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シタッケネのお姫様

数日が過ぎ、ゴーレムのミッションも片付いて、俺は旅立ちの準備を始めていた。
といっても大してやる事もない。
留守中のこの家のセキュリティとか、置いていく物なんかを仕分けていた。
ぶっちゃけ家に置いておく必要のあるものなんて無きに等しい。
全部異次元収納魔法で持って行けばいいのだ。
でも|何時何時《いつなんどき》この家に人を招き入れなければならない事があるとも知れない。
生活感の演出の為に色々と置いておく物を厳選していた。
「それにしても、なかなか良いアイテムも揃ったなぁ」
ゴーレムの金儲けミッションは、主にドラゴンや盗賊の財宝を奪う方向でやっていた。
その中になかなか面白いアイテムも交じっていた。
最も使えそうなのが『阿吽の腕輪』だった。
二つが同じ箱に入っていたので、一緒に使うものだろう。
試してみたら、『|阿虎《アコ》と|吽龍《ウンリュウ》の力を借りる腕輪』のようで、かなり戦闘時に役立ちそうなものだった。
「尤も、俺が使っても大して何も変わらんけどね」
他にもいくつか使えそうなモノがあり、それらは一応持って行く事にした。
その後は置いて行く物を建物内に配置していった。
奪った宝物の半分くらい住居装飾品だったからね。
それらを各々の部屋に配置し、家の内装もある程度整ってきた頃、門の鐘を鳴らす音が聞こえた。
敷地を囲う塀にある門だ。
俺は千里眼で確認した。
ただの客人とは言えない、貴族の中でもおそらく最上級に位置する姫君のような女性というか女の子の姿があった。
その子は二人の騎士を供に連れていた。
俺は和夫ゴーレムを迎いにやった。
迎いにやるといっても、思考は俺だから俺が出迎えに行っているのと変わらないんだけどね。
ちなみに和夫ゴーレムは、俺が手に入れた住民カードの中で最年長、七十歳の男性ゴーレムである。
執事のような姿にしておいたので、こういう時は出番だ。
門に近づくと、姫君のような女の子は門越しに話しかけてきた。
「ここは御伽総司の家であってるわよね?」
「左様でございます」
女の子の質問に、俺は咄嗟にそう答えた。
一応宝探しの旅を二週間以上していて、このキャラにも多少慣れてきていたので、セリフはスムーズに出た。
しかし御伽総司の家だと認めて良かったのだろうか。
この女の子は御伽総司の事を知っているかもしれない。
いや間違いなく知っているのだろう。
とはいえ認めてしまったものは仕方がない。
俺は流れで門を開け、その女の子と従者の騎士二人を中へと招き入れた。
玄関もそのまま通り、真っすぐと応接室まで案内した。
本体である俺は、ソファーに座ったまま部屋に入ってくる女の子を見ていた。
ウェーブのかかった金髪が長く、部屋に入ってくる仕草がいかにもお姫様といった感じの子だった。
「よう!何か用か?」
自分の言った言葉が洒落になっていて少しツボったが、表情は普通に笑顔をキープした。
「子供?ねぇ?御伽総司に会いにきたんだけど?いないの?」
女の子は少し辺りを見回しながらそう言った。
「俺が御伽総司だが?」
俺は仮面を付けたまま、女の子と従者の騎士を邪眼で鑑定してみた。
女の子は魔法使いのようで、レベルも七十くらいはありそうだった。
従者の騎士はどちらもレベル九十以上で、人間としてはかなり上位の剣士のようだった。
ちなみにこのレベルに関しては、あくまで邪眼による私的推定値であり、特にこの世界にそういう概念があるわけではない。
ただ俺が勝手に決めていた。
「何言ってるの?私は御伽総司をよく知っているのよ。あなたじゃない事はハッキリ分かるわ。それとも何か事情があるわけ?」
女の子はそう言いながら、俺の向かいにあるソファーに座った。
従者の二人はその両脇に立っていた。
