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第九話 新たなスタート

後日、チリちゃんが舞先生に、ゲーム部顧問のお願いをしたら、舞先生はとりあえず考えさせてと言っていたらしい。
やはり俺を知る人と積極的に接触する事は避けたいのだろうか?
舞は俺が死んだ事を一番悲しんでいるに違いない。
これは確信がもてる。
でも、同じように悲しんでくれたゲーム同好会のみんなとなら、きっとうまくやっていける。
きっとそれが、今後の為にも良いはずだ。
時々食堂や廊下で見かける舞。
なんだか昔の舞とは違って、元気が無いように見える。
俺はただ、昔の元気な舞に戻ってほしかった。
だから俺は、ひとり舞への接触を図った。

放課後、きららと吉田君には同好会には後から行くと言って、1年D組の教室へと向かった。
階段を1つ昇って、廊下の向こうを見ると、舞が丁度教室から出てきた。
廊下にいる生徒に挨拶をした後、舞は向こう側に歩いてゆく。
俺はその後についていった。
階段を降りて、噴水のある中庭に出たところで、俺は走って舞に近づき後ろから声をかけた。
 達也「か、神村、ま、舞先生!」
緊張のあまりどもってしまったが、声は舞に届いたようだ。
舞は振り返り、優しい笑顔で俺を見た。
 舞「はい?えっと、君は・・・」
知らない生徒に名前を呼ばれてとまどっているようだったので、俺はすぐに自己紹介した。
 達也「あ、俺、2年B組でゲーム同好会の、星崎達也です」
 舞「あっ!星崎君ね」
ちゃんと自己紹介したのだが、舞のとまどいは消えなかった。
あれ?どうしたんだろ?
 達也「どうかしましたか?」
 舞「ん?あれ?わかる?」
舞のとまどいは、ますます大きくなった。
そこまで話して、俺は舞のとまどいが大きくなった理由を理解した。
そっか。
俺だから分かったけど、普通とまどってる事なんてわからないのかも。
俺は慌てて否定した。
 達也「いえ、気のせいです」
俺が両手を胸の前で小さく振ると、舞は笑顔になって俺にたずねてきた。
笑顔と言ってもどこか儚げな笑顔だった。
 舞「で、私に用は、ゲーム部の顧問の事かな?」
 達也「ええ、そうです。どうしても舞先生にお願いしたいんです」
俺の顔から視線をそらして、舞は
 舞「でも・・・」
と、はっきりしたこたえはしなかった。
俺は決心して、俺自身の名前を出した。
 達也「義経先生の事ですか?皆に聞きました」
舞はビックリしていた。
そして、たったそれだけ、会話に義経の名前が出てきただけで、舞は泣いていた。
 舞「あっ、ごめんなさい」
舞は俯き、走って行った。
失敗したなと思った。

俺は第二コンピュータルームに顔を出した。
今日はテレビゲームの基本となる、プログラムの勉強をしていた。
ひとつのポケットコンピュータを囲んで、みんなでワイワイ言っていた。
ポケットコンピュータ、通称ポケコン。
まあ、超簡単なコンピュータだ。
ベーシック言語といわれるプログラム言語を使うことができる。
今日はそれで、簡単なゲームを作っているようだ。
ちなみに今ここにあるポケコンは、山下さんがゲーム同好会に寄付してくれたものだ。
先日家に行った時、義経との思い出だといって、ポケコンを渡された。
ポケコンの中には、20年近く前に、俺が作ったプログラムが残されていた。
3つの記号を巡に表示し続けて、魚が泳いでるように見せるだけの簡単なプログラム。
それだけであのころの山下さんは、とても喜んでくれていた。
それが証拠に、それがそのまま今まで残されていたのだから。
 きらら「きたきた~何処いってたのぉ~」
きららは席を離れて俺のところによってきた。
特に隠す必要も無いし、むしろ舞の顧問勧誘は失敗したのだから、話さないといけないと思い、俺は正直に話す事にした。
 達也「いや、舞先生に顧問してくれるよう、俺もお願いに行って来たんだ。でも失敗しちゃったけどね」
ため息がでた。
 きらら「そうなんだぁ~残念」
みんなも話を聞いていたが、俺が失敗した事を誰も責めはしなかった。
 美鈴「舞ちゃんがダメだったら、誰がいるかなぁ~」
 吉田「寮の山下さんとかダメかな?」
 うらら「良い考えね」
 達也「そらダメだろ?先生じゃ無いし」
 知里「じゃあ校長先生に」
 まこと「絶対やだぁ~」
みんな楽しそうにはしているが、やはり残念そうだった。
そんな時だった。
扉がノックされた。
新入会員かなと思った。
しかしそれは、その後の声で直ぐ否定された。
 舞「神村です。入ってもいいかな?」
みんな困惑した表情になったが、すぐに心からの笑顔に変わった。
舞はコンピュータルームに入ってきた後、俺と少し話がしたいと言った。
俺は促されるまま、中庭にきていた。
 舞「さっきはごめんね」
 達也「いえいえ」
1つ言葉を交わした後、少し沈黙がつづいた。
 舞「星崎君にひとつ聞きたい事があるんだけどいい?」
俺は頷いた。
 舞「始業式の日、泣いてたよね?それで私の顔をみて逃げていった。あれはどうして?」
俺は動揺して、直ぐに返事が出来なかった。
そっか。
さっき舞が少し動揺していたのは、あの時の生徒が俺だったのを覚えていたんだ。
 舞「泣き顔を見られたくないなら、廊下で泣いてた説明ができないし、おそらくは私に見られたくなかったから?」
俺は素直にこたえてしまった。
 達也「うん。そうだよ」
と・・・
 舞「何故?」
少し冷静になった俺は、考えてからこたえた。
 達也「義経さんの事、俺よく知ってるんだ。で妹である舞先生を見て、思い出した。」
 舞「へぇ~もしかしてお兄ちゃんの生徒?」
苦笑いがでた。
 達也「ん~そのへんは内緒で」
適当にはぐらかした。
 舞「そう・・・」
しばらく沈黙が続いた。
 舞「・・・お兄ちゃん、沢山の人から好かれる先生でスゴイよね」
そんな事ないと言いそうになった。
かろうじてとどまった。
そして言い直した。
 達也「俺が泣いたのは、舞先生がなんだか寂しそうだったから。きっと義経さんも、舞先生には笑顔でいてほしいと思ってるはずだから・・・」
 舞「ありがとう。私もお兄ちゃん離れしなくちゃね」
泣きたいのをこらえているのが分かった。
でも、舞は今度は泣かなかった。
 舞「顧問引き受けるよ」
できる限りの笑顔を作った舞は、そう言って、ゲーム部の顧問を引き受けてくれた。
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ドクダミ

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