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2013年11月4日【月】19時43分21秒
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第三十二話 美鈴の引退

物事を見る視点は、1つでは無い。
正しいと言われている事が、別の視点から見ると悪だったり。
日本の法律で罪である事が、海外にでると人々の尊敬を集める行為になる。
義経から見た出来事は、達也の目にはどう映るのか。
夏休み最後の日。
美鈴先輩の部活引退。
 美鈴「今日で私引退だから」
昼みんなが集まったところで、美鈴先輩はそう言った。
そういえばそんな次期だと俺は思った。
3年前。
俺は顧問の先生として、美鈴先輩、いや、美鈴を送り出した。
だから、美鈴の引退に立ち合うのは、今日で2回目。
チリちゃんもそうなるが、俺の2回は立場が全く違う。
あの時とは、気持ちが全く違った。
 達也「じゃあ今日はお疲れ会だね」
俺の言葉に反対する者は無かった。
あの時は、悲しむ生徒を見ながら、おそらくは輪の外からそれを見ているだけだった。
今回は、寂しい気持ちを抑えながら、それでも笑顔で場を盛り上げた。
あの時の生徒達の気持ちは、こんな感じだったのだろう。
今から25年ほど前、俺は同じ気持ちを味わった事が、きっとあったはずだ。
大人になるとそれを忘れて、別の気持ちでいるのが不思議だ。
いつの間にか、舞も部室にきていた。
きっと誰かが呼んだのだろう。
舞は今、3年前の俺と同じ気持ちを味わっているのだろうか。
俺は無意識に舞の手をとって、皆の輪の中に無理矢理入れた。
みんな楽しそうだ。
舞もゲーム部の一員として扱われているのを見て、俺もきっとこんな風に見られていたのだと思うと、嬉しかった。
楽しかったお疲れ会という名の引退式も、いつかは終わるもの。
気がつけば部活終了時間だった。
 美鈴「では、次期部長を発表します」
引退の時にある、次期部長の発表。
俺も先生の頃は、生徒に相談されたりなんかして、部長を決めたものだ。
誰だろうなぁ。
少し先生の気持ちになって考えてみた。
やはりやる気が必要だけど、みんなやる気あるし、ゲームを知ってるって意味ではまこちゃんか、それとも・・・
 美鈴「達也ちゃんです」
そうそう、達也ちゃんなんかよく知ってるからいいよね。
 達也「って、ええーーーーー!!!!」
 きらら「だよね。私もそう思ってたよ」
 達也「てか、俺遅刻ばっかりしてるよ?もっと真面目な人のがよくね?」
俺は楽しめれば良いのだ。
部長になるといろいろと仕事が増える。
それは避けなければ。
顧問と予算について話したり、顧問と活動内容話し合ったり、顧問と部員にはさまれて・・・
そっか。
部長になると、舞といる時間が増えるって考えもあるな。
そういう見方をすると、部長も悪くない気がした。
 美鈴「いやなの?」
少し悲しそうな無表情だった。
美鈴の後を継ぐってのも、なんだか嬉しいな。
 達也「いえ。喜んで部長やりますよ」
俺はそうこたえていた。
美鈴も喜んでくれているように見えた。
 美鈴「じゃあ、今日の部活は終わりだけど・・・偶にはくるから」
だろうな。
卒業したわけでもなければ、消えていなくなるわけでもない。
まだ半年以上も学校にはいるのだ。
毎日とはいかなくても、来ようと思えばいつでもこれるし、受験が終わればおそらく毎日くるのだろう。
 達也「美鈴の事だから、毎日くるんでしょ」
俺はまだ寂しい雰囲気にするには早いと思い、なんとなく言ってしまった。
何故か美鈴は顔を赤くしていた。
 きらら「だってぇー」
 うらら「なんだろうねぇー」
 まこと「えーーーうそーーーーそうなの?」
どうしたのだろう。
俺は一瞬わけがわからなかった。
美鈴がうろたえていた。
 美鈴「きょ、今日は解散。達也ちゃんは引継があるから残ってて」
 チリ「美鈴ちゃんが動揺してるぅ~」
 きらら「じゃ、じゃあ、私たちは帰るね。おつかれ」
皆の反応がなんだか変だ。
舞もいつのまにかいない。
そそくさと出てゆく皆を見送って、俺は席に着いた。
 達也「どうしたんだろう?」
俺は美鈴を振り返る。
美鈴はまだ動揺しているようだが、さっきよりは落ち着いているようだ。
 美鈴「達也ちゃん、私の事なんて呼んでた?」
 達也「えっとみす・・・ず・・・」
皆の反応の理由がわかった。
今まで気を付けていたのに。
心の中で人の名前を言う時も、俺は常に気を付けている。
特に美鈴の事は、義経だった俺は、美鈴と呼びなれていた。
でも先輩を呼び捨てにする事は、きららを呼び捨てにするより遙かに違和感がある。
だから俺は、心の中で名前を言う時も、美鈴先輩と言ってきたのだ。
しかし今日は、先生であった頃の気持ちを思い出す為に、心の中で美鈴と言っていたのだ。
 達也「いやぁ~なれなれしかったですかねぇーははは」
俺はとりあえず笑ってごまかした。
 美鈴「いや、そう呼んでもいいよ。てか、呼んでほしい」
今日の美鈴先輩はなんだか変だ。
ほにゃらら先輩の言っていた事は、もしかしたら本当なのだろうか。
俺の事を意識している。
そんな事を言っていた。
 達也「いいの?じゃあ呼んじゃおうっかなぁーははは」
俺はどう言っていいのかわからなかった。
すると美鈴先輩は息をひとつ吐いて、少し笑顔になった。
 美鈴「深い意味ではないのだよ。ただ、なんとなく似ていたから」
似ていた?
それはきっと義経だった俺か。
 美鈴「私の好きだった先生が、私を美鈴って呼んでたんだ。その呼び方に似てた。前から達也ちゃんが似てるとは思ってたんだけど」
美鈴先輩がこんなに喋り続けるのは珍しい。
いや、美鈴なら有ったのかも。
 美鈴「だから、実は達也ちゃんの事も好きなんだよね。だからどうしてほしいなんて事はないんけど」
今、義経から見た美鈴と、俺の前にいる美鈴先輩がぴったりと重なった。
そうだ。
これが、美鈴で、美鈴先輩。
俺も言わないと。
何を?
言葉。
気持ちを伝えないと。
おそらく今、美鈴にとっては、義経と達也がピタリと重なっているはずなのだ。
 達也「俺も美鈴の事は好きだよ。だからどうこうしたいなんて思わないけどね」
これは恋ではない。
恋に近い友情。
そして限りなく恋では無い好意。
先生だった頃は、きっと立場と歳の差が、友情ってものを認められなかった。
いや、歳の差がそれを臆病にしていた。
だから友達にはなれなかったけど、気持ちはこれほど近かったのだ。
気持ちってのは、本当は立場や歳の差で偽ってはいけないものだと思った。
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ドクダミ

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