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第二十六話 神木消失の日

この日ローランドの元へ、カンチュウでの敗戦が伝えられた。
「ふむ。シャナクルがカンチュウに来ていましたか」
「左様でございます」
「しかし、今までトキョウから離れなかったのに、トキョウを捨ててカンチュウへ行ったとも考えづらいですね。それなりの戦力が揃ったという事でしょうか」
「カンチュウにいたシャナクル以外にも、かなりの使い手がいたと報告があります」
「それでも‥‥シャナクルさえ倒してしまえば我々の勝利だと考えますが、どうでしょうか?」
「わたくしもそのように考えます」
「では、そうする事にしますか」
ローランドはゲパルトに今後の作戦方針と指示を出した。
まずはシャオの逃げ道を塞ぐ。
シャオがローラシアの聖騎士団から逃げる為に使った魔法。
それは東の大陸の受け継ぐ者であったジークフリードから逃げる為に使った大陸間移動魔法。
もし追い詰めても、逃げられては意味がない。
ローランドはトキョウの神木を破壊する事に決めた。
「トキョウの神木を破壊するのは惜しいですが、仕方ありませんね」
神木の破壊は、特殊部隊に命じた。
「それにしてもシャナクルは成長しませんね。いくら強くても最前線で戦えば、いずれはやられるというのに‥‥」
後の事はゲパルトに任せ、ローランドは今日も静かに過ごすのだった。

特殊部隊は20人。
いずれも強大な魔力を持つ者たちだ。
だが正直な所、この者たちが大陸間移動魔法を1日に2度使えるかどうかは分からない。
行ったら帰ってこられない可能性もあったが、ローランドはそれを伏せ、『神木を破壊するまでは帰ってくるな』そう伝えていた。
特殊部隊隊長の『トムキャット』は、任務遂行を前にメンバーに内容を説明していた。
「私たちの任務は、トキョウへ大陸間移動魔法により移動し、神木を破壊する事である。向こうに着いたら他には構わず、とにかく早急に神木を破壊する。そして任務完了をもって、即座に大陸間移動魔法によって帰還する事になる。任務達成は絶対であり、達成できない場合は帰還は許されないものと思え」
特殊部隊の面々は、トムキャットの言葉に頷いた。
「ではこれより出発する。皆の健闘を祈る」
まずはトムキャットが魔力を開放した。
グングンと魔力が高まる。
他の面々も次々と魔力を開放する。
中央大陸へと念じる。
次の瞬間、トムキャットの姿がその場から消えた。
続いて他の者たちの姿も、1人、また1人と消え、そして間もなく全ての姿が消えた。
「凄い。これが大陸間移動魔法か。しかしこれは‥‥魔力の消費がきつすぎる」
空を行きながら、トムキャットは不安を覚えていた。
間もなくトキョウの北東、神木近くの森へと降りた。
辺りに爆発音が響いた。
ここはまだ夜明け前で、うっすらと明るくなり始めている時間だった。
眠りについていたアキラ達は、その音に起こされ、急いで神木の方へと向かった。
「こちらにも来たか‥‥」
アキラは神木の方へと急いだ。
後ろから、それを追い越すようにヒサヨシの妖精たちや新撰組の面々が走ってきた。
「アキラはんは安全な所におってや。わしらでなんとかするし」
一言アキラに声をかけると、ヒサヨシたちは更にスピードを上げて神木の方へと走っていった。
「確かに、私が行っても足を引っ張るだけか‥‥」
それでもアキラはヒサヨシたちの後を追った。

