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第二十話 変わるけど変わらない

人は変わらないものだと人は言う。
でも、変わるものだと言う人もいる。
俺は変わったのだろうか。
義経から達也に変わったのだから、おそらくは変わっているのだろう。
でも、まぎれもなく俺は義経で、それは変わっていないのだ。
そんな俺が、何か変わったと感じた瞬間。
俺は少しずつ変わっている事に気がついてしまったのだ。

部活は、毎日13時から夕方までおこなっている。
日曜だけは毎週大会に参加。
それが我がゲーム部の夏休み中の予定。
なのに、俺は部屋でゲームの画像作成を手伝っていた。
朝10時から。
 達也「何故こんな朝っぱらから、授業もないのに起きているのだろう?」
 まこと「授業なくても、10時だったら普通起きてる時間でしょ!」
俺の部屋には何故かまこちゃんがいた。
これで俺様帝国に侵攻してきたオナゴは、3組4人目、正確には山下のえっちゃんもだから、5人か。
人間変われば変わるものだ。
いや、俺自身何も変わってはいないはずなのに、立場が変わればこんなものなのだろうか。
自分の部屋に、女の友達がいる事が不思議で、俺は苦笑いした。
 まこと「たっちゃんがにやけてる!エッチだぁ!」
俺はまこちゃんにチョップをかますと、再び視線をテレビ画面に戻した。
まこちゃんは、RPG作成の画像担当だ。
しかし部室には、ゲーム機が1台と、ゲームソフトが1つ。
これではみんなで取り合いになるは、作業が進まないはで、とにかく足りないわけだ。
で、俺は古いゲーム機とゲームソフト、「RPGつくってみそ」の方を持っている。
画像は、古い方で作ったやつでも、「RPGつくったるで」で使う事ができるから、俺のゲーム機とソフトをまこちゃんに貸してあげる事にした。
それでいつでもいいから取りにおいでと言ったら、まだ俺が寝ている時間に襲撃してきやがったわけだ。
それならそれで、とっとと持って帰ってくれれば良かったのだが、テレビにつながっていたそれを外そうとして・・・
気がついたらココでそのまま作成に入って今に至る。
うむ。
ありがちな展開だ。
俺はそう納得して、まこちゃんとああだこうだと言いながら、10匹ほどのモンスターの画像を完成させた。
微妙に怖そうではない可愛い絵に、これで良いのかとも思ったが、これはこれで何かに使えそうだと思ったので、特に否定はしなかった。
12時を過ぎた頃、まこちゃんはゲーム機を持って帰っていった。
俺は朝飯も食っておらず、超腹ぺこ状態継続中だったので、とりあえずカップ麺をひとつ食べてから、食堂へと向かった。
カップ麺が朝飯で、食堂の食事が昼飯ね。
食堂には、休みと言っても沢山の生徒職員が、食事をとりにくる。
それがお昼時となると、その数は半端無く多い。
これだけいると、知った顔もちらほら。
クラスメイトにクラスメイトにクラスメイト。
うむ。
3人発見。
まあ特に挨拶するでもなく、俺は券売機でエビ定食の食券を購入した後、調理のおばちゃんのところにそれを出した。
しばらくすると、俺の前にエビ定食が用意される。
俺はそれを持って座る場所を目指した。
何故だかわからないけど、いつも同じ場所の同じ席で食事する。
もちろんこれだけの人数がいて、使われている時もあるから、候補が10カ所くらいあった。
優先順位どおり、いくつかの席を確認した後、5番目の席が空いていた。
俺は迷わずそこのテーブルに定食を置いて、席についた。
 美鈴「達也ちゃんじゃん。おは」
俺のついた席の向かいで、美鈴先輩が食事していた。
横には美鈴先輩とよく連んでるところを見る、ほにゃらら先輩がいた。
名前知らないのだよ。
 達也「おははーえっと・・・」
俺はその名前の知らない先輩を見ながら、「名前おしえんかこのヤローオーラ」を目から出した。
しかし俺の思いは伝わらず、ただ「こんにちは」と言われるだけだった。
ふん。
まあいいけど。
俺は箸を取って、エビ定食を食べ始めた。
美味い。
この安っぽい味が。
う~ん最高。
それにしても、さっきからなにやら視線を感じる。
そう思った俺はふと顔を上げた。
すると、ウニイクラ定食に全く手をつけていない美鈴先輩が、ジーと見ていた。
 達也「な、なんですか?」
俺はたじろいだ。
すると美鈴先輩は、自分の定食を見て、俺の定食を見て、それを何度か繰り返す。
ふむ。
交換しろと?
