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完成!テンダネス

地上戦を始めて1カ月が過ぎた頃には、グリード軍の目標拠点数10は当然として、拠点は20まで増えていた。
俺の当初の予想よりはるかに少ないが、それは俺の見解が甘かっただけで、20でもかなり順調と言える。
紫苑軍の地上戦初心者な面々も、ようやくそれなりに納得できる戦いができるようになっていた。
そんな時、俺が以前から研究していた関節パーツの完成が報告されてきた。
 一生「よっしゃ!」
俺は誰もいない自室で、ひとり吠えた。
一度失敗した研究だったけれど、通常の関節パーツのデータを調べ、自分の頭で考えうる全てをぶつけて研究した。
調べてみると、やはりどうしても能力の低下は免れないが、十分戦闘に耐えうるだけのパワーは維持できていた。
問題は、製造コストがややかさむ事と、時間がかかる事くらい。
俺は早速パーツの製造を指示した。

次の日、パーツは完成していた。
人型パーツで、これほど時間のかかるものもそうはない。
これは、破壊された時に、修理する時間もかかってしまうって事だ。
俺は、パーツの予備を準備する事も必要だと考え、再び製造指示をだしておいた。
ドルをかなり使う事になるが、元々俺は、さほど破壊される事も無いし、修理をする事も少ないから、お金は余っていて大丈夫。
ただ、地上戦を始めてからは減る一方なので、軍から融資してもらう事も一応考えていた。
さて、数時間で目的の「パーフェクトテンダネス」が完成した。
パッと見、どちらが前でどちらが後ろか分からないような機体にする事もできたが、俺はあえて違いをつけた。
前後両方使える機体だとばれないようにするのも理由の一つではあるが、やはり全く同じだと格好悪い。
それに、後ろ向きで戦うと、レベルによる制限がかかる事は既に決まっている事だから、同じにする意味もない。
俺は早速テストバトルをして、試してみる事にする。
NPC相手にテストするのも味気ないので、友軍に誰かいないか声をかけてみた。
すると意外にも、あまり面識のないおとめさんが声をかけてきてくれた。
 おとめ「完成したんだぁ。じゃあちょっと私と遊ぼうよw一度戦ってみたかったしw」
 アライヴ「ありがとう。ではよろしくお願いします。」
平日の昼間にゲームできるのも、やはりゲームで食べている人たちだからか。
ほとんどニートの自分と比べて、少しやるせない気持ちになった。
だからこそ、たとえテストバトルでも負けたくない、なんとなくそんな気持ちになった。
さて、地上でのテストバトルは、宇宙とは勝手が違う。
宇宙では宇宙空間に出て戦うわけだが、まさか街で戦うわけにもいかない。
だからその拠点の、地形特性にあったフィールドで戦う事になるわけだ。
たとえば、以前話に出た海中都市アクアの場合は、水中戦がテストバトルのフィールドとなる、という話だ。
実際にテストバトルした事がないので、一応こういう言い方をしておく。
さて、これから我々がテストバトルする場所は、どうやら荒野のようだ。
これまで地球で戦ってきた戦場の多くが、荒野であった事を考えれば、当然のフィールドだ。
荒野に、我が愛機であるテンダネスが映った。
その向こうに、おとめさんのマイヒメも小さく映る。
マイヒメのビジュアルは、今まで見た人型の、どの人型とも違っている。
スカート部分が長く、地上で戦う時はホバータイプの人型としての移動が可能だ。
その分、敵に蹴りをいれたりといった攻撃はほぼ不可能で、接近戦での対応力は落ちる。
 一生「まさに姫といった感じだな。」
俺がそうつぶやいた瞬間に、バトルがスタートした。
接近戦での対応力が落ちるマイヒメとはいえ、おとめさんは接近戦が得意な人だ。
すぐに接近しようとこちらに向かってくる。
対応力を減らしてまで、こういったホバータイプにする事に疑問もあるが、おとめさんの戦い方に必要な要素なのだろう。
俺はまず、距離をとってビーム砲で狙い撃つ。
全く当たる気がしないくらい、華麗にかわされた。
 一生「流石にゴッドブレス、この人も並じゃない。」
俺は嬉しくなってきた。
これだけ強い人と戦える事に。
出し惜しみしても仕方がないので、フェンネルも展開する。
キュベレイに搭載している数には及ばないが、フェンネルは俺のこだわりの兵器だ。
地上戦では、その力を完全には発揮できないが、それでも俺には必要なものだった。
フェンネルがマイヒメに向かう。
空中で静止させる事ができない地上では、常に飛行を続けなければならない。
