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第十六話 再会

ヴァレンは、後の事を『ナディア』に託していた。
ナディアは、シャオと共にヴァレンの元で魔法を学んだナックルの娘であり、ヴァレンの孫である。
受け継ぐ者は、既にナディアに引き継がれていた。
ナックルにはよく分からなかったが、詳しくはナディアに聞くしかなかった。
ナディアはその辺りの話を、ナックルに伝えようとはしなかったという事だった。
そして魔獣が町に入って来たのは、ヴァレンがいなくなってからだと言う。
自分の過去の行いが、今また自分を苦しめている事に、シャオは何も言えなかった。
あと1週間早く来ていればと思わなくもなかった。
ナックルの話を聞いて一同黙り込む中、その沈黙を破ったのはやはりチューレンだった。
「事情は分かりました。それでしたらわたくしたちはナディア様に会う必要があるという事です。ナディア様が受け継ぐ者であるというのなら、共に来ていただかなくてはなりません」
その通りだった。
とりあえずナディアに会わなければならない。
そして話をする必要があった。
「そうだな。ナディアに会いに行かないと。おっちゃん、案内してくれ」
シャオがそう言うと、各々出かける準備を始めた。
シャオは出かける前に奥の部屋へ行くと、何かをしているようだった。
「シャオ?そろそろ行くよ?」
アイが声をかけると、シャオが奥の部屋から出てきた。
手には4本の剣と、1本のロッド(杖)を持っていた。
「何それ?」
見れば剣とロッドである事は分かるが、それを持ちだしてきた意味をアイは訊ねた。
「ああ、みんなの持っている剣だと、魔獣にダメージを与えるのは難しいからね。何故なら魔獣には普通の武器による攻撃がほとんど効かないからだ。それでちょっと親父のコレクションを探していたら、良い物が見つかってね。持ってきた」

シャオの持ってきたもの。
それは銀の剣が2本。
そして風神の剣と雷神の剣。
更にシンボルロッドと言われる杖だった。
銀の剣は、文字通り銀で作られた剣で、魔獣にも有効な武器である。
そして風神の剣と雷神の剣は、風の精霊界の武器であり魔力を持っている。
風神の剣は風を操ると言われ、カマイタチで離れた対象を攻撃する事もできるとても軽い剣だ。
雷神の剣は雷を操ると言われ、その刃には高圧の電気を纏っているとても強力な剣である。
そしてシンボルロッドであるが、十字の形をしたロッドであり、鞘から抜けば剣としても使えるマジックアイテム。
更には白魔術のコントロールを補助し、魔力を増幅してくれる優れものだ。
シャオは説明しながらそれをみんなに渡していった。
アイにはシンボルロッド、アサリには雷神の剣、アサミには風神の剣、チューレンとチンロウには銀の剣を渡した。
「さっきの戦闘で分かったと思うが、魔法だけでは魔獣相手だと苦戦する。剣とのコンビネーションが必要だ。だからこれを渡しておく」
「へぇー!すっごーい!マジックアイテムなんて初めて見たかもー!」
「ええ。なにやら魔力が感じられますわね」
アサミとアサリは嬉しそうに剣の感触を試していた。
準備ができると、一同はナックルに連れられ、町の端の方、更には森の中へと入っていった。
いつ魔獣と出くわしてもおかしくない。
各々警戒しながら森を進んだ。
しばらくすると、森の中に洞窟が見えてきた。
「あそこが我々の隠れ家、生きている者はみんなあそこに集まっている」
どうやらこの洞窟にナディアがいるという事のようだった。
「とりあえずここには魔獣は近づかない。理由は分からないのでナディアに聞いてくれ」
「ふーん」
シャオたちが進む洞窟の中は、魔法で照らされて明るかった。
更に進むと洞窟の中の開けた場所に出た。
そこには多くの人が集まっていた。
パッと見た感じ、おおよそ100人ほどだった。
皆疲れ切った表情をしていて、表情だけではなく実際にゲッソリとやつれているようにように見えた。
シャオたちが入ってきても、気にする元気もないといった感じだった。
「魔獣がいるから、食事を集めるのも大変でね」
気にして見ると、ナックルも少しやせ細っているように見えた。
人々の中を歩いて更に奥へ進むと、そこには金色の神が綺麗な、少し大柄な女性が座っていた。
「ナディア姐」
シャオの言葉に、その女性はシャオを見た。
「シャナクル、あんた生きてたの?」
ナディアは驚きの表情だった。
「ああ、まあね‥‥」
シャオは正直合わせる顔がない、そんな気持ちだった。
