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第三十三話 後藤夢の入部

人と人のつき合いは、どちらかが続けようと思えば続いてゆく。
そう、自分が友達で有り続けたいと思えば、友達関係はずっと続いてゆくのだ。
それは、決して切れない何かで繋ぎ止めているよう。
自分が切ったと思っていた関係も、相手が繋ぎ止めようとした時、再び繋ぎ合わせる力になるのかもしれない。
2学期に入った最初の部活。
部室に皆が集まっていたところに、ひとりの訪問者。
 達也「はいー!どうぞ!」
そういって俺はドアを開けて、訪れた人を招き入れる。
驚いた。
そこに立っていたのは、夢ちゃんだった。
 達也「あれ?どうしたの?」
 夢「あなたが、ゲーム部に誘ったんじゃない」
赤くなって、少し怒っているような感じ。
そういえば、俺は夢ちゃんと出会った時、ゲーム部に誘ったような記憶があった。
うん、確かに誘ったな。
俺はなんだか嬉しくなって、夢ちゃんの手をとっていた。
元彼女に似ている彼女だから、手を取るのも自然にできてしまう。
俺はそのまま手を引き、中にいる皆のところに連れて行った。
といっても、ほんの5歩くらいだけど。
 達也「あー!今日からみんなのお友達になる、後藤夢ちゃんだ。はい。自己紹介して」
俺は先生だった頃の癖で、転校生紹介みたいな感じでやってしまった。
ってか、転校生だからいいのか?
 きらら「きゃーかわいい!」
 新垣「うんうん。しかも美人系?」
部員達には概ね好評のようだ。
 夢「1年C組、後藤夢です。よ、よろしくです」
夢ちゃんは、顔を真っ赤にして、ペコペコ頭をさげていた。
 知里「私と同じ1年生だぁ~うれしぃ~」
そういえば、この部活はほとんどが2年生だったから、チリちゃんにしてみば少し寂しかったのかも。
チリちゃんは夢ちゃんの手を取って喜んでいた。
それからしばらくは、みんなで夢ちゃんを囲って質問攻め。
ってか、完璧に転校生に群がるクラスメイト状態だ。
 きらら「なんで転校してきたの?」
 夢「母が、寮の管理人になったから・・・」
 うらら「そうなんだぁ~」
 まこと「じゃあ、ゲーム部にはどうして?」
 夢「えっ?」
夢ちゃんはチラッとこちらを見たが、直ぐに視線を戻して、
 夢「なんとなく、面白そうだったから」
と、無難な理由をこたえた。
 知里「さっき、達也ちゃんが誘ったとか言ってたよねぇ~」
 夢「達也ちゃん?」
チリちゃん、そのへんは言わなくても、ってか、達也ちゃんに驚いてる?
夢ちゃんはこちらを見て、なんだか怒っているようだ。
意味がわからない。
 達也「ああ、チリちゃんはみんなちゃん付けで呼ぶからね。夢ちゃんも達也ちゃんって呼んでもいいよ」
俺は軽い気持ち、特に意味無くいったのだが、夢ちゃんは真面目にとらえたようだった。
 夢「わかった。達也ちゃん」
・・・
なんだろう。
ノリの良い子ってわけでもなさそうだし、微妙にオーラも感じるのですが。
なんとなくだけど、由希と重ねて見てみれば、その意味がわかったような気がした。
新入部員歓迎会は、やはりゲーム部、ゲームでするのが当然だ。
部室にみんなで持ち寄って集めたお菓子を、部員それぞれとゲーム対決して勝てばもらえるというルール。
 夢「あー!クルクールのチーズ味・・・」
 達也「それが欲しいのか?では我が部員の三下、吉田君に勝てばそれは夢ちゃんの物だ」
 吉田「誰が三下だよ。じゃあゲームはブラックジャックだ」
俺は夢ちゃんと吉田君に、トランプを2枚ずつ配った。
まずは吉田君に聞く。
 達也「どないする?」
 吉田「んーこれでいいや」
どうやらあまり良くはないが、これ以上は危険な数字、16,7だろうか。
次に夢ちゃんに聞く。
 達也「夢ちゃんはどないする?」
 夢「もう1枚」
俺は1枚夢ちゃんにわたした。
夢ちゃんはカードを見て喜んだ。
これは良いカードがきたようだ。
 達也「では勝負だ」
俺がそう言うと、2人はカードを表にして見せあう。
吉田君は、Jと6、やはり16だった。
これでは後1枚引くのは悩む。
しかも1回勝負だからな。
続いて夢ちゃんのカードをみると、KとQとA・・・
ブラックジャック、21だ。
 達也「えっと、夢ちゃん、最初どれとどれがあったの?」
 夢「それは、これとこれ」
指さす先には、QとAがあった。
 達也「夢ちゃん、Aは1とも11とも数えられるから、このままでも良かったんだよ」
俺はなるべく優しく言った。
 夢「そんなの知らない。で、私の勝ち?」
