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第十三話 告白

次の日、嫌な情報が入って来た。
東の大陸のローラシア大国が、再び近隣国の攻略に動き出したという事だった。
そしてこの日、カンセイ国の者が1人トキョウを訪れていた。
その人物は、アサリとアサミ、そしてシャオの知る人物だった。
水色に近い長い髪がとてもきれいな若い女性。
チャイルドの町で見た、チューレンだった。
みんなが屋敷の会議室へと集まっていた。
チューレンはシャオを見るとニコリとほほ笑み、そして席についた。
「それでは早速、用件をお聞かせ願いたい」
アキラはいつもと変わらぬ口調で訊ねた。
「はい。おそらくこちらの用件は分かっていらっしゃるかと思います。ただ、それは少し変更する事にいたしました」
誰もが、カンセイ国の傘下に入るよう言いに来たのだと思っていた。
そしてそれは間違いのない所だったのだろう。
しかし今、それを少し変更するとチューレンは言っているようだった。
「我々カンセイ国の領土は、既に中央大陸の半分にも及びます。これは別に土地が欲しくてそうしてきたのではありません。東の大陸の国に対抗する国力を得る為です。ローラシア大国はいずれこちらの大陸にも侵略の手を広げてくるでしょう」
皆黙ってチューレンの話を聞いていた。
「チャイルドの町を破壊したのも、対抗できる力を示す為です。実は我々はずっとこの地で、密かに争いが起こらないよう活動してきました。しかし今度ばかりは大規模にせざるを得ないと判断しました。そして今、必要なのは強い人材、本当に対抗できる武力です」
チューレンの言っている事は、皆ある程度は理解していた。
そして戦争をするのではなく、止める事が本来の目的である事も分かった。
戦争を止める為には、実際の国力と武力、そしてそれを相手に伝えるパフォーマンスが必要だったという事だ。
「そちらのお嬢さん方には、申し訳ない事をしたと思っています。インディアの町、今は廃墟と化したチャイルドの町ですが、あそこの町は元々インディアの方々の町でした。しかし追い出され、チャイルドの方々に富を奪われたと聞いておりました。故にあの町をターゲットとさせていただきました。そしてこれは戦争を止める為だとご理解ください。町を破壊する行為は、我が国の主ヒサヨシ様の本意ではありませんでした」
アサリとアサミは感情的に声を上げそうになっていた。
しかし自分たちのしてきた事、チャイルド国がしてきた事を思えば、何も言えなかった。
「それと、ヒサヨシ様の事も少し話しておこうと思います。ヒサヨシ様は、初めの人々から意志を受け継ぐ者です」
その言葉を聞いて、シャオとアキラは驚いた。
「えっ!?」
「それは本当ですか?」
意志を受け継ぐ者。
それは今では極一部で伝説として語り継がれている。
その役目は主に戦いを止めさせる事。
時には戦争を早く終わらせる為に王を暗殺したり、時には戦場で戦ったり。
和平交渉をまとめたり、戦わない為に知恵を与えたりもすると言われている。
「人類がまだ地下で暮らしていた頃、人々はそこで日々魔力の研究をしていました。その研究成果は3冊の本として残っています。人類が地上へと出てくる際、3人の者にその本を1冊ずつ持たせました。1人は東の大陸へ、1人は南の大陸へ、そして1人はこの中央大陸に留まりました。皆の役目は、人が道を外れ、平和を忘れ、再び戦いを始めた時、それを止める事としました。それは子孫へと受け継がれています。しかしここ十数年。東の魔法技術は受け継ぐ者の能力を超えてきました。東の受け継ぐ者は身を挺してブリリア国の所業を止めましたが、残念ながら命を失いました。そして、全てを確実に止めるには至りませんでした」
一同、チューレンの話をただただ聞いていた。
(南の大陸か‥‥)
シャオには思う所があった。
南の大陸。
それは中央大陸と東の大陸の間にあり、北半分だけが赤道の帯の中にある。
