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ドワーフとゴブリンの戦争

大坂城は、難攻不落の城だった。
徳川家康はこれを見た時、『この城は自分には落とせない』と感じたとか。
ではどうして家康は大坂城を落とせたのだろう。
簡単な話である。
その落とし方を『豊臣秀吉に聞いていた』からだ。
「この城マジ半端ないっすね!自分には落とせないっす!秀吉さんなら落とせますか?」
「あったりめぇよ!俺の城だからな!」
「どうやって落とすんですか?」
こんな会話があったかなかったかは知らないけれど、おかげで家康は難攻不落の大坂城を落とせたとか。
本当の所は『多くが聞いていた秀吉の自慢話を家康だけが心にとめていた』という話だったかな。
なんにせよこのエピソードを知った時、『家康は流石だなぁ』って感心したのと同時に『味方に裏切られるのって一番ダメージが大きいよな』って改めて思ったよ。
織田信長は明智光秀に裏切られて死んだ訳だし、関ケ原では小早川秀秋の裏切りによって西軍が負けたんだしね。

俺たちは、ナマコの町を目指していた。
その途中で小さな森の近くを通ろうとしていたのだけれど、その辺りで何やら争いが起こっているようだった。
「この騒ぎはなんでしょうか?怪我をしたドワーフが沢山いるようですが」
想香の言う通り、街道辺りには怪我をしたドワーフが大勢倒れていた。
それを看護治療する者もいるようだが、まさに青空野戦病院といった感じだった。
「この辺りはドワーフの自治区になるんだが、最近森のゴブリンとの戦争が激化しているらしい。何でもゴブリンが難攻不落の城を築いたらしいんだ。しかしこの惨状、こりゃなんとかしないとこの街道を通る一般人にも被害がでそうだよ」
こんな所で戦争とは大変だな。
それにこれだけの惨状を見せられると助けたい気持ちにもなってくる。
相手がゴブリンの戦争となれば、萬屋ぼったくりも参戦は可能なのではないだろうか。
前にアスモデウスを倒した時のも、戦争と言えば戦争と言えるだろう。
助けを求められれば、狛里ならきっと引き受ける。
「ゴブリンは魔物だお。だったらドワーフを助けてあげるんだお」
「鬼海星としても領内でこのような争いは困るんだが、一応自治区だしドワーフが介入を許してくれないんだよ。我としてもなんとかしたいんだが‥‥」
助けたくても助けられないのか。
でも萬屋ぼったくりなら何かしらの方法はあるかもしれない。
それに陽蝕が仲間になった以上、できれば裏切られたりしないように恩はできるだけ売っておきたいものだ。
仲間の裏切りって歴史上致命傷になる事が多いからな。
元寇で北条時宗が蒙古の侵略に対抗できたのは、味方にいる裏切り者や不満分子を先に一掃しておいたからだと言われている。
やるべき理由が揃っているのだから、とりあえず何かできないか調べてみるか。
「策也ちゃん‥‥何か策が‥‥あるの?‥‥」
「ん?ああ、今は特に無いが、まずは情報を集めてみないと何ともだな」
やはり狛里もなんとかしたいみたいだな。
ただ情報も無いのにできるとは言えないよ。
「きっとなんとかできるお。この状況は放っておけないんだお」
できると言う奴はいました。
根拠のない自信が持てる馬鹿ってのは、割と成功するんだよな。
なぜならそれは行動に繋がるから。
行動した者が成功を掴む勝利者になれるのは、きっとどんな世界でも変わらないだろう。
「じゃあ猫蓮、ちょっと調べに行ってみるか」
男と二人で行動するのはどうも昔から苦手なんだけれど、でももしもこいつが神候補なら色々と経験させておきたい。
陽蝕も神候補かもしれないけれど、今の所は猫蓮の方が可能性は高そうだしな。
「行くんだお!偵察とか諜報活動とかやってみたかったんだお」
「ならば行くか。じゃあ移動用の家を出しておく。狛里たちはその中でくつろいで待っていてくれ」
闇の家でもいいんだけど、そっちは自分たちで出る事もできないからな。
息も詰まるだろう。
「分かった‥‥待ってる‥‥」
「家の中なら天冉を強化してくれるから安全だ」
「つまり私には家から出るなって事よねぇ~。おとなしく待ってるわよぉ~」
この面子なら出ても問題はないと思うけれど、まだ俺は陽蝕を信じ切れてないんだよね。
何故か俺の事を良くは思っていないみたいだし。
大丈夫だとは思うんだけどさ。
「想香が付いているので大丈夫です。安心してください」
「頼んだ」
想香の言葉が素直に受け入れられるとは。
ちょっと負けた気がするぞ。
「じゃあどうするお?」
「とりあえずゴブリンが築いた難攻不落の城ってのから見に行くか」
「承知したんだお」
