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人間最強対魔界最強?

報道には、嘘も本当も有れば批判も賛同もある。
それが健全な状態だ。
言論は自由であるべきだし、そうでなければ世界は腐敗する。
そんな事は分かっているけれど、身に覚えのない事で批判されるのは辛いものがあるね。

『私上杉賢神は、早乙女冬馬のテロ集団によって一度は殺された。今は我が甥である此花策也によって蘇生されたが、負けた私は引退する事を決意した。上杉領は全て此花策也へと譲る事にする』
本当にやりやがったよこの叔母さん。
そんな訳で此花帝国の領土はまた広がってしまった。
しかも点々としているから統治が難しいんだよな。
まあ本来なら、だけどさ。
持ってて良かったチート能力ってね。
転移ゲートを設置すれば、全ての町を全戦力で守る事ができる。
尤も、まだ防御結界の全設置には至っていないから、大量破壊魔法とか来たら守れないけどね。
落ちて来る一分前に知らせてくれれば対処できなくはないけどさ。
何にしてもこれで此花帝国は、皇国や九頭竜帝国に並ぶ大国となってしまった。
いやむしろ追い抜いてしまったと言っていい。
国力という意味で言えば、後は上に有栖川と伊集院があるだけだ。
そうなってくると、当然アンチも増えてくる訳で‥‥
『此花の王は人間じゃないって話だぞ』
『魔物が人間に化けて人間界を征服しようとしてるんだって』
『ハーレムをつくろうとしているって話もあるな』
『黒死鳥王国はそのテストの為に作られたんだそうだ』
『なんにしても此花策也ってのはろくな奴ではなさそうだな』
一部微妙に否定できなかったりするから質が悪い。
つか俺は人間なんだよ。
確かにバクゥの魂吸収しているから少し人外だけどさ、嘘で批判するのはやめてくれ。
とはいえ、反論があればそれもできるわけで、こういう言論状態は悪くない。
転生前の世界では一方的なメディアが多かったから、間違いを指摘するのも正す事も難しかった。
そういう意味ではこの世界は圧倒的に良いと思う。
一方的に決められた放送禁止用語とか、ほとんどの人は気にしちゃいなかった。
放送局側が気にするから、既成事実として認知されてしまうのだ。
「おい菜乃、妃子。俺はこんな事を言われてしまっている。俺が反論しても問題があるから、お前ら一般人のフリして俺の評判が良くなるように工作コメントを書いておいてくれ」
「仕方がないのね」
「分かったのです。任せておくのです」
お、今日は割と素直だな。
なんだかんだ言って付き合いも長いし、やっぱ持つべきものは少女隊だよ。
「みんな騙されたら駄目なのね!此花策也は昔、子供だという事を利用して女性のおっぱいを揉みながら冒険していたのね」
「此花策也の趣味は萌えキャラの人形を作る事なのです。それで毎日くんずほぐれつしているのです」
「ちょっ!お前ら!俺の黒歴史を明かしてどうする!」
そんなの読まれてみろ。
俺はもう恥ずかしくお天道様の元を歩けないじゃないか!
しかも菜乃のは現在進行形なんだよ!
俺は庭の芝生の上で、有言実行プロレスをするのだった。
「策也タマ、気にする事はないのです」
「そうなのね。策也タマには沢山の仲間がいるのね」
「お前ら‥‥」
そうだよな。
それにこういうのって、気にしているのは本人だけだったりするんだよ。
みんなそれなりに黒歴史は持ってるものだ。
恥ずかしい思いをした事が無い奴なんてまずいないだろう。
そしてどうせすぐに忘れ去られるんだよ。
俺はネットのコメントを覗いてみた。
『此花王って変態だったんだな』
『マジ引くわぁ』
『此花領から逃げろー!女はみんな妊娠させられるぞ!』
「おい!お前ら!俺はとんでもなく変態扱いされちまってるぞ!」
「大丈夫なのね。人の噂も七十五日なのね」
「そんなに変態扱いされたら、俺のデリケートなハートは即爆発するだろうが!」
「大丈夫なのです。もう既に賛同するコメントも出てるです」
何?マジか?