大陸の周りは潮の流れが荒く、船で行くにはかなりの危険が伴う場所だ。
いや、ハッキリ言って船でたどり着くのは奇跡のレベル。
魔力が漂い、人々の侵入を拒んでいるようでもある。
そんな場所であるから、中央大陸との行き来は全くない大陸だ。
更には魔獣が住むとも言われ、その内情を知る者はほとんど存在しない。
そう言われている大陸である。
「そんなヒサヨシ様が、この状況を何とか乗り越える為に、今まで対応をしてきました。後は東に対抗できるだけの武力を手に入れるだけ。少しでも多くの人を集めようと此処へ来ましたが‥‥期待以上でしたね」
チューレンはそう言って、シャオを見てニッコリとほほ笑んだ。
「ふむ。話はだいたい理解させてもらった。で、結局我々に何を求めておいでなのかな?」
アキラはもうだいたい分かっていたがあえて聞いた。
「はい、お願いは2つです。1つは我々に力をかしていただきたいという事です。具体的には戦闘員という事になるのですが、それよりも、あの神木の元での訓練を許可していただきたいのです」
トキョウの面々には今一意味が分からなかった。
「あの神木には、人々の中にある潜在魔力を開放する力があります。それは神木に近ければ近いほど大きくなります。ただ訓練をする事には別の意味もあって、東側にこちらが神木に集っている事を見せる為でもあります。おそらく東のローランドも、神木の事に気が付いているはずだからです。それはローラシア大国の町を本拠地とし、しばらく動きが無かった事からも推測できます。ローラシアの町の端には、此処よりも小さいですが神木が存在するからです。だからむしろカンセイ帝国がトキョウの傘下に入る形の方が効果があるかもしれませんね。その場合、ヒサヨシ様への配慮は最低限お願いする事にはなると思いますが」
シャオは納得していた。
神木から魔力は感じていたし、アイの成長が早すぎるのもこれで説明がつく。
「なるほどね。確かにあの神木にはそのような力があるみたいだからね」
アイを見ながらシャオが話すと、一同納得して頷いた。
「気が付いておいででしたか」
「いや、何かあるなって思う程度だったけどね」
「トキョウの神木は、人々が地下で暮らしていた頃、地下の世界に植えた木です。それが大きくなり、地上へと突き出してきました。それに合わせて人類は地上へ戻ってきたのです。東と南に渡った2人は、それぞれ神木の苗木を持って行きました。その1つがローラシアにある神木です。もう1つは言うまでもなく南の大陸にあるはずです。もう1つのお願いは、南の大陸に渡って、神木と受け継ぐ者を見つける事。そして連れ帰るのを、シャオ様、あなたに協力していただきたいのです」
一同はシャオを見た。
確かにシャオの能力が高い事は、みんなの認める所だ。
しかしまだ、シャオの本気を見た者はいない。
仮に凄い魔法使いだったとして、だからと言って何故シャオなのか。
もしかすると何か秘密があるのか。
皆色々な事を思いながら、シャオの言葉を待った。
「南の大陸か。俺なら行く事は可能だろうな。なんせ俺は南の大陸で産まれ育ったんだから」
シャオの驚きの告白に、一同唖然とした。
ただ1人チューレンだけが、笑顔を崩さずシャオを見つめていた。
「俺は南の大陸の北、アルテミスという町で産まれた。と言っても、南の大陸に存在する唯一の町だがな。それより南は魔獣が生息していて、かなりの使い手じゃないと入る事すら難しい。近所にでかい木があって、よくそこで魔法の訓練をしていた。今思うとあれが神木だったと確信できる。そしてその木の近くに住んでいた爺さんが、よく俺に魔法を教えてくれたっけ‥‥」
シャオはそこまで話すと、ある事が頭に引っかかった。
そうなのだ。
その老人はいつも本を手にしていたのだ。
それはかなり古い本で、何やら魔法の事が書かれていたように思う。
「その老人が3人目の受け継ぐ者‥‥」
チューレンも少し驚いていた。
流石にそこまで見抜いていたわけではない。
シャオの事はただの偶然だ。
それでもこれは、運命にも感じられた。

