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第三十話 平和への船出(1章最終話)

ローランドとの戦いの直後は大変だった。
1人でも多く助けたい、その思いで動ける者はひたすら頑張った。
その甲斐あって、主要メンバーに死者はいなかった。
そして数日後、シャオたちはファインの宮廷に集まって話をしていた。
「ローランドが死んだ今、また世界がバラバラになる可能性がある。そやからシャオ、シャナクルが返って来たって事で世界をまとめる。既にその方向でわしの妖精が動いてる」
「俺が王ねぇ。やりたくねぇなぁ‥‥」
世界を一つにして平和にしたかったシャオ。
だけど別に王になりたかったわけではなかった。
「まあ名前だけでも頼むわ。今だけや。それで世界が落ち着いたら誰かに譲ればええ」
「じゃあムサシ、お前に譲るよ」
「そうやな。これでおまえも金には困らんやろ?」
「わしが王かいな!むむむ‥‥ええかもなぁ‥‥」
ムサシは何やら嫌らしい想像をしているようだった。
「じゃあ私が王妃って事?ふふふ‥‥」
アサミはムサシとすっかり仲良くなっており、自然とそんな事を呟いていた。
「えっ?あ?ええんか?わしメッチャ嬉しいやんけぇー!」
ムサシは大喜びしていた。
「ほなら、ムサシとアサミにはトキョウに戻ってもろて、これから世界をまとめてもらおか」
「ではわたくしもアサミと一緒に行きます」
何とか一命をとりとめたアサリもトキョウに戻る事にした。
「それでや。まあこれから色々大変やと思うけど、その前にちょっと皆にはイニシエに来てもらいたいんや。この世界の事、みんなに知ってもらった方がええやろうからな」
ヒサヨシはチラッとシュウカを見てから、皆を見回した。
「イニシエか‥‥確かに色々と興味があるな」
シャオは何かを考えているようだった。
「そやろ?仰天するもんも見せられると思うで」
ヒサヨシは皆に笑顔を向けた。
その時、少し離れた場所から大きな声が聞こえていた。
「ダメー!!」
そちらを見ると、そこにはナディアとミサが立っていた。
「ミサ!」
アイは満面の笑みで、そして目に涙を浮かべながらミサへと走り寄った。
そのまま2人は抱き合った。
ミサも笑顔だったが、直ぐに険しい顔になりヒサヨシを見た。
「ヒサヨシさん、あなたはトキョウにローラシアからの侵攻がある事を知っていながら、どうしてトキョウを離れたんですか」
皆、ミサは何を言っているのかと言った表情で2人を見た。
「ミサは、新選組の方々が話しているのを聞いたみたいよ。何かあったら逃げろって、あなたが言っていたとね」
ナディアもヒサヨシを睨みつけた。
一同不信の目をヒサヨシに向けた。
ヒサヨシはやれやれといった感じで話し始めた。
「まあな。もしかしたら来るかもしれへんって思っとったよ。確信は無かったし最善も尽くしたつもりや。色々言い訳したい事もあるけど、だからこれからイニシエに来て欲しいんや。全てはそこで明らかにする」
少し沈黙の後、シャオは皆を笑顔で見た。
「全て話すって言っているし、俺は全てが知りたいから行くよ」
「私も行く。もしも本当にお父さんが見殺しにされたなら、その理由が知りたい」
アイも行くと主張した。
結局、皆はシャオたちと共にイニシエに行く事を決めた。
(はぁ‥‥皆来るんか‥‥お父さんの仇とか言われて殺された方がマシかもな‥‥)
皆がヒサヨシの言う通りにすると言っているにも関わらず、ヒサヨシの顔は冴えなかった。
「あ~じゃあ、早速いきましょかぁ~」
シュウカは皆を促した。
直ぐの出発も皆反対はなく、従って後について行った。