さてどうしたものか。
嘘をつく事は容易いが、なんとなくここで嘘を言っても意味がない気がした。
「分かった。事情を話すよ」
俺はそう言ってから此処までの話をする事にした。
ゴブリン退治をした事。
ゴブリンの宝の中で御伽総司の住民カードを見つけた事。
他にもカードを十枚手に入れた事。
そしてそれら全て、俺の能力で自分のモノにした事を話した。
「つまりあんたは御伽総司の身分を乗っ取ったわけね」
「まあそういう事だな。しかし既に本人が最終アクセスしてから一年以上経ってるわけでさ、俺が拾ってなかったら既に失効していたものだ。別に貰ったっていいだろ?」
「そうね。紛失した住民カードは、拾った人の物になるのは決まっているわね。届ければ五万円程度で買い取ってもらえる。でも使う事は想定されていないのよね」
「でも裏では住民カードの売買も行われているだろ?譲渡も禁止されていないんじゃないのか?」
俺は一体何のためにこんな話をしているんだろうか。
どうせこのカードは俺が使うと決めたんだから、こいつが何をゴネようと使用するまでだ。
だけど何故かこの女の子とはちゃんと話をしておいた方が良いような気がする。
だいたいこんなマスクを付けた子供といきなり普通に話せる女とか、ちょっと面白いじゃないか。
「譲渡は基本身内に限るんだけどね。まあ事情は分かったわ。それで御伽総司本人がどうなったのかは全く分からないの?」
「分からないな。普通に考えたら死んでいるんだろうけど、此処までの事を振り返ると断言はできない気がする」
そうなんだ。
普通に考えれば死んだはずなんだけど、なんとなくそうではない気もする不自然な事がある。
一年にも及ぶ簡単クエストの途中で、用意されていたかのようなこの屋敷。
「たぶん生きてるわよ。総司は学園主席でマスタークラス並の使い手だったんだから。っていうか、この家は客にお茶も出さないの?喉が渇いたんだけど」
なんだこの女。
やっぱりかなり上級の貴族だな。
「はいはい、持ってこさせるよ。つか総司はそんなに強いヤツだったのか?」
「まあねって、よく考えたら、あんたも子供とは思えない対応するわね。私普通に話しちゃってるわ」
今更そこかよ。
「そんな上級者があのゴブリンの群れにやられるとは思えないな」
「戦闘が得意なタイプじゃなかったけど‥‥そうね。占いとか予言とか、未来を予知する類の魔法が得意だったわ」
そうか。
だったら間違いなく生きているとも思える。
そんな魔法が得意なら死ぬような真似はしないだろう。
おいちょっと待て!
俺はこの世界の全ての魔法が使えるんじゃなかったのか?
つまりそれは魔法やスキルの類ではないという事なのだろう。
或いはオリジナル魔法や固有魔法、固有スキルがあるのかもしれない。
勇者のような、何かに選ばれた存在という線もあるな。
「お茶とお菓子です」
俺がそんな事を考えている間にも、ゴーレムたちは動いていた。
「あれ?美菜じゃないの?!あんたこんな所で何してるの?」
お茶を運んできた美菜ゴーレムに対して、お姫様(仮)は少し嬉しそうに、少し驚いた表情でそう言った。
「もしかしてそいつの知り合いなのか?」
「知り合いも何も、同じ学園の同級生よ!」
俺は一瞬どう説明しようかと考えたが、結局口から出た言葉は本当の事だった。
「そいつもう死んでるぜ。ゴブリンにやられて死んでた」
「どういう事?ここにいる美菜は何?」
俺はお姫様の言葉に答えて、ゴーレムの魔法を解いて魔砂を左手に回収した。
そして左手の魔砂を見せるようにして伝えた。
「この魔砂によって俺が作り出したゴーレムだ。ゴブリン退治の時に住民カードも一緒に回収している。ついでにそいつの仲間のもな。証拠が見たいなら死体も回収してあるぜ」
「仲間のもって‥‥この子の仲間って事は、桜と月光と太郎‥‥」
お姫様は少しショックが隠せないといった感じだった。
