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第三十七話 アサリ

世界は、共通の敵とも言えるエルフの出現により、再び1つになろうとしていた。
独立した国々は、どう考えても単独でエルフを相手にする事はできない。
当然トキョウの軍事力、或いはシャオの力を当てにせざるを得なくなってくるわけで、再びトキョウの傘下へと戻ってくる国が現れ始めていた。

エルファンはまだ戻って来ていなかった。
そんな日々の中、アサリはシュウカといる時間が増えていた。
アサミよりも大きな魔力を持ちながら、その大雑把な性格からか、今一強くなれていないアサリ。
魔力の大きさから言えば、シャオほどではないにしても、もっと強くなれる素質は持っていた。
そんなアサリに、シュウカは色々と教えていた。
そして今日はアサミも一緒だった。
「アサミ!この雷神、おまえが使ってみなぁ~」
シュウカはアサリの雷神をアサミに渡した。
「えっ?でもこれアサリのだけど‥‥」
「良いの。私は新しい武器をいただきましたから」
アサリはそう言って、鞘に収まる刀を見せた。
「この雷神と風神は、普通の剣と比べても少し短く細い。子供の頃のお前たちなら丁度良かったかもだけどぉ~‥‥これは俺の考えなんだけどさぁ~これって元々二刀流武器だと思うんだよねぇ~。で、アサミなら器用だから二刀流できるっしょ?」
「うん‥‥実際2本あればなって思った事もあったしその方が戦えそう」
「‥‥できるんかい~!!」
シュウカもできそうだとは思っていたが、その方が良いと言われるとは思ってはいなかった。
だからついツッコミを入れた。
「アサミは器用ですからね」
アサリにとっては自慢の妹だった。
「でもアサリ、その刀よりも雷神の方が強力な武器っぽいよ?本当にそれでいいの?」
アサミの目に映る鞘に収まった刀からは、特に何も感じられない。
アサミにはただの刀に見えた。
それに対して雷神は、その力は既に今まで実証できている。
攻撃力を高め、魔法の魔力サポートもしてくれる。
普通に考えれば雷神の方が強力な武器と言えた。
「最近シュウカさんに『居合斬り』なるものを教わりまして、その為にはこちらの長い刀の方が良いみたいです。それにこの刀、なんだか凄いんですよ」
アサリはそう言うと、鞘から刀を抜いた。
すると刃の部分がピンクに光る刀が現れた。
「何それ‥‥」
ピンクに光る刀には迫力も無ければ、魔力も感じられない。
むしろ飾りつけは玩具っぽかった。
「アサミちゃん、バカにしてもらっては困るよぉ~。これは陽の刀って言われていて、新選組の4人が持つ刀と遜色ない、いやむしろそれ以上の究極の刀なんだよぉ~」
シュウカの言葉に説得力は感じられなかった。
「なんとぉ~!信用していない?本当は新撰組の4人に持たせている4本の刀とセットでさぁ~、5人で一組の刀なんだぞぉ~。昔は何でも5人一組が当たり前で、色は赤、青、黄、緑、桃と決まっていたのだぁ~。中でもピンクは紅一点、必殺技の重要な部分を担う一番のぉ~‥‥あれ?」
シュウカの言っている事は、皆意味が分からなかった。
シュウカもそれに気が付いて、話を止めた。
「何にしても百聞は一見に如かずだ」
シュウカがアサリに促すと、アサリは鞘を腰に装備した。
「んじゃまぁ~いくよぉ~」
シュウカはすぐに魔力を高め始めた。
アサリは居合斬りの体勢を維持して動かない。
シュウカは更に魔力を高め続けた。
シャオやアイには劣るものの、かなりの魔力が集まった。
そしてその魔力が火球に変わる。
テラメテオだ。
その火球はアサリへと向かった。
「アサリ!」
火球をまともにくらえば、死に至る可能性のある強力なものだった。
アサミの叫びがアサリの耳に届いた。
一瞬の出来事だった。
次の瞬間には、火球は消失していた。
アサリが刀を抜き、一瞬で火球を斬っていた。
驚く事に一切の爆発も起こらなかった。
薙ぎ払っていたのなら、他へ飛んでいた可能性もある。
だが魔力は完全に消失していた。
「魔法無効化?魔力解体?」
「ああ。この刀には魔を斬って消滅させる力があるんだ。そして魔は刀の餌になるぅ~。魔を吸収する力があるって事だなぁ~」
「へー‥‥凄い刀だったんだね。見た目は可愛いけど‥‥」
アサミは納得した。
「名付けて!魔除けの桃刀!」
アサリのネーミングセンスは、割と良かった。
そんなわけで、アサミは雷神と風神、両方を使う事に決めた。
「これでわたくしも、少しはお役に立てますね」
アサリは少し気にしていた。
自分が皆の足を引っ張っているのではないかと。
尤もそんな事があろうはずもなかったが、アサミや共に戦う仲間の使い手と比べるとやはり劣ってはいた。
魔力が大きいのだから、アサリは強くなりたかったのだ。
まあそんな思いをアサリはシュウカに話し、それを受けてシュウカが居合斬りを教えた訳だ。
ちなみにシュウカは居合斬りができない。
ただ古の知識として知るに過ぎなかった。
それをただそのままアサリに教えたら、よっぽど相性が良かったのだろう。
アサリはすぐに身に着けてしまった。

この後、しばらくアサリとアサミは、シュウカを相手に新しい戦い方を試していた。
シュウカの操る岩を相手に剣を振るい続けた。
ちなみにシュウカは、魔力による物質コントロールが得意である。
だから訓練相手として良かった。
そんな訓練中だった。
トキョウで休養しているはずのラキシスがやってきた。
「あ、ラキシス?」
シュウカの声に皆振り向いた。
「疲れもとれたので私もこちらへ来ました。町も取り戻したいですからね」
「お疲れ様です」
「あー‥‥でも今はちょっと返事待ちって言うか、とりあえず‥‥」
「話は聞いてますよ」
ラキシスは笑顔だった。
本当は、自分の町を襲ったエルフを許せるはずもない。
町には身内こそいなかったが、友もいた。
そんなエルフと仲良くしようと言われて、すんなり受け入れられはしない。
それでも、仲良くやって行こうという皆の思いには納得していた。
ただそれでも町は取り戻したい。
どこかで誰かがまだ生きているかもしれない。
そんな思いがあってラキシスはカルディナまで来ていた。
「そだなぁ~。エルファンが戻って来たら、町の事も聞いてみるかぁ~」
しかしこの日もエルファンは戻っては来なかった。
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