 達也「いやですよ。俺、ウニとイクラ嫌いだし」
 美鈴「そういわず、嫌いな物でも食べてみれば」
そう言われ、この前のカレーを思いだした。
嫌いな物をわざわざ食べる愚行。
もう2度と同じ過ちは繰り返すまい。
俺は美鈴先輩を無視して、食事を続けた。
 美鈴「もらい!」
俺の箸に挟まっていた、この定食のメインディッシュとも言うべきえびふりゃーが消えていた。
 達也「あんたは子供ですか?」
俺の言葉に動きを止める事なく、美鈴先輩はえびふりゃーを一口で食べた。
しかも尻尾まで。
 美鈴「んーおいしい!」
むむ。
ちょっと可愛いじゃないか。
尻尾まで食べるのが、またなんとも。
って、そうではない。
俺は反撃しようと・・・
普通なら、よくもとりやがったなぁーとか言って、相手のオカズを取って仁義無き戦いへと突入するのだが、敵のオカズは俺の嫌いなウニとイクラだ。
俺はガックリとした。
 達也「美鈴くん、チミは何故わたしのエビを食べるのかね?」
よく考えたら不思議だ。
エビが食べたかったら、最初からエビ定食を頼めば良かったはずなのだ。
 美鈴「嫌いな物でも、偶には食べようと思って頼んだんだけど、いざ食べるとなると食べたく無くなって」
なるほどなるほど。
 美鈴「そしたら目の前に大好きなエビちゃんが沢山有るじゃありませんか。これはきっと神のたすけ。食べないと罰があたるかと」
そういう美鈴先輩は、更に俺のエビをとって食べる。
うむ。
この人は俺と同じ事を考えていたのか。
俺は嫌いな事を知らないフリして、納豆カレーにして無理やり食べようとしたが、最後にはそのほとんどをうららに食べさせたわけだけど。
この人は完全放棄したわけだ。
なんとなくどうでもよくなった。
 達也「エビが好きなの?」
 美鈴「うん。おでんの大根よりも好きだよ」
よくわからんが、とにかく大好きなのだろう。
そういえば、昔付き合った彼女がエビが大好きだったな。
1ヶ月くらいで別れたし、今では名前すら覚えてないけど。
俺は自分の定食の場所と、美鈴先輩の定食とを入れ替えた。
何故かはわからない。
どんな反応するか見てみたかったのかも。
美鈴先輩は驚いていた。
そしてすぐに笑顔になった。
とても嬉しそうだ。
俺は美鈴先輩の笑顔をオカズに、ウニイクラ定食を食べた。
なんとなく美味かった。
食堂を出る時気がついたんだけど、あのほにゃらら先輩はいつのまにかいなかった。
まあほにゃらら先輩だからな。
俺の中の俺ドラマで、あの先輩に名前を設定できるのは何時だろうかと思った。
その後、俺と美鈴先輩は共に部活に行った。
いつもと同じく楽しい部活だった。
今日はなんとなく、美鈴先輩が中学生の頃のイメージとピッタリかさなった日だった。
かなり大人っぽく変わったような気がしてたけど、やはりそんなに変わるものでもないと思った。
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