「ああ。その名前であってる」
しばらくお姫様は下を向き、何も話せないでいた。
この話し方からすれば、それなりに親しい間柄だったのだろう。
こいつは貴族のようだが、相手がパンピーでも普通に接しそうだしな。
「先日、その子たちのランクがシルバーに上がってたの。その子たちの両親も喜んでいたわ。それ、あなたがランクアップさせたのね?」
「ああ」
お姫様は顔を上げた。
「ねぇ。死体も回収してあるって言ったわよね。死体と、そのカードを両親に返して上げてくれないかな」
「死体は返しても良いが、カードは嫌だ」
普通ならここは返す所かもしれないが、せっかくシルバーにしたのだ。
ゴーレムのキャラにも慣れてきていたのに、今更返せと言われてもちょっと納得できなかった。
姿が子供だと、中身まで子供になっている自分に呆れなくもなかったが、俺は断固拒否を貫く事にした。
「返しなさいよ。でないとそのカード使えなくするわよ?」
「そんな事できるわけないだろ?できるのは皇族か王族の一部、後はギルドマスターくらいのはずだ」
「ええそうよ。私、その王族なのよ。言っても此花王国第三王女で、王位を継承する事はないんだけどね」
こいつ、王女だったのかよ。
確かに言われてみれば凄くしっくりくるキャラだが、しっくりしすぎて逆に想像できなかったわ。
だが‥‥。
「いくら王女でも聞けないな。やると言うのならあんたを殺してでも止めるよ」
特に脅すつもりはない。
ただ面倒くさければ排除するのにためらいはないってだけだ。
「殺れるもんならやって‥‥」
王女がそこまで言った所で、俺は瞬時に背後を取り、右手を首に回して左手のナイフを首に突きつけた。
騎士たちは身動きが取れないように、部屋にいた和夫のゴーレムが二本の剣を持って動きを封じていた。
「俺がお前を殺すのなんて、一瞬なんだよ。カードを返すつもりはないし、これからも俺が使う。分かった?」
俺はめいいっぱい冷たい目をしてそう言ってやった。
|仮面《マスク》で見えないだろうけど。
「分かったわ。でも両親には死んだことをちゃんと伝えてあげたいの。死体は返してあげてね」
王女の切り替えは早かった。
俺は突きつけたナイフを異次元へ収納し、首に回していた右手を解いた。
「それだけならな」
俺はそう言って元のソファーへと戻った。
「それとさ、カードも中身がそのままだとあんたも使いにくいでしょ。名前とか年齢とか所属とか、私が変更してあげるわよ」
王女はそう言いながらダイヤモンドカードを左手に持つと、それをチラチラと見せつけてきた。
「ダイヤモンドカードか。だったら持ってる十一枚、全部書き換えてくれ」
せっかくキャラを作ってきたが、モデルは別にあったりするし、もっと演じやすいキャラにあった名前の方がいい。
「分かったわ。その代わりと言ってはなんだけど、お願いしてもいいかしら?」
お願いか。
しかしこの王女、さっき殺されそうになったのにマジで度胸が据わっているな。
「なんだ?面倒くさいお願いは却下だぞ」
「私を冒険の旅に連れてってくれない?」
「はあ?」
いきなり冒険の旅だと?
いやまあ旅の連れが欲しいとは思っていたし、この子は見た目は可愛いからアリと言えばアリなんだが、王女を連れてってもいいのか?
「私どうせ政略結婚に使われて好きでもない人と一緒にされるに決まっているのよね。だから逃げたいのよ。本当なら総司と結婚して逃げる予定だったんだけど、今は生きてるのか死んでるのかも分からないしね。あんた強いみたいだし、私を守ってよ」
「まあ俺はこの世界最強だから、俺と一緒にいれば安全だし、俺も目的があるから冒険には出ようと思っていたし‥‥」
「ちゃんとあんたの目的にも協力するからさ。王女のダイヤモンドカードも何かの役に立つかもしれないでしょ!」
確かに言われてみれば。
それに俺の目的に協力するだと?