その頃既に、特殊部隊は神木への攻撃を開始していた。
(それにしてもでかい。これを今の我々に破壊できるのか?できたとしてその後東の大陸へ戻る事ができるのだろうか)
トムキャットは不安に思いながらも、ただひたすら神木への攻撃を続けていた。
そこへ新撰組が到着した。
「おらぁ!まったれや!」
到着した途端にコンドーはトムキャットへと襲いかかった。
トムキャットは咄嗟にマジックシールドで回避する。
「くっ!魔力消費は極力抑えなければ‥‥」
トムキャットは次の瞬間、コンドーから逃げた。
「おらぁ!逃げる気かい!」
「局長の顔が怖かったんじゃね?」
「おおそうか。では柔らかく笑顔で‥‥」
「って、コンドーさんの顔はいくら頑張っても怖いままですよ」
「はいはい、そんな事言っている間も、神木がやられていますよ」
新撰組の面々は、神木への攻撃を続けている特殊部隊を、順番に斬っていった。
(敵に攻撃される中で、破壊できるのか?)
「みんな、一点集中だ!」
トムキャットの指示通り、特殊部隊の者たちは、神木の一番傷ついている部分を集中して攻撃する。
「こりゃマズイな。いかに巨大な神木でも、こりゃやられるかもな」
ヒサヨシは神木への攻撃を防いで回っていたが、特殊部隊の攻撃を全て凌ぐ事はできなかった。
妖精たちも止めようと頑張ってはいたが、特殊部隊はかなりの使い手たちで倒すのは難しかった。
「ヤバいんじゃねぇの?」
「ああヤバいな。もう止めるの無理っぽくね?」
「でも一番ヤバいのはコンドーさんの髪だって」
「え?コンドーさん、ズラだったの?僕ショックっす!」
「あー‥‥ダメだな‥‥」
トシゾーの言葉と同時に、トムキャットのギガメテオがコンドーの頭をかすめて、神木の傷が酷い場所へと命中した。
「コンドーさん、本当にハゲになりましたね」
「ええ、ハゲです‥‥」
プルプルとコンドーは震えていた。
次の瞬間、コンドーは「殺す!!」と一言、特殊部隊の者たちを斬りまくった。
特殊部隊の者たちは限界だった。
大陸間移動魔法で大量の魔力を消費した後、神木に対しても最大限の攻撃を続けたのだ。
魔力も体力も限界だった。
コンドーのバーサクに、特殊部隊の者たちは次々と倒れていった。
「だが、ミッションコンプリートだ」
炎に包まれた神木がゆっくりと傾き始めた。
ゆっくりと、ゆっくりと、そして徐々にその速度は上がっていった。
「ヤバいぞ!退避!」
正気を取り戻したコンドーはそう言って神木から離れた。
続いて他の皆も退避した。
辺りに轟音を響かせ、2000年以上存在した神木が、森の方へと倒れて行った。
地面が大きく揺れた。
その揺れは、トキョウ全体に広がるほどだった。
「結局、敵は神木をやりに来て、俺たちはやられたって事だな」
「いえ、やられていません。命があれば良いのです」
「ほい!!ほい!」
皆が倒れた神木を眺める中、サイトーだけが残りの特殊部隊を斬って回っていた。
(さて、後は帰るだけだが、今の状態で魔法が使えるのかどうか‥‥)
トムキャットは残りの魔力を開放した。
そして東の大陸へと念じた。
トムキャットの姿は消えた。
なんとか大陸間移動魔法が再び使えたのは、トムキャットだけだった。
こうしてトキョウの神木は、ローラシアの特殊部隊により破壊された。
残した炎は、神木と森をその日一日焼き続けた。

トムキャットは、東の大陸の神木の傍で倒れていた。
もう魔力を使い果たしていて動けなかった。
「トムキャット殿、よくお戻りになられました。任務は達成できましたかな?」
倒れているトムキャットを助ける|素振り《そぶり》も無く、ゲパルトは話しかけた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥任務は、完了、した‥‥」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
この後手下の者が、トムキャットを医療施設へと運んで行った。

次の日トムキャットは、ある程度疲労を回復していた。
そしてゲパルトに対して、昨日の任務の話で詰め寄っていた。
「ゲパルト殿、昨日の作戦、我々は捨て駒にされたんでしょうか?大陸間移動魔法の魔力消費量は尋常じゃない。アレを2度行わなければならない任務には、最初から無理があったように思うのですが!」
「だったらどうだというのかね。それにあなたはきちんと帰ってきているではないか。ただの計算ミスであろう。ローランド様も今回の結果に嘆いておられた」
ゲパルトの言葉にも、トムキャットはどうにも腑に落ちなかった。
(ローランド様は、一度大陸間移動魔法を使っておられる。魔力消費量が尋常ではない事も分かっておられたはずだ‥‥)
ローランドへの不信感を拭う事はできなかった。

しばらくしてローランドとゲパルトは、宮殿の庭で話をしていた。
「トムキャット殿がローランド様に不信感抱いているようです。いかがなさいますか」
ローランドの返答は分かっていたが、ゲパルトは確認の意味で訊ねた。
「そうですか。残念ですね‥‥精鋭部隊に始末するよう伝えておいてください」
「御意」
ゲパルトは傍に控えていた付き人に、目で支持を伝えた。
その頃トムキャットは、既に東の大陸から船で出ていた。
「トムキャット様、本当によろしいのですか?」
「ああ‥‥」
トムキャットは船頭の問いに一言だけこたえた。
(おそらくは今頃、私を始末するよう命令が出ているだろう。私のいる場所は‥‥もう此処にはない)
トムキャットはただ独り、中央大陸へと向かった。
「それではいよいよシャナクルを殺る番ですな」
「シャナクルの逃げ道はなくなりました。聖騎士団とエリート部隊を送ってください。これで確実にしとめます」
「はっ!」
「それと、この地の神木も破壊しておきましょう。現状戦力はこちらが上ですから、もういらないでしょう」
この日ローランドは、ローラシアに残る最後の神木も破壊した。
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