イニシエに着いたのは、既に太陽が沈んだ後だった。
高い壁の中に入ると、そこには普通に町があった。
「ここの者たちは皆、イニシエの為に働いとる。実際やってる事が本当はなんなんかみんな知らんけどな」
ヒサヨシの話を聞きながら、町の中を進んだ。
かなり歩いた後、一番奥深く、山に面したそこに王宮らしき建物があった。
ただ少し他で見る王宮とは違っていて、少し要塞をイメージする建物だった。
まずはシュウカが入ってゆき、そしてヒサヨシが皆を手招きしながら入っていった。
「あ~後はヒサヨシ頼むねぇ~」
中を少し歩いてから、シュウカは部屋の入口で立ち止まった。
「ああ分かった。みんな、わしらはこっちや」
シュウカを置いて、ヒサヨシたちは更に進んだ。
そしてある扉の前で立ち止まる。
「こっから先は、ホンマやったら誰も入られへん場所や。そやからこれから見聞きするもんは他言無用で頼むで」
ヒサヨシの言葉に皆頷いた。
部屋に入った。
そこには何もない。
しかし何か違和感を覚えられた。
皆が入るとすぐに扉は閉められた。
「これは!魔力を抑える牢に感じが似ている」
シャオはすぐに魔力を高めようとしたができなかった。
「流石シャオやな。ここでは魔法は使われへんで」
皆はすぐにヒサヨシを警戒した。
「まあまあ落ち着いてや。魔法が使われへんのはわしも一緒やで」
ヒサヨシは少し苦笑いしながら皆をなだめた。
「ああ。で、ヒサヨシの話、見せたいモノってのは此処にあるのか?」
シャオがそう言うと、ヒサヨシは黙って何もない壁を指さした。
どう見ても何もない壁だった。
しかし次の瞬間、その壁に映像が映し出された。
「幻影の魔法?」
「ちゃう。これは古の技術や。これからそこに映し出される映像は、遥か昔、アルマゲドン以前のこの世界。まずはそれを見てくれ」
最初は、人々の生活が映し出された。
「何これ?こんなに高い建物、どうやって‥‥」
アイの質問にヒサヨシがこたえる。
「昔人間は、魔法が使われへんかった」
「魔法が使われへんのに、ますますどうやって作ってんって感じやんけ」
「魔法が使われへんからこそ、人間は別の方法を考えたんや。便利な魔法が無いから便利なもんを色々発明したんや。それは科学技術って言うねんけど、詳しい事はシュウカが知っとる」
映像は人々の生活から、戦争シーンへと変わっていた。
「凄い‥‥どうやってこんな爆発させてるの‥‥」
「戦争も、そんな科学技術を使って、今では考えられへんくらい大規模に行われてたんや。空を飛ぶ鉄の塊、飛行機ってゆうねんけど、これで世界中飛び回ってたって話やで。そしてそこから落とされる鉄の塊が爆弾や」
「爆弾?」
「そや。わしの妖精が戦いの前に仕掛けとったトラップ、アレも爆弾の一種や。アレは極めて威力の小さいヤツやけど、この映像で落とされる爆弾は、その塊1つで町1つくらい爆破するもんや。人間はそんなもんを使って戦争して、それで人類が全滅するアルマゲドンが起こった」
「そんなバカな事を人間が?‥‥」
「信じられへんか?そんなわけないやろ。シャオも大きな魔力と力を得た事で、世界規模の戦争を起こしたやん」
確かにヒサヨシの言う通りだった。
シャオは力を手にしたからこそ、世界統一の戦争を起こしたのだ。
「それは世界平和の為に‥‥」
「このアルマゲドンの頃に生きとった人も、皆平和を望んどった。それやのにこの戦争や。今よりも圧倒的に大きい戦争をな」
皆何も言えなかった。
「それでこの戦争の後、なんでか知らんけど人間は魔法が使えるようになった。生き残った人類は、トキョウの地下深くに退避しとった極僅かな数だけやけどな。あくまでわしの考えやけど、魔法が使えるようになったんは、人間に科学技術を捨てさせる為ちゃうかな。実際この世界では科学技術は生まれてへん」