城ができたから今の状態になった訳だしな。
俺たちは一旦街道から離れ、人がいない場所に移動用の家を設置した。
そして俺は猫蓮と共に、ドワーフに見つからないようにゴブリンの森へと入っていった。
城は簡単に見つかった。
森の中にある大きな岩山の袂にあるそれは、岩山と一体となっていた。
「山と一体なんだお」
「一体と言うよりは、岩山を利用して作った城か」
そもそもゴブリンが作れるものだから、想像していたような城であるはずも無かった。
しかしこれは厄介な城だ。
要塞と言ってもいい。
後ろは崖のような山だから、当然一般兵が降りられるものではない。
俺たちが今すぐゴブリンを倒す事は可能だろうけれど、手出しを禁じられているのだからやれば問題になる可能性がある。
俺ならバレずにやる事も可能だけれど、疑われるのもアレだし猫蓮に頑張ってもらいたいんだよな。
前面には川が二つ流れていて、この川が城の攻略を難しくしているのは明らかだった。
ゴブリンは武器を使う魔物だ。
弓によって一斉に攻撃されたらたまったものではないだろう。
当然魔法を使うゴブリンだっている。
「二つの堀がある大阪城みたいなんだお。二つの川が厄介なんだお」
なるほど大阪城か。
似ていると言えば確かに似ているか。
一長一短はあるにせよ、攻略方法は似たものが使えるだろう。
大阪城攻略もそうだけれど、取り囲んで長期戦では先に攻撃側が参ってしまう。
更に取り囲むには兵を分散する事になって、敵にとっては各個撃破も容易くなる。
だから一気に攻め落とさなければならない。
その為には‥‥。
「川をなんとかするしかないな」
「埋めるかせき止める必要があるんだお」
現在もドワーフは城の攻略真っ最中だ。
しかしドワーフたちは普通に城を攻撃するだけで、これじゃ全く勝てる気がしない。
魔法ではまだゴブリンの方が上手みたいだしな。
だけどドワーフなら、攻略方法さえ分かれば実行は容易いし勝てるはず。
「それをドワーフたちに伝えられれば、この勝負は勝てるんじゃないか?」
後はどうやって伝えるかが問題なだけだ。
アドバイスという形だと、戦争協力になり得るかもしれない。
そうでなくても自治権をもつドワーフたちだ。
人間のアドバイスを受けたくはないと意地でもやらない可能性もある。
かといって俺たちが勝手にやったりやらせたりするのも問題になるか。
「だったら普通にアドバイスするお」
「それは戦争協力になり得ないか?」
「オデたちなら簡単に落とせるお。コッソリ倒してしまうお」
「誰かがやったとなれば疑われるだけだ」
「じゃあどうするんだお!?」
「頭を使って考えろ!」
こいつがもしも神候補だとしたら、育てるのが大変だよなぁ。
でも正義感は強いから、可能性はきっとある。
百年って長いぞ。
「オデはドワーフたちを助けたいんだお。このままだと大勢死ぬんだお」
今も城の方では、沢山のドワーフが倒れている。
おそらく死者も出ているだろう。
俺もなんとかしてやりたいが‥‥。
人間が助けるのが駄目でも、ドワーフならどうだろうか。
同じ仲間に助けてもらえるのなら受け入れるかもしれない。
「おい猫蓮。お前は一人でもドワーフたちを助けられるか?」
「当然だお。この程度ならオデにかかれば楽勝なんだお」
城の防御結界や魔法を見るに、楽勝って事はなさそうだ。
ドワーフの中にも中級冒険者レベルは大勢いるし、上級だって見受けられる。
それでもこのザマだ。
雑魚ゴブリンは確かに雑魚だが、ゴブリンキングやクイーンもおそらくいるんだろう。
こいつらは並みじゃないぞ。
でもまあ猫蓮は不老不死だし、いざとなったら回収だけしてやればいい。
「だったら魔法でお前をドワーフの姿にしてやる。ドワーフをドワーフが助けるなら問題あるまい」
「おおっ!いい考えなんだお!でもそんな事ができるお?」
「できる。覚悟はいいか?」
「すぐにやってほしいんだお!」
迷いはないか。
ならばいいだろう。
「妖凛!猫蓮をドワーフの姿にしてやってくれ!」
(コクコク)
ミンクのマフラー姿の妖凛は、そのまま猫蓮に魔法をかけた。
この魔法は本人が受け入れた場合にしか変化させられないが、猫蓮は既に同意しているので魔法は問題なくかかった。
猫蓮は可愛いドワーフの女の子になった。
「うおぉー!オデが可愛くなってるお!」
五月蠅いよ。
見つかっちまうじゃないか。
つかなんで自分が可愛くなっているって分かるんだよ。
こいつのオタクレーダー半端ないな。
「女の子の方が警戒されないだろ?」
それになんだこの可愛さは。
ドワーフなのに髪は緑色でツインテールとか。
この気持ち悪い喋りも、可愛い女の子なら萌えになるのかよ!
