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未開のダンジョン探索

『歴史は繰り返す』なんて言うけれど、それは世界が変わっても同じようだ。
何処かで見た過ちは、この世界でも見る事ができた。
何時の時代も、何処の世界に行っても、人間は人間以外ではないという事だな。

アイソラシーの町に到着してから次の日の朝、俺たちは未開のダンジョンへと足を踏み入れた。
地図も無ければ何も分からないダンジョンだけれど、おそらく今までに攻略した何処よりも低レベルである事は確信していた。
俺が今までに挑戦してきた所は、勇者の洞窟やロッポモンの洞窟、或いは竜宮洞窟と高レベルのダンジョンばかりだからね。
そこまで攻略が難しい洞窟は世界中数えるほどしかないわけで、見つかった洞窟がそうである可能性は極めて低いと言える。
そう思っていたわけだが、一階からいきなりウッドゴーレムが出現した。
だいたい一階は初級冒険者でも攻略できるのが普通だが、ウッドゴーレムは中級者以上でないと攻略は難しいだろう。
その辺の低レベル冒険者に探索を依頼しなくて正解だったな。
もしかしたら軽く入ってみて無理と判断した可能性もあるか。
ただ、そんなに数が出てくるわけでもないから、ちゃんと倒せるだけの力があるパーティーなら殺られる事は少ないだろう。
とりあえず一階はこんなものか。
続いては地下一階の二階層目に入る。
此処でどんな魔物が出てくるかで、だいたいこのダンジョンがどういう所なのかが見えてくる。
金魚の話によれば、生態系のあるダンジョンか、魔生の魔石によって魔物が出るダンジョンか、或いは暗黒界の影響を受けたダンジョンか。
それらが組み合わさっている可能性もあるが、大抵はどれかに当てはまるという話だ。
二階層目も同じくウッドゴーレムが出るようだと、生態系のあるダンジョンか、魔生の魔石が埋め込まれたダンジョンの可能性が高い。
しかし別の魔物が出てくるようだと、一般的によくあるダンジョンの可能性が高いと判断できる。
学説では暗黒界の影響を受けたダンジョンって事になるわけだ。
さて何が出てくるのやら。
出て来た魔物はストーンゴーレムだった。
「この洞窟は結構面白いかもな」
「生態系ができているとは思えませんから、狩り尽くしても大丈夫そうですね」
「倒せば素材としていい値段で売れるんだよ」
「しかし雑魚じゃの。全部ワンバンじゃ」
佐天にとっては物足りないダンジョンのようだが、冒険者が挑戦したくなる場所ではありそうだ。
この後は更に期待できそうだし。
期待通り、三階層目にはアイアンゴーレムが現れた。
「鉄の塊は高く売れるぞ」
「数を倒したら持って帰るのが大変そうですね」
「住民カードの収納だと二十体が限界なんだよ」
アイテム収納数は二十個までって決まっているけれど、どうしてそう決められているんだろうな。
確か博士がマスターボックスでその辺りの変更ができると言っていた。
秘密基地が正式に稼働したら、仲間のカードだけでもその辺り変更させるか。
いや先に町の出入り記録の消去が先かな。
俺の足取りはなるべく消しておきたいし。
色々とやりたい事があるよ。
それはともかく、俺の場合は魔法による異次元収納が可能なわけで、もれなく倒したアイアンゴーレムは回収していった。
三階層目は割と広かった。
奥へ奥へと進んだ俺たちは、どうやら最奥と思われる部屋の前まで来ていた。
「どうやらこの辺りが最奥か。扉付の部屋があるって事は、此処がラスボスの可能性が高い」
「そうですね。在ったとしてもせいぜいあと一階層でしょう」
「割と浅いダンジョンなんだよ。でも素材集めにはその方がいいんだよ」
「ラスボスじゃな。わらわを満足させてくれる敵じゃと面白いのじゃが」
佐天のリクエストには応えられないだろうな。
おそらく出てくるラスボスは‥‥
ドアを開けて中に入ると、現れたのはミスリルゴーレムだった。
「ミスリルゴーレムか。アダマンタイトゴーレムかと思っていたが、これは思っていた以上にいいダンジョンだ」
「でも普通なら倒すのが大変なんだよ」
「その分、強い冒険者も集まってくるでしょうね。装備品をミスリルにしたい人は大勢いますから」
「じゃあわらわが倒してやるぞ」
「任せた」
佐天はミスリルゴーレムに向かって行った。
普通はそう簡単に倒せる魔物でもないのだけれど、佐天にとってはゴキブリ程度のものだった。
「月誅!」
一瞬にして月に代わってお仕置きされてしまいましたとさ。
「ミスリルも簡単に凹むんですね」
「普通これだけ硬い敵だと、魔法で倒すもんなんだけどな」
「環奈さんなら斬れると思うんだよ」
環奈か。
今は黒死鳥王国建国を間近に控え、色々と大変なようだ。
色々とね‥‥
「はぁ‥‥」
「策也さん?どうかしたんですか?」
「いや、環奈も割と楽しくやってるみたいで良かったなと思って」
ちょくちょく海神から、『目的を達成する為に順調である』と報告を受けている。
俺がやろうとしていた事を代わりにしてもらっている気がして、なんとなく嬉しくも感じていた。
「今回のミスリルゴーレムは割と強い個体だったな。魂は使えるかもしれないから一応取っておくか」
「奥に宝箱があるんだよ」
金魚が部屋の奥、柱の影にあった宝箱を見つけ、それに向かって飛んで行った。
「それ以外には何もなさそうですね。このダンジョンは此処までのようです」
「そうだな。後は宝箱の中身を確認して終わりだ」
俺とエルも宝箱へ向かって歩いて行った。
みんなが集まってから、俺は宝箱を開けた。
中にはオリハルコンの塊が入っていた。
「これはラッキーだな。オリハルコンは貴重だから貰っておこう」
俺はオリハルコンを取り出し異次元に収納した。
そして代わりに、ジャバウォックの魔石を使って遊び半分で作った、『目に炎を宿らせる指輪』を入れておいた。
効果は潜在魔力に応じて多少使用魔力が高められるというもの。
潜在魔力の高い者や、クラスの低い者なら多少使える程度のアイテムだ。
俺がこだわったポイントは目に炎が宿るという所で、単純に『格好よくね?』と思って作った。
今一だったので此処を攻略した最初のヤツにプレゼントする。
オリハルコンの方が圧倒的に高価だけれど、これは本当に最初に攻略した俺たちが貰っておく。
「もう何もないな。じゃあ戻るぞ。また明日来てどうなっているか確認する」
「明日来て魔物が復活していたらいいダンジョンですね」
「駄目なダンジョンは一ヶ月に一回しか魔物が復活しない所もあるんだよ」
「しかし不思議じゃの。どうして魔物がこんな所に湧いてくるのかの?」
「本当だよな。暗黒界の影響とか言われてもよく分からない。それを言ったら魔界も不思議だよな。人間界の洞窟は魔界に似ているのかもな」
魔界も生態系を持たない魔物が時々湧いてきたりするわけで、ダンジョンっていうのは人間界にある魔界なのかもしれないと思った。

