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第二十話 対応会議

2日後の昼には、既にシャオたちはトキョウに戻ってきていた。
チンロウだけは必要と判断し、南の大陸に残してきた。
ヒサヨシも既にトキョウへ来ており、シャオはヒサヨシに、南の大陸へ救助部隊の船を出す事を要請した。
それを受けたヒサヨシは承諾し、直ぐに救助部隊を編成して出発させた。
ドラゴンがいた事もあり、一旦は南の大陸から避難するしかなかった。

その後一同会議室へと集まっていた。
ローランドが来た事や、ミサの活躍など、アキラはここ数日の事を色々とシャオたちに話した。
シャオも南の大陸での出来事や、ナディアとヴァレンの事を皆に話した。
「そうか。ヴァレン殿は東の大陸に‥‥」
ローランドがこの地に来た事、そして東の大陸が統一されている事から見ても、ヴァレンの死はほぼ確実と思われた。
「私では役不足で、あまり力になれそうになく申し訳ない」
「いやいや、わざわざお越しいただいてありがとうございます。力になれないなんて事はありませんよ」
アキラの言う通り、いくら神木の近くで訓練しているからと言って、トキョウの戦力はまだまだ弱い。
受け継ぐ者として未熟ではあるナディアであるが、その能力は十分に役立つレベルだった。
「まあ何にせよ、これで受け継ぐ者が2人揃った訳やね。そしてローランドが3冊目の本を持っとる。本を持つもんが受け継ぐ者の証やから、こりゃ受け継ぐ者同士の争いになるな」
そして南の大陸の神木が枯れ始めている今、神木は両陣営に1柱ずつと言える。
帰ってくる前、アイが神木に回復魔法を試みたが、状況は変わらなかった。
「とりあえずどないしよかな。ローランドに話し合いは無理そうやろ。ここの神木を見たっちゅー事やし早急に何かしら動いてくるんちゃうかな。わしの勘やけどこっちの神木の方が魔力が強い。あと5年、いや3年も軍を鍛えたら東のレベルも上回るやろしな。それまでになんとかしてくるはずや」
皆ヒサヨシの意見に異論はなかった。
現在、戦力は圧倒的に東の大陸が上である。
しかしここで鍛え続ければ、5年もあれば逆転も可能だ。
となるとそれまでに大規模な戦争をしかけてくるという予想は当然だった。
それはかなり過酷な戦いになるだろう。
皆テンションが低かった。
「今普通に全戦力でぶつかったら、こっちに勝ち目はほとんどあらへん。そやけど、手が無いわけやない」
ヒサヨシの言葉に、鬱ぎがちに俯いていた面々が顔を上げた。
「まあ、みんな賛成はせんと思うけど一応話そか。勝つためには各個撃破しかないやろ。シャオもおるし敵戦力を分断できたら勝機はある」
そこまで話すと、ヒサヨシは一度皆を見てから息を吐いた。
「みんな、そんな期待せんとってや。これは多分でけへん事やから」
ヒサヨシは苦笑いして頭をかく。
「とりあえず話してみてよ。できない事でもそこから何かヒントが得られる可能性だってある」
「そうそう!まずは全部話してよ」
「そうですわね。それに頑張ればできる事かもしれませんし」
シャオたちの言葉にヒサヨシは再び話し出した。
「頑張ってできる事ちゃうけどな。ぶっちゃけると、こっちから向こうに攻め込むっちゅーこっちゃ。こっちは敵の戦力を少しずつ削っていけばええ。そして敵が何処に攻め込んで来ようと守らへん。それができれば勝てる可能性はあるやろ?」
ヒサヨシは話し終わると、椅子の背もたれに背を預け、天井を見上げた。
この時代の戦争は、戦力として動いても千人や二千人。
多くても一万人を超える事はほぼない。
何故なら、1人の強力な魔法使いがいれば、弱い術者が束になってもかなわないからだ。
相手にローランド、こちらにシャオがいる時点で、その他大勢程度の戦力は無きに等しい。
そう考えると、この戦争で戦力となるのは更に限られてくる。