俺は少しいやらしい笑みを浮かべた。
「俺の目的はこの世界でハーレムを作る事だぞ?今は不老の呪いのせいで大人にはなれないが、その呪いを解いて大人になってハーレムを作る。その時ハーレムに入ってくれるっていうのか?」
流石にこれは拒否るだろう。
まあでも拒否られた所で殺しはしないがな。
「構わないわよ。でも条件があるわ。一つは総司が死んでいる事。もう一つはハーレムが完成するまであんたが誰にも戦闘で負けない事。最強なんでしょ?それくらい余裕よね?」
こいつ信用してないな。
「ああ良いぜ!俺は誰にも負けない」
「じゃあ交渉成立ね!早速あんたのカードの登録情報を書き換えるわ」
「分かった」
俺は十一枚のカード全てをテーブルに並べていった。
名前と年齢は、俺がキャラを作りやすい名前と年齢にしていった。
「後は総司のカードの書き換えだけど、今貴族の苗字に空きはないのよねぇ」
確か苗字の数は決まっていて、全てが埋まっている時は新たに貴族にはなれないんだっけか。
「御伽のままで構わんぞ。下だけ変えてくれれば」
「そうは言っても、御伽家に勝手な身内増やす訳にもいかないのよねぇ‥‥仕方ない。私の家系、此花家の隅にでも入れてあげるわ。幸い五代前に隠し子を沢山作ったのがいたのよねぇ。その子孫って事にしてあげる」
なんかちょっと設定は納得いかなかったが、ハーレムとか言っている俺にはある意味お似合いか。
それに此花という苗字は俺に合っている。
「じゃあ名前は此花策也だな。ついでに備考欄に『不老の呪い』を書いておいてくれ。この姿で十八歳だと一々聞かれそうだろ?」
「書いておいても聞かれそうだけどね。一応書いておくわ」
「ところでさ、お前の名前はなんていうんだ?」
女の子とかお姫様とか王女とかお前とか言ってきたけど、いい加減名を名乗れってな。
全く礼儀知らずなお嬢さんだこと。
「私?私は|此花麟堂《コノハナリンドウ》よ。綺麗な名前でしょ?」
へぇ、これは偶然か。
俺の名前も凄くしっくりくる名前になったし、こいつは運命かもな。
「じゃあお前は|麟《リン》だな。俺はリンと呼ぶ」
「別にいいけどどうしてよ?せっかく綺麗な花の名前なのに」
俺は異次元からしまってあった阿吽の腕輪を取りだした。
「リンっていうのは、俺の住んでた所では麒麟の事なんだ。麒麟には四神が集う。この腕輪は白虎と青龍の力があってだな。これをお前にやるよ。自分の身は自分で守れ」
俺はテーブルに黄色い腕輪と緑の腕輪を置いた。
「黄色い方を左手に、緑の方を右手にはめてみろ」
「分かったわ」
リンはテーブルに置かれた腕輪を一つずつ取ると、順番に腕に付けていった。
するとサイズが調整され、ピッタリと腕に装着された。
「なんだろう。少し何かを感じるわ」
「その腕輪に少しだけ魔力を送ってみな」
リンは言う通りに魔力を腕輪へと送った。
すると腕輪がそれに反応し、光輝いた。
「なにこれ?」
「立った方がいいぞ!青龍である吽龍の力で、お前を守る鎧を構築する」
俺の言葉にリンはすぐに立ち上がった。
まず左手の黄色い腕輪から、白虎である阿虎が姿を現した。
「左手の阿虎の腕輪は、白虎である阿虎を召喚するものだ。そいつを召喚すれば、戦いの時などお前を助けてくれる」
「凄い!白虎って伝説の魔獣よね。ボスドラゴン級の強さを持っているって云う」
「そう言われているが、そいつはお前の能力によって召喚されているから、残念ながらそこまでは強くないな」
今見る限り、俺が試しに召喚した時よりも圧倒的に弱く感じる。
おそらくそういう事で間違いないだろう。
「そっか。でもかなり強いのは強いわよね」
「ああ。ドラゴンは無理でも、マスタークラスの人間よりは強いだろう」
レベルでいうと百二十くらいか。
俺が使えばレベル百七十くらいにはなっていた。
「こっちは何?体に鎧が?きゃっ!服が破れちゃう!」
「その服だとちょっと無理があるな。後で俺が合う服を作ってやるから気にするな」
「えっ?何?」
直ぐに龍の鱗でできたような鎧がリンの体に装着された。
ヒラヒラしたお姫様な洋服は破れてグチャグチャになっていた。
「そうやってお前を守ってくれる鎧になるのが吽龍だ。もう少し魔力を送れば、ヘルムで顔もガードできるし、腕を龍の腕にして爪で攻撃できるようにもなるし、羽で空を飛ぶ事もできる。今のリンだと飛ぶのは難しそうだけどな」