ダンジョンを攻略した後、午後からは牧場や畑を作る作業に取り掛かった。
とりあえずリンに牧場経営指南役をお願いした所、一人紹介してもらえた。
安全を条件にいわれたので、俺は傭兵隊の副隊長『仁徳ゆかり』を付ける事にした。
「頼んだぞゆかり」
「分かったであります!全力で守らせていただくであります」
「お、おう!」
傭兵隊は仙人に任せているのだけれど、一体どういう教育をしているのだろうか。
軍隊式か?
まあでもほぼ魔王クラスに強いし、少なくとも魔物相手にやられるようなヤツではない。
任せて大丈夫だろう。
期間は一応一ヶ月だからな。
牧場経営は、他の者たちに一ヶ月で叩きこんでもらう事になっていた。
牧場経営がしたい、或いは働きたいという人もまずまず集まってきている。
元々アイソラシーに住んでいて、地元に戻って働けるのならという人もいて、なんとかなりそうだと感じた。
俺は牛舎を建てた後、草原に柵も作っていった。
そこにミノタウロスの魂を次々と蘇生して牛を放った。
これだけの環境があるのに、どうして使わないのかね。
温泉観光地だからと制限されていたようだが、牧場とか見て回る所があった方が観光地としては良いと思うんだけどな。
わざと駄目な町にしようと誰かの力が働いている可能性も考えられるが、証拠はないのでこれ以上考えるのはやめておいた。
その後も畑を作ったり町のルールを見直したり、俺は一日大忙しで働いた。
なんだか転生前の世界で必死に働いていた頃を思い出した。

