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宇宙の絆Ⅱ

5年ほど前、ネット界最大のゲーム「宇宙の絆」に、決着がついた。
賞金総額10億円を目玉にゲームユーザを集めて、1000万人のサイト会員を集めたこのサイトは、あらゆるネットサービスを統合し更なる進化を遂げる。
ネット上でできる事で、此処でできない事はほとんど無いし、ゲーム料金自体も無料である事から、ユーザを集めるだけで無く、ゲームプレイヤもユーザの実に50%を越えた。
ますます進化を遂げるバーチャル世界は、自分の分身が生活する世界として、完全に人々に定着してゆく。
「宇宙の絆」の決着がついた後、「銀河バリューネット株式会社」は、戦国時代を舞台にしたゲーム「戦場の星」で更にユーザを集めた後、再び「宇宙の絆」に原点回帰する。
それが先頃リニューアルされた、「宇宙の絆2」である。
前作からはかなり内容を一新しており、はっきり言って完全に別物のゲームだ。
それでもレベル等、色々な部分で引き継がれているし、移行は強制的な部分があったから、ゲーマーのほぼ全てが参加する事になった。
最初は文句を言っていたユーザも、なれるうちに完全にはまり出す。
まあその中に、この俺「柳生一生」も含まれるわけだけど。
俺は前作のあの10億円争奪の頃からのユーザだ。
紫苑さんの軍に所属し、四天王と呼ばれるうちの一人、群青さんの艦隊に所属していた。
正直な話、俺達は強かったから、優勝はもらったと思っていた。
しかし群青さんをはじめ、他の四天王達も紫苑軍を裏切り、ジーク軍に寝返った。
紫苑軍は一気にバラバラになって、軍は壊滅した。
だから俺は結局行く場所が無く、どうしようかと思っている間に、一気にダイユウサク軍の勝利で決着がついた。
後で聞いた話だけど、ダイユウサク軍は、あの森ノ宮学園高校ゲーム部卒業生の集まりだったらしい。
別のネットゲーム、「バトルグリード」の「ドリームダスト」で有名な人達だ。
だからまあ、順当って言えばそうなのだけど、それにしても完全に大番狂わせだと思ったよ。
とても悔しかったから、新作の「戦場の星」へのプレイ移行はせず、2ラウンド目をプレイする事にした。
賞金は無かったけど、残ったプレイヤも多くて、そこそこ楽しめた。
ただ、これまでの経験とゲームの進化から、最初3年かかった決着は、数ヶ月から1年以内でつくようになって、面白みは半減していた。
何度か優勝者がでて、俺も優勝軍に所属していたりしたから優勝もしたけど、だんだんと飽きてきていたのも事実。
だから移行には、多少文句は言ったものの、「宇宙の絆2」は、次第に俺を完全にゲームの世界に引きずり込んでいた。

 アライヴ「俺は人型で出るから、艦長よろw」
 紫苑「(^0^)/」
今俺は再び紫苑さんが作った軍、紫苑軍に所属している。
今回のゲームでは、我が陣営には、かつて紫苑軍での主力だった四天王は存在しない。
古くからの仲間は、紫苑さんと紫陽花さんと、後はスピードスターさんくらいか。
他にもあの頃の仲間はいたけど、別部隊だったからあまり覚えていない。
 アライヴ「艦船狙うから、此処はみなさん任せた!」
 紫陽花「はいはい~」
 スピードスター「♪」
俺は人型と言われる、ガンダムで言うところのモビルスーツのような機体をコントロールしている。
前作ではあまり活躍しなかった人型だけど、今回のではかなり重要になっていた。
今回の「宇宙の絆2」では、戦闘機が存在しない。
艦船も1プレイヤ1隻で、戦闘は主に人型どうしの対戦が普通だ。
人型で相手の艦船や拠点を落とすのが、戦いのメイン。
しかも、シミュレーションゲームだけど、人型の対戦はアクションシューティングで行われるから、コントロールを得意とする人は人型に乗り、そうでない人は艦長をするといった感じで楽しめるから、前作よりも高度で面白かった。
で、俺は元々シミュレーションよりもアクション派だから、人型で最前線だ。
 アライヴ「艦船が撤退を開始!」
俺は艦船を守っていた人型を蹴散らし、艦船に攻撃を開始した。