だからフェンネルの設定は、常に相手と一定の距離を飛行し、攻撃できるタイミングで自由に攻撃するようにしていた。
それに合わせるように、こちらも攻撃を繰り出す。
マイヒメは意外とフェンネルに手こずる。
近接格闘には定評のあるおとめさんだが、ビーム砲などの飛び道具は、少し苦手のようだ。
それでも時間をかければ、そのうち全てのフェンネルは落とされるだろうし、攻撃チャンスは今のうちだ。
しかし、フェンネルを展開し、ビーム砲で隙を狙っても、ことごとくこちらの攻撃はかわされてしまう。
そのかわす姿は、なんとも美しい。
見とれている場合ではない。
長距離での、この絶対回避とも言える華麗さを見ては、接近して戦う以外に選択肢はないように感じる。
これがマイヒメの強さか。
俺の顔は、きっとにやけているに違いなかった。
何故ならとても楽しいから。
俺は意を決して、マイヒメに突っ込んでいった。
接近する際、一発ビーム砲を撃った後、ビームソードを起動する。
俺のビームソードは、ビーム砲もそうだが、腕に最初から搭載されているタイプだ。
手首によるひねりがきかない分、いくらか融通のきかない部分がある。
通常なら、ロックオンできるタイミングが100あるとするならば、俺の機体では90から95くらいになる。
でもそこは俺の操作、人型の体の向きを上手くコントロールする事で、十分カバーしていた。
接近した途端、マイヒメの動きが変わった。
持っていたライフルをその場に捨て、ビームソードを手に取った。
既に分かっている事ではあるが、マイヒメは二刀流だ。
そして俺の機体、テンダネスも二刀流が可能。
もう片方のビームソードも起動して、こちらも二刀流でいどむ事にした。
その間もフェンネルはマイヒメに攻撃を続けていたが、そんな事を忘れてしまうくらい、ただそこで息をしているような感覚で、全ての攻撃がかわされていた。
さて、この状態で近接戦闘をするとなると、フェンネルでの利点はほとんどないだろう。
俺はフェンネルを戻す事にした。
不規則に飛びまわっていたフェンネルは、テンダネスの肩と腰あたりにある格納場所へと戻ってきた。
急に画面が静かになった。
何故か一瞬両者動きを止める。
そして再び、戦闘が始まった。
ビームソードでの戦いでは、いつも不思議に思う。
何故、ビームソードでビームソードが止められるのだろうか。
それを不思議と感じたところで、何がどうなるわけではないが、戦いながらなんとなく考えていた。
戦いは一進一退。
関節のパーツも問題無く動き、今までよりも動作ブランクが少なく、それは限りなく0に近い。
動作ブランクとは、こちらが操作してから、それが実行されるまでのほんのわずかな時間の事だ。
それが0に近いという事は、パワーバランスがしっかりしていると言う事だ。
たとえば重い武器を持ったりすれば、それに伴うパワーが無い場合、すぐには動かせないというわけ。
いくらすばやく操作していても、思いどおりに動かなければ意味がない。
今まではそれでも、先を予想して操作し、或る程度の敵には立ち向かえていた。
しかし、実際思いどおりに動かせる機体に乗ると、その良さがひしひしと伝わってくる。
厳しい戦いを続けてきたのも、無駄ではなかったと思った。
今、自分の成長を肌で感じていた。
地上戦が得意なマイヒメと、接近戦が得意なマイヒメと、互角に戦っているのだから。
しかもこっちは、陸戦よりも、宇宙戦の方が得意な機体だ。
パイロットの力ではこちらが上だと、自分自身思えるに十分な戦いだった。
それでも、やはりマイヒメは強かった。
俺が少し隙を見せたら、見事に背後に回り込んできた。
おとめさんは、俺の機体が前後両方使える機体である事を知っている。
そして今回、その機体が完成した事も話している。
それでもあえて背後をとってきてくれたのは、このテンダネスがちゃんと機能するかどうか、試せるようにしてくれたのだろう。
俺はそれにこたえる為に、前後カメラを切り替えた。
それはすぐに完了し、前後逆のモードへと移行する。
後ろ向きでのレベルも十分にあげてあるので、機体の能力はほとんど落ちてはいない。
目の前のマイヒメが、得意とする技、ソードを両手に持ち、手をひろげて回転し攻撃する技、「旋風斬」で向かってきたが、一方のビームソードで回転軸をずらし、もう一方のビームソードでマイヒメを斬りつけた。
テストバトルは、俺の勝利で終わった。
テンダネスの完成と共に、俺自身の実力が、今までにやってきたきつい戦いのおかげで、大きく成長している事を確認できた戦いだった。
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