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第四十二話 奇跡は存在しない

奇跡。
そんなものは存在しない。
何故なら奇跡なんてものは、人の行動と想いの積み重ねで起こる必然なのだから。

中間試験が終わり、俺達の部活動は、文化祭に向けて動き出していた。
チリちゃんが作ってくれた中間テストクイズゲームは、これはこれで使えるだろう。
夢ちゃんの中間テストには使えなかったけど、きっと来年の今頃に役に立つはずだ。
でまあ、成果報告はこれと、夏休みに作ったRPGをみんなにプレイしてもらう事に決まった。
他にもゲーム部の活動レポートを少々掲示。
夏のカード大会のレポートや、オリジナルゲームのルール説明など。
自作ボードゲームなんかも一応展示する事にした。
で、今どうしても欲しい物があった。
ゲーム部の輝かしい実績だ。
なんせ文化祭での成果報告は、来年度の部活予算に大きく影響を及ぼす可能性が高から。
RPGはコンテストに出してはいるが、結果はまだ出ないし、カードゲームの大会は誇れる成績は残していない。
そこで今皆が注目しているのが、バトルグリードでの「ドリームダスト」の1000連勝だ。
ただいま無敗の941連勝中である。
夢ちゃんとチリちゃんって事で言えば、正確には何度か負けてはいるのだけど、それはテスト機での敗戦。
バトルグリードは、1週間ごとに戦闘フィールドが変わり、戦術や機体の調整が必要だ。
最初の頃は勢いでガンガン戦闘してきたが、連勝が200を越えたあたりから、負けるのがおしくなり確実を期している。
そして今日は、このまま連勝できれば、おそらく最後のフィールドになるであろう砂漠フィールドでの調整を行っていた。
ココをうまく乗り越えられれば、ゴールが見えてくる。
 達也「砂漠はきついな。視界が悪いし、かといって障害物が無いし、運もかなり左右しそうだ」
 美鈴「うん。賞金が惜しいから、難しいフィールドをもってきたね」
この人、引退したのに毎日いないか?と、思わなくはないが、とにかく意見には賛成。
 きらら「来週のフィールドに変わるまで、バトルしなければいいんだよ」
もっともな意見だ。
しかし、これが1000連勝させないための手段だとしたら、1週間待っても同じ事だろう。
どうせまた、ガチンコバトルなフィールドになるはずだ。
今俺達はみんなで「ドリームダスト」をバックアップしていた。
 達也「とりあえず、俺とうららの「ブライトスター」で試してみる」
俺達の機体は、最高連勝記録が14回、通算成績が123勝14敗。
成績は悪く無いし、むしろ良い方だ。
だいたい1000連勝なんてそもそも無理な数字である。
「ドリームダスト」の次に良い成績を残している機体で、203連勝。
これを見ても、「ドリームダスト」の成績が尋常ではない事がわかってもらえると思う。
「ブライトスター」の戦闘が始まった。
視野が悪く、障害物がないので、追尾システム搭載のミサイルが有効だ。
お互い距離をとってミサイルの撃ち合い。
命中しているのかどうかもわからないけど、ゲージが減っているのでおそらくは当たっているのだろう。
同じようにこちらも削られる。
防御も難しい。
追尾してくる上に、すぐ側にくるまでミサイルが見えないのだ。
人間の反射神経では、見てからでは防御できないだろう。
 夢「うららさん、接近してみて」
夢ちゃんの言葉に、うららが接近を試みる。
 達也「うお!これはイタイ」
接近していく分だけ、ダメージが増す。
 うらら「ダメそう」
うららがスピードを落とす。
 夢「ダメ、そのまま追いかけて」
 うらら「う、うん」
こちらが接近を試みると、向こうは下がる。
相手に隣接する前に、こちらがやられそうだ。
 夢「そこでストップ!」
相手をコーナーに追い込んだところで動きを止める。
どうするつもりだ?
 夢「かして」
夢ちゃんが俺のコントローラーと取り上げた。
角に追い込んだ?
敵の機体は、これ以上は後ろに行けない位置まで下がっていた。
 夢「これで後ろと横はない」
なるほど。
敵のレベルがある程度高いと言うことは、同じところから同じようにミサイルを発射すれば、同じ軌道をたどる事になる。
今敵ができるのは、前進しながらの攻撃か、とどまっての攻撃だけだ。
わかりやすく言うと、ストレート、カーブ、シュート、フォークと球種の多いピッチャーの攻略は難しいが、ストレートとフォークだけなら攻略しやすいって事。
 夢「無駄!」
おっ!
防いだ。
 夢「楽勝ー!」
おっ!