俺一機に五機いた敵機は、戦闘不能になり、宇宙に漂っている。
艦船からの回収作業は間に合わず、艦船は高速で戦線を離脱した。
艦船が全速で逃げたら、人型一機で追いかけるのはかなり辛い。
燃料がすぐにそこをついてしまうし、そもそもトップスピードになった時の移動スピードが違うから。
だから追撃するのなら、敵が撤退行動を始めた直後か、人型を艦船に収容して、艦船で追撃する事になる。
今回の目的は目の前の要塞を手に入れる事だし、放置された戦闘不能人型を回収した方がメリットが大きい。
プレイヤにしてもNPCにしても、パイロットを得る事は貴重だし、人型も修理すれば使える。
艦船だけでも少しは戦えるけれど、今回は人型がいないと戦闘にならないから。
俺は紫苑さんの艦船、「パープルアイズ」に帰還した。
 紫苑「おつ」
 アライヴ「楽勝だったねw」
今回の戦闘は楽勝だった。
相手は前作から見る名前だったけど、さほど有名人ではないし、おそらくただ単にゲームを楽しんでいる人なのだろう。
俺が艦内に人型を格納すると、画面は標準のシミュレーション画面へと戻る。
 紫陽花「お疲れさま~」
 スピードスター「相変わらず強いね♪」
二人が俺を迎え入れてくれる。
といっても、艦船は違うから、別の艦船からの通信という事になるのだけれど。
 アライヴ「相手が弱かっただけだよ。」
 紫陽花「敵はやっぱりカズミン?」
 アライヴ「まね。奴を倒さないと、このゲームでの勝利はないからねぇ。」
カズミンは、ダイユウサク軍のエースで、別のネットゲーム「バトルグリード」でも何度も優勝している強者だ。
ダイユウサク軍は、元々アクションシューテュングが得意な人が多いから、優勝候補として、すでに皆に知られている。
前回もそれなりに名前は知られていたから、さりげなく何処の軍も戦いを挑まなかったって話もあるけれど。
 アライヴ「回収した人型、どう?」
俺は、我が軍で回収した、先ほどの人型が気になっていた。
対戦してさほど強くは無かったけれど、機体はなかなか良さそうだったし、NPCキャラも何人かいたから、戦力アップが期待できた。
 紫陽花「こっちは、プレイヤ1人は仲間にならなかったけど、機体は頂いたわよ~」
 紫苑「3人全部NPC、はずれ。機体だけ。」
 スピードスター「プレイヤは駄目。機体だけ♪」
 アライブ「そっかぁ~」
要するに、5機回収したけど、パイロットの収穫はゼロって事だ。
まあ、人型だけは手に入れたから、最低限の収穫はあったけれど、今回のゲームは以前よりも厳しい。
前回のゲームと同様、今回のゲームにも実は、賞金が出る。
総額20億円と言われているが、はっきりとそう言っているわけではない。
今回が前回と違うのは、優勝軍のみに賞金がでるのではなく、活躍によってクライアントが分配するシステムに変わった。
ポイント制のようだが、そのシステムは公開されていない。
それでもやはりその多くは優勝軍に配分されると言われているわけで、賞金はゲーム終了時となる。
だからクライアントとしては、できるだけ長くゲームを続けてもらいたいわけだ。
それで今以上に人を集めて、ゲームとしてのポータルサイトナンバーワンを確固たるものにしたいという思惑がある。
だから今回のゲームに登場するNPCは、弱者に優しく強者に厳しい設定となっているようなのだ。
ただ、前回のような爆大なデスペナは無い。
デスペナとは、デスペナルティー、死んだ時のペナルティだけど、前作は死んだら金以外の全てを失い、レベルも半分だった。
しかし今回は、レベルは経験値が少しばかり減る程度で、予備の艦船や人型が無ければ、ノーカスタムのものが与えられる親切設定だ。
それに人型の戦闘で死ぬことはまず無くて、戦闘不能状態になった後、3時間誰にも回収されない場合のみ死となる。
戦闘不能状態の機体に、更に攻撃を加えて完全破壊する事もできるが、そんな事をする人はまずみられない。
艦船の場合は、落とされて脱出もできない場合は死だけど、今のところまだ落とされた事はない。