「そんな事までできるのね。服がこうなっちゃったのは残念だけど、気に入ったわ!」
「戻す時は魔力を切断すればいい」
俺の声にリンはそれを実行した。
すると阿虎は腕輪に戻り、鎧は消えていった。
服がビリビリになって少し卑猥な恰好になっているリンがそこに残った。
俺は異次元からガウンのような部屋着を出してやった。
「それに着替えな。お前の冒険者衣装は俺が作ってやるから」
俺は黙ってリンを見ていた。
敗れた服の隙間から見える太ももや胸元は、結構魅力的に思えた。
「えっと、男は部屋を出て行ってくれるかな?」
子供の俺だけならこのまま見ていられるかと思ったが、和夫ゴーレムや騎士が部屋にいたのが失敗か。
でも、こんな事ではくじけないのだ。
俺は適当に前世のアイドルに似せたゴーレムを作って部屋に残した。
「着替えで何か必要な事があればこの子に手伝ってもらえ」
「分かったわ」
夕子改め環奈ゴーレムをその場に残して、皆応接室から出て行った。
当然、ゴーレムは女だろうと俺自身である。
着替えはバッチリ見られた。
いや、サイズの確認は必要だからな。
服を作ってやるんだから、これは必要な事なのだよ。
「ふふふ‥‥」
俺はリンの着替えを満喫した。
ただ着替えはすぐに終わった。
ドレスを脱いでガウンを着るだけだからね。
「終わったわよ!」
リンの言葉を聞いて俺たちは部屋へと戻った。
「じゃあお前のそのドレスを改造して、お前の冒険者装備を作ってやる」
「そうありがとう」
俺はリンの言葉を受けると同時に魔法を発動した。
イメージは既にできていた。
陸上の女子選手が着ているようなセパレート型ユニフォームのような感じで、下はブルマではなくスパッツだ。
それに暑さ寒さにも耐えられるように、温度調整魔法などを施してやった。
完成まで十五秒くらいだった。
「凄いわね。こんな魔法も使えるのね」
「俺は最強であり、万能でもあるからな」
俺は出来上がったものを魔法でたたんでテーブルの上に置いた。
「さあ着てみてくれ」
「じゃあまた部屋から出ていってね」
何となく勢いで着替えてくれそうな気がしていたが、まるでそんな事はなかった。
まあ騎士の二人もいるからな。
俺たちはまた環奈ゴーレムを残して部屋をでていった。
再びの着替えシーンを堪能した。
裸を見るのもいいが、下着姿になる着替えシーンもこれはこれでいい。
だけどすぐに着替えは終わった。
「終わったわよ!」
俺たちは再び部屋へと戻った。
子供なのに出る必要あるのか?
「これ、ちょっと布面積少なくない?それに暑い所でしか使えないわよね」
「温度調整機能があるんだよ。胸の所に魔石が付いてるだろ?それがお前から微量の魔力を吸い取って温度は調整してくれる。真冬でも寒さは感じないはずだ」
「えぇ!そんな事できるんだ?」
リンは当然驚いていたが、実はそれだけじゃないんだよね。
「それだけじゃないぞ。破れたりすれば魔石に魔力を送り込む事で修復される。燃えたりすると材料が必要になるが、破れた程度なら即時修復可能だ。ついでに洗浄もしてくれるぞ」
俺がそう言うと、従者の騎士が持つ剣を借りて自ら少し斬って試していた。
「本当だ。直っちゃった!凄いね君!っていうか策也、だっけ?」
「ああ」
こっちに来て初めて本名で呼ばれ、俺は少し嬉しさというか照れくささを感じた。
「じゃあ後はその髪だな。兜を付けるにはちょっと邪魔だ。俺が切ってやるよ」
「えっ?何?この髪を切るの?策也が?かなり不安なんですけど?」
まあ確かに、女にとって髪は命ともいう。
それをこんなガキが切るとなると不安にもなるか。
俺は環奈ゴーレムを招き寄せた。
そして異次元からハサミを取りだし、ちょちょいのちょいで環奈ゴーレムの髪を切っていった。
一瞬にしてきれいなショートボブの髪型になった。
「どうだ?」
「凄い!私もその髪型にしてくれるってわけね」
「そういう事だ」
リンは安心して、先ほどまで環奈がいたソファーの横まできてしゃがんだ。
「じゃあ切るから動くなよ」
「分かったわ」
リンの返事が終わった瞬間、俺は一気に髪を切っていった。
十秒もしない間にリンの髪は切られ、綺麗なショートボブになった。
「できたぞ。鏡はあそこにある」
俺は応接室の中央の柱に取り付けてある鏡を指さした。
その鏡は全身を映せる大きなものだ。
リンは立ち上がって鏡の前まで歩いた。
「うん。悪くはないわね」
「これで準備はできたな」