畜生負けたぜ!
「確かにそうかもしれないお。じゃあ助けに行ってくるお」
「ちょっと待て。自分がどういうドワーフなのか、ちゃんと設定しておけよ。一人で旅をする冒険者で、偶々ここを通りかかったって事にしておけ」
「承知したんだお」
くぅ~!猫蓮が可愛いぜ。
これ以上話していたら猫蓮だという事を忘れてしまう。
危険だ。
「よし!準備はいいな!」
「えっと、まだ設定が‥‥」
「そんなのは戦闘中にやれ!じゃあな!飛んでっけぇー!」
俺は猫蓮のケツを蹴り飛ばし、一気に最前線へと送り届けてやった。
「痛いんだおぉー‥‥」
ふぅ‥‥危ない危ない。
まさか猫蓮があんなに破壊力のある女の子になるとは思わなかったわ。
さて猫蓮がこの状況をどうするのか、生温かく見守ってやるよ。
猫蓮は最前線へと上手く着地した。
そこにいたドワーフたちは驚いて距離を取っていたが、ゆっくりと猫蓮の周りに集まって行った。
こりゃモテモテだな。
俺のデビルイヤーなら、この距離でも会話は聞こえてくる。
『どこから飛んできた?』とか『お嬢ちゃん此処は危険だよ』みたいな事を言われていた。
つか猫蓮が突然現れた事で、ドワーフのおっさんたちの頭から戦いへの意識が完全に失くなっているぞ。
ゴブリンからの攻撃を、そのドワーフたちは受けまくっていた。
助けてやりたいが、此処は猫蓮に頑張ってもらいたい。
とにかく行動だ!猫蓮!
おっ!動き出した。
直ぐに回復魔法で状況を立て直したか。
そして念力で防壁を建て陣を築いた。
でもその程度の防壁だと、直ぐにゴブリンに壊されるぞ?
案の定防壁は破壊され、ドワーフたちは散開していた。
全く何をやってるんだ。
お前の力ならもっとやれるだろ。
おっ!強力な魔法を放ったぞ。
爆裂系魔法だな。
敵陣が崩れ落ちて川を埋めて行く。
ゴブリンの結界も崩壊したか。
そうそういいぞ!
砦の破壊と川の埋め立てを一緒にできているのは良いな。
でも川が埋まっても足場が悪くて苦労しているようだ。
それを見て念力で土を操作し足場を固めているぅー。
これはあの時の畑仕事が役立っているんじゃないか?
ってそんな作業するくらいならガンガン行けよ。
チート魔法使いなんだろ。
猫蓮、お前が倒してもいいんだぞ?
