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第四十一話 地下世界の天皇陛下

シャオたちは地下世界を進んでいった。
進む先の建物は、ほとんどが破壊され廃墟と化していた。
戦闘をしながら押されていったという事が想像できた。
時々ダークエルフが襲って来ては、シャオたちはそれを捕らえていった。
捕虜がたまるとサザンも使って護送を繰り返した。
気が付くと、シュウカ曰く人口太陽と言われるものが発する光が、ドンドン弱くなってきていた。
「地下世界でも夜になるのかな?」
「一応そうなるよう設定されてるみたいねぇ~」
「そんな事もできるのか。どんな魔法だか技術だか知らないけれど、昔の人は凄かったんだな」
イニシエで見せられた映像があったから、シャオたちはこれが古の技術である事は理解できる。
でもやはり不思議なものだと感じずにはいられなかった。
暗くなった地下世界だが、真っ暗にはならなかった。
うっすらと景色は分かるし、満月が10個くらいある夜といったくらいの明るさはあった。

さて、夜になるのを待っていたとばかりに、いきなり状況は動いた。
シャオたちが進む少し先で、いきなり戦いが始まったように見えた。
「生き残りの人たちか?!行くぞ!」
「うん」
シャオたちは走って向かった。
そこではほとんど一方的にダークエルフが人を攻撃していた。
ただ一人の人間だけは、それに対抗し、人々を守りながら耐えていた。
「陛下!」
シュウカがそう叫ぶ事がなくても、そこに立つ人が天皇であると誰もが理解できていた。
「マジックシールド!」
「絶対魔法防御!」
シャオとアイは同時に魔法を発動した。
シュウカは扇子を操作し、敵の攻撃を防ぎつつ反撃した。
エルファンも魔法でダークエルフを攻撃する。
「全力でやっても殺してしまう事はないでしょう!」
ダークエルフの魔法耐性は高かった。
並の魔法ではダメージすら与えられないレベルだった。
シュウカは天皇へと駆け寄った。
「陛下御無事で?地上の世界より助けに参りました」
「地上の世界‥‥そうか。ラピタは本当にあったんだな‥‥」
シュウカは一瞬『こいつ何言ってるんだ?』と思わなくもなかった。
だが実はこの二千年の間に、地下世界では地上世界の事をそう呼ぶようになっていた。
それを瞬時に察知したかどうかは別にして、シュウカは天皇を後ろへとかくまった。
「はい、本当にあったんです」
それを聞いた天皇は安心したかのように気を失った。
「アイ、捕らえるぞ!」
「ちょっと聖なる結界は無理そうだから、一人ずつ解体していくわね」
「了解!」
シャオが呪縛を発動するたびに、それに対応してアイは敵のレジストを封じていった。
二人の息はピッタリで、ダークエルフの誰もが逆らえなかった。
「ふぅ~完了!」
シャオは額の汗を袖で拭った。
「それにしてもずっと違和感があったんだけど、この人たちどうして人間を襲うんだろう」
それは確かにアイの言う通りだった。
ダークエルフもエルフとそんなに大きな違いはないように思う。
魔法が達者な事からおそらく賢い種族だろうし、襲う理由が分からない。
エルフのように自然を守るという事も無いように感じる。
そもそもここは地下世界だ。
本来木々がある方がおかしいのだから。
「ねぇ。どうしてあんたたちは俺たち人間を襲うんだ?」
シャオは訊ねてみた。
しかしダークエルフは返事を返そうとしなかった。
言葉が通じていないという事もなさそうで、ちゃんと言う事には相応の反応がある。
お互いの間では多少喋っていたのが聞こえたし、その言葉は紛れもなく我々が喋っている言葉と同じであった。
「ちょっと待て?どうしてダークエルフは言葉を喋れるんだ?喋る事に関しては問題ないが、何故それが我々と同じ言葉なんだ?」
「そうですね。我々エルフが言葉を覚えたのは、人間と出会ってからです。つまりダークエルフはどこかで人間と出会っている?」
エルファンの推測は、皆可能性として感じた。
覚えが早いと言っても、昨日今日人間に会った者がいきなり喋れるようになるわけがない。
直ぐに覚えられる賢い頭があったとしても、一通り言葉を聞かないと分からないはずなのだ。
「ダークエルフが現れたのは最近だったよな」
シャオはシュウカに話しかけた。
しかしシュウカの姿は傍にはなかった。
遠くの建物の影で、天皇を抱えるようにして、何かを話しているように見えた。
「私の命はもう長くない。だからあなたたちに伝えておきたい事がある」
「はい。何でもおっしゃってください。私は|秋華《アキハナ》の宮家『シュウカ』と申します」
「おお‥‥ラピタに行ったと言われる伝説の宮家‥‥まだ残っていたのか‥‥」
「はい。ラピタ?では第198代天皇としてやってまいりました」
「死ぬ前に伝説の宮家シュウカに会えるとは、もう安心だ。私の息子を頼む。どこかで生きているはずだ。次の天皇にする必要はないが、役に立つなら使ってやってくれ」
「既に皇太子は保護しております。ご安心ください」
「そうか‥‥ならもう何も言う事はない‥‥」
天皇は今にも崩御しそうだった。
「アイの魔法でもたすけられないのか?」
見ていたシャオは、分かっていながら訊ねた。
「寿命以外の理由で死ぬ場合ならなんとかできるけど、この方はもう助けれれない」
「そっか‥‥」
シャオにとってもアイにとっても、先ほど初めて見た全く知らない人だ。
だけど今その人が死にそうになっていて、何故か涙があふれてきた。
それから1分もしない内に、天皇はシュウカの腕の中で崩御した。
皆自然と目を閉じ、手を合わせて安らかな眠りを願っていた。