映像は、地下の世界で暮らす人々が映し出されている。
「それでも今度は、ドンドン魔法の力が強くなってきた。シャオ、もしこの歴史を知っとったら、受け継ぐ者やとしたらどないする?」
ヒサヨシの言葉に、シャオは少し笑顔を浮かべた。
「ああやっぱりそうか。俺、以前から感じてたんだよね。ヒサヨシの思惑通りに事が進んでいるってね」
ヒサヨシは少し驚いたようだったが、直ぐに少し微笑んで息を吐いた。
「シャオには分かっとったか。シャオとローランドを戦わせて潰しあいをさせる事。受け継ぐ者がこの世界でアルマゲドンを防ぐ方法。それは力のあるもんを誕生させない、潰す事や。そやけどシャオやローラシアの軍事力は、もうわしの手にはおわれへんくらい大きなってもうた」
ヒサヨシはそこまで話すと天井を見上げた。
「で、最後の仕上げとして、俺達をここで殺るって事か?」
一同ヒサヨシを見た。
沈黙の時はしばらく続く。
ヒサヨシは少し笑みを浮かべると口を開いた。
「そのつもりや」
ヒサヨシは天井を見上げた。
「俺はそれで平和になるなら構わないよ」
「えっ?」
シャオの言葉に、皆驚いていた。
「ただ‥‥ヒサヨシやシュウカの立場の者が私利私欲に動いた時、それを止める事ができる方法はあるの?」
シャオの質問に、今度は皆ヒサヨシを見た。
少ししてからヒサヨシがこたえた。
「受け継ぐ者は本来中央大陸に1人だけやった。それを増やしたんは、誰かが道を外した時に残りの者で修正する為や」
その言葉に、受け継ぐ者を引き継いでいたナディアが頷いた。
「そうだな。しかし現状力の差は有るし、私ではどうにもできない。それにもう1冊の本は持ち主無しだ」
「そや。それにその方法は結局機能せんかった。わしが世界を誘導してるん、誰も抑えられへんかったやろ?ナディアもコントロール下やし、もしもわしが腐っとったらこれで終わりや。わしの天下やったわけや」
確かに此処で皆がやられれば、全てはヒサヨシとシュウカの思いのままだっただろう。
「そやからわし考えてん。少ない人間でいくら平和な世界を維持しようと思っても無理やなってな。それやったら素直に別の可能性にかけた方がええんちゃうかって」
「どういう事?」
「シュウカ!わしはこいつら殺さへんで!」
ヒサヨシはここに居ないシュウカにそう伝えた。
「わしがええヤツやと思ったら殺さへん。そんなん嫌やし。わしは素直に生きるで。そもそも平和の為に殺すっておかしな話やろ?」
ヒサヨシは笑顔で皆を見た。
「あ~‥‥まあ、その通りなんだよなぁ~」
別室でこの状況を見ていたシュウカも、笑顔で椅子の背もたれに体を預けた。
「で、今後どうすればええかわしには分からん。そやから皆で考えて欲しいねんけどええか?」
「何か考える事があるの?」
「ああ。まずはこのイニシエの事や。古い科学技術ももう無い方がええと思うねん。そやからこの王宮も必要ないと思うねんけどどう思う?」
「確かにこんな科学技術は無い方が良いかもな」
「うん。私もそう思う」
アイも皆も考えは一致していた。
「それでや。これら全部破壊するとしてや‥‥」
「まだ何かあるの?」
「まあな。今世界で流通しとる金、実はここで作られてるねんけどどないしよ?」
世界で何故か流通しているお金。
偽造もできないそれをここで作っていると聞いて、皆納得した。
「そうか。古の科学技術と魔法で作られていたのか。納得だな」
「それくらいなら残しも良いんじゃない?」
「だな。金が無いと生きていかれへんもんな」