俯きながら、ナディアと目線を合わせる事もできなかった。
「まあ、色々派手にやったもんだね。とはいえ過去を振り返っても仕方がない!とりあえず戻ってきてくれた事に感謝だよ。うちらだけじゃ、もう手詰まりだったからね」
ナディアは気さくな性格で大雑把。
過去の事は振り返らないさっぱりとした性格だった。
その性格に、シャオはかなり救われた気がした。
「で、あんたはどうして帰ってきたんだい?天下統一とか俺が平和な世界を作るとか言って出ていったけど」
ナディアの問いに、シャオは事情を説明した。
「えっと‥‥今俺たちは、世界で起こっている争いを、これから起こる戦争を止める為に動いている」
その言葉にナディアは少し驚いたが、笑顔でフンフンと頷いてから次の言葉を待っていた。
「それには、中央大陸の受け継ぐ者も絡んでいる」
「えっ?」
シャオの言葉に、ナディアは少しだけ驚きの声を上げた。
本来はあまり公にするものではないからだ。
それでもナディアの性格上、その辺りそんなに気にするものではなかった。
「へぇー‥‥今中央大陸の受け継ぐ者って言えばヒサヨシだっけ?ちなみに私も受け継がれちゃいましたー」
ナディア鞄から本を取り出し、それを振って見せながら冗談のように言った。
「うん。知ってる。それで、この戦争を終わらせる為に、南の大陸の受け継ぐ者、本当はヴァレンの爺さんを呼びにきたんだけど‥‥今ではナディア姐だから‥‥ナディア姐に、中央大陸に来てもらいたいんだ」
シャオのお願いに少し考えてから、ナディアは一言でこたえた。
「それは無理!」
シャオにとって、正直あまり想定していなかったこたえだった。
もちろんそう言われる可能性は考えてはいたが、相手がナディアだから来てくれると勝手に思い込んでいた。
「どうして?」
「お爺ちゃんがこの地を発つ時、私はこの本を託されたのね。それと同時にこの地を守るよう言われたわけ。早々こんな状態にしちゃってはいるけど‥‥シャナクルは受け継ぐ者の遣いで来たみたいだし全てを話すわ。南の大陸に渡った初代の受け継ぐ者は、この地に神木の苗を植えた。そしてその孫である3代目は、平和の為にこの南の大陸を他の大陸から隔離する事を考えた。その為にこの大陸の中心にある魔界の門を解放した。その力によって、海を荒れる海へと変え、行き来できないようにした。でもそれだけだと魔獣がうようよ出てきてこの大陸に人が住めない。そこでアルテミスの町は、代々の受け継ぐ者が結界を張って魔獣から守ってきた。その結界は神木の力を使ってつくられる結界。今それは私に受け継がれた。9日前にね。その直後、運が悪かったんだよね。神木の近くで魔法の練習をしていた人がいて、誤って神木をかなり傷つけてしまった。それでも私が上手くフォローできれば良かったんだけど、私って器用じゃないし、能力も無くてね。結界を上手く修復できず隙間が残った。その隙間から魔獣が町に入ってきてしまって、その魔獣が更に神木を傷つけ、結果完全に結界は消失してしまいましたとさ。一応結界を張り直す事は可能で、この洞窟は今結界によって守られている。でもね、今の傷ついた神木だとこれくらいが限界なわけ」
ナディアは一度ここで話を止めた。
軽く語ってはいたものの、かなり落ち込んでいるのか、精神的に疲れている様子がうかがえた。
「で、今はどうする事も出来なくて、中央大陸に行くなんてできる状態じゃないわけ」
少し浮かぶ涙をこぼさないように、ナディアは少し上を見上げた。
「何か方法はないのか?魔獣を全部ぶっ倒すとか」
「それは無理ね。いくら魔獣を倒しても、門が開いている限り、いくらでもこちらの世界にやってくるわ」
「だったらその門を破壊したり閉じたりはできないのか?」
「私なら可能ね。でも門に近づけば近づくほど、上位の魔獣に出くわす事になる。私には太刀打ちできないし、仮にそれをシャナクルに助けてもらうにしても、此処に結界が必要な以上、離れる事はできない」
そう言ってシャオを見るナディアの目は、少し何かを期待する目だった。
シャオは少し笑みを浮かべてそれを受け止めた。
「この辺りの魔獣に関しては俺がなんとかするよ。そしてナディア姐をそこまで連れて行けば良いんだな」
シャオとナディアの笑顔で全ては決まった。
「それが終わったら、ナディア姐にはトキョウに来てもらうよ」
「分かってるよ」
一同すぐに準備に取り掛かるのだった。
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