次の日の朝、俺たちは再びダンジョンへと赴いた。
昨日と同じように魔物が出てくれば、このダンジョンは優秀なダンジョンと言える。
素材集めに訪れる冒険者も多くなるだろう。
入場料金だって取れる可能性があるし、アイソラシーの冒険者ギルドに素材集めの依頼も増えてくるはずだ。
しかしその思惑はすぐに打ち砕かれてしまった。
一階層目から違う魔物が現れたのだ。
ただ面白いのが、宝箱には別の物が入っていた。
俺が入れた指輪はそのまま残っていたが、この日はポーションセットが入っていた。
「どういう事だ?」
「もしかして出現する魔物や宝物が日によって変わるのかもしれませんね」
とりあえずこの日は、ポーションセットだけを持ち帰りダンジョンを出た。
次の日もダンジョンに入ると、今度は前日の魔物とまた違った魔物が出現した。
俺たちはとりあえず最奥まで行って宝箱を確認した。
すると今度はアダマンタイトの剣が入っていた。
今度はそれを残したまま帰る事にした。
更に次の日確認した所、状況は昨日と変わっていなかった。
「どうなってるんだよ」
「此処までの事を考えると、おそらく宝箱の中身を回収すると、次の日にはダンジョンが更新されて出現する魔物が代わり新たなアイテムが宝箱に入っている。ただし魔物を倒さずにアイテムだけを回収すると、前日の魔物はそのまま残るみたいだ。出現する魔物が変わるというか、アイテム回収に連動してアイテムと魔物が追加されている感じだな」
「宝箱目当てだと、徐々に攻略は難しくなっていきそうですね」
「こんなダンジョンは他にあるのか?」
「聞いた事ないんだよ。新しいタイプのダンジョンなんだよ」
「魔界でも聞いた事がないの。ダンジョンなんてあまり入った事がなかったがの」
これじゃ素材集めにはあまり向かないかもな。
でもこれはこれで面白いかもしれない。
この後一週間ほど、俺たちはダンジョン探索と町の復興に協力する為にアイソラシーの町に滞在した。
結局このダンジョンは、アイテム回収した次の日にアイテムと魔物がランダムで追加されると分かった。
攻略レベルは、初級冒険者でも可能な時から、ドラゴンクラスの騎士隊レベルのパーティーが必要な時まで色々あった。
「結局ゴーレムが出現する場合が最も攻略レベルが高そうだな」
「十二回の間にゴーレム出現は三回でしたね。これだけ出ればこの町に滞在して素材集めをする価値はありそうですよ」
「それに初級クラスから上級クラスまで、色々な冒険者が攻略に来るだけの価値があるんだよ。どれも素材になる魔物ばかりだし、アイテムも割といいんだよ」
「それにしても誰が宝箱にアイテムを入れてくれたり、魔物をダンジョンに放っておるのかの」
佐天の疑問は、おそらくこの世界の多くの人が時々考える事だろう。
でもそれが当たり前だからあまり口にする人はいない。
尤も、かなり多くのダンジョンでは、一度宝箱からアイテムを取れば、それで終わりなんだけどね。
魔物も、アイテムの守護獣なんかは倒してアイテムを回収したら二度と出てこないし、倒したら一ヶ月は新たに出てこないボスモンスターもいる。
本当に謎だよな。
暗黒界か。
「神様の悪戯だと考えるのが一番分かりやすいかもな」
「そうですね」
「深く考えても仕方がないんだよ」
「神様の悪戯なら仕方がないの」
こうして俺たちのダンジョン探索はここで打ち切る事とした。
俺たちの探索結果を受けて、洞窟の名前は『日替わり素材の洞窟』と名付けられた。
そして冒険者たちに向けて、魔法通信を使って大々的に宣伝をした。
『世界初!攻略ごとに出現モンスターと宝箱の中身が変わる珍しいダンジョン!今なら無料で挑戦が可能!』
「これできっとこの町にも人が戻ってくるぞ」
この町に来て二週間近く、俺は牧場や畑を整備し、エルや金魚は元町の統治者として領主にアドバイス、佐天は旅館で出す食事の試食を繰り返して意見してきた。
後はこの町の人の頑張り次第だ。
そしてこの町に来て丁度二週間の今日、俺たちは再び旅に出る。
「後は頑張ってください」
「本当にありがとうございました。この御恩は何時かどこかで返させていただきます」
「別にいいよ。ダンジョンは割と面白かったしな」
結局また俺は厄介事に関わっちまったなぁ。
人間同じ過ちを繰り返すっていうけれど、これはもうどうしようもない事かもしれない。
それでも一つの町を救える所までやれた事には割と満足もしているし良かったかな。
しかし二週間も同じ町に滞在したのは初めてかも。
食材さえそろえば流石に観光地っていうだけあって飯は美味いし。
部屋も冒険者が泊まる宿と比べれれば遥かに居心地も良かった。
まだこれだけのものが残っているのなら、きっとこの町は復活するだろう。
俺は確信していた。

その頃海の向こうでは、三日月島の秘密基地が完成し、全てが始動していた。
諜報機関の活動から魔法通信を使った業務、マジックアイテムや魔物の研究などだ。
そして秘密基地の魔法通信ネットワーク構築と同時に、黒死鳥王国ミヨケルのネットワークも完成させていた。
これでミヨケルは、皇国以外で自前の魔法通信ネットワークを持つ始めての国家となった。
国内での取引や通信であれば、九頭竜に情報が洩れる事はない。
尤も、そこでの情報は秘密基地で管理できてしまうのだけどね。
ただ、何かがあった時は調べるつもりだけれど、常に情報を監視するような事はしない。
監視する為には沢山の人手がいるわけで、秘密基地の人が増えれば基地情報が洩れる可能性も高くなってくる。
だから普通の人は基地では働かせないのだ。
いずれは世界のネットワークを此処で牛耳るつもりだけどね。
九頭竜が盗んだものを全て取り返すのは、冷泉博士の願いだからな。
マスターカードとほぼ同じ機能を持ったマスターボックスを使えば、メール暗号化サービスの作業も此処で一元管理ができてしまう。
大聖や資幣が相手の住民カードを預かって魔法を付与する必要もなくなるのだ。
だから商人ギルド連盟の手の届かない全ての町で、受付業務だけを委託し登録者を増やす事も可能になった。
さて九頭竜はどう出るか。
できれば何もなければいいんだけどね。
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