「本当だろうな‥‥」
俺は改めてネットのコメントを確認した。
『いや俺は此花策也がうらやましいぞ。むしろ代わってほしいわ』
『そうだよな。可愛い子と冒険の旅に出るだけでもうらやましいと思っていたのに、おっぱい揉みながらとかマジ最高だろ』
『俺も人形遊びしたいよ。リアル女には相手してもらえないからな』
『それ気持ち分かるわ。男としての人権が無ければ人形相手でもいいよな』
確かに賛同と言えば賛同かもしれないが、何処か微妙な気持ちになるのは気のせいだろうか。
でも俺はそれなりに今の生活に満足している。
良しとするか。
「やっぱり策也タマはチョロいのね」
「適当な事を言っていたら勝手に納得してくれるのです」
クッソこいつら‥‥
でも納得しているのだからそれでいいのだ。
此処で怒ったら俺の負けな気がするし。
そもそもネットのコメントなんて気にしたら負けだよ。
言いたいヤツには言わせておけばいい。
そうだよ、魂を穢すような行いをしていなければ、何も気にする事なんてないんだ。
「此花策也、実はウンコ食がマイブームっと」
「目標は、百人の嫁と千人の子供を作る事、なのです」
「ふざけんなお前ら!今日は徹底的にお仕置きしてやる!」
「逃げるのね!」
「怒ったら怖いのです!」
結局俺は、なんだかんだ少女隊とじゃれ合うのだった。

そうやってネットの情報戦に対応した後、俺は賢神と共に魔界に来ていた。
魔界に行きたいと駄々を|捏《コ》ねられたからさ。
「おお!凄いな魔界は!策也はよく魔界には来るのか?」
「まあ用があればな。一ヶ月旅した事もあったし、毎日狩りに来ていた頃もあったよ」
懐かしいよな。
あの頃は逆さまになっている海に驚いたものだ。
「ところで賢神、濃い魔素には対応できるのか?」
こっちに来ても全然平気そうなんだよな。
「魔素ってのは魔力結晶気体の事だったな。どういう訳か平気のようだ」
「そっか」
オリハルコン製の体だから多少マシにはなるだろうけれど、普通は気持ち悪くなったりするものだ。
此処まで平気なのは、賢神が単純に強いからなのか。
それともアスモデウスの影響があるのか。
どうやら賢神にはアスモデウスの能力が引き継がれているようなのだ。
その中に魔素への耐性もあるのかもしれない。
それも含めてやっぱり賢神は能力が高いんだよな。
昨日丸薬を与えたんだが、もう既に瞬間移動魔法やら蘇生魔法やらを習得しちまっている。
上杉の能力恐るべしだろ。
この能力を受け継ぐ者がいなくなるのは、この世界にとって良いのか悪いのか。
考えずにはいられないよ。
「おお!こんな所に町があるんだな」
「此処はサタン王国だ。俺の友達の国だよ。主に猫系獣人が暮らしている」
「猫獣人?大量破壊魔法で獣人王国が滅んで、ほとんどいなくなった希少種ではないのか?」
一般的にはそんな風に認識されているのか。
「あの時俺が町ごと逃がしていたんだよ。それで帰る場所も無いから魔界に住む事になったんだ」
「凄いな策也は。そんな前から強かったんだな」
「でも多分、あの時の俺だったら賢神には勝てなかったよ」
あくまで魔力レベルの話だけれど。
「そっか。私としては今の策也がどれくらい強くなったのか見てみたい。何処かに強力な魔物はいないのか?狩り行こうぞ」
狩りねぇ。
昨日の夜寝る前に、ちょっとだけ悪魔召喚のピラミッド型クリスタルを解析してみた。
寿命を代償とする効果を取り除く事で、どうやら使役できない悪魔が召喚できるみたいなんだよな。
試してみるか?