ちなみに旗艦が落とされて死んだら、前回は軍の滅亡だったが、今回は他のプレイヤに引き継がせる事ができるから、前回ほどのリスクが無いのは良かった。
さて、今の俺の立場だけど、俺は紫苑さん率いる紫苑軍に所属している。
俺の艦船はドックに格納されたままで、人型を紫苑さんの旗艦に持ち込んでいる感じだ。
艦船には、10機の人型を乗せる事ができ、プレイヤとNPC合わせて11人でひとつの艦船を形成する。
もちろんそれ以下でも別にかまわない。
俺は旗艦直属の人型パイロットとして、紫苑さんのパープルアイズにいるわけだ。
自分の艦船で出航して、NPCに艦船を任せて、自分は人型で出撃なんて事もできるが、艦船を落とされるリスクが格段にあがるのでやめている。
初心者ならまだ物量作戦って事でそれもで良いかもしれないけれど、俺くらいのパイロットなら数よりも質だ。
もちろん紫苑さんが出撃できない時もあるから、その時は紫陽花さんや、自らの艦船で出る事もあるけどね。
ここまで色々前作との違いを話してきたが、まだ最大の違いを話していなかった。
前作では、自分がネットにつないでいない時は、自分をCPUが動かして守りをしてくれていたが、それが無くなった。
つまり、人がいない時に攻めれば、完全に守りが手薄になっていると言うことだ。
そうすると平日の昼間や明け方なんかは、絶好の攻め時となってしまう。
そこで、戦闘を行う事ができる時間を設定されていた。
平日は19時~24時まで、休日は24時間全てとなっていた。
だからまあ普通の一週間なら、長く戦いたければ、土曜日の19時から日曜の24時までとなるわけ。
それはそれでかなりつらいけれど、軍はひとりではないからね。
 紫苑「(^0^)/~~」
 紫陽花「私たち寝ます~お疲れさま~」
 スピードスター「おつ♪」
 アライヴ「お疲れ~」
奪い取った拠点の設定を終えると、紫苑さんをはじめ、みんなはネット世界から消えていった。
時間は24時を少し回ったところ、そして明日は平日だからもう戦闘ができない時間だ。
それを確認して、皆は眠りについた。
さて俺は・・・
奪った拠点に貯蓄してあった燃料を、少し拝借する。
といっても人型の燃料はさほど多くはない。
艦船1隻の燃料の1億分の1程度。
無いと言っても良いくらいだけど、無いとまあ動かないわけで。
ちなみに共有しているエネルギや物資などを使うには、その時ネット回線につないでいる友軍のプレイヤの将官クラスの人か、その拠点管理者に許可を得なければならないが、今は准将なので関係ない。
まあ戦闘可能時間外なら、燃料無しでも人型は移動可能なんだけどね。
移動できずにその他のサービスまで使えないと、クライアントが儲からないから。
俺は必要無い燃料をいっぱいまで補給すると、今日この拠点を攻める前にいた、有人要塞へと向かった。
ちなみに今回の「宇宙の絆2」は、拠点の種類に修正があった。
前回は、有人惑星、コロニー、有人移動要塞、要塞の4種だったわけだけど、今回は7種。
地球、月、コロニー、要塞、移動要塞、有人要塞、要塞戦艦だ。
地球と月、そしてコロニーと有人要塞は、生産性を持っている。
それ以外は開発や生産はできても、金が増えたり物資を生産する事はできない。
移動要塞のマップ間移動は不可能になり、代わりに要塞戦艦ができた。
これは要塞としても、艦船としてもカウントされない特殊なもので、10199ある宇宙マップに3隻だけ存在する。
ちなみに10199マップ全てに拠点と言われる、コロニー、要塞、移動要塞、有人要塞のいずれか1つが存在する。
要塞戦艦が有るマップだけは、拠点が複数存在する事になるわけだ。
で、101×101のマップの中心からやや外れたところにある1つのマップが、月だ。
月は生産性が馬鹿高い拠点で、誰もが欲しい拠点の一つだ。
そしてマップの中心にあるのが地球である。
そこに入ると、別のマップへと移動する事になる。
地球マップも30×100にわかれており、全てに街を持った拠点が存在する。
月ほどではないけど、コロニーよりも高い生産性を持っている。
その全てから、宇宙の地球周りにある8マップへと移動が可能。