完璧に俺好みの女の子に仕立て上げた感じだ。
まあ性格はアレだけどな。
「で、冒険は何時から行くの?」
リンは今すぐでも出発したいといった感じだった。
この格好で王城に戻る訳にもいかないだろうしな。
「じゃあ今から出発するか」
俺がそういうと、リンは満面の笑顔を作った。
「そう来なくっちゃ!でも、ちょっとトイレだけさせてくれる?」
そういえば出したお茶を結構飲んでたなこいつ。
「そこのドアを出た直ぐの所にある。使い方を説明しないと分からないな。環奈頼む」
俺は環奈ゴーレムに頼んだ。
そんな事しなくても環奈ゴーレムも俺だから以心伝心なんだけどね。
「こちらへどうぞ」
環奈ゴーレムの俺の思考は、完全にアイドルの環奈ちゃんになりきっていた。
トイレまで連れてくると環奈の俺は説明した。
「この状態でパンツまで下ろして此処に座って用を足します。終わったらこの魔石に触れて洗い流してから此処の紙で拭いて、次はこっちの魔石に触れてください。そうすると水が流れて全て下水へと送ってくれます」
「凄いわね。こんなトイレ見た事ないわよ。王宮にも欲しいわ」
「でも、もう冒険に行くのですから必要ないですよね」
「そうだったわ」
割と普通にガールズトークをしてしまった。
トイレを済ませたリンは、少ししてから応接室へと戻って来た。
「じゃあ出発でいいな?」
「策也はトイレに行っておかなくていいの?」
リンの指摘は尤もだが‥‥。
「俺はトイレに行かなくても大丈夫なように魔法をかけてある。排泄物が溜まれば自動で異次元へと飛ばしてくれる仕様だ」
「えぇっ!そんな事もできるの?それ、私にもやってよ!」
言うと思った。
さてどうしたものか。
これには色々な方法がある。
まず、俺自身じゃないので、魔法をかければオッケーというものではない。
常に魔力を必要とするわけで、他人にこの魔法をかける場合は、何かに魔法をかけてそれを常時身に着けていてもらう必要がある。
一つの方法としては魔石を利用するもので、魔石に魔法をかけ、それを飲み込んでもらう。
それは自動で盲腸に定着し、永続魔法が続くという仕組みだ。
しかしこれはリスクもあるし、他に何か永続魔法を付与したい時に追加ができない。
取りだせば付与できるが、俺以外にはできないだろう。
リスクとしては、一度死んだりして魔力が完全にストップすると、ただのゴミとして魔石が盲腸に残ってしまう事にもなりかねない。
別の方法としては、身に着けるアクセサリーに付与する方法だが、アクセサリーは今後色々なマジックアイテムで使う可能性もある。
そんなわけで、俺は住民カードに付いている魔法付与機能を使う事を提案した。
「じゃあ住民カードを貸せよ。常態魔法をセットできる機能があるよな。ダイヤモンドカードなら五つできるはずだ。それを全部使っているって事はないだろ?」
俺が左手を出すと、リンは渋々といった感じでカードを渡してきた。
「このカードに付与するって事は、このカードを持っていない時はどうなるの?」
まあ当然疑問に思うよな。
「当然、その間はトイレに行きたくなるかもしれない。しかもずっとトイレに行ってなかったら、まともに機能するかどうかは知らん。絶対に肌身離さず失くさない事だな」
「やっぱりそうなるんじゃないかと思ったわ。まあいいわ。一日に一回トイレに行ける時は行く事にしましょ」
そうしておけば大丈夫だろう。
俺は預かったダイヤモンドカードに、自動排泄の常態魔法をかけた。
「これで大丈夫なはずだ」
俺はカードを返した。
「ありがと!」
リンはそう言うと、カードを左手へと収めた。
「じゃあ本当に出発だ」
「ちょっと待って!」
「なんだよおい!」
せっかくこれで冒険が始まると自分を盛り上げようとしたのに、いきなり止められてしまった。
「四人の死体、送り届けないと‥‥」
それね。
「じゃあ門の辺りに棺に入れて置いておくから、ギルドに連絡入れて依頼しておけ。別に俺たちが持って行く必要もない」
「そうね」
「じゃあ今度こそ、冒険の旅に出発するぞ!」
「なんか私よりも乗り気ね」
どうも乗りの悪いリンだった。
でもそんな事はどうでも良かった。
仲間もできて、いよいよ異世界RPGの始まりに、俺はなんだかテンションが上がっていた。
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