいい」
「だったら誰からも邪魔されず、少々魔物が出てきても大丈夫な場所がある。そこへ連れてってやるよ」
俺がそういうと、また二人で何やらコソコソと話し始めた。
それも聞こえてるよ。
「分かった。信じてやってもいい。でも扉を運ぶのは大変だぞ?移動が困難だから俺たちはこの場所にした。ここが人目に付かない限界の場所だったんだ」
「大丈夫だ。お前ら一旦魔界に戻ってろ。そして扉を閉めて五分待て。その後もう一度その扉から出て来い」
力の差を把握しているようで、悪魔たちはいう通りにした。
悪魔が魔界に戻った後、魔界の扉は閉められた。
俺は瞬間移動魔法で魔界の扉ごと王都炎龍の城の中、転移ルームへと移動した。
その後魔法と妖糸を使って魔界の扉を持ち上げる。
バクゥですら持ち上げられる俺だ。
この扉くらいは楽だった。
と言っても大きさ以上に異常に重かったけどね。
そのまま俺たちは転移ゲートを使って地下の実験場へと移動した。
実験場の一番奥まで移動してから、俺は魔界の扉を下した。
「ここなら魔物が出てこようと悪魔が出てこようと外には出られないからな」
完全に結界で塞いであるこの一キロ四方の空間は、計算上大魔王クラスの魔法でも破壊は不可能な仕様だ。
ネズミ一匹通る隙間もない。
ただ空気の流れはあり、物理的に完全な密閉空間というほどでもなかった。
間もなく悪魔二人が魔界の扉を開けて出てきた。
「此処は何処だ?」
この空間は天井から魔法の光が照らしており、どういう空間かは見ればすぐにわかるはずだ。
「鉱物によって固められた大きな部屋の中?」
「そうだな。強力な魔法攻撃にも耐えられる魔法の実験場だ。ここならいくら魔物が出てきても、そうやすやすとは外には出られないぞ。ここに入ってくる人間は俺たちだけだし、ここなら一日一回様子を見に来るくらいでいいだろう。それに‥‥」
俺が意識共有で呼んでおいたセバスチャンが俺の後ろまで来ていて立っていた。
「セバスチャンがこの中の様子を随時監視している。この中というかこの辺り一帯だけどな。何かあれば直ぐに対応できるだろう」
「策也様、悪魔ですか。これはどういう事ですか?」
「いや、困っている悪魔がいたから、少し助けてやろうと思ってな。後はセバスチャンに任せるよ」
「御意」
「ああお前ら、このセバスチャンは元大魔王だからな。お前らのお仲間だ。いや王様なのか?よく分からんがそのつもりで」
俺がそういうと、二人の悪魔は一瞬フリーズしていたが、いきなり顔を輝かせた。
「えっ?あの伝説の魔王様?」
「千年前に人間界へと行ってしまわれた伝説の父」
「ああそうだ。悪魔という事は我が子も同然だな」
「すっげぇー!」
「いやマジムネアツだぜ!」
メッチャ嬉しそうだな。
魔界では魔王って実は英雄的存在なのかな。
そして全ての悪魔は魔王の子孫でもあるわけで、さっき悪魔っこも言っていたけれど、種族の父アダムなのだろう。
そう考えると、これからは悪魔も殺しにくいな。
みんなセバスチャンの子供みたいなもんだから。
「おまえたち、ここで悪さをするなら即殺すからな。そのつもりで」
「ひぇー‥‥」
「はい。分かりました」
セバスチャン、子孫にも容赦がなさそうだ。
うん。
悪い悪魔がいたら殺す事にしよう。
こうして俺は二人の悪魔と魔界の扉をセバスチャンに預けて、再び元いた森へと戻った。

悪魔二人に出会ってから二日が過ぎた。
そろそろ次の目的地であるガガンモの町が見えて来るかといった所で、セバスチャンから意識共有を使った連絡が入った。
『あの二人が話したい事があるというので聞いた所、二週間ほど前に魔界から人間界に入った『白玉』という魔物を逃がしたという話です』
『そうか分かった。それでその白玉ってのはなんだ?』
『多分魔物の『おばけ』の事かと思われます』
おばけか。
もしかしてガガンモのおばけ騒ぎってのはこいつの仕業か。
『それはどんな魔物なんだ?』
『そのままですね。ヒューマン、魔物を問わず他者を脅し恐怖を与える魔物です。恐怖すればそれを食って成長していきます。ですが全く怖くないので、魔界ではずっと白玉状態ですね』
そっか。
それじゃあんまり警戒するものでもなかったか。
いやでも、あの悪魔二人、少し気にしている様子があったよな。
それにセバスチャンは怖くないだろうが、普通の人なら怖がる可能性もあるんじゃないのか?
