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第十五話 ヴァレン

ヴァレンが東の大陸に渡ろうとしていたその頃、ローランドは東の大陸をほぼ手中に収めていた。
残す一国も、落ちるのは時間の問題だった。
それから数日後、ローランドは東の大陸統一を達成した。
そんなローランドと、ヴァレンは密かにローラシア王宮の庭で会っていた。
「お前は受け継ぐ者の事はご存じかな?」
「ええ。存じ上げていますよ。この本の持ち主の事でしょ?」
ローランドは一冊の本を懐から取り出しヴァレンに見せた。
「お主が持っておったか。やはりジークフリードは死んだんだな‥‥」
ジークフリードはシャナクルを倒す為に、命を懸けた魔法で立ち向かい死んだ、東の大陸の受け継ぐ者だ。
「誰の持ち物かは存じておりません。ただそうだと思いますよ」
「ならば話は早い。わしも受け継ぐ者の1人。南の大陸のヴァレンじゃ」
「そんなお方がわざわざこんな所まで忍び込んで、何用でしょうか」
ローランドは何となく分かっていたが、あえて訊ねた。
「単刀直入に言うと、もうこの辺で戦争は止めんか?この東の大陸は統一された。十分ではないかの?」
「そうですねぇ。南の大陸の受け継ぐ者としては、戦火をそちらまで広げたくないと、そういう事でしょうかね」
「それもあるがの。この戦いをここまで大きくしたシャナクルはわしの弟子、みたいなもんじゃ。そいつがしでかした事じゃからの。後始末をつけにきたんじゃ」
「ほう。シャナクル様、いや、シャナクルの師匠ですか。それはそれは。いやぁ、シャナクルの働きには助かりましたよ。私の言う通り前線に立ってよく戦ってくれました。おかげでこんなに早く東の大陸が統一できましたよ。残念ながら戦いの中で死んだようですけれどね」
「その物言いじゃと、シャナクルはお前さんに良いように使われていたみたいじゃの」
「私はただの側近でしたよ。でも所詮はシャナクル王もただのガキでした。操作は容易かったですね」
お互いの表情は常に笑顔が続いていたが、言葉には棘があった。
「で、戦いをここで止める気はあるのかの?」
「あなたにはお分かりでしょう。この世界は誰かが導いて差し上げねば、どうせまた無益な戦いが起こるのです。それを私がして差し上げようというのです。既に東の大陸を統一した事で、もう9割は達成したも同然。止める理由が何処にあるのでしょうか」
「それはどうかの。ま、やると言うのならわしは止めねばならんのじゃ。力ずくで止めさせてもらうぞ」
ヴァレンのその言葉に、一気に辺りの空気が張り詰めた。
ヴァレンの体を白のオーラが包む。
それでもローランドは余裕の笑みを浮かべながら、何をするでもなかった。
「余裕じゃの。それとも負けた時の言い訳にでもするつもりかの?弱い奴のやりそうな事じゃい」
ヴァレンの長髪にもローランドは表情を変えない。
「余裕なのも今の内じゃ!」
ヴァレンはそう言うと、ローランドの周りを走り始めた。
そのスピードは徐々に速くなる。
(うむ。なにをするつもりでしょうか‥‥なるほど。これがシャナクルのやられた魔法ですね)
注意して魔力を感じ取ると、ヴァレンの走った後には魔力の糸のようなものが存在していた。
「もう遅いぞ!滅びの結界は既に完成じゃ!」
発動された魔法は、ローランドを魔法の結界で包んだ。
そして魔力を吸い取っていた。
エナジードレインの結界だった。
更にローランドは魔力を吸われ続ける。
しかしそれでもローランドには余裕があった。
「私はシャナクルのようにはいきませんよ」
ローランドの顔つきが変わった。
その表情は悪魔にとりつかれたような凄い形相で、魔力が一気に高まった。
「無駄じゃ。もうかなりの魔力を失っているのではないかな?」
それでもローランドの魔力は更に高まる。
「なに?吸われる以上に魔力が高まっているじゃと?うおっ!」
ローランドを中心に爆発が起こった。
ヴァレンは庭の端まで飛ばされた。
「結界が破られたじゃと?」
ヴァレンはなんとか起き上がった。
「シャナクルはこの程度の結界も破れなかったのですか。ふふふははははー!」
「化け物め‥‥」
ヴァレンは再び魔力を高めた。
「もうお遊びはおしまいです」
そう言ってローランドも魔力を高める。
その大きさはヴァレンの2倍以上。
「魔力の大きさだけが魔法の強さではないぞ」
ヴァレンはエネルギーブラストを放った。
ローランドはそれを避ける事なくそのまま受ける。
「馬鹿め!」
次の瞬間ぶつけた魔力が炎の塊となってローランドを包んだ。
「これならどうじゃ?」
「ぬるい‥‥ぬるいですね‥‥」
ローランドは炎に包まれたまま魔法を放った。
「ギガメテオじゃと?」
ギガメテオはファイヤ系の上級魔法でファイヤーボールの数百倍の威力がある。
ヴァレンはとっさにマジックシールドを展開した。
しかしそれはあっさりと破壊される。
ヴァレンはかわそうと横へ飛んだ。
それでもギガメテオの火球は意志を持っているかの如くヴァレンを追い、そしてとらえた。
「ヴァー!」
ローランドを包んでいた炎は既に消えていた。
「あなたの炎を踏み台にさせていただきました。強力なギガメテオはいかかですか?たとえ受け継ぐ者とはいえ、ただでは済まないでしょう」
「はぁっ、はぁっ!」
ヴァレンは何とか魔法を無効化していた。
しかしかなりのダメージを負っていた。
(もう体がもちそうにないの‥‥)

ヴァレンが最初に使った魔法、滅びの結界。
この魔法は相手を確実に捉える魔法であった。
そしてその後、両術者の命を奪う魔法でもある。
つまり共に死ぬ為の魔法だ。
その魔法を破られた時点で、ヴァレンは既に戦える状態ではなかった。
本来はこの魔法から抜け出す事は不可能である。
しかし結界が完成する前にローランドは抜け道を作っていた。
その方法は実に簡単である。
結界の壁を作る前に、あらかじめ同じ場所に別の壁を作っていたのだ。
後はその壁をどければ、抜け道ができる。
理屈で説明するのは簡単ではあるが、相手に気づかれず、それをやってのけたローランドは、やはり圧倒的上級の使い手である事は言うまでもないだろう。
ちなみにシャオも過去にこの魔法から脱出しているが、その方法は大陸間移動魔法である。
この魔法は全ての障害を排除し、大陸間移動する魔法だ。
どちらが凄いかと言えば、ローランドのやった事の方が遥かにレベルの高い対処方法であった。
シャオのやったのはいわゆる力業でしかない。

(もう一度滅びの結界を‥‥)
しかしヴァレンにはもうそんな力は残っていなかった。
滅びの結界は完成していなかったのだから、それで死ぬという事はない。
ただ流石にダメージが大きかった。
それでもヴァレンは魔力を高めた。
そして前に一歩踏み出した所で、その動きは止まった。
後からローランドの部下が、ヴァレンの背中から剣を突き刺していた。
「ローランド様、そろそろお遊びは止めて広間に来ていただきたい」
「ああ、申し訳なかったね。楽しかったので少々長く遊んでしまったよ」
その言葉を聞いて、ヴァレンはこの世を去った。
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ドクダミ

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