となれば昔の戦争のように、何年にもわたる戦争はあり得ないし、補給線の確保なんかも必要なくなる。
場所も重要ではない。
ただ強力な人、使い手こそが唯一勝敗を分ける要素となるのだ。
とは言えやはりヒサヨシの作戦は実行できない。
町が破壊されたり、民衆を見殺しにする事なんてできないから。
それを良しとする者は、もうこのトキョウにはいなかった。
会議室には再び重い空気が流れた。
「まあ暗くなってもしゃあないやん?はぁ‥‥そやったらもう1つ作戦、無いでもないで」
少しだけ期待の目がヒサヨシに集まった。
「海上で防衛するんや。おそらく敵は船でやってくる事になるやろ。かなりの数になる思うけど、それを1隻ずつ沈めていく。飛翔の魔法なんてそう多くは使われへんし、休みなく長くも飛ばれへん。沈めさえすればええだけやから、上手くやれば勝負になるやろ」
「なんだよ。こっちの方が現実的じゃん」
シャオの言う事は尤もだと皆思った。
「そやけど、先の作戦の方が確実や。海上防衛戦で沈められたら終わりなんはこっちも同じやで。リスク高すぎるやろ」
言われて納得した。
こちらの船が沈んだらそこで終わりなのだ。
それでも、こちらには白魔術師が多くて、守りには優れている。
こちらが沈められる可能性は高くないと感じた。
「失敗したら終わりかもしれないが、上手く行く可能性は高いと思う。こちらにはアイお嬢さんがいるし、レベルの高い白魔術師も大勢いる。一方敵には白魔術師は少ない」
リュウのいう事は尤もだった。
おそらく神木の影響かと思われるが、トキョウには白魔術師が多いのだ。
そして東の大陸は、白魔術師が珍しいと感じるくらいに少ない。
納得はできる話だった。
しかしやはりこれも実行はできない。
何故なら、敵とは言え殺してしまう事になるから。
沈めた相手の船に乗っていた人々はどうなるだろうか。
これがトキョウ以外の人間になら可能であった作戦だろう。
人類発祥の地であり、人を殺す事を許さないトキョウにいる者には、実行できない作戦だった。
「まっ、分かっとったけどな」
ヒサヨシもこれ以上は無理と、上を向いて目を閉じた。
「それでも‥‥何か手はあるはずだ。考えないと。仮に徹底的に守るとするにして、神木の近くとタイナンの町か。神木の方は大陸間移動魔法を使ってくる場合だから、ローランドクラスが数人くる場合に備える。タイナンは数にも備えると言った所か」
シャオは話しながら頭を整理していた。
元々戦力で劣る中央大陸側は、戦力はなるべく分けたくなかった。
せめてこちらの戦力も1つにできる作戦が必要だった。
「せめて海から来る船の居場所を、かなり早い段階で捕捉できればな。そうすればトキョウに戦力を集中させておけばいい。ローランドの性格だと自ら来る事はないだろう。となると攻めてくる戦力は現有戦力の半分くらいになる。出来れば確実に戦力を分けさせたいな」
「敵の動きを捕捉するだけやったら、わしの妖精でなんとかなるで。空を行くのが得意な奴もおる」
「そうなのか?だったらそれでやるしかないだろ」
「それでも戦力的には差があるで。それにトキョウの人間は相手を殺したくないみたいやからな」
ヒサヨシの言葉には嫌味が含まれていた。
確かにこちらの命が危ういのに、相手の事を考えるのはバカげていると、皆考えないではなかった。
ただそれをやってしまったら、大切な何かを失くしてしまうような不安も持っていた。
とにかく今はこれしかなさそうだった。
「それじゃ早速海上の見張りに『サンゲン』と『コクシ』を送るわ」
サンゲンとコクシとは、ヒサヨシの召喚する妖精である事は言うまでもない。
「そうそうそれとな、当然やけどもう1つせなあかん事があるで。それはこっちの戦力を高める為に国内から優秀な奴を探す事や」
ヒサヨシの言う事は尤もだった。
このまま今のメンバーを強くするにしても限界がある。