また防いだ。
あっ!
勝った。
面白い戦術だ。
ある種のハメだろうか。
少しダメージはくらうけど、これを確実に決める事ができればいける。
問題は、うまくコーナーに持っていけるかだけど。
 夢「知里。いける?」
 知里「うん。大丈夫だと思うよぉ~!ちょっと武装変えるねぇ~」
チリちゃんは「ドリームダスト」のチューニングをはじめた。
直ぐに機体が組み直される。
 知里「できたよぉ~」
早!!
 達也「とりあえず、テスト機で試した方が良いんじゃない?」
 夢「1勝が惜しい。もう勝算はできてる」
ふむ。
これが油断にならなければいいけど。
「ドリームダスト」の登録をする。
対戦相手は、だんだんと決まりにくくなっていた。
なんせ勝率が10割の機体の相手だ。
弱い機体とのバトルは組めない。
少しして相手が決まる。
先週俺の機体ときららの機体が対戦して、負けている相手だ。
なかなか強い。
バトルが始まる。
 達也「ビーム砲で牽制か」
ビーム砲で相手の移動範囲を制限しながら、相手をコーナーに追い込む。
牽制している分、敵の攻撃も単調になって、既に攻撃を防御していた。
 夢「楽勝」
勝った。
あの強い相手に、自分の戦いをさせなかった。
強すぎる。
障害物が無ければ、障害物を敵の心の中につくるってわけか。
説明はできるが、実際やるのは難しいし、そもそも思いつかない。
俺はなんとなく、中間テストの無意味さを感じた。
この子達なら、楽しんで、そして100万円を手に入れる。
確信していた。

2日後、皆は緊張していた。
ただいま999連勝。
そして今まさに、ラストのゲームを始めようとしていた。
 美鈴「勝ったら100万、私の口座に振り込まれる事になるから、そしたらチリと夢に50万ずつ渡すね」
美鈴もなんだか緊張しているようだ。
当の本人達は、それほどでもないのか?
 夢「もう楽勝でしょ」
 知里「油断は禁物だよぉ~」
なんだか全く緊張してないように見えるのが、むかつくんですけど?
俺はネット回線とゲーム機の状態を確認する。
ココで回線が切れたり、ゲーム機がフリーズなんて洒落にならんからな。
 達也「ヨシ。ダイジョウブダ」
やばい。
俺が一番緊張しているのか?
 夢「はーい」
夢ちゃんはいつもと同じようにコントローラーを操作して、簡単に「ドリームダスト」の最終登録を行った。
対戦相手が簡単に決まった。
 達也「決まるの早いな」
 美鈴「見た事も聞いた事も無い機体だね」
そうなのだ。
今まで誰も対戦していないし、聞いた事もない。
最近は「ドリームダスト」が1000連勝しそうな勢いだったので、いろんなネット掲示板で話題になっている。
連勝を止めるのは、あいつだとかこいつだとか。
そういったサイトでも全く名前の出ていない機体。
 まこと「戦績、0勝0敗ってなに?」
まこちゃんの言葉に、敵機体の戦績を見ると、0勝0敗だった。
ココで初心者や初バトルの機体が対戦相手に?
 達也「おかしい。これってもしかして」
 美鈴「あり得るわね。蔵の達人」
蔵の達人とは、クライアントのテストゲーマーで、腕利きの人を言う。
まあ、このゲームを作った人であり、ゲームの事をもっともよく知っている人って事。
とにかく今までの対戦相手でもっとも強いのは確実だ。
 夢「ふん。面白い」
夢ちゃんは、こんな反則のような仕打ちにも、楽しそうだ。
てか、夢ちゃんが笑ってるよ。
 知里「やっぱり来たねぇ」
おいおい、こっちは予想していたのか?
もうこの人達信じられないわぁ!
・・・
とにかく・・・
フィールドに機体が映し出される。
カウントダウン。
スタート。
今バトルが始まった。
こちらの戦術は決まっている。
相手に近づき、追いつめる。
って、相手から近づいてくる。
こんな相手は初めてだ。
近づいてなど、基本的には勝てないから。
 まこと「でも早いね」
 達也「ああ、でも接近戦に持ち込んでも、直ぐに終わるはずだけど」
 美鈴「接近してしまえば、勝算があるのか。それともこちらの戦術と同じ事をするのか」
 きらら「同じだと、牽制が無い分こちらに分があるでしょ」
 達也「確かに。だから接近戦だ。でもビームバルカンで終わりでしょ」
相手の狙いがわからない。
こうしている間にも、相手のゲージは減り続ける。
こちらはほとんどノーダメージだ。
勝てるでしょ。
楽勝じゃん?