川を埋めるって話からお前が手伝うって事になったけれど、今はドワーフなんだから直接ゴブリンを叩けよ。
まあでもなんとか川が綺麗に埋め立てられ、城まで問題なく攻め入れるようになったか。
緩やかな川だったし溢れる水も多くはないしな。
こうなるとドワーフも強いな。
雑魚ゴブリンじゃ相手にならない。
後は城内戦ってところか。
此処からは近寄らないと見えないな。
俺は影に潜って城内まで移動した。
やってるやってる。
猫蓮は女性ドワーフの方が合ってるんじゃないだろうか。
動きがいつもよりスムーズな気がする。
転生前実は女性で、男になってやってきた可能性もありそう。
ゴブリンメイジの魔法は絶対魔法防御で防ぎつつ、肉弾戦で次々と倒していった。
なんだかんだ猫蓮を先頭に、ドワーフたちは城の中を蹂躙してゆく。
そして気が付けばゴブリンキングとゴブリンクイーンがいる部屋へとやってきた。
ありゃなかなか強そうだな。
ゴブリンってこんなに強かったっけか。
マスタークラスとまではいかないけれど、こいつらは雑魚じゃない。
RPGなら中ボスと言ってもいいだろう。
そしてそれ以外にも割と強いのが揃っているな。
こりゃ猫蓮一人じゃ苦労しそうだ。
だけど‥‥。
「痛いんだお!お返しなんだお!」
完全に死亡コースの攻撃を受けても、猫蓮はそのまま死んだりはしない。
いつも通り死んでは反撃を繰り返し敵を確実に減らしていった。
蘇生の時に元の姿に戻りそうなものだけれど、不老不死ってのは死んで生き返るのではなくやっぱり死なないって事なのか。
しかし周りで見ていたドワーフたちは、そのグロさに少し顔をしかめていた。
いくら可愛い女の子の容姿でも、流石にこれだけ無茶苦茶にされたらな。
「あんな戦い方、菜乃には無理なのです」
「アイドルは美しく戦うのね。猫蓮にヒロインの座は明け渡さないのね」
いやお前らも別にヒロインって訳じゃないぞ?
今のこの世界じゃ、狛里か想香だからな。
まあアルカディアじゃアイドル的存在と思っていた事もありました。
でもやっぱりこいつらがアイドルって事はあり得ないと断言できる。
なんせウンコ大好きだからな。
それはともかくドワーフたちにとっては、猫蓮こそアイドルと言うにふさわしいだろう。
これだけグロい戦い方をしていても、ドワーフたちは必死に猫蓮を庇うように戦っている。
日本が伝説の時代、|日本武尊《やまとたける》は女装で敵を騙し打ち取った事もあった。
さぞかし美形だったのだろう。
綺麗な女に化けられないと、そう上手くはいかないからな。
その日本武尊以上に、おそらく猫蓮は可愛い女になっていると思われる。
尤も、妖凛の変化あってのものだけどな。
なんだかんだ猫蓮が奮闘して、参戦してからはドワーフに一人の犠牲者も出さずにゴブリンを一掃していた。
見事だ猫蓮。
五回くらい死んでたけど、あれだけのゴブリンをほぼ一人で倒したんだからな。
「ぐおぉー!疲れたんだお!」
「ありがとう!お嬢ちゃん!」
「強いんだな。俺の嫁になってくれ!」
「いや、この子は俺のモノだ!」
「何を言う!俺が最初に惚れたんだ!」
「ちょっと待つんだお!」
ドワーフは性欲が強いのかな。
猫蓮は発情してしまったドワーフの野郎どもに囲まれていた。
いやいやうらやましい。
モテモテじゃないか。
色々なおっさんに抱き着かれて嬉しそうだし、しばらくこのまま放置しておいてやろう。
「全然喜んでないのね」
「完全にセクハラなのです。むしろ強制|猥褻《わいせつ》されているのです」
少女隊の言う通り、無理やりキスしようとするドワーフもいた。
猫蓮は必死に抵抗するが、パワーのあるドワーフたちに捕まれたら逃げる事は不可能だ。
あっ、とうとうほっぺにキスされたか。
不公平だと言うおっさんに、次々とキスされてゆく。
おっと、とうとう唇も奪われたぞ。
「オデのファーストキスがー!最悪なんだお!」
そうなのか。
ファーストキスおめでとう。
「流石にそろそろ助けてあげたらどうなのね?」
「同じ女としてはちょっと可哀想になってきたのです」
確かに、今は見た目超可愛い女の子だ。