地球の周り8マップは中立領域で、そこにある要塞はすべて中立要塞となり、軍に所属していない人や初心者が利用する。
ちなみに買い物等全てが可能な特殊な要塞だ。
とにかく、俺は紫苑軍の拠点である有人要塞へと戻ってきた。
ココは生産性の有る拠点の中では最前線の場所で、紫苑軍の戦力のほとんどが集まっていた。
NPCがパイロットの人型も、多数配置してある。
艦船には10機しか搭載できない人型も、拠点には数多く配置できる。
上限は決められているが、この有人要塞は、100機まで配置できた。
艦船も20隻入る事ができるから、合計300機の人型を配置できる計算だ。
でも、そんな戦力があるはずもないけどね。
現状我が軍は、まだまだ弱小軍である。
といっても、始まってまだ半年、それほどでかい軍は存在しない。
一番大きい軍は、前回も強かったジーク軍、次が初代チャンプのダイユウサク軍か。
他はまあ皆どっこいどっこいだろう。
あのサイファさんも、今は弱小軍だし。
サイファさんは、うちの軍と友好的なプレイヤで、同盟関係にあるサイファ軍の大将だ。
最初の戦いで、一番強かったと言っていい人。
あの時からうちの大将とは仲良しだし、今回も共同戦線をはっている。
 一生「さて・・・寝る前に、整理するか・・・」
俺は自分の艦船「ノレン」に戻ると、コマンド選択画面を開いた。
自分の旗艦、艦船に戻った時だけ行える行動があり、それをする為だ。
ちなみに舟を下りれば、リアル世界用コマンドも可能だ。
要塞内には、ゲームに関係ない、リアルマネーでリアルな買い物をする場所や、ネット銀行やネット証券会社がある。
そしてそれを利用すれば、アイテムやNPCの人材が手に入ったりするわけで、ゲームとリアルでの相乗効果が抜群のシステムだ。
ゲームをしている人は、アイテムほしさにココで買い物をするし、そうでない人はアイテムをリアルマネーでゲーマーに売る。
そうしてこのゲーム会社は人を集めたわけだ。
で、今俺がしているのが、今までに軍から配分された、ジャンクパーツやNPC人員の整理だ。
いる物といらない物を分け、いらない物は売りに出す。
良い物はリアルマネーで、そうでない物はゲーム内ドルで。
拾った人型もいくつかある。
人型は、ひとり5機まで予備をもてる。
俺が今使ってる愛機は、名を「キュベレイ」と言って、あの人気アニメ、Zガンダムのモビルスーツから名を拝借した。
それ以外にも、移動用高速機を一機持っているが、他は予備を持っていない。
と言っても、艦船にも3機いるし、10機まで乗せる事が可能だから、実質16機まで持つ事が可能。
軍としてなら共用の人型ももてるから、実際は限りなくもてるとも言えるけれど。
ちなみに艦船も予備を5隻もてるから、こちらは合計6隻となる。
俺はノレン以外に、次期母艦を作成中だ。
まあ人型乗りの俺に、艦船が必要かと言えば、正直いらないのだけれども、まあいざという時の為にね。
整理していると、拾った人型の一機が、なかなか高性能で俺好みだった。
ボロボロだから、直して使うにはかなりの金と時間がかかりそうだけど、一応3機目の愛機にしよう。
そう思って、愛機専用のドックに入れた。
他2つはいらないから、必要なパーツだけを取って、後は分解して売りに出しておいた。
艦船には人型が3機有るけど、それを動かすパイロットがいないからね。
すぐに人型が必要でもないし。
 一生「ふぅ~・・・さて、寝るか。」
俺は全てを終えると、PCの電源を落とした。
ベッドに横になると、明日の事を考えた。
俺は特に仕事はしていない。
ついこの前までは大学生をしていたが、つまらなくて辞めた。
かといって仕事をするわけでも、専門学校に行くわけでもない。
時々バイトをしている程度だ。
明日も別に何かあるわけではない。
ああ、明後日はバイト久しぶりに入れていたかなぁ~
そんな事を考えていたら、いつの間にか眠りについていた。
【Ξ┃】 【┃┃】 【┃>】
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