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武尊との決戦に向けて

子供の頃、みんな思ったはずだ。
何故合体ロボットは、合体する時に大きさや形が異常に変わるのだろうかと。
合体ロボが超合金として売り出されても、合体したロボットはアニメで見るよりも恰好悪い。
ではアニメの合体は嘘なのだろうか?
俺はこの世界に来て、その理由が分かった。
多分オリハルコン製だったんじゃね?

俺はクリスマスイヴの決戦に向けて、色々と強化を施していた。
「策也タマ、私たちもオリハルコン製にしてほしいのです」
「そうなのね。死にたくない‥‥じゃなくて、もっと活躍したいのね」
(コクコク)
お前たち‥‥。
オリハルコンは貴重なんだぞ?
とは言えサイズの小さいこいつらなら、手持ちでなんとかなるんだよな。
「でもお前ら、一旦死ぬ事になるんだぞ?」
「大した問題じゃないのです。私たちは既に死んでるのです」
「そうなのね。それにこれだけポンポン蘇生させておいて、今更死ぬのが怖いなんて片腹激痛なのね」
(ウヒャヒャヒャ)
そんなに笑い転げて腹が激痛なほどに愚問なのか。
「本当にいいんだな?」
「さっさとやるのです」
「私たちは死にたくない‥‥じゃなくて、策也タマの役に立つのね」
(コクコク)
「じゃあやるぞ?」
菜乃と妃子は装備していたアイテムを取り外した。
俺は手持ちのオリハルコンで、三人のゴーレムを細部まで再現して作り上げた。
「やけに細部までしっかり作られているのね」
股を開くな股を‥‥。
「何度も裸を見られているのです」
人聞きが悪いぞ?
回数としては数えるほどしか見てないじゃないか。
(コクコク)
妖凛まで‥‥。
もっと適当に作れば良かったか?
ぶっちゃけ適当に作っても、後で魂に引かれて体の形は調整される。
でもちゃんと見て知っているから、ついつい細部にまでこだわって作ってしまったよ。
その方がきっと魂が馴染むだろ?
悪い事はないはずなのだ。
「つべこべ言ってないで、さっさとやるぞ!」
「ドンとこいなのです」
「ちょっとだけドキドキするのね」
(ワクワク)
妖凛は何故か嬉しそうだった。
「じゃあいくぞ!蘇生解除!」
俺は三人の蘇生を解除して魂を分離させた。
その魂を操作して、オリハルコンの体とくっつける。
あれ?どっちが菜乃でどっちが妃子だったっけ?
多分こっちかな。
まあどっちでもいいや。
俺は繋げて蘇生した。
「水の蘇生!風の蘇生!水の蘇生!」
問題なく、直ぐに蘇生は完了した。
横たわっていた三人は、それぞれ目を開いた。
「終わったのね?思ったほど楽しくなかったのね」
「案外あっけなかったのです」
(コクコク)
何を期待していたんだよ。
全く。
三人は勢いよく一気に立ち上がった。
そしてお互いを見て驚いていた。
(???)
「うわっ!どうして私が目の前にいるのです?」
「本当なのね。私が二人なのね」
「あっ!やっぱり逆だったか?悪い悪い。まあでもオリハルコンだし、好きに形は変えられるだろ?」
多分逆だとは思ったんだけどさ、ついつい悪戯してやりたくなっちゃったんだよ。
「それは私の体なのね!返すのね!」
「違うのです!そっちが私の体なのです!」
二人はよく分からない争いを始めた。
俺は無視してみんなの魔砂を回収した。
こいつら魔砂ゴーレムじゃなくなったら、パワーアップできる効果ももうなくなるんだろうな。
俺は試しにやってみた。
すると何故かそのままできた。
ふむ、今までずっと一緒だったから、本当に一心同体になってるみたいだ。
そしてこの魔砂は魔砂で自在に使えるな。
「おいお前ら、妃乃になって全部アイテム吸収しておけよ」
「一時休戦なのです」
「終わったら本格的に決闘なのね」
なんか目的が何処かに飛んで行ってる気がするが、いいのかそれで?
妖凛は我関せずといった感じで、いつも通りミンクのマフラーになって首に巻き付いてきた。
「妖凛の魔砂は妖凛に預けておくよ。何かに使えるだろ?」
(コクコク)
「お前たちの魔砂も俺の影にしまっておくから、好きに使っていいぞ!」
「今はそれどころじゃないのさ。話しかけないでほしいのさ」
少女隊は妃乃になって絶賛アイテム装備中だった。
ネックレスも両方付けるのね。
その方が効果は倍増するのかな。
まあ前よりも弱くなる事はないだろうし、放っておくか。
そうこうしている内に二人はまた菜乃と妃子に別れた。
「さあもう一度勝負なのです」
「ケチョンケチョンにしてやるのね」
あれ?見た目と喋り方が合ってるぞ?
