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第六十一話 卒業

卒業式で、泣いた事なんて、今までない。
それは自分の卒業式に限る事だけど。
人は大人になるたび弱くなるなんて、誰かが歌っていた。
正にそのとおりだと思う。
教師になって、最初に受け持った学生が卒業する時に初めて泣いて。
もちろん、その場は我慢して、後でこっそり泣いたけど。
その後は、どんどん弱くなった。
でも、美鈴が卒業する時は、受け持った学年じゃなかったから、泣くことはなかった。

今日は卒業式。
その中で俺の知る人は、美鈴とほにゃらら先輩だけだ。
前に美鈴を送り出した時は、泣かなかった。
でも、今日はダメだ。
涙が止められない。
もう二度と会えなくなるわけでもないんだけど。
今後一緒に何かをする事は、もうないのだろうと思うとダメだ。
美鈴は、全国で一番レベルが高いと言われる大学に行く。
俺がそんなところにいけるわけがないんだ。
だから、そうそう会うことができなくなる事は必至。
そして何も無ければ、今までの経験上、今後会う回数はきっと数回あれば良い方だ。
義経だった頃の高校生時代の友達、卒業してから会った事のある人なんて、数人。
それも1回とか2回。
一生の友達で無い限りそんなもの。
だから美鈴が、一生の友達である事を祈るだけ。
 きらら「達也、泣いてるんだ・・・」
きららの言葉で、やはり俺は泣いているんだと実感する。
周りを見ても、男で泣いている奴なんてまずいない。
これくらいの歳の頃は、別れの実感が薄いし、男は泣けないと思っているから。
俺は涙を拭いて、我慢した。
でもまた溢れてきた。
きららの方は見れなかった。
卒業式も終わり、皆部室に集まっていた。
もちろん美鈴も、ついでにほにゃらら先輩や今日子まで。
 美鈴「じゃあ今日は、私の最後の部活をします」
美鈴が突然そんな事を言った。
 達也「おう。で、何するんだ?」
俺は泣きやんではいたが、悲しさを我慢していた。
 美鈴「ゲーム部なんだから、ゲームでしょ」
 今日子「おお!ゲームですか。ピコピコ鳴る奴ですか?それともドカドカなるやつですか?はたまたビシバシするやつですか?」
 美鈴「私の最後の部活なんだから、ゲームの王様に決まってるじゃない」
なんと!
 達也「こんな日まで麻雀かね?」
あっ、ちょっと調子でてきた。
 美鈴「ゲームの王様と言えば、王様ゲームに決まってるじゃない」
 夢「ええーーー!!!」
・・・
あれですか。
あれは義経の頃なんどかやった事がる。
飲み屋とか、カラオケボックスとか、とにかく酒の入る席で。
そりゃもう、キスする為のゲームと言っても過言ではないくらい、みんなとキスした。
男も女も関係なくね。
でもまあ、高校生だし、素面だし、あってもほっぺにチュッくらいだろう。
そういや、女のパンツに手を入れるとかもあったな。
思い出すとよくやっていたと思う。
 新垣「ちょっと怖いよー!」
 吉田「大丈夫。嫌なのは逃げればいいから」
まあ確かに、男ならともかく、女の子はなんだかんだで逃げる事ができるだろう。
 今日子「ああ神よ!今日この日にココにいる幸せに感謝します。って、洒落じゃないですよ?オヤジでもないですよ?」
 達也「つっても男2人しかいないぞ?」
 今日子「ちゃんとツッコミ入れてください。って、何言ってるんですか。キスするのに男も女も関係ありません。その行為が良いんじゃないですか!」
 夢「えええーーーー!!き、き、キス、す、する、の?」
夢ちゃん動揺しまくりですな。
 達也「いや、流石にそこまでの命令を出す人なんていないって」
 夢「そ、そうか」
 今日子「そうとも限りませんよ。谷さんとか、谷さんとか、谷さんあたりはきっと言いますよ」
なるほど。
この糞アマだけは要注意というわけか。
 美鈴「じゃあ、さっさとやるわよ。私はココで王様ゲームを経験しておかないと、社会に出てから苦労するからね」
そんなもの経験してなくても大丈夫ですって。
でもそんな事は言わない。
だって楽しそうだから。
 達也「はいはい」
 美鈴「じゃあみんな、クジ引いてね」
いつの間に作ったのか、割り箸の癖に、見分けがつかないくらいに磨き上げられたクジが、美鈴の手にあった。
 達也「準備がいいね。しかもやたら綺麗だし」
 美鈴「見分けられないように、知里に頼んでおいたから」
なるほど。
これはチリちゃん作か。
みんな順番にクジを引いていく。
俺も適当に引いた。
さて・・・
 達也「王様だーれだ!?」
 ほにゃらら先輩「はーい!」
手を挙げたのはほにゃらら先輩だ。
 美鈴「いいなぁー」
美鈴はどうやらうらやましいようだ。
いったいどんな命令を出そうと思ってるんだろう?
不安だ。
 ほにゃらら先輩「では、1番が6番の肩を揉む」
ふむ。
まあ高校生だから、こんなもんだろう。