『仮におばけが成長したらどうなるんだ?』
『生きた人や魔物を食って魂と姿を奪い幽霊に進化します。そうなると人間にとっては少し厄介な存在になりますね。神の加護による蘇生以外で倒す術はありませんし、そこそこ強いですから』
嫌な予感しかしないな。
おばけ騒動を聞いてから既に一週間、もしかしたら人を食って幽霊になっている可能性もある。
『念の為に聞いておくが、それは一匹だけなのか?』
『数はハッキリしませんが、二人の話の内容から、百や二百は確実に入っているかと‥‥』
あかんヤツや!
マジあかん!
既に町が崩壊していても不思議やない!
なんだか関西弁になってしまったが、これは本当にマズいのではないだろうか。
『分かった!ありがとう』
『いえいえ。では策也様失礼します』
「みんな!大変な情報が入った。ガガンモのおばけ騒動の原因が分かった。魔界から来た魔物、おばけが原因らしい。そしてその魔物は成長したら人を食い幽霊になるとか。ダッシュで行って幽霊を狩る必要がある。倒す方法は神の加護による蘇生のみ!俺とみゆきにしか倒せないぞ!」
「そんなヤツがおるんじゃな。それはちょっと手合わせしてみたいのぉ」
「環奈なら殺られる事はないだろうが、多分倒せないぞ?」
「蘇生魔法のぅ。わしもこれを機に覚えてみるかのぅ」
えっ?できるの?
「そんなに簡単じゃないと思うアル」
「言ってみただけじゃ」
そうなのか。
流石の環奈でも得意な魔法は闇系だからな。
光に属する蘇生魔法は覚えられないと思う。
「とにかく急ぐ!飛ぶぞ!」
「わかったー!」
「ほいほい」
「急げ急げー‥‥アル」
俺たちは全力で町へと向かった。
間もなく到着したが、町は既に混沌としていた。
見れば一発でおばけや幽霊だと分かる魔物が、町中に溢れていた。
白い影のような存在の幽霊はほとんどおらず、頭に|天冠三角頭巾《テンカンサンカクズキン》を付けた、存在の薄そうな人の姿をした幽霊が宙に浮いていた。
それをなんとか排除しようと騎士やら冒険者やらが頑張ってはいるが、剣も魔法もすり抜けていくばかりで、なんとかしようと思えば思うほど町が破壊されている状態だった。
「おまえら!幽霊を倒すには神の蘇生魔法しかない!他の攻撃は一切通じないから町を守る事だけに専念しろ!」
俺がそういうと、騎士や冒険者は振り返って俺を見た。
一瞬怪訝な目を向けてきたが、俺の後ろにいる風里や環奈を見て気が付いたのか、俺の言った事は受け入れられた。
「おお!風里様と環奈様が来てくださったぞ!」
「言われた通り町を守るんだ!」
確かに俺は目立たないようにしてきたさ。
でもさ、やっぱりそりゃないよね。
こういう時は子供であるのを嫌に思うよ。
「環奈と風里は町を守ってくれ。俺とみゆきで幽霊を倒していく」
「がってんでさー!」
「分かったアル」
「しかたないのぉ」
しかしこの数、百や二百以上って言ってたけど、普通ならこれどうにもならないんじゃね?
どっかの教会の僧侶を集結させないと駄目なレベルだ。
でも俺とみゆきは、この程度の蘇生はやってきているんだよな。
「やってやるぜ!」
何処かのアニメ主人公が言いそうなセリフで気合を入れて、俺は蘇生魔法を連発した。
幽霊との戦いは夕方まで続いた。
町に到着したのが午後二時頃だから、もうすぐ四時間といった所か。
これだけ蘇生魔法を連発できるヤツなんて絶対いないぞ?
いや、楽にこなしてる奴が目の前にいるんだけどね。
「策也ー!だいたい蘇生できたかなー?」
「お、おう!」
みゆきはマジでチートだな。
魔力はそれほど俺とは変わらない。
魔力というのはその人が一度の魔法に使える魔力の大きさだ。
しかし絶対量は圧倒的にみゆきの方が多いだろう。
これだけ蘇生してまるで疲れを知らない。
俺は回復力がチートだから連発できるが、回復を繰り返す中で疲れは蓄積されるのだ。
「さてみんなはどうしてるかな?」
「ふぉっふぉっふぉっ!」
「策也!環奈が凄いアルよ。蘇生で幽霊をやっつけたアルよ」
「マジで?」
やっぱり環奈は只者ではないな。
「この通りじゃ」
「ぐてぇ~だりぃ~なんじゃこりゃ~」
おい!
その人大丈夫か?
