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第十一話 必然の出会い

3人は町に入っていた。
町というよりは、町があった場所という方がふさわしいだろう。
倒れている人々の中に、息のある者は1人もいるようには見えない。
既に太陽は西に沈もうとしている。
辺りを赤く照らす光は、倒れた人が流す血をより赤く見せていた。
3人はアサリとアサミの両親の家を目指した。
ようやくそれがあったと思われる場所についたのは、太陽が既に沈み、辺りを闇が包んだ時だった。
かろうじて月の光が状況を理解させる。
そこには吹き飛ばされた家の残骸と、元は人であったと思われる血肉のみがあった。
アサミはただ泣いた。
アサリはそれをただ抱きしめていた。
泣き声だけが辺りに響いた。
そこに時々、残骸の崩れる音が混じった。
月の光はただそれらを包む。
夢の中にいるような、そんな感じのする時間。
ただただそんな時間が流れた。

どれくらいの時間が流れただろうか。
ようやくアサミは泣く事を止めていた。
誰がそうするともなく、なんとなく3人は歩き始めていた。
何処を歩いても同じような地獄。
それはずっと同じ所を歩いていると錯覚するほど。
遠くにかろうじて見える丘と、月だけが方向を示す。
2人は何処に向かって歩いているのだろうか。
シャオは分からないまま、ただ2人について歩いた。