でも、何か気になる。
必殺技?
そんなものは無いはずだ。
それが存在したら、プレイヤからの反感が大き過ぎるだろ。
じゃあなんだ?
とうとう相手が隣接してきた。
しかし、あと5秒で相手を破壊できるだろう。
勝ったよな?
相手の攻撃。
 夢「なにこれー!」
相手の攻撃は、ハメだ。
ハメとは、抜ける事が不可能な状態に追い込まれ、やられるまで攻撃をうけてしまう、ゲームに存在する一種のバグ。
ただこれは禁止される事も多い。
あくまでバグであるから。
でも、このゲームが禁止していたかどうかは不明だ。
調べている時間も無い。
負けたか。
いくら夢ちゃんがゲームの天才でも、バグに勝つ事は不可能だ。
 知里「かして!」
突然チリちゃんが夢ちゃんのコントローラーを取り上げた。
チリちゃんのリアルでの動きが、早いよ?
 夢「え?」
何かを感じたのか、夢ちゃんはチリちゃんのコントローラーを持った。
モニタから軽い爆発音が鳴りまくる。
オートバルカン?
オートバルカンとは、接近してきた敵に対して、自動で発射される武器だ。
攻撃力最低、無駄に重い、積載物多いと、普通なら全く使い物にならない武器だ。
ド下手な人が偶に使っているけど、これを装備した機体が勝っているところなど見たことがない。
チリちゃんは武装を、ビームバルカンからオートバルカンに切り替えたのだ。
武装の切り替えは、イニシアチブ判定に関係が無い。
実行すれば必ず切り替わる。
そしてオートバルカンは、コントロールに対するイニシアチブで発動する武器ではない。
状況に依存する武器だ。
敵にダメージを与える事はできないが、隙は作れる。
チリちゃんが、両手の武装をビームジュルに切り替えていた。
合わせて夢ちゃんが隙をついて接近する。
チリちゃんの攻撃は、見事相手を捕らえて、ハメた。
 達也「勝っちゃったよ」
部室に拍手が鳴り響いた。
画面には1000連勝おめでとうの文字が表示されていた。
一応用意はしてあったのね。
反則で1000連勝させないようにしたくせに。
 達也「凄いよ2人とも」
 きらら「うん。感動しちゃった」
 うらら「信じられないよ」
 夢「最後は知里に助けられたね」
夢ちゃんは勝った喜びと、助けられた悔しさがあるみたいだ。
それでも喜びの方が大きいみたいで、少し笑顔だった。
 美鈴「いやぁ。最初は絶対に無理だと思っていたのに」
 まこと「それに最後は負けたと思ったよ」
 達也「だな。よくオートバルカンなんて積んでたな?」
そう、それが不思議だ。
なんせ使えない武器であるだけでなく、今までも一度も搭載していなかったはずだ。
 知里「う~ん。今日ね。朝、ひとりプレイでちょっと遊んでたんだぁ。そしたら何となくいつもと違う感じがしてぇ」
 達也「違う感じ?」
 知里「うん。全ての反応が少し遅い感じ?だから最速の軽い攻撃を試したら、ハメができちゃって」
なるほど。
って事は、ハメは今日の朝から、クライアントの意図でできるようにされたって事か。
やっぱり1000連勝を全力で阻止してきたって事だ。
しかし、反応が遅いって、さっきやった時には感じなかったぞ?
それに気がついたチリちゃんが凄すぎるって事か。
それにコントローラーを変えた後でも、最高のパフォーマンスをみせた夢ちゃんも凄い。
2人だったからできた1000連勝だな。
 達也「はぁ~脱帽だな」
 夢「そう言えば、今日は反応遅かった気がする。最終戦は、バルカン積んでたから明らかに鈍かったけど」
 チリ「ばれないようにいろいろ装備を削ったんだけど、やっぱりばれたかぁ~」
おいおい、それまずくね?
もしハメじゃなくて、今までどうりの敵だったら、苦戦したって事になるでしょ?
でもまあ、なんとかしたような気もするけど。
それに、気がついてたって、夢ちゃんもやっぱすげぇ~!
ゲームだけだけど。
それでも100万円ゲットだ。
中間試験で赤点ギリギリの点数をとってる子でも、以前まで赤点ばっかりだった子でも、高校1年生で100万円稼ぐ事ができる人がどれほどいるだろう。
それも1ヶ月ちょっとでだ。
学校は勉強を教える所だけど、才能を伸ばす場所に変えた方が良いかもしれないな。
そんな事を思った。
【<┃】 【┃┃】 【┃>】
ドクダミ

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