「じゃあこれで強力な悪魔を召喚してみるか?」
「おお!面白そうではないか。やろうぞやろうぞ!」
賢神ちょっと軽すぎるぞ。
もしかしたらとんでもない奴が召喚されてくる可能性がある。
素質で佐天以上の悪魔がいるとは思えないが、現状という事なら更に強い奴がいてもおかしくない。
魔力レベルなら俺や今の賢神以上のが出てくる事はまずないだろうが、強さはそれだけじゃないからな。
タナトスやアズライールのような能力を持った悪魔だっているはず。
でもそういう奴も、この魔界には既にいるんだよな。
だったら召喚した所で最悪逃げれば問題ないか。
ちょっと強制移動させただけだし、きっと住み家に帰ってくれるはずだ。
「派手に戦っても大丈夫そうな所まで移動するぞ」
「おう!」
俺と賢神は空を飛んで、サタン王国から離れた何もない場所まで移動した。
「この辺りで召喚してみるか」
「何が出てくるのか楽しみだぞ!」
使役条件が無い状態で悪魔の召喚となれば、普通は恐ろしいものなんだけどな。
でも俺もちょっとワクワクしてきた。
ここで召喚できるような奴に負ける事なんてほぼあり得ないし。
俺はクリスタルに魔力を注ぎ込んだ。
「何が出るかな~何が出るかな~♪」
「早く出てこい!私たちと遊ぼうぞ!」
目の前に魔法陣が現れた。
そしてそこからゆっくりと何者かが姿を現す。
女のようで女じゃない悪魔、これはパイモンか。
邪眼で確認すると、すっかり育ちまくっており超強そうだ。
つってもこれくらいなら楽勝‥‥
「ん?何故かもう一体召喚されているような‥‥」
「おお!流石は策也だ!二体同時に召喚とは、気が利いておるの!」
ちょっとそんなつもりは無かったんだけど。
もう一体はなんだ?
レヴィアタンだと?
確かリヴァイアサンの|固有《ユニーク》種、或いは特殊種や上位種とも言われている悪魔だ。
強さは桁違いで別物と言っていい。
悪魔王サタンと同列として扱われる結構ヤバい奴だ。
しかもこいつは佐天と違って完全に育ちきっているぞ。
こいつは俺が相手をするか‥‥
「じゃあ一体ずつ相手をするか。俺は‥‥」
「私は後からの奴とやるぞ!こんなに強そうなのとマジバトルとは胸躍る!」
完全に当初の趣旨を忘れているな。
俺の強さが見たかったんじゃなかったのか。
まあいいけどさ。
とはいえアスモデウスの力を吸収し、丸薬でパワーアップした賢神でもほぼ互角の相手。
そう簡単には倒せないぞ。
しかも取り憑き能力まである。
アスモデウスに体を乗っ取られたばかりだというのにねぇ。
「気を付けろよ!取り憑き能力を持っているぞ」
「問題ない。もう耐性はついてるぞ」
流石チートの上杉大将。
ではこちらはサクッと倒してしまうか。
「神通力!からの~!レッドブルーライトニング!」
デイダラボウシのエア神通力でパイモンを挟み込み、動きが止まった所にレッドブルーライトニングをお見舞いした。
しかしパイモンはそれに耐える。
「ほう、流石に強いな。『|破壊抹殺《デビルランス》』乱れ撃ち!」
無数の毒槍がパイモンを串刺しにする。
これでもまだ生きているとか、アスモデウスよりも強いな。
アスモデウスも完全に成長したら、これ以上になるはずだけどさ。
と言っても此処まで弱れば、アズライールの能力『魂の分離』で終わりだね。
魔石が自動回収され、魂は俺の手の中にあった。
「さて、これよりも強い奴相手に賢神はどう立ち向かう?」
「ははははは!強い!強いぞお前!だが私も強くなってしまっているようだ!全然効かぬ!効かぬのだそんな攻撃!」
やっぱり賢神はチートだ。
レヴィアタンは精神を削りに来ているが、むしろ逆に作用していると錯覚してしまう。
賢神は敵が強いほど強くなるタイプだ。
昔の環奈を思い出すよ。
いや、それ以上に手が付けられない。
賢神は俺ですら相手にしたくないと思わせるくらいに強い。
セバスチャンの体、アスモデウスの魂、そして丸薬と、いずれも最高レベルに取り込んで効果を享受している気がするよ。
だけどレヴィアタンの絶対防御もなかなか抜けないよな。
だいたい武器にセバスチャンが持っていた鞭しかないってのは、侍である賢神にとっては不利か。
悟空の持ってた如意槍のような武器があれば、勝てそうだが‥‥
とりあえず帰ったら槍の武器を作ってプレゼントしてやろう。
ん?賢神の持つ鞭が槍の形に変わっていくだと?