シャオがこのトキョウに飛んできた時使用した魔法は、大陸間移動魔法であった。
全ての障害物を通り抜け、ただそこへ移動するだけの魔法。
しかしその魔法はあまりに多く魔力を必要とする為、使える者は限られる。
しかも状況によっては反動で使用後魔力回復を阻害もするし、細かい行先を指定する事もできない。
シャオがトキョウに飛ぶ寸前、シャオは魔力が尽きかけていた。
本当ならそんな状態では使えない魔法ではあるが、最後にリミッターを解除し魔力を高める魔法によって発動を可能にしていた。
そのせいもあって、シャオは魔力を回復するのに長い時間が必要となっていた。

その魔法を教えてくれたのがその老人だった。
そしてシャオは、東の大陸に渡る時、その魔法を使っていた。
着いた先はローラシアの端。
チューレンが、神木があると言っていた場所。
シャオの中で、全てが今繋がっていた。

「ヴァレン。その爺さんの名前だ。おそらく受け継ぐ者に間違いない。平和が一番だ。毎日そんな事を言っていた気がする。どうやってかは分からないが、時々他の大陸の情報も知っていた。あそこで戦争が起きたとか、国が分かれたとか、無くなったとか」
シャオは話しながら、自分がどうするべきなのか考えていた。
チューレンの言う通り、南の大陸へ行くべきかどうか。
ヴァレンはおそらく知っているだろう。
シャオ、いやシャナクルが、東の大陸の戦争を大規模なものにした張本人であるという事を。
そして東の大陸の受け継ぐ者が死んだのは、シャナクルを殺る為であった事も。
ヴァレンとアイがもし会う事になれば、アイの母を死なせた戦争を起こしたのがシャオである事もバレるはずだ。
「シャオ様、どうでしょうか?そのヴァレン様に会う為に手を貸してくださいますか?流石に中央大陸と南の大陸が相手となれば、ローランドも話し合いに応じると考えます。戦いを終わらせる為です。ご決断ください」
そうだ、戦いを終わらせなければ。
シャオの気持ちは決まった。
自分が起こした乱世。
やり方は違うが、今自分の目指していた戦いの無い世界にする為の方法が示されている。
上手く行く保証はないが、大国が手を取り合って仲良くできれば、可能性は十分にあると思えた。
「分かった。俺は構わない」
シャオはそう言ってアキラを見た。
「チューレン殿、そういう事です。ただ協力という所で、カンセイ帝国をトキョウの傘下にするというのは無理があります。我々を騙しているようにも思いませんし、カンセイ帝国側で指揮をとってください」
「いえ、この際だからこちらがトキョウの傘下に入ります。その方がローランドも脅威に感じるでしょう。国家運営に関しては出来る限り協力しますから」
「いやしかし‥‥」
チューレンがやって来た時から見れば、おかしな事になっていた。
でもこれでチューレン、或いはヒサヨシの本気が、シャオには見えた気がした。
「カンセイ側がそれでいいって言ってるんだしそうしたら?その方が効果もあるわけだし」
「しかしわしがそんな大役を担えるわけが‥‥」
しばらく渋っていたアキラだったが、最後は肩書だけで、実質ヒサヨシがなんとかするという所で納得した。
「それではこれで、わたくしは一度カンセイの町に戻ります。準備が整い次第ヒサヨシ様自らこちらに伺わせます」
チューレンはそう言うと席を立った。
「ちょっと待ってくれ!」
帰ろうとするチューレンを止めたのは、神妙な面持ちをしたシャオだった。
思い詰めたような顔でアイを見る。
「どうしたの?」
アイは不安気にシャオに訊ねた。
「全てを決定する前に、1つだけみんなに話しておきたい事がある」
シャオの真剣さに、一同ただ事ではないと感じていた。
「俺の事で、まだ皆には話していない事がある‥‥」

シャオの事。
今日初めて聞かされた、南の大陸出身である事。
他にも何か訳ありなシャオの過去。
どうしてあの日、シャオはこの地に飛んできたのか。
どうしてボロボロだったのか。
その時来ていた服も気になる。
今まで聞かずにいたが、皆シャオから話してくれるのを待っていた。

「俺の名前はシャオじゃない。本当の名前はシャナクル」
シャオはただ本名を明かしただけ。
ただそれだけで全てが明らかになった。
アイはは言葉が出なかった。
他の者も同じで、時が止まったかのようにただシャオを見ている。
そんな中、チューレンだけが冷静だった。
「ヒサヨシ様のお考え通りでした。流石ヒサヨシ様です」
おそらくアイも、その可能性は考えていただろう。
いや、もうとっくに分かっていたはずだ。
しかしそれを認めたくはなかった。
母を失う事になった元凶。
認めると自分がどうなるのか不安だった。
その事実が今突きつけられた。
動かない時間。
沈黙の時が流れた。
その流れを断ち切ったのは、意外にもアイの笑顔だった。
その笑顔に、次第に他の面々も笑顔になった。
みんなの笑顔を見たシャオは、ただ「ありがとう」と言った。
「それではわたくしは失礼します」
そう言ってチューレンは部屋を後にした。
「それにしても、シャオが世界一と言われる魔法使いだったなんて。心強いよね!」
アサミは心底そう思っているといった感じだった。
「いや、前までは俺もそう思っていたけど、此処へ来て分かったよ。俺なんてまだまだだ。俺よりも強い奴が俺の目の前にいるからな」
シャオはアイを見つめる。
「アイ‥‥俺はここに来て本当の強さを知ったよ。俺はアイには勝てない。アイ、ゴメンな‥‥俺のせいで‥‥」
そして心から謝罪した。
「ううん。シャオのおかげで私たちは何度も助けられてる。それにもう私の大切な友達だもん」
そういうアイの瞳には涙があふれていた。
しかしその表情はとびきりの笑顔だった。
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ドクダミ

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