天皇の遺骸は、シュウカが地上へ運ぶと言って抱えていった。
それと入れ替わるように、アサリとエルフィンが戻ってきた。
「何かあったんでしょうか?」
皆の重い空気を感じて、アサリが訊ねた。
「天皇を‥‥助けられなかったの‥‥」
「最後は私たちを助ける為に、敵の攻撃に耐えてくださいました」
アイと地下世界の人たちの声を聞き、アサリは状況が理解できた。
アサリの頬にも、ただ涙が伝わっていた。
この日、これ以上何もする気になれなかった一同は、一旦留置場辺りまで戻って体を休めた。

重かった空気は、次の日人口太陽が輝きだすと、不思議なくらいに晴れていった。
誰かにそうなるよう魔法をかけられたようだった。
「とりあえずこの後どうするかだが、俺はもう少しダークエルフについて調べようと思う」
「やっぱりこのままだと、出口を埋めた所でいずれ地上に出てくるかもしれないから?」
「いくらダークエルフが強くても、出口を全て埋めてしまえば、そこが出口だと気づかずに出てこない可能性もありますよ」
エルファンの言う事も、皆確かにあると思った。
このまま帰って出口を塞げば、もうこのダークエルフの事は無かった事にできるかもしれない。
一方アイの不安も皆当然に分かる事だ。
だがシャオが気になる所はそこではなかった。
「昨日も言ったけどさ、ダークエルフが俺達と同じ言葉を喋っているのがどうも気になるんだよね」
シャオには何かが引っかかっていた。
それが何かは分からないが、とにかく行かないといけないと確信していた。
「確かにどうしてだろうね」
「地上世界でダークエルフを見たという話は、伝承やおとぎ話の世界にもありませんよ」
もしもダークエルフが地上に出てきた事があるのなら、そういう話が残っていても不思議ではない。
しかし、エルフの話すらシャオのご先祖の日記くらいにしか記されていないのに、ダークエルフが地上に出てきたとは考えられなかった。
「何にしても調べてみようと思うから、みんなは地上に戻って、出口からダークエルフが出てこないか、そこだけ警戒しておいてくれるか?」
「私は付いていくわよ」
シャオはアイに頷いた。
「私もついっていって良いですか?」
「エルファン?ダークエルフに興味があるのか?俺はもう天皇、いや皇太子が救えたから用も無いし帰るわ」
「やはり我々と無関係と思えなくてな。何か分かるのなら調べてみたい」
エルファンは、前にシャオに見せてもらったあの日記に書かれていた絵が気になっていた。
「分かった。エルファンも一緒にいこう」
シャオはエルファンの同行を了承した。
「私は‥‥」
アサリが何か言いそうになった時、アイが口をはさんだ。
「アサリちゃんは地上に戻って、シュウカさんと一緒に出口を守っておいてくれるかな?」
そう言ってアイはウインクをした。
アイは気が付いていた。
アサリがシュウカを好きな事を。
「じゃあ俺達3人でいくぞ!留置所のダークエルフには、与えられる食料は与えておいてやってくれ。出る前に全員解放してから出る事にする」
こうしてシャオたち3人は、サザンの背にのって地下世界の奥へと向かうのだった。
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