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奉先の裏切り?!暗黒界で修行!

国家政府の役割は、今まで何度も言っているが『国家国民の生命財産を守る事』である。
しかし民主主義国家の政治家に限定するなら、『減税』こそが本来の役割とされている。
予算を使って必要な事をやるのは官僚にもできるし、官僚はその必要なお金を国民から集めようとする。
でもそれだけだと、ずっと税金は増え続けて国民はドンドン生活が苦しくなってゆく。
そこで政治家の出番という訳である。
金の使い道や使い方をしっかりとチェックし考え、減税するのが国民から選ばれた政治家の役目なのだ。
そうやってバランスを取る事で、民主主義国家は成り立っている。
もしも政治家が増税を積極的に言うようになれば、その国は亡ぶ寸前まできているのかもしれない。

今朝の四阿会議で、少し気になる情報が入ってきた。
一つは元御剣領で増税が行われようとしているという話。
そして更に統治を任せている御剣奉先が、此花を裏切って独立しようとしているというのだ。
「これは間違いないと言う話よ」
「僕も聞いています。増税は策也さんの意向だからと嘘まで言っているそうです」
あの奉先がねぇ。
そんな事ができる奴では無いと思うけどな。
それに俺は、こういう話は本人に確認するまで信じない事にしている。
転生前からそうだった。
知人の悪口や噂話は、それを言っているのがたとえ信頼できる友人であってもそのまま信じたりはしない。
大した話でなければスルーするし、重要な話で有れば本人に必ず確認する。
それが俺のポリシーだ。
友達は嘘を言ってなくても、勘違いもあれば情報の出どころが正しいとも限らない。
そのまま信じるなんて馬鹿のする事なんだよ。
「奉先さんが何もなく裏切るとは考えられません。何か騙されているのだと思います」
「ザッツライト!千えるの言う通りだ。それに俺の考えだと、騙されているのは俺たちの方かもしれないぞ」
この世界はどの国もスパイ天国だよな。
だから王様は素顔をあまり表に出さないのだ。
俺は顔を出しているけれど、大切な所は信頼できる仲間にしか教えていない。
この場所だって来れる人でも何処にあるか知らなかったりするのだ。
転移ゲートを通ればそこは楽園ってね。
「対応は任せるわよ」
「オッケーオッケー!会議が終わったら早速行ってくるよ」
そんな訳で俺は、四阿会議の後に奉先の所へと瞬間移動した。

やってきました久しぶりにヤイトの町。
千里眼と邪眼で奉先の居場所はすぐに分かった。
俺は影を移動して屋敷へ入り、奉先が一人仕事をする部屋で姿を現した。
「よう奉先!」
「おっ!これは策也皇帝ではないか。今日は一体どうしたんだ?」
見た所、奉先にやましい所があるようには全く見えない。
やはり思った通り騙されていたのは俺たちの方だったようだな。
「変な噂を耳にしてな。一応確認に来たんだが大丈夫そうだな」
「もしかして俺の変な噂でも流れているのか?」
「ああ。増税するだの裏切るだのありがちなヤツだ」
「増税か。そう言えば策也皇帝が増税を望んでいるという話は聞いたな。減税ならともかく増税なんてあるはずがないだろうと笑い飛ばしてやったが‥‥」
一応奉先側にも工作はしていたようだな。
少しでも話が出るようにしておけば、映像や音声を切り抜いて『奉先は増税しようとしている』なんて証拠を作る事もできるだろう。
「流石奉先、その通りだ」
しかし奉先の教育もなかなかしっかりとやってくれているな。
内政なんて気持ちだけでは無理だと思っていたけれど、難波津の者たちが一人前に育ててくれている。
国家政府の役割は『国家国民の生命財産を守る事』だけれど、地方自治体、この世界で言えば領主の役割は少し変わってくる。
『安心安全を守る事』が大きな役割なのだ。
領主がこんな戯言に惑わされるようでは、民の安心なんて守れない。
俺が思った以上に奉先は期待に応えてくれる奴だったよ。
さてしかし、このやり取りを聞いている奴がいるな。
魔力が別の部屋へと繋がっている。
『菜乃、妃子。俺の正面側三つ向こうの部屋にいる男を確保しておいてくれ。おそらくスパイだ』
『全く仕方がないのです』
『弱い策也タマを助けてあげるのね』
こいつらまだマウントポジションキープかよ。今の俺ならもうプロレスでも負けないぞ?