あんな奴らに凌辱されるのは見るに堪えない。
俺は影の外に出るのと同時に姿と気配を消して、一瞬にして猫蓮をその場から救い出した。
そして猫蓮を連れて影の中へと逃げ込んだ。
「猫蓮お疲れさん!」
「はぁ‥‥はぁ‥‥。もう少し‥‥早く助けてほしかったんだお‥‥。ファーストキスだったんだお‥‥」
マジで落ち込んでいるな。
「そうか‥‥。でも良かったじゃないか。無理やり嫌な男にキスされる気持ちが分かって。猫蓮は可愛い子がいてもそんな事はするなよ」
「分かったんだお。でもきっとみんなウエルカムしてくれるんだお‥‥」
全然分かってないな。
キスされ損だったか。
というか自己評価高過ぎだろ。
その割には弱気だったりするんだけどさ。
「とにかく帰るぞ」
「オデはもう‥‥疲れたお‥‥(ガックシ)‥‥」
ショックと疲れで気絶したか。
こいつ回復遅いからなぁ。
仕方ない。
今は可愛い女の子だし、俺が抱いて連れ帰ってやるか。
つかあまり見ているとマジで危険だ。
可愛すぎる。
見ないようにしよう。
しかし影の中でも変化の魔法は維持されるんだな。
能力だからだろうか。
そういや妖凛もそのままだった。
影の中は未だによく分からないよ。
俺は影を移動してみんなのいる移動用の家へと向かった。
そんなに遠くはないので、直ぐに近くまでやってきた。
誰もいなさそうな場所で俺は猫蓮を影の外へと出し、芝生の上に横たえた。
「妖凛、元の姿に戻してやってくれ」
(コクコク)
直ぐに猫蓮は、元のイケメンに戻った。
すると途端に気持ち悪いほどのオーラが感じられた。
良かった。
可愛いままだと俺もドワーフのおっさんと同じになる所だ。
しかし、こりゃもう触れるのは無理だな。
俺は念力で猫蓮を持ち上げ、みんなのいる移動用の家へと帰った。
「戻ったぞー!」
「おかえりなさぃ~」
「策也ちゃん‥‥お帰り‥‥どうだった?‥‥」
「猫蓮さんはどうかしたのですか?もしかして死んだのですか?」
「なんだって?!猫蓮が死んだら我が仲間になった意味が無くなるじゃないか!」
天冉と狛里は猫蓮の事には意識を向けず、想香は少し嬉しそうだな。
そして陽蝕だけが猫蓮を本気で心配しているようだった。
心配してくれている人が一人でもいるのは救われるよな。
「猫蓮は大丈夫だよ。今は疲れて気絶しているだけだ。それよりもドワーフとゴブリンの件は片付いたぞ」
「どういう事だ?!」
相変わらず陽蝕は俺に対して棘があるな。
「簡単に説明するとだな。猫蓮が可愛いドワーフっ子になってゴブリン退治を手伝ったんだ。それで見事ゴブリンの城は陥落した。この件は全て解決したって訳だ」
「そうなのですね。まあそれくらい僕でも余裕でしたが、よくやったと褒めておきましょう」
「そう。それじゃあ旅の再会ねぇ~」
「でも‥‥猫蓮ちゃん‥‥まだ寝てる‥‥」
「たたき起こせば大丈夫よぉ~」
いや流石に心身共に疲れ果てているからな。
天冉はわざと言ってるだろ。
今までは割と強い気力でなんとかなってきたけれど、おっさんにファーストキスを奪われたショックで今回は多分無理だ。
「解決したのか。ありがとう猫蓮‥‥」
陽蝕は本気で猫蓮をねぎらっていた。
つか猫蓮が可愛いドワーフっ子になった事には、誰もツッコミをいれないんだな。

結局この日は、この移動用の家で過ごす事になった。
猫蓮が復活しなかったからね。
相当ショックだったんだろうなぁ。
でも猫蓮は沢山のドワーフの命を救ったんだぞ。
それは誇っていいはずだ。
その代償だったと思えば、きっとファーストキスのショックも小さなものに思えてくるに違いない。
「策也タマは助けてあげる事ができたのね」
「そうなのです。同情はしないのですが、助けたのに代償とかおかしいのです」
まあ、俺が面白がって放置したのが悪かったんだけどさ。
できれば記憶を消してやりたいが、この世界にはその能力持ってこなかったんだよね。
教訓。
ファーストキスは大切だよ。
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