それでも、演出によってはなかなか面白い事になるのだよ。
 達也「1番は俺だ!さて、俺の餌食になる奴は誰だぁ~?」
俺は手をワシャワシャさせながら皆を見回す。
きらら「達也、なんか嫌らしいよ!」
知里「お兄ちゃん、手が可愛いぃ~」
いや、チリちゃんそれ、感覚おかしいよ。
おっ!ひとり俯いているのは夢。
 夢「6番だよ・・・」
小さな声が聞こえてきた。
 達也「おお、最初の犠牲者は夢か。言い残す事は無いか?」
 夢「べ、別に」
俺は夢の後ろに回ると、肩を揉み始める。
ってか、微妙にさわる感じで。
 夢「達也、こそばいよ」
 きらら「なんかやっぱりやらしい」
 美鈴「達也ちゃん嬉しそうだね」
 まこと「それは女の子に触れるからじゃない?」
 知里「良かったね。お兄ちゃん」
何故かみんな白い目で見てるんですけど?
演出じゃないか、演出。
俺は視線に負けて、普通に肩もみをした。
 美鈴「じゃあ次行くよー!」
こうして王様ゲームは続いてゆく。
 吉田「3番だれかな?」
 新垣「わ、私・・・」
 今日子「うわー何その狙ったような組み合わせ。イカサマだわ。イカサマ!」
吉田君が、新垣さんを抱きしめる。
 きらら「えっうそ!5番だれ?」
 知里「あ~私みたいだよぉ~」
 きらら「良かった~チリチリかぁ~」
 今日子「ちっ!何故私じゃないのー!」
きららがチリちゃんのほっぺにキスをする。
 達也「おお、恥ずかしい想いをするのは誰だぁ?」
 うらら「私かも」
 達也「おっ!ラッキー!」
 うらら「そ、そう、ならいいかも」
 今日子「うわー!達也って彼女がいったい何人いるの?最低!私も仲間にいれてーーー!!」
俺はうららをお姫様だっこして、寮まで行って戻ってくる。
 まこと「これ結構恥ずかしくない?」
 きらら「そうだね」
 今日子「きゃー!誰か誰かおらぬか?!後ろからちょっと押したりしたら、チューですよチュー!」
まことときららはおでこを付けて、見つめ合っていた。
まあこんな事を繰り返していたら、いつのまにやら帰宅の時間。
 達也「そろそろ、時間だし、次が最後って事で」
なんだか少し寂しい気持ちがする。
いや、はしゃいでいたから、寂しさは倍増だ。
 美鈴「じゃあ、これラストね」
クジを持った手が差し出された。
皆最後だから、少しゆっくりと引いていった。
番号を見る。
4番。
なんとなく嫌な数字。
でも、俺がこういう数字を引く時は、何かあるんだよな。
 ほにゃらら先輩「王様だーれだ?!」
・・・
あれ?誰もいない?
俺はみんなを見回した。
 今日子「ふっ。ふっ。ふっふっふふふふふははははははは!!!」
いきなり今日子が大声で笑い出した。
 今日子「最後にきたきたきたきたーーー!!!」
今まで一度も王様になっていなかった今日子に、最後に王様がきたようだ。
 達也「なんかいやな予感がするな」
心なしか、みんなドキドキしているような気がする。
 今日子「さあ、私の力を見せる時がきたのよ!神よ!私に力を与えたまへーー!!」
 達也「って、私の力じゃ無くて、神の力じゃん」
 今日子「力をー!!」
ああ、無視ですか。
 今日子「見えた!!」
今日子はニヤッと俺の方を見た。
鳥肌がたった。
身構える一同。
 今日子「4番が~」
げっ!
やっぱりきやがった。
 今日子「7番に~」
7番に?
誰も反応しているようには見えないけど。
 今日子「キスをするー!!ああ、もちろん、ネズミとネズミ、マウストゥーマウス、口と口ですよ。ディープにするかは自由で!」
 達也「するかぁー!!」
で、いったい7番は誰だろうか。
 美鈴「あっ、あたしだ」
なんと!
美鈴かぁ~
俺はホッとしていた。
って、何故安心する?
でも、なんとなく嬉しい気持ちもある。
今日でお別れだと思っていたけど、なんとなくこれで、また会えそうな予感がした。
 達也「あー嫌なら辞めるけどー」
 今日子「辞めるの禁止。絶対禁止。はいっブチューっと舌入れちゃってください」
 達也「入れるかぁ!!」
しかし、ちょっと魅力的だな。
って、違う違う。
ココは普通にね。
 美鈴「まあ、そういう事だから、さっさとやっちゃいなさいよ」
美鈴の言葉に、俺は即行でキスをした。

部室の片付けをして、皆帰ってゆく。
美鈴に最後の挨拶をして。
 達也「そういえば、卒業式なのに親とか来てなかったのか?」
 美鈴「うちの親が来るわけないよ」
その言葉に、美鈴と仲良くなった意味を少し感じた。
家庭環境が悪く、寂しさを隠している子を放っておけないらしい俺。
そしてそういった子と仲良くなり、好きになる俺。
美鈴と仲良くなるのは当然だったんだな。
しかしそういった理由がある以上、本当の恋にはならない。
美鈴は最後に俺と握手すると、笑顔で去っていった。
少し涙が光っていた。
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