半分アンデット化しているように見えるんだが。
「半分だけアンデット化しておるぞぃ」
やっぱりかよ!
「環奈何したんだ?」
「神の加護の蘇生をしたんじゃが、わしについとる神様は暗黒神じゃったようじゃ」
それ神様だけど神様じゃないよ。
正直どういう存在なのか分からないけれど、闇の魔法は暗黒神など闇の中に住む神の力を借りる。
そんな神様の力を借りたら、なるほどこうい事になるんだな。
「でも大丈夫そうアル。さっきより元気になってきたアル」
そういう問題なのか?
いやそういう問題でいいか。
おそらく環奈の使った蘇生は、普通の蘇生と違って徐々に元に戻って行くんだな。
これでも使えないよりはマシだろう。
「さて、まだ残っているかもしれないから、町をもう一回りするか」
「あっ!あそこに幽霊がいるよ!」
「どれわしが蘇生してみるかのぅ」
「ひぃー!待ってください!待ってください!私を蘇生しないでほしいんだよ!」
幽霊がこんなにハッキリ喋ることに驚いた。
どういう事だろう。
でも話すという事は話せるという事だよね。
だったら話してみよう。
「あんた幽霊だろ?でもなんでそんなにハッキリ喋れるの?他の幽霊は『裏が飯屋』とかよく分からない事しか言えなかったみたいなんだけど」
「あっ!はい!私どうやらおばけに食べてもらえたみたいなんだよ。そしたらどういう訳か幽霊になってたみたいなんだよ」
「食べてもらえた?」
「はい。私もう死にたくて死にたくて、領主とかやりたくなくて。それで食べてほしいって思ってたら食べてもらえたんだよ!」
「ほう。そしたらなんだか自分が幽霊になってて、蘇生はしてほしくないと」
その幽霊は全力で何度も頷いた。
「私はこれから自由。自由に生きるんだよ!この体は便利なんだよ?実体化も可能だし壁をすり抜けたり何でもできちゃうんだよ!」
これは始末しておいた方がいいか?
「目が怖い!止めて欲しいんだよ。ほらほら実体化!人間だった頃の私、割と可愛いんだよ!」
確かに可愛い。
お姉さんな感じだけど童顔で、長い黒髪がとても綺麗だ。
「私、綺麗?」
俺は実体化した彼女を妖糸で捕らえて頭にチョップを入れた。
「そのセリフは幽霊が言っちゃ駄目なセリフだ」
「そうなの?じゃあ言わないんだよ‥‥」
「お前?名前はなんていうんだ?」
なかなか面白い女だ。
友達になれるかもしれないと思えた。
「私?はっはっはっ!私はこの町の領主‥‥だった女!名前は『|兎束小麟《トツカシャオリン》』、貴族なんだよ」
マジか?
さっきも領主がどうとか言ってたな。
「信じられない。住民カードを見せてみろ!」
「住民カード?ん‥‥出せるのかな。おっ!出せたんだよ!」
「ああ良かったな。ちょっと見せてみろ」
「ふふーん。他人の住民カードは見る事ができないんだよ!って見てるんだよ!」
「策也は他人の住民カードを操作できるんだー」
「そうなのね」
確かにこいつはこの町の領主、兎束小麟だな。
「それでお前、領主を辞めて『自由だー!』とか言ってたよな」
「ふふーん!もう幽霊ですからね。死んだら仕事しなくていいんだよ!」
「だったら俺たちと一緒にこないか?旅するのも面白いぞ。別に嫌になったらいつでも抜けていいし」
「言うと思っておったぞぃ」
「うん。幽霊とか面白いアル」
「わーい仲間だー!」
一瞬小麟がフリーズしていた。
そして目から涙が‥‥。
「本当ですか!旅!良いですね!行くんだよ!」
流れませんでした。
「よし、ならば兎束小麟は死んだ。そして幽霊として新たな人に生まれ変わる!」
「策也。幽霊は人じゃないよぉ~」
「まあそうだな。幽霊として生まれ変わった!そうだな小麟?」
「そういう事に、なりますね‥‥」
「お前にはこのカードを授けよう。そして今日から新たな名前で出ていくのだ!」
「おお!」
「その名は!」
「その名は?」
あれ?なんだったっけ?
ちょっとカードを調べてみる。
ああ、このカードも拾ってから適当に名前変更したんだったなぁ。
でもまあ良いか。
これくらいの名前なら十分可愛いだろう。
俺は大聖の俺に伝えて、名前の前に仁徳の苗字を付け足した。
「お前の名前は今日から仁徳『金魚』だ!」
「金魚ー!?」
こうして俺たちに新たな仲間が加わった。
仁徳金魚という名の女幽霊です。
【<┃】 【┃┃】 【┃>】
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