なんだ合体して戻った時にでも、体を取り換えられたのかな。
案外問題なんて、問題だと思っていてもそうでは無かったりするいい例か。
スッカリ元に戻っているにも関わらず、二人はまだ争いを続けていた。
それにしても、気のせいだろうか。
二人とも強くなっている気がする。
俺は邪眼で確認した。
すると魔砂ゴーレムの時よりも十倍くらいに強くなっていた。
ああ、これはアレだ。
妃乃になった時の強さが、別れた今も残っているんだ。
体を取り換えたり取り戻したりしたのが原因かな。
二人の距離は別れても好きな人‥‥じゃなくて、別れてもゼロのままって事だろう。
いやぁ~こういう都合のいい展開は好きよ。
でもこいつらが十倍強くなったところで、武尊を倒すのには全く影響がないだろうけどさ。
さて二人は争いを続けているし、このまま次の事をするか。
俺は魔砂でスマホを作り、再度旧神を憑依させて話をする事にした。
「旧神、俺と一緒に戦ってくれないか?お前の力があると助かるんだよ」
「何度も言っただろう。俺はもう蘇生は望まない。さっさと殺してしまってくれ」
頑固な奴だな。
それでも俺の魔砂を使って蘇生すれば、言う事を聞く奴にさせる事はできる。
でも本人が此処まで嫌がってるしなぁ。
「本当に死んでしまっていいんだな?」
「クドイぞ!」
やれやれ。
仕方がないか。
俺はスマホに憑依したままの旧神に魔法を放った。
「訴えてやる!」
この魔法というか能力は、体を消滅させ魂を浄化リセットし指定した場所に飛ばすものだ。
本来は暗黒界の魂工場に飛ばされるのだが、俺はアレンジして手元に届くようにしていた。
これでこの魂にあった記憶や思考は全てリセットされ、レベルというか魔力というか力だけが残されたものとなった。
これで実質旧神は死んだと言えるだろう。
でも魂だけは俺の中で使わせてもらうぞ。
俺はその魂を取り込んだ。
旧神の能力と魔力だけいただかせてもらうのだ。
尤も能力はほぼすべてコピーしてあるので、こうして得られるものは魔力とクトゥルフの称号だけなんだけどね。
でもこの称号がポイントだ。
全ての邪神は無条件でクトゥルフに従うのである。
そして敬愛するのだ。
つまりおそらくはこれで、元邪神のみんなから得られる魔力パワーが増大すると考えられた。
そんなの無くてもクトゥルフを取り込んだ事で、かなり魔力アップが図れた訳だけどね。
次は‥‥つかまだ菜乃と妃子は戦っているのか。
あいつら力が完全に互角だから、決着はつかないだろうよ。
おそらく体を入れ替えたりなんやかんやで、思考もほとんど同じになったろうし。
元々ほとんど一緒だったけどさ。
『山女ちゃん?今暇?』
なんか電話で軽くデートに誘う時みたいな台詞だな。
『桐也くんとみたまちゃんと遊んでますが、どうかしたんですか?』
『ちょっと手伝ってほしい事があってね。子供の相手は夜美ちゃんに任せられないか?』
『分かりました』
『じゃあ魔法実験場で待ってるから』
やっぱりデートに誘う電話みたいじゃないか。
山女ちゃんが来たら、『今来た所』と言わなければならないな。
するとすぐに山女ちゃんは目の前に現れた。
「お待たせしました」
「大丈夫、今来た所だから」
ってマジで全然待ってないよ!
つかいつの間に瞬間移動魔法使えるようになったんだろう。
流石山女ちゃんだ。
「それで、山女は何を手伝えばいいのでしょうか?」
「それはね。まずはこれを着てくれ」
俺はそう言って一着のパーカーを異次元から取り出した。
「これを着るんですか?」
「そうそう」
山女ちゃんはパーカーを手に取ると、おもむろに頭からそれを着た。
ちなみに『おもむろ』というのは『ゆっくりと』って意味だが、俺が此処で言っているのは『何とは無しに』という意味で使っているからね。
「はい、着ました」
「じゃあこれから、俺がそのパーカーを『|盗み《スティール》』の魔法で脱がせるから、山女ちゃんは全力でそれから逃げてほしい」
これは武尊のフルプレートアーマー対策だ。
おそらくそれを脱がせる事ができなければ、ヤマトタケルの剣によって俺が勝てる可能性は低くなる。
だから練習するしかない。
確実に脱がせる方法を手に入れるしかない。
アーマーは体に取り込んでも意味がないので、スティールは可能なはずなのだ。
「策也さんは、女性の服を脱がせるのが好きなんですか?」
「ちょっ!いや違うぞ?!これはアレだ。武尊のフルプレートアーマー対策の特訓だよ!山女ちゃんのスピードでも脱がせる事ができれば、奴のアーマーも盗む事ができるはずなんだ!」
こんなに焦って言ったら、マジで言い訳しているみたいじゃないか。
落ち着いて言わないと勘違いされてしまう。
「でも策也さんは、女性の裸が好きですよね?」
「えっ?いや、まあ、そりゃ、そんな日もあるとは思うけどさ」
何を言っている!
そこはちゃんと否定しないと。
でも俺、嘘はつけない所あるんだよなぁ。
「だったら‥‥」
山女ちゃんはおもむろにパーカーを脱ぎだした。
そして脱ぎ終わると言った。
「それじゃ、やる気を出す為に山女のこのメイド服を脱がせてください」
うほっ!