アサミもムサシもそしてみんなも、それくらいは残しても良いという意見で一致していた。
「それやと、わしとシュウカはこれから金製造を受け継ぐ者って事になるんか?」
ヒサヨシが話す中、部屋のドアが開いてシュウカが入ってきた。
「あ~‥‥これ残すと、これが欲しくてまた争いが起こる可能性もあるけどぉ~」
シュウカは頭をポリポリとかいていた。
「それもそうだな。この金って破壊するのも困難だし、ある程度作って置いておけばいいんじゃないか」
シャオの言葉に皆賛成し、イニシエに受け継がれた者は全て破壊する事に決まった。
受け継ぐ者も今日までとなった。
イニシエの住人には、全て近くの町へと移り住んでもらう事になった。
金はいくらでもあるわけだから、納得できるだけの金を持たせて出て行ってもらった。

1週間後、シャオたちはイニシエの町を遠くから見ていた。
「このボタンを押したらドッカンだ。みんなぁ~いいかなぁ~」
シュウカは皆を見回した。
皆無言で頷く。
これが最後の古の技術による爆発となり、そして全ての古の技術がこの世から無くなる。
皆息をのんだ。
シュウカがボタンを押した。
町は一瞬で爆発の中に包まれ、キノコ雲が空へと昇った。
地響きと爆風は、シャオたちのいる所まで届いた。
「凄い‥‥」
風に吹かれながら、皆キノコ雲が消えて無くなるまでイニシエの町があった場所を見ていた。

「私は東に戻ります」
「ああ。ローラシアの領主。よろしく頼む」
トムキャットはローランドの代わりに、ローラシアの領主となる事となった。
これは現在世界の王であるシャオの頼みであり、断る事はできなかった。
「しかし私に領主など、できるのか不安です」
「大丈夫だよ。俺でも王なんてできたんだ」
シャオは渋い顔をするトムキャットに笑顔を返した。
「わしは世界の王となる為にトキョウに戻るわ。簡単にやるっちゅーたけど、よう考えたら怖いな‥‥」
「大丈夫!アサリも手伝ってくれるし」
「ですね。みんなで頑張りましょう」
「私も手伝うよ!」
「わしも一旦トキョウやな。ショウスウに持たせてる金も届けなあかんし、世界が落ち着くまでは手伝うで」
ムサシ、アサミ、アサリ、ミサ、そしてヒサヨシは、世界を統べる為にトキョウに戻る。
「我ら新撰組は、トムキャット殿と一緒に東へ渡り手伝います」
「東に渡った事ねぇからな。どんな所か見てみたいし」
「その後は旅でもしよー」
「落ち着いたらね」
「俺とアイ、そしてシュウカとナディア姐は魔獣退治にとりあえず南の大陸だな」
「うん」
「早く南の大陸で落ち着いて生活したいな」
「受け継ぐ者のぉ~後始末ぅ~」
「私もシュウカ様についていきますよー」
「そうですね」
サスケとコタロウもシュウカについて南の大陸へ行く事を決めた。

1週間後、一同はタイナンの港へと帰って来た。
此処からはそれぞれの目的地へと向かう。
南の大陸から避難してきた者たちも、シャオたちと共に南の大陸へ帰る。
「魔獣退治はすぐに終わると思うけど、復興作業も手伝うから、トキョウに戻るのは1年後くらいかな」
「それまでに王はムサシに引き継いでおくで」
「シャオと行動を共にしないのなんて、出会ってから初めてかも」
「そうですね。少し寂しいですが、1年なんてあっという間ですよ」
「アサリちゃん、アサミちゃん、元気でね」
皆それぞれに別れを惜しんだ。
シャオたちは船に乗り込んだ。
2隻の船はゆっくりと出港する。
1隻は東の大陸へ向けて、もう1隻は南の大陸へ向けて。
それは、戦いの無い世界への船出でもあった。
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