戦える使い手を増やす事も当然必要だった。
平和というのは、相応の武力がないと維持できない。
痛感するしかなかった。
「わしが国土を広げてきたんも、優れた人材を発掘する為でもあったんや。チャイルドの町を焼いたんも、優秀な奴をあぶり出そうと思ってたんや。結局見つかったんはシャオとアサリとアサミだけやったけどな。で、その辺で何か考えはないんか?」
「カンセイに占領された町は、今トキョウの傘下にあるわけだし、人数だけは集められるだろう。問題はローラシアの特殊部隊、エリート部隊、指揮官クラスと五分に渡り合えるマスタークラスの使い手を集める事。俺様の見た所その域にたどり着けそうなのは、俺とヒサヨシ、妖精の何人か。アイとシュータ、アサリとアサミくらいか。アイは戦闘向きではないし、シュータ、アサリ、アサミはまだ届いていない。潜在魔力の大きい奴か、能力の高い使い手が仲間に欲しいな」
「それならバトル大会を開くのはどうでしょうか。そういう風にして優秀な人材を集めていたという話が過去にはあります」
シュータの提案は皆が前向きに感じた。
「それ面白そうやな」
「やってみる価値はありそうだな」
「しかし、そういった大会で人を集めるとなると、それなりに金が必要になる。トキョウにはそんな金はないが‥‥」
「それは大丈夫や。伊達に国土を広げてきたわけやないで。まあ沢山の命と引き換えに集まった金やけど」
アキラの不安は、とりあえずヒサヨシの言葉によって打ち消された。
バトル大会をする事に決まった。

場所はトキョウの町から東にある荒野。
参加者は中央大陸の東半分、トキョウ参加の町全てから集める。
日時は1月20日。
約2週間後に定めた。
全ての町に掲示するのに1週間はかかり、更に1番遠い町からトキョウまでは歩いて1ヶ月はかかるが、1週間以内に集まれないような人はそもそも不要だ。
今集めたいのはできれば即戦力である。
何時攻めてくるかも分からないのだから。
ヒサヨシは何体かの妖精を召喚すると、各々町への連絡に行かせた。
「ヒサヨシはいったい何体の妖精を召喚できるんだ?」
シャオが聞いたのは、みんなが思っていた疑問だった。
「えっと‥‥12体やな。まあ戦闘に役にたたへんのもおるけど、召喚してへん妖精は後3体や。一応みんな紹介しとこか」
ヒサヨシはそう言うと、残り全ての妖精を召喚した。
そして名前とそれぞれの能力を皆に説明した。
「へぇ‥‥凄いな。面白い能力を持った奴もいるし」
シャオも驚いたが、他の皆はもっと驚いているようだった。
その能力の中には、常識を超えるものが多数あった。
中でも『スウアン』という妖精の蘇生治癒能力は、今のアイ以上だった。
「それでは今日の会議は終了する。みんなよろしく頼む」
アキラの言葉に、皆席を立ち始めた。
「ちょっと待ってくれ!」
「何かまだ話があるのかな?」
「アルテミスに行った時、家から少し持ち帰ってきたんだ」
シャオはそう言いながら、袖の袋から沢山のリングを取り出しテーブルに並べた。
「これは?」
沢山のリングを前に、アキラも他の面々も少し驚いた表情を見せた。
「俺の親父は魔法アイテムのコレクターであり、制作者でもあったんだ。これは親父が作ったリングだ。少しは役立つと思って持って帰ってきた」
シャオはそう言いながら、リングをいくつかの種類別に分けた。
「あまり強力なものではないけど、少しは役に立つと思う。それぞれの能力にあったものを使ってくれ」
シャオの説明を聞きながら、各々必要と思われるものを手に取った。
「これは凄い」
「私はこれがいいな」
「まあお守り程度だけどね」
こうしてシャオはリングを皆に渡して、会議は終了した。
【<┃】 【┃┃】 【┃>】
ドクダミ

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