本人たちは楽しそうだから別にいいけどさ。
「それで、それに対応は必要なのか?」
「いや、もう今工作員らしき人物を見つけた。今捕まえた所だ」
「おお!そうなのか。ならば安心だの」
「ああ、安心だ」
奉先に任せておけば安心だ。
ゆくゆくはもっと広い領地を任せてもいいだろう。
きっと奉先なら上手くやってくれる。
『確保したのね』
『褒めて欲しいのです』
『流石は少女隊だ。今度褒美にチャオチュールをプレゼントするよ』
『おお!なんだか知らないけれどとても嬉しいのです』
『名前の響きがいいのね!きっといいモノなのね』
猫のおやつだけどさ。
本物はこの世界にはないから、あんな感じで中に肉でも詰め込んでおけばこいつらなら喜ぶだろう。
「じゃあ俺は帰るよ。今回の件に関しての詳細は難波津に伝えておく。もしかしたらマイチューブのニュースにしてネットにも上げておくから見ておいてくれ」
「了解した」
俺は少女隊が影に戻ってきたのを確認すると、瞬間移動魔法でこの場を去った。

地下の魔法実験場へと移動してきた。
この場所へはよくくるけれど、魔法の実験に利用した事がほとんどないのは何故だろうか。
今日もいつも通り尋問タイムだよ。
少女隊が捕まえた男は、見た目は工作員と言うより隠密と言った感じか。
忍者とは違って、戦闘には向いていない。
情報を人知れず収集し工作する、そんな感じに思えた。
男には魔力ドレインの手枷と足枷が付けてあるので、まず逃亡は不可能だろう。
ただしこういう輩はユニーク能力を持っていたりするので油断は禁物だ。
尤も、俺は逃亡者を引き戻す能力を持っているので、逃げられても問題はないけどね。
「さて、何から聞こうかな」
「私が全部やりました!有栖川旧神の指示でございます!」
おい、まだ何も聞いてないのに自ら話してくれるとは。
しかも嘘を言っている感じが全くない。
嘘かどうかは意識して聞いたら分かるんだよね。
「何をしたんだ?」
「秘密のメッセージとして、色々な人にメモや証拠となる魔法音声や映像を渡しました。不信感を煽り分裂させ、頃合いを見て奉先を味方に引き入れようと考えていたのです!」
うん、これも嘘は言っていない。
これだけペラペラと喋られると、逆に罠なんじゃないかと思えてしまう。
例えば有栖川への敵意を煽って、こちらから開戦させようとか‥‥。
そうすると有栖川は戦争をしたがっている事になる。
でも世界を敵にはしたくないから、こちらから攻めるように仕向けているのか。
或いは民が望まないから、有栖川の方からは開戦できないのか。
可能性は可能性として、一応頭には入れておこう。
となるとやはり戦争はなるべくしない方がいい。
俺も今は力を発揮できない状態だしな。
この後も秘密のメッセージの伝え方や伝えた人、或いは工作の全体図を話してもらった。
そのどれもが嘘ではなく本当の事を言っていた。
「とりあえずこれだけ聞ければ十分だ。お前はしばらく牢屋に入っていろ」
「それはもうおとなしくしていますです!」
俺は男を神武国の牢屋へと送った。
それにしてもあまり有能な男には見えなかったな。
なのに一人で多くの人を騙してきたのだから、この仕事では有能だったのだろう。
いつか他国への工作が必要な時には使ってみるのもいいかもしれない。
まあ俺のやり方には合わないから、ずっと牢屋での生活をしてもらう事になるかな。