 達也「うん。勝ちだからこれは夢ちゃんのものだ」
俺はクルクールカレー味を夢ちゃんにわたした。
 夢「違う」
クルクールカレー味は、突き返された。
うむ。
冷たいツッコミだなぁ~
俺は少し落ち込んだ振りをしながらチーズ味をわたした。
夢ちゃんは満面の笑みでそれを受け取った。
 夢「やった!」
・・・
普段表情の無い人、いや、負の表情を振りまいている女の子が、時折見せる笑顔とはなんて素晴らしいのだろう。
反則だよ。
クラッときちゃうよ。
なんとなく穏やかな気分になった。
その後もゲーム部員との対決は続いた。
ポーカー、赤黒のスピード、テレビゲームの路上の喧嘩2など、どれも部員は負けていた。
何故負けているのかわからない。
勝っていても、終わってみれば負けているのだ。
お菓子はドンドンとられていった。
 夢「あの、新人だからって、手加減してくれなくても」
夢ちゃんの言葉に、皆、少し殺気を出していた。
眉間をピクピクさせている。
俺は、俺だけは負けられない。
大人げないとは思ったが、俺は対戦ゲームに将棋を提案した。
 夢「うん。よくわかんないけど、ルールくらいは聞いた事あるから」
勝った。
ルールを知ってるくらいで、将棋で勝てるわけがないのだ。
単純なようで奥の深いゲーム。
プロまでいるくらいだ。
一朝一夕にはいかないゲームなのだよ。
 夢「王手」
 達也「・・・」
何故だ?
何故なんだ?
この子は一体何者なのだ?
駒をつかむその手は、いかにも素人じゃないか。
何故・・・
 達也「負けました・・・」
 夢「やったね!」
負けたのは悔しいが、夢ちゃんの笑顔を見ていたら、はっきりいってどうでもよくなった。
それにしても、何故こんなに強いのだろうか。
どのゲームも実際にやるのは初めてだって言っていた。
後で聞いた話になるのだけれど、テレビゲームやネットゲームで、ルールも理解せずやっていたらしい。
つーか、やりまくっていたらしい。
格闘ゲームも、よく似ているのは持っているとか。
完敗だよ。
正にゲーム部員になる為に生まれて来たような子だよ。
結局、ため込んだお菓子の半分を持って行かれる事となった。
 達也「じゃあ、今日の部活は終了ー!」
俺がそういうと、各々部室を後にする。
俺はふと気がついて、夢ちゃんを呼び止めた。
 達也「夢ちゃん、ちょっと待って。入部届けまだ書いてもらってなかった」
俺はそう言いながら、入部届け用紙を机の引き出しから取り出した。
 夢「あ、うん」
夢ちゃんはそれを受け取ると、それをテーブルに置いて書き始める。
名前のところをみる。
そこには確かに「後藤夢」と書かれていた。
昔付き合った彼女とそっくりの名前。
あれ?
何故?
子供って事は、結婚しているわけで、名字がそのままって。
聞きたい。
でも聞いて良いのだろうか?
死んだからとか言われたら申し訳ないし。
俺は結局聞けなかった。
 夢「はい」
用紙をわたされた。
 夢「おやすみなさい」
夢ちゃんはそう言うと、部室をでて行こうとする。
俺はその時、ふと思ってしまった。
 達也「ちょっと待って!」
 夢「何か書き落としてる?」
夢ちゃんは振り返ってこっちを見ていた。
 達也「夢ちゃん、テレビゲームするんだよね?」
 夢「うん」
 達也「ゲムステ4は持ってるかな?」
ゲムステとは、シリーズはすでに4まである大人気ゲーム機だ。
 夢「うん。あるよ」
俺はその言葉を聞くと、RPGつくったるでと、そのゲームデータをわたした。
 達也「これ。プレイして、感想きかせて欲しいんだけど」
ソフトとメディアを受け取ると、夢ちゃんはなんだか嬉しそうだ。
 夢「これ最新のだ。データ書き換えたりしてもいい?」
上目遣いでこちらを見る。
夢ちゃんは、どうやらデータをいじりたいのか、自分で作りたいのか、まあとにかくこのゲームをやりたいのだとわかった。
 達也「いいよ。バックアップは有るし、好きにして」
 夢「うん」
やっぱり反則だ。
あの頃の由希と同じ笑顔。
俺はきっと、由希のこの笑顔が好きで、付き合ったのかもしれない。
決して下心だけでは付き合ってはいない。
そう思いたかった。
男子寮までは共に帰った。
と言っても2分だけど。
夢ちゃんがドアを開けた時、ちらっと由希が見えた。
笑顔を向けてくれたが、夢ちゃんの笑顔とは全く違った、少し儚げな笑顔だった。
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ドクダミ

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