戦いの中で武器を作り変えているのか?
更に自分の体であるオリハルコンでコーティングしている!
この槍は賢神と正に一体の武器だ。
でもその分守りが甘くなるんじゃないか?
レヴィアタンの吐く炎は火炎旋風となって賢神に襲い掛かる。
「それがどうした!弱点をワザワザ晒すとは馬鹿な奴め!」
賢神はそのまま炎に突撃し、槍をレヴィアタンの口の中へと突き刺した。
あの炎に突っ込むとか、一見自殺行為だろ?
しかし一瞬なら問題ないってか?
全然一瞬じゃなくて、服の再生が間に合わないくらい燃えてるんだが。
「私も使わせてもらうぞ!『|破壊抹殺《デビルランス》』一点突破!」
炎の中で賢神は、能力によって作り出した十本のランスを全て口の中へと差し込んだ。
レヴィアタンの魔石が額から落ちた。
「お主、なかなか強かったぞ。だけど私の方が強かったな」
魔力レベル的には差はないんだけどな。
圧倒的実戦経験の差か。
オリハルコンの体だから負ける事はないだろうけれど、それでも絶対防御のレヴィアタンを倒すのは難しいだろうに。
魂も回収しておこう。
「その魂は蘇生するのか?今度はもっと強力な体に蘇生してあげてくれ。もう一度手合わせしてみたいぞ」
「いや、次に蘇生したらもう仲間だから駄目ね。それにおそらく賢神が勝つよ」
魂も、そう何度も殺されちゃたまったもんじゃないよね。
よしよし、俺が良い体に蘇生してあげるからね。
「つまらんな。そうだそうだ、策也も見事な強さだった。今の私でも勝てる気がしなかったぞ」
レヴィアタンとの戦いの中で、俺の戦いを見る余裕があったのか。
思考も一つしか持っていないだろうに、やはり上杉の血恐るべし。
ただ、上杉の血にも多少の欠点はある。
コレだけの魔力を持ちながら、魔力の回復と容量は並みなんだよね。
だから全力での戦闘時間には限界がある。
武田神幻が賢神に負けなかったのは、その辺りを見抜かれていたからなんだろうな。
でも魔力の回復はともかく、容量をカバーする事はアイテムで可能だ。
「じゃあそろそろ帰るぞ」
「なんだ?もう一回召喚しないのか?」
「賢神、だいぶ魔力が無くなってるぞ?今みたいな強力なのが出てきたら対処できないんじゃないか?」
俺がそう言うと、賢神は今気が付いたといったような表情を見せた。
どうやら自分ではあまり気が付かないようだ。
でもこうして言われると自覚もできる。
「そのようだぞ。全く疲れも無いから行けそうな感じがするんだ。だけどちゃんと確認したら分かるんだな」
強すぎる奴ってのは、何故かこういう設定って付き物だよな。
サッカーはメチャメチャ上手いのに十五分しかピッチに立てないとか、剣技は凄いけど病弱だとか。
そう考えるとやっぱり俺ってちぃとチートが行き過ぎているよね。
「賢神の欠点は持久力だけど、それはアイテムで補える。これから帰って何かアイテムを作ってみるよ」
「おお!そうなのか?アイテムで強くなったと思われるのも|癪《シャク》だけれど、多く戦闘が楽しめると考えれば問題ないぞ。是非頼んだ!」
「オッケー!」
こうして賢神の初めての魔界は終了した。
最初の魔界で最強レベルの魔物と戦うとか、賢神って何か持ってるよね。
俺は人間界に戻ると、早速アイテム作成に取り掛かるのだった。
追記。
ちなみにレヴィアタン以上の魔物と言われているのは、サタンとルシファーだけね。
つまり佐天と明星だが、二人ともまだまだ成長途上。
現状では魔界最強を倒したって事になるかと。
魔界には賢神の相手ができる奴なんてもういないって事だな。
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