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第十三話 飴玉争奪戦

今日のゲームは、今までに無い盛り上がりだった。
舞もゲーム内の、親という事で参加している。
事の発端は、舞が沢山の飴玉が入った袋を、多数持ってきた事から始まった。
 舞「みんなで食べよう」
そう言っていたが、これだけの量、1日やそこいらで食べきれるものではない。
そこでみんなで分けて持って帰る事になったわけだが、我々はゲーム部。
コレをゲームで取り合わない訳にはいかなかった。
ゲームはトランプでやる株。
知る人ぞ知る、修学旅行なんかで盛り上がるゲームだ。
まあ簡単にルールを説明すると、親が1から10までのトランプだけをシャッフルして、場に表向きに4枚並べる。
1枚は裏のまま手元に置く。
表の4枚に、それぞれ我々「子」と言われるプレイヤは、いくつかの飴玉をベットする。
その後、順番に裏返しカードを1枚配り、表と裏を合わせた数字の1の位が9に近いほど強く、1が一番弱い。
この時点で弱い場合などは、もう1枚引くことも出来る。
3枚目は表向きに配られるので、親はそれから子の数字を予想する。
最後に裏のまま置かれた1枚と、更に引いた1枚で親の数字が決定する。
この時点で勝てそうな相手にはココで勝負を挑むが、無理なら更にもう1枚引ける。
それで最終的に全てと勝負して、その勝敗で飴玉が移動して増えたり減ったりというわけだ。
まあそんな訳で、俺は2枚目のカード、エースに飴玉を1つ置いた。
舞がカードを配る。
来たカードは4。
俺はこの時点で裏向きのカードを表にした。
1と4の組み合わせは、子のシッピンと言って、9よりも強いのだ。
更には報酬も倍になるので、返ってくる飴玉は3倍なのだ。
 舞「えー!またぁ~」
 達也「手加減はせぬのだよ」
舞は3と2と3の組み合わせの8で、他の子を撃破していったが、俺には飴玉を2つ渡した。
 達也「ふふふ。チョロいぜ!」
俺は優越感に浸った。
 きらら「達也強すぎるから、みんなでやっちゃおうよ。達也親ね」
既に親の飴玉が底をついていたので、俺の飴玉を奪いたいのだろう。
しかし
 達也「返り討ちにしてくれる」
俺は舞から、トランプを受け取って席を替わった。
このゲームは、賭ける場所が4カ所から選べる子の方が圧倒的に有利だ。
しかし俺クラスになると、親でもなんら問題はない。
いくつか親に有利なルールがあるのだ。
子のシッピンに対して、1と9の組み合わせで親のクッピンってのがある。
その場合、相手がシッピンでも勝利できるし、倍率は3倍だ。
賭けている飴玉が無い分、子よりも実質の倍率は高い。
まあとにかく、俺の華麗な勝利をみせてやろう。
俺は場に4枚と手元に1枚裏向けで置いた。
各々思うところに賭ける。
一番左に1があるので、シッピン狙いが多く賭けていた。
ふふふ、馬鹿め。
そんなに簡単にシッピンなぞでるかよ!
俺は裏向けで1枚渡してやった。
みんなはそれを見て複雑な表情だった。
 きらら「もう1枚いこうよ。」
 吉田「いや、これでいいだろ?」
俺は苦笑いした。
どうやら微妙な数字かハッタリのショボイ数字だな。
きららのもう1枚に押され、結局もう1枚引くことにしたようだ。
表向きに渡したカードは、10だった。
 達也「プ!ご愁傷様!」
俺はそう言ってから、次々とカードを配っていった。
そしていよいよ俺の番だ。
俺の手札は・・・4か。
俺はそれを表向けに置いて、更に1枚カードを引いた。
6だ。
通常0は逃げと言って、勝負をやめる事が出来るが、2枚でそれはできない。
しかし4と6の組み合わせだけは逃げる事ができるのだ。
俺は良さそうな2番から4番を全て逃げた。
 知里「え~ん。せっかく株だったのにぃ~」
株とは9の事だ。
 達也「危ない危ない」
 美鈴「こっちは7だからまあ、どっちでも」
 舞「私のところも株だったよ」
見てみると3が3枚で嵐だった。
 達也「おお。それ3の嵐じゃん。21倍返しだよ」
 舞「そうだったのぉ~残念」
俺は汗を拭った。
さて、きららのところは、もう1枚引いて勝負だな。
俺はカードを引いた。
6だった。
 達也「ふむ。6だ。でも勝ったでしょ?」
 きらら「ぶー」
伏せられたカードを見ると、2だった。
 達也「合計3か。はい。飴玉回収~」
俺の飴玉は更に増えた。
 きらら「くやしい~!こうなったらみんなで最終戦争だよ!」
きららは、みんなで1カ所に賭けて、一気に俺を粉砕する提案をした。
 吉田「面白そうだね」
 舞「みんなで協力だね」
 美鈴「達也ちゃんもココまでね」
皆不適な笑みを浮かべた。
俺は余裕を見せて、
 達也「かかってきなさい」
と言って、カードを並べた。
1が2枚と4が2枚場にならんでいた。
 達也「プ!良いカードだけど、シッピンは難しそうだね。」
俺は笑ってやった。
みんなは少し離れて、コソコソと相談した後、一番左の1に持ってる飴玉を全てならべた。
さあ、勝負だ。
俺は1枚、1のカードに少し重なるように渡した。
さて、どうか。
きららがドキドキしながらカードを半分めくった。
その瞬間満面の笑みを浮かべてカードを表に向けた。
 きらら「やったー!シッピンだよ!3倍だよー!」
みんな手を合わせて喜び、盛り上がった。
 達也「くっ!なかなかやりおるな。しかしまだ負けたわけではないのじゃよ」
俺はそう言いながらも肩を落としカードを並べた。
誰もベットしていない場所は、全て表向けでカードを並べる。
もう1枚引くかどうかは、親が勝手に決めることができた。
次の1には1がでたので、更に1枚置いた。
4だった。
4のところに10と1。
その後の4には10と3を置いた。
さて、この時点で勝つ為には嵐しかなくなった。
何故ならクッピンに必要な1が既に枯れている。
後は逃げる事だが、2枚で逃げる為に必要な4ももう無い。
逃げるのもきついようだ。
さて、とりあえず伏せてあるカードを見た。
3だった。
あまり良いカードじゃない。
何故なら嵐を狙う為の残りのカード、既に3が1枚でてしまっているからだ。
これはもう逃げしかないか。
それなら8か9が欲しいな。
両方1枚も出ていないカードだ。
可能性は十分にある。
俺は意を決してもう1枚引いた。
3だ。
心臓がドキドキしてきた。
負けない為には、もう3の嵐しかない。
逃げる為に必要な4は枯れているからだ。
3が出れば大勝利。
てか、飴玉全てと借金まで与える事ができる。
しかしそれ以外なら、俺は全てを失う・・・
あれ?
俺はふと気がついた。
さっき舞の3の嵐から、俺逃げたんだよな。
トランプのシャッフルなんて、適当にやっている。
もしさっきのがそのまま重なっているならば、これはいけるかも・・・
俺は自信を持った。
 達也「ふふふ。最後は3の嵐でみんなは借金生活だ。来る日も来る日も俺に飴玉を施す。愉快愉快」
おれは腹をたたいて笑う演技をした。
 きらら「そんなの出るわけないじゃない」
 まこと「そ、そうだよね。ありえないよね」
そうは言っても、2人とも緊張しているようだった。
俺はトランプの山をテーブルの真ん中に置いた。
皆の顔を見た。
山の一番上に手をかけた。
一枚取って、それを裏返しにしてテーブルにたたきつけた。
3だった。
 皆「あー!」
頭を抱える者、ガックリ肩を落とす者を見て、俺は勝利をかみしめた。
 知里「飴玉いくつ払わないといけないんだろぉ~」
チリちゃんの言葉にみんなドキッとしたようだが、俺は別に飴玉を独り占めするつもりはなかった。
てか、これだけでも多すぎて食えないしな。
 達也「いや、飴はみんなにわけてやろう。ほれ感謝しやがれ!」
俺の言葉に、みんなは適当に飴玉を取って食べ始めた。
くすん。
無視ですか・・・
 きらら「それにしても、達也ってゲーム強いし知ってるし、ホントに記憶喪失してんの?」
なんとなくきららが聞いてきた事が、俺が最近リミッターをかけずにいる事を思い出させた。
でもまあ、星崎を知ってるのはまこちゃんだけだし。
かなり似ているみたいだから俺は注意を怠っていた。
 達也「まあ、人の名前と思い出みたいなのは全く思い出せないけど、それ以外は大丈夫みたいなんだよね」
注意を怠っていたから、俺は舞の質問にも考えなくこたえてしまった。
 舞「人の名前は誰も覚えてないんだ?」
 達也「うん。実の親も覚えてないし、てか自分の名前も後から教えられたものだったからね」
 舞「そうなんだ。何時から記憶喪失になったの?」
 達也「去年の7月1日に入院してるから、その辺りだと思う。14日にある程度思い出して20日に退院したんだったかな」
そこまで話した時、舞と目があった。
舞は驚いた顔をしていた。
その後、何処までが思い出した記憶で、何処までが後からの記憶かわからないとか、何人かは覚えてるかもと話を付け加えたが、舞の不審は拭えなかったみたいだ。
そうだ。
舞にゲーム部顧問を頼んだ時、俺は義経を良く知っていると話した。
星崎の頃の記憶が無いのに、何処義経の事を知っているのか。
記憶喪失後の記憶だという事はあり得ない。
14日に義経は亡くなっているのだから。
おそらく近いうちに、舞と話す機会があるかもしれない。
俺は覚悟を決めた。
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