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魔獣肉レシピと新たなクエスト

俺は狛里に、門番に言われた事を話してみた。
「もしかして従業員はみんな死んでしまったのか」
狛里が話してくれたのは、かなり悲しい過去だった。
死んだのは萬屋をやっていた両親と親戚。
狛里が魔獣を相手にしている間に、別の魔獣にやられてしまったという話だ。
残されたのは狛里だけ。
狛里は途方に暮れ、それでもなんとか萬屋を続けようと頑張った。
強さは申し分ないけれど、店の方はどうにもならなかった。
そんな時に覚えたのが召喚の魔法。
旅の魔法使いに教わり、僅か三ヶ月で習得したという。
その最初の成功が俺だった。
完全な成功とは言えないけどね。
「策也ちゃんが‥‥初めて成功した‥‥人間の召喚だった‥‥」
「その後は知ってる通りだな。猫蓮と想香を召喚したんだ」
それだけならよくやったと思わなくもない。
この召喚には実はリスクがあるようなのだ。
「しかし召喚一回につき、寿命が十年縮むとかヤバすぎるだろ?」
仮にこの世界の平均寿命が六十歳だとしたら、狛里はあと十五年も生きられない事になる。
それは少し困るよね。
十五年で猫蓮が神を倒せるなんて到底思えない。
そしておそらく狛里の力は必要だろう。
いや、単純に狛里にはもう少し長く生きてもらいたいと思ってしまった。
「でも‥‥もう仲間が死ぬのは‥‥嫌だから‥‥強い仲間が‥‥必要だった‥‥」
「だからと言って狛里は早く死んでもいいのか?俺はもうお前の事を友達だと思っているぞ?生きるならみんなで生きよう。少なくとも納得できるまで」
「みんなで‥‥」
「そうだよ。この世界にも不老不死はいる。ならばそうなる方法はあるはずだ」
不老不死にする魔法をこの世界に持ってくる事はできなかった。
つまりこの世界には存在し得ない魔法なのだ。
でもそれ以外に方法はある。
だから俺は、この世界での最初の目標を『狛里を不老不死にする事』と定めた。
アルカディアとは逆の展開だけれど、似たような目標になっちまったなぁ。
でもなんとかなったんだから、この世界でもなんとかなるはずだ。
俺は前向きに焦らず行く事にした。

さて結局異世界に来ると、元の世界の知識を利用した何かをする事になる。
これは仕方のない事だろう。
特に料理に関しては、日本はかなり優秀な国だったからなぁ。
『これは生姜焼きなんだお!もっと食べたいんだお!』
昨日大熊魔獣の肉を食っていたら、そこに猫蓮がやってきた。
仕方がないから一切れ食わせてやったら、まあ涙を流すほど感動しやがった訳で。
そりゃね、俺も日本が恋しくなる事もあるよ。
今どうなっているのかも気になる訳でさ。
残念ながら家族は全員続けざまに死ぬ事になった訳だけれど、両親や友達は今もおそらく生きている訳だからさ。
そんな訳でその後、その調理方法を研究した訳よ。
そしたら上手い具合に出来ちゃった訳で、それを売ろうという話になった訳で。
まあ肉は沢山ある訳で、売るのはやぶさかではない訳で。
訳訳訳訳どうしてこんなに訳が多い訳?
などと言葉で遊んでみた訳だが。
とにかく今日は皆で、大熊魔獣の生姜串焼きを売る事になった。
最初は当然全く売れない。
良い町だから超絶貧困層も少なくて、安くてもワザワザ不味い物を買う人は少ない。
しかも店が町のはずれだから人もあまり来ない。
それでも買う人がいない訳じゃなくて、一つ二つと売れると徐々に評判が町に広まっていった。
気が付くと用意した千本の串焼きは全て売れたのだった。
無価値に近い魔獣の肉だからと言って、一本六十円という価格設定も安すぎただろう。
これだけ頑張って売り上げはたったの六万円。
やってられないよね。
そんな訳で早々に打ち切りを決定した訳だが、そのレシピを売ってほしいという客がやってきた。
早速リビングで俺と狛里が話を聞いた。
「私は湖の村に住む『村人男A』という者です」
キター!モブキャラ!
こういう名前のキャラは、その後の活躍が期待できないキャラですよ。
何度も言うけどよく覚えておいてね。
ただしその後、正式に名前を与えられて活躍する場合もあったりするかも。
その時は準レギュラーキャラとして温かく迎え入れる心の準備もお願いします。
更に再登場の際、キャラも変わる可能性があります。
その辺りはスルーでお願いねw
「私は‥‥店の店長萬屋狛里‥‥」
「俺は第一従業員の此花策也だ。それでさっきの話だが、レシピを売ってほしいと?」
「はい。私の村は湖の村なんですが、主に水産物を売って生計を立てています」
湖の村はナマヤツハシの町を北西に三十キロほど行った所にある、割と大きな村だ。
ナマヤツハシ川を上って行くとナマヤツハシ湖という湖があり、そのほとりに村はある。
「でもそれだけでは生活は割と苦しいのです。その理由が魔獣です。森が近いせいか魔獣がやってくるので、農業や牧場ができません。漁業と魔獣討伐で一日は終わるのです」
ある意味湖の村が、ナマヤツハシの町に魔獣が来ないよう防波堤になっているってところか。
「水産物は多くが売られますから、村人の食べる肉類はほぼ魔獣肉になってしまう訳です。正直不味い物を食って生きていくのは辛いです。ゲロマズですから」
俺はまだ単純な調理で魔獣肉を食った事がないから分からないけれど、狛里の反応から激ヤバである事は理解できる。
「でも先ほど食べた串焼きはとても美味しかった。あれが毎日食べられるのなら、我々の食生活は一気に改善されるのです」
毎日ウンコを食って生活していたら、それが並みの食事になっても天国と思えるのだろうな。
俺は狛里の顔を見た。
「策也ちゃんは‥‥どうしたらいいと‥‥思う?」
逆に聞かれた。
「そうだな‥‥」
料理のレシピは、秘密にして商売すればかなり儲けられる大切なモノだ。
しかしこのレシピは、魔法によって作られるものを自分たちで作れるように解明していっただけ。
しかも俺や猫蓮といった異世界人の知識もあるから、その作業は割と楽だった。
別に俺が異世界人だなんて誰にも言ってないけどね。
肉を美味しく食べるには、柔らかくする事と臭みを取る事。
おそらくこの世界でもそういった事を考えている人はいるだろうし、いずれレシピなんてものは広がってゆくものだ。
特に俺はお金が欲しい訳でもないし、より多くの人が喜ぶ結果にしたい。
「狛里は必死にお金儲けをしているが、目標があるのか?」
狛里がお金を必要とするなら、レシピは売らずに商売するのが良いかもしれない。
仮に売るにしても高く売る必要がある。
「私は‥‥困っている人を助けたい‥‥だけ‥‥」
そうか。
ならばこのレシピは無条件に公開するのがいいだろうな。
仮に売ったとしても、村人全てで共有する事になる。
そしていずれは広まっていくものだ。
「じゃあ俺としては、困っている人全てを助けるのが良いと思う。レシピは全員に公開するってのでどうだ?」
「うん‥‥それが良いと思う‥‥」
意見は一致したな。
「という訳だ村人男Aさん。レシピはタダで教えるから、村人みんなで共有してくれ」
「おおっ!本当ですか!?ありがとうございます!」
そういう村人男Aの表情は、そんなに嬉しそうではなかった。
これはおそらく独占するつもりだったのだろう。
或いは買ったレシピを高く村人に売りつけるつもりだったな。
だとすると、今ここでレシピを伝えても問題があるかもしれない。
「じゃあ明日、俺が村に行くよ。そこで実際の串焼きを振る舞ってレシピをみんなに伝える事にする」
「そこまでしていただかなくても!」
「いや、この串焼きを美味そうに食べている所が見たいんだよ。料理人にとってそれが何よりの報酬なんだ。報酬を受け取りに行くんだから大した話でもない」
「分かりました‥‥。よろしくお願いします」
そこまで悔しそうな顔をするなよ。
お前は一応いい事をしたんだ。
村の事はどうやら本当らしいし、村人を助けた功績は少なからずあるんだぞ。
名誉よりも金なのかねぇ。
人それぞれ価値観は違うから、それを否定する事はできない。
でも俺は金よりも名誉を重んじられる人でありたいと思うよ。
そんな訳で次の日、俺は改めて作った大熊魔獣の生姜串焼きを湖の村で振る舞いレシピを伝えた。
みんな大喜びしてくれていた。
村人男Aもそれなりに皆に感謝され、悪い気持ではなさそうに見えた。
金も良いけど、人々の感謝も悪くないだろ?
それを味わわせてやる事ができたのは良かったと思えた。

さてその日の夜、閉店後のリビング会合タイム。
狛里から新たな任務の話を聞かされた。
「今晩これから‥‥新しい任務だよ‥‥場所は前回よりも‥‥更に西の森‥‥」
この辺りの地図を説明するのは難しいが、おおよそナマヤツハシの町の真西の森が今回の仕事場となる。
先日の森とは繋がっており、町からの距離は十数キロくらいか。
俺たちなら普通に走っても十分チョイの距離だ。
俺が全力で飛べば十秒で到着するだろう。
尤もそんな事をすれば誰も付いてこられないし、今は力を全て見せたくはないのでやらないけどね。
目立つと神の仕事がやりづらくなるだろうし、この世界の神に神だとバレる可能性は極力減らしておきたい。
他の世界から別の神が来るというのは、神にとっては暗殺者が来るようなもんだから。
「それで仕事内容はなんだお?出来れば美女を助ける仕事がやりたいんだお」
「夜中にそんな仕事はありえないです。むしろ汚れ仕事が予想されます」
おそらく今日の昼間に何かが起こったのだろうな。
そしてそれに対応するとするなら、また前回のような仕事が考えられる訳だが。
「昨日の朝‥‥何処かのアホ貴族が‥‥素材集めに‥‥森に入った‥‥。その時‥‥虎魔獣に食われた‥‥」
昨日食われたのかぁ‥‥って、それだと仕事無くね?
「この世界蘇生はできないんだお」
猫蓮の言う通り、この世界に蘇生の魔法はない。
そしてその方法すらない。
死んだら終わり。
それがこの世界だ。
「うん‥‥仕事は蘇生じゃない‥‥食べられたアホ貴族の‥‥身に着けていた装飾品が‥‥とっても高価‥‥」
おいおいそれって死体から回収しろとか、落ちてるのを探して拾ってこいとか、まさかそういうのか?
だったら探索の能力を取得しておくんだったな。
「それで‥‥そろそろ虎魔獣が‥‥ウンコしてるはず‥‥」
嫌な予感しかしない。
っていうか、クッソ嫌過ぎる任務じゃね?
「まさかとは思うけど、ウンコの中を探すんだお?」
「うん‥‥この馬鹿の言う通り‥‥」
狛里が親父ギャグを言う為に、猫蓮の事を『この馬鹿』呼ばわりするとは。
いや別に間違ってはいないけどさ。
「僕はお腹が痛くなってきました。今日の仕事はお休みさせていただくのです」
「オデもずっと店で働いて疲れてるんだお。スイマーが既に襲ってきてるんだお」
「ずっと座ってる‥‥だけだった‥‥むしろ寝てた‥‥」
客なんてほぼ来ない店なんだから、どうせ店で寝てるだけだよな。
それに‥‥。
「猫蓮は不老不死だし問題ないな。それと想香、俺は全ての状態異常を回復させる魔法が使える。直ぐに治してやるよ」
「‥‥」
俺だけが働くなんて嫌だぞ。
それに猫蓮には強くなってもらわなければならない。
今日これから向かう森は、先日の場所よりも更に強力な魔物が出る。
虎魔獣は百や二百まではいないらしいけれど、あの大熊魔獣よりも上位にランクされているのだ。
大熊魔獣よりも猫蓮の方が力は上に感じたが、おそらく虎魔獣とは同じくらいの強さになるだろう。
そういうのと