なんて提案をしてくるんだ山女ちゃん!
逆にイケナイ事をしているみたいで難易度が上がっているぞ?
でも難易度が上がった方がいいのか?
だったらせっかくだし、山女ちゃんの提案を受け入れた方がいいだろう。
「策也タマが心の中で言い訳しているのね」
「そうなのです。素直になるのです」
こいつらいつの間に争いをやめたんだ?
こういう時だけ目ざとくやってきやがる。
「俺は特訓するのだ。疚しい気持ちなんて微塵もないぞ!」
「そういう事にしておいてあげるのね」
「今日だけなのです」
全くこいつらは。
まあでもおかげで邪心は打ち払われたぞ。
「山女ちゃん。それじゃ頼むよ」
「はい。頑張って脱がせてください」
(ドキッ!)
いやいや妖凛よ。
俺の心を表現しなくてもいいからな。
でもやるのだ。
世界一の服泥棒に俺はなる!
「じゃあいくよ!スティール!」
「こうして俺の『山女ちゃんの服を脱がせろ大作戦』は始まったのである」
「賢神‥‥」
突然やってきて俺の心のナレーションを捏造しないでくれ‥‥。
これで二度目の捏造だよな。
俺は冷めた目で賢神を見た。
「はははは!面白い事をしておるな。少し見物させてもらうぞ!」
「いいけどさ」
しかし山女ちゃんの動きを魔法で捕らえるのは難しい。
エア神通力とか王の命令とか、その他諸々魔法を使えば容易いだろう。
でも対武尊を想定している以上、他の魔法は使えない。
一応言っておくけど、スティールは妖精魔法に組み替えてあるよ。
普通の魔法や能力は使えなかったり、通用しないだろうからね。
スティールの魔法発動スピードを考えれば、動きを予想しなければ捉える事は無理か。
でも動きの予想なんて基本は運だ。
数打ちゃ当たるでもいいけれど、それではおそらく武尊には通用しない。
相手の癖を見抜くのは本番でしか無理だし、ならば今やれるのは‥‥誘導か。
後は少しでも距離を詰める事。
ゼロ距離なら相手を羽交い絞めにするなどしてスティールも可能。
ただし武尊の決め手は魔法だから、距離を詰め過ぎてくる事は考えられないし近づくリスクも大きい。
付かず離れずで戦う事になる。
そうか、相手の立場に立てば当然ミドルレンジが敵の間合いだよな。
となるとその中での移動が多くなるはずだ。
本番の方が対応しやすい事を思えば、山女ちゃんを捉えられたら俺の勝ちだろう。
俺は誘導するような形で魔法を放ちながら、山女ちゃんの服を剥ぐ為に特訓を続けた。
「はははは!策也よ。その誘導は見え見えだぞ!ならば必ず違う方向へ行くと考えるのもアリだ!」
なるほどな。
バレバレならそれを利用するのもアリね。
「魔法範囲に強弱をつけてもいいぞ!全てフルバーストは相手も見抜きやすいからな」
「だったらそれをフェイントにもできそうだな!」
「その通りだ!分かっているじゃないか」
賢神ほどじゃないけど、俺もそれなりに経験値は高いんだよ。
前世からゲームでも鍛えている。
「強弱は割と難しい!」
「ならば誘導の中で違う魔法も試してみたらどうだ?」
「それで万一そこに当たったら後悔しないか?」
「狙っていたなら後悔もするが、運に頼っているようじゃ勝てぬぞ」
確かにそうかもしれない。
でも俺、運で生きて来た所もあるんだよな。
自ら運を下げるなんてできない。
いや、違う魔法でもそれで一瞬でも動きを止められたら、そこで仕留められる可能性はある。
例えばスタンガンやバインド系なら妖精魔術でも可能だ。
ただ今は訓練だから、それは本番で試してみる事にしよう。
この後も賢神にアドバイスをもらいながら特訓は続いた。
でもよく考えたら、アドバイスを山女ちゃんも聞いてるんだよね。
手の内を明かしながらやるとか、流石に捉えられないだろ。
結局その日は、山女ちゃんを捉える事はできなかった。

「疲れた‥‥」
「ずっとスティールしてたんだって?」
「その通りだけど、なんだかお~れっ!ルパンなんちゃらみたいだな」
「泥棒さんはずっとは盗まないよ。盗める時だけ、だね!」
「確かにみゆきの言う通りだ」
泥棒なら盗める時だけ盗むよな。
そうか!
俺は何か勘違いしていたかもしれない。
スティールしまくればいつかは盗めると思っていた。
でもそれじゃダメなんだ。
あの大泥棒はどうやって盗んでいた?
「ありがとうみゆき。明日は山女ちゃんの服を脱がす事ができそうだ」
「えっ?」
「あ、いや、スティールの特訓だよ?」
「うん。分かってるよー!」
この日の夜俺は、ベッドの中でイメージトレーニングをしながら、明日の特訓が待ち遠しく感じるのだった。
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