前を歩く2人が、諦めて歩くのを止めたのは、月がかなり西に傾いた時だった。
それを見てシャオは声をかけた。
「とりあえず戻ろう」
その声を聞いた2人の少女は、少し涙を浮かべ、俯いたまま頷いた。
その時だった。
離れた所から人の話し声が聞こえ、魔法による光が見えた。
その声と光はこちらに近づいてくる。
その者たちはまだシャオたちには気が付いていないようだ。
シャオは何か嫌な感じがした。
それに近づいてくる者の1人、馬に乗っている者の魔力の強大さは只者ではなかった。
シャオはとっさにアサリとアサミを引っ張って、瓦礫の影に隠れた。
尚もその者たちは近づいてきた。
話している内容もハッキリと分かるようになった。
シャオたちは息を潜めた。
近づく者は3人。
馬に乗っているのは20歳くらいの美形な男。
ただ光を発しているだけの魔法からも、何か強大な魔力を感じる。
そしてその両脇を歩く不思議な雰囲気を持つ女と老人。
輝くような美しさを持つ長髪の若い女は、話の中で出てくる名前から、どうやら『チューレン』というようだ。
そして70歳は軽く超えていそうな、白くて長い顎髭を持つ老人。
こちらも名前は『タァスーシ』と判断できた。
「それにしても、こんなに派手にやっても良かったんですかな?ヒサヨシ様」
どうやら馬に乗る男は『ヒサヨシ』というようだった。
「まあなぁ。ちょっと派手やけど、これでわしらカンセイの力は見せつけられたやろ。東に対抗できる力をはよ手に入れる為にはしゃーないんちゃうか?」
聞き慣れない言葉に、シャオは小さな声でアサリに訊ねた。
「聞きなれない言葉だな?あのヒサヨシっての、知ってるか?」
アサリは知らなかったようで、ただ首を横に振った。
もちろんアサミにも分からず、同じように首を振った。
「それでもこんな事は今回限りでおやめください。ヒサヨシ様は人々を平和へと誘う者。人々に憎しみを植え付けてはなりません」
「おう。分かっとるわ。まあ出来る限りはな。それにしてもみんな殺してもうたなぁ。ははは」
辺りにヒサヨシの苦笑いが響いた。
が、直ぐにその笑い声は止まった。
「誰や?」
ヒサヨシは視線をシャオたちの方へ向けた。
シャオは気づいた。
アサリとアサミから発せられる殺気。
2人は既にオーラを発していた。
「おっ?まだ生き残りがおったんかいな」
ヒサヨシの顔には笑みがあった。
「あんたがこれやったの?あんたがお父さんとお母さんを殺したの?」
アサミは誰にも分かる殺気でヒサヨシを睨みつける。
アサリも横で同じだ。
シャオも2人の横に立ちヒサヨシを見た。
「生き残りではないみたいやね。そうか。君らの両親がこの町に住んどったんか。そら悪かったな。」
ヒサヨシは、謝罪と言うよりもただ言葉を伝えただけだった。
その態度を見て、アサリとアサミは抑えていた感情を爆発させた。
「殺す!」
その言葉と同時に、アサリはヒサヨシに襲い掛かる。
角度を変えてアサミがエネルギーブラストを放った。
2つの光は一気にヒサヨシに近づく。
ただの使い手なら、もう回避は不可能なショートレンジだ。
しかし次の瞬間には、アサリはシャオの方へと跳ね返され、アサミの魔法は一気にかき消されていた。
(強い。2人とはレベルが違いすぎる)
そう思ったシャオは、素早く二人の前に立つ。
「お前らには無理だ!下がってろ!!」
強い口調でそう言ったシャオは、黒の魔力を集めた。
(ちっ!この辺りは黒の魔力(生命反応)が薄い。黒は無理か)
そう判断すると、今度は白の魔力を高めた。
(こっちもきついな。此処までかなり魔力を消耗している。それにこの相手では、勝てない)
それでもシャオは白のオーラを纏ったまま、ヒサヨシを睨みつけた。
「うーん。なかなかの魔力やな。でもなんか本調子やないみたいやね。そやけど向かってくるんやったら相手するで」
そういうヒサヨシの顔は笑顔で余裕があった。
(ここは引いて再戦する方がいい。本調子なら勝てない相手じゃない、はず。ただ、此処で簡単に引かせてくれるか‥‥)
シャオとヒサヨシは見合ったまま、シャオの後ろでは立ち上がったアサリとアサミも睨みつける。
チューレンとタァスーシはただ静観していた。
アサリとアサミが再び魔力を高めながら、シャオをはさむように前に出て横に並ぶ。
それを見てヒサヨシも魔力を高めた。
少しの時間が流れる。
何かきっかけがあれば全てが動き出すだろう。
辺りは既に少し明るくなっている。
太陽が出るのはもう間もなく。
静かな時の流れ。
それぞれの魔力はピーク。
太陽が頭を出し、シャオたちの後ろからヒサヨシの顔を照らした。
それを合図にアサリがヒサヨシへと向かう。
しかしそれはすぐに止められた。
シャオがアサリの腕を掴み自分へと引き寄せる。
アサミはエネルギーブラストを放つ。
その魔力は大きくはない。
それに合わせてヒサヨシの強大なファイヤーボールがシャオたちへと向かってくる。
それはエネルギーブラストとぶつかってすぐに爆発した。
炎の玉は消失せず、爆風と共にシャオたちへと向かってきた。
シャオはアサミを抱き寄せて、直後空へと飛び立った。
此処へ来る時に使った空を飛ぶ魔法『飛翔』だ。
シャオは爆風とファイヤーボールの勢いを利用し、2人を抱きしめたまま高速でその場を離脱したのだった。
「おっ!すげぇな。あの魔力で飛翔かい。あいつメッチャ強いな」
ヒサヨシは笑顔のままシャオたちを見送った。
「良かったんですかな?逃がしたら今度は万全の状態で向かってくるかもしれませんで」
タァスーシも少し嬉しそうだった。
「それにしても、この中央大陸にあれほどの使い手がいたのは驚きですね」
チューレンも笑顔だった。
「そやな。今度会うのが楽しみや」
ヒサヨシはそう言うと馬を促して、チューレンとタァスーシと共に西の方へとこの場を後にした。

シャオは何とか河向こう、トキョウの方まで飛んできた。
白のオーラ、白の鎧とも言われる魔力で背中をガードしていたものの、炎の玉を受けたシャオは、かなりのダメージを受けていた。
魔力もほとんどつき、体力も限界だったが、なんとかアサリとアサミを抱えて森を進んだ。
太陽は既に真上、眠気もかなりきつい。
意識が|朦朧《モウロウ》とする中、それでも森を進んだ。
どこからかアイの声が聞こえてきた。
夢と現実の区別がつかない。
目の前が暗くなる。
シャオの意識が残っていたのはそこまでだった。
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ドクダミ

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