何にしても奉先の変な噂話はこれで片付いた。
そんな訳で俺はこの後、出荷する野菜を届けたりしてから、暗黒界へ行って魔法の特訓をするのだった。

今日も一日頑張って、夕方の四阿会議の時間がやってきた。
俺がガゼボに行くと、既にみんなが揃っていた。
「みんな早いな。何かあったのか?」
「今日から食料の流通が始まったのですが、いくつかの馬車が襲われています」
「愛洲でも村を襲う人が減るどころか増えていますね。盗賊団の数も規模も大きくなっているようです」
今日からの出荷で徐々に落ち着くと思っていたけれど、甘い考えだったかもしれないな。
盗賊になってしまったら、一般人に戻る事は難しいか。
人を殺してしまったら、もう自分自身で殺人鬼のレッテルを貼る事になるだろう。
盗んで上手く行けば、普通に働くのが馬鹿らしくなってくるかもしれない。
俺も小さい頃は色々悪い事をした。
親の金を盗むなんて当たり前にある事かもしれないが、一度やってしまうと何度もやってしまうのだ。
それを改めるには、それなりにきっかけが必要になってくる。
「有栖川の盗賊には政府も協力している節があるからなぁ。やはり有栖川にメッセージを出すしかないだろう」
そんな訳で俺は、直ぐにニュースサイトへ声明をアップした。
『今日から収獲できた作物を多めに出荷している。有栖川で飢えた民にもそれなりに行き渡るはずだ。だから有栖川には民が盗賊化しないよう対応してもらいたい』
ニュースサイトは現在二ヶ所になっていた。
九頭竜帝国が無くなった事で盗賊報道は消滅し、アルカディア運営のマイチューブへと吸収した。
ちなみにメール暗号化のサービスは、九頭竜が無くなった事で不要になると考えていたが、何らかの方法で見られる可能性を危惧する声もありそのまま残っていた。
「一応有栖川に言うだけは言っておいたが、期待はできないだろうな。リンは一層の対応強化を頼むよ」
「やるしかないわね」
やっぱり政治素人の俺には難しい仕事だよ。
それに自国の事だけでも手いっぱいなのに、他国の民の事まで考えていたらみんなに迷惑をかけるよな。
ただ、もしも俺が本当に神になるのだとしたら、それは越えなければならない壁な気がする。
ただの人間だったらともかく、神なら世界を救えるはずだよね。
リンたちには苦労をかけるが、出来る所までやらせてもらうよ。
その代わり俺も、出来る限りは頑張るからさ。
四阿会議が終わった後、俺はしばらく庭で魔力コントロールの特訓を続けるのだった。

次の日は朝から暗黒界へと来ていた。
暗黒界で特訓する理由は、とにかく強い奴と実戦した方が成長が早いからだ。
もうハッキリと分かる。
もうすぐ有栖川旧神と戦う事になるだろう。
予感というか予知というか、ガープの未来予知能力が俺にそう思わせる。
今のままでは絶対に勝てない事も分かってしまうのだ。
ならば今最優先するのはこれしかなかった。
「こいつらはかなり強いぞ!妃乃はとりあえずツアールを抑えておいてくれ!一体ずつ倒していく!」
「怖いのさ。あの攻撃はかなりヤバいのさ」
つか妃乃よ。
お前ら物理攻撃はほとんど効かないよな。
ロイガーやツアールの攻撃は能力によるものだけれど、物理ダメージを与えるものだから余裕だろう。
俺は相手の能力をコピーしてロイガーに向けて試してみた。
「名付けて!ロイガーツアール!」
「割とそれっぽいのさ!」
ロイガーをカマイタチが襲う!
俺の指パッチンカマイタチとは威力が雲泥の差だ。
攻撃力だけなら邪神トップレベルと言うだけはある。
瀕死の状態にまで追い込んだ。
「よし今だ妖凛!」
妖凛はもういくら食べても魔力はほぼ増えなくなっているが、能力は取り込む事ができる。
ロイガーツアールは物理攻撃最強レベルなのだから、妖凛が使えるようになるのは心強いよね。
「策也タマ!こっちは、こっちはどうするのさ?!}
とりあえずロイガーツアールの使用感は分かったし、別の方法で攻撃だな。
なるべく弱い魔法で、今の魔力で最大効果を引き出すように‥‥。
「俺が倒す!離れていいぞ!」
「分かったのさ」
このロイガーツアールを参考にして、指パッチンカマイタチでどれくらいの効果が出せるか試してみよう。
俺は指をはじいてカマイタチで攻撃した。
多少威力は上がったものの、全く通用しねぇ。
いやまだ魔力に無駄がある。
これを失くすまでこの攻撃を続けてみよう。
「おっと!」
相手も攻撃してくるのを忘れちゃダメだぞ。
まあ最低三つの思考が、身を守る為に常に働いてはいるから大丈夫なんだけどさ。
ツアールとの戦いは一時間以上続けた。
妃乃は影の中で休憩し、妖凛は元のミンクマフラーに戻っていた。
流石にこんな戦いを見ているのも暇だよな。
やっている俺も正直飽きて来る。
でも筋トレのような魔トレだと思えば続けられた。
ようやく無駄な魔力がほぼなくなってきたな。
完全に無駄を失くす事は出来ないが、指パッチンでもツアールに傷を付けられるようになった。
魔力の無駄って実は結構多そうだ。
なんちゃら神拳で言われていた潜在能力七十パーセントとはいかないまでも、三十パーセントくらいはあるだろう。
つまり一点四倍くらいまでなら威力を上げる事が可能だ。
「じゃあそろそろ終わらせてもらうか。これでどうだ!|終末闇裁判《デスカーニバル》!」
十三本の槍がツアールを突き刺した。
ん~‥‥この魔法は一応最上級と言われているけれど、誰もが習得できる魔法の中でって話だからな。
流石に仕留めきれないか。
でもこれだけの威力が出せれば問題ないだろう。
「妖凛!後はよろしく」
(コクコク)
妖凛はアメーバ状になって、傷ついたツアールを包み込んだ。
ツアールは溶けだし、徐々に姿を消していった。
これでロイガーとツアールの魂ゲットか。
こいつら防御力はそんなにだけど、物理攻撃は最上位だしきっと戦力になるだろう。
また仲間が増えるな。
俺は嬉しいけれどため息をついた。
さて次だが‥‥暗黒界中心エリアの端まで来た所に出口が見つかった。
深淵の闇のような暗い穴ね。
「妖凛、此処は大丈夫なのか?」
(コクコク)
ならば行ってみるか。
俺は闇の通路へと入っていった。
その先は夕暮のような世界だった。
「暗黒界にはまだこんな所があったのか」
妖凛曰く、暗黒神がいた世界の裏側らしい。
またあのセーブポイントのような温泉があるかもしれない。
これは再び左回りで行ってみるしかないだろう。
俺は世界を高速で進んでいった。
前回みんなで来た時は半月くらいかかったけれど、今回はもっと早く回れるだろう。
とにかく俺は飛び続けた。
「飛んで~飛んで~飛ばれて~飛んで~♪飛んで~飛び続けて眠るまで~飛んで~♪」
既に七時間は飛び続けたけれど、一向に景色は変わらなかった。
正直歌でも歌ってないとやってられなかった訳だが、それももう飽きた。
それにそろそろ夕方の四阿会議の時間だし、今日はこの辺にしておくか。
そんな訳で俺はみゆきにテレパシー通信を送って、召喚してもらって人間界へと戻るのだった。
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