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第二十九話 お弁当

俺達の夏が凝縮されたひとつの作品。
このメンバーで作った、おそらくは最初で最後の大作。
ゲームタイトルは「私たちの冒険」とした。
今日は朝から集まって、みんなでこのRPGをプレイする。
最初は俺がコントローラーを握る。
大まかなストーリーは聞いているが、部員の中で一番内容をしらないから。
俺は緊張する手で、ゲームをスタートさせた。
いきなり強そうな、中ボスといわれるであろう敵との対決から始まった。
こっちはレベル1。
 達也「って、ええーーーーーーーー!!!いきなり死んじゃうやん!!」
 中ボスみたいな敵「ははは。女子供、ついでにじいさんだろうとばあさんだろうと容赦はせんぞぉー!ぐおおおーーー!」
画面の中で中ボスみたいな奴がほえている。
BGMはなかなか緊迫感溢れる音楽で、いきなり心の臓がドキドキだ。
俺はAボタンを押した。
するとBGMが一変する。
なんだかヒーローがあらわれた感じ。
主人公というかヒロインの女の子の兄であり師匠の登場だ。
 中ボスみたいな「だれだ?」
 ヒーロー「キサマになのる名などない!!」
 中ボスみたい「おのれ弁慶!!」
ココは、名前知ってるやんって、ツッコミを入れねばならないのだろうか?
俺が悩んでいると、チリちゃんがマジでツッコミを入れていた。
 知里「え~名前知ってるよ~この人~」
・・・
俺はまた悩んだ。
今度はチリちゃんに「人じゃないよ。モンスターだよ」ってツッコミ入れないといけないのだろうか。
しばらく様子をみたが、誰もツッコミをいれなそうなので、俺がツッコミを入れる事にする。
まったく、みんなボケばかりかよ。
 達也「チリちゃん、奴は人じゃないよ。怖い怖いモンスターだよ」
俺は優しくツッコミを入れた。
これで世界の平和は救われた。
 知里「え~肩のところに、「人」って書いてあるよぉ~」
チリちゃんの言葉に、俺は中ボスみたいな奴の画像をよーく見た。
うむ。
確かに人だ。
みんな知ってやがったな。
他の部員達が笑いをこらえていた。
はめられた。
俺は気にせず、話を進める。
すると弁慶が、あっさりと人という名のモンスターを倒した。
 弁慶「大丈夫か?マイリトルシスター」
 マイリトルシスター「はい。ありがとうございます。弁慶様」
 達也「って、マイリトルシスターゆってるやん!!妹ばればれやん!!」
 きらら「違うよー!それは名前なんだよ。少なくとも女の子はそう思ってるんだから」
なんて無茶な設定だ。
主人公ってかヒロインの名前は、「マイリトルシスター」ですか。
もう始まった瞬間からつかれるゲームだ。
戦闘のシーンが終わると、2人は街に移動して、いきなり特訓をはじめた。
 弁慶「おらおら!女子供でも襲われる時代だ!ちゃっちゃと強くなりやがるのだ!きららよ!」
 ゲームのきらら「はい。きららはがんばります。」
突っ込むべきなのだろうか。
 達也「あの~。名前が変わってるような気がするんですけど。」
 リアルきらら「うん。マイリトルシスターきららって名前なの。」
もう、何も言うまい。
俺は心に誓った。
その後は意外に普通にRPGだった。
かっくいい男達も順調に仲間にした。
ゲームのバランスも良い感じだ。
俺達は結構マジでゲームの世界に入っていた。
昼になって、とりあえず休憩。
みんなで食堂に、と思ったが、女性陣が弁当を作ってきたらしく、俺達は中庭でそれを食べる事になった。
女の子の手作り弁当なんて、人類の半分が泣いて喜ぶといわれるものだ。
まあ実際そんな人は見たことないけど。
俺はみんなのを順番につまんでゆく。
まずは美鈴先輩のから。
うむ。
これはまた美味い。
流石というかなんというか。
神は二物どころか四物すら与えるらしい。
 達也「美鈴先輩の美味すぎ!」
俺は親指をたててウインクした。
すると美鈴先輩は顔を赤くして俯き「ありがと」と言った。
ように聞こえた。
次は新垣さんのだ。
と思ったが、吉田君が食べさせてくれなかった。
いいもんいいもん。
俺は次のまこちゃんの弁当箱から、卵焼きらしきものをとりあえずつまんでみる。
うむ。
なんだろう?
卵焼きにしては、色が緑だな。
俺は不信感は拭えなかったが、とりあえず口に入れる。
 達也「まじゅい・・・」
これはブルーウォーターの味だ。
あのCMで不味いことを強調しているやつだ。
 まこと「なんでー!ブルウォをダシにしてるんだよ?健康にいいんだよ」
まことくん。
健康にはいいかもしれないが、やっぱり不味いものは不味いのだよ。
俺は静かに首を振り、次の弁当箱へと向かった。
次はきらら。
サンドウィッチか・・・
俺はなにやらよくわからない物がサンドされているのを手に取った。
 きらら「それ、最強だよ」
 達也「最強って、食べ物に対してどうよ?」
俺は少し怖くなったが、まさかきららが俺を毒殺はするまい。
俺は一気にかぶりついた。
うむ。
確かに最強だ。
刺激が強い。
 達也「何はさんでんだよ?」
俺はきららを睨んだ。
 きらら「それ、私が食べようと思ってたんだから。勝手に食べたんだから文句言わない」
確かに、俺はあえてやばそうなのに手をだしたよ。
でも、でもなぁ。
サンドウィッチには普通はさまないだろ。
 達也「しかし、パチパチ飴とは」
サンドウィッチには、あの口に入れるとパチパチはじける飴が、大量にはさんであった。
ああもちろん、不味くはなかったよ。
でも、違和感ありまくりで、おいしくは感じなかった。
 きらら「それは失敗だったか。次は何にしようかなぁ♪」
楽しそうだ。
きららは常にチャレンジャーらしい。
他のサンドウィッチはまともみたいだし、別に料理が下手なわけではなさそうだからいいか。
俺は次に移る事にした。
ココまでは1勝1敗1分ってところか。
まあおそらくはみんなまともに作れば合格点だったのだろうが、俺に食べさせるって事でわざと不味くしているふしがある。
次はうららか。
俺の記憶が確かなら、この子の料理の腕は最悪だ。
中学の遠足の時、フライドチキンを1つもらったのだが、塩こしょう大量で死にそうになった記憶がある。
料理の腕と言うよりも味覚か。
俺はうららの弁当箱をのぞき込んだ。
そこには、あの日と同じ、フライドチキンが鎮座していた。
これを食わなければ、俺は一生後悔するだろう。
勝手にそう思いこんで、それを手に取った。
 うらら「達也くん、お目が高い!」
うららは何故か嬉しそうだ。
やばい。
なにかやばげな香りがする。
よく見ると衣が赤く見えるのだけど、気のせいだろうか。
俺はフライドチキンを左手から右手に持ち替える。
左手の指先が、赤く色づいている。
やはり、気のせいではなさそうだ。
 達也「しかし・・・」
俺はちらっとうららの顔をみた。
凄く嬉しそうな顔をしている。
可愛い。
ダメだ。
こんなもん食えるかぁーーーー!!!と、たたきつけたりなんかしたら、この笑顔が失われるのかと思うと、それは絶対にできない。
うららに殺されるなら、まあいいか。
ん?
そうか。
この気持ちが恋なのかも。
意味のわからない事を考えて、俺はフライドチキンにかぶりつき、一気にたいらげる。
・・・
あれ?
意外に食える。
メチャメチャ辛いけど、美味しい。
 達也「あれ?美味しいね。これ」
俺は素で感想を言った。
 うらら「でしょ?私辛いの好きなんだけど、どうもみんなそうではないみたいで。だからみんなも食べられる辛さを研究したんだ」
なるほどねぇ。
不思議な味と感じだ。
 きらら「うらら、フライドチキンを義経先生に食べてもらったら、不味い不味いって言われてショックだったもんね」
 達也「えっ?」
そうなのか。
俺が不味いって言ったから、この子は努力をしたのか。
自分の一言が影響した事に、俺はなんだか嬉しかった。
さて、次はチリちゃんだ。
俺は心躍らせながら、チリちゃんに近づいた。
 達也「さーて。チリちゃんのお弁当は何かなぁ~?」
弁当箱をのぞき込んだ。
・・・
なんだこの美しさは。
どこぞの高級料亭で出されるような細工をほどこした料理。
正に食べるのがもったいない料理とはこの事だ。
俺の本能も食べたくないと言っている。
 達也「チリちゃん、凄いね」
マジで感心している。
 知里「そうかなぁ~ありがとぉ~」
何故こんなにトロそうな子が、こんな料理ができるんだ?
そもそも料理しているところを想像してみても、想像できないぞ?
 達也「なんだか食べるのもったいないけど、いただくね?」
 チリ「たんとお上がりだよぉ~」
俺はことわりをいれてから、なんだかよくわからない造形をした物を口に入れた。
吐いた。
ごめんチリちゃん。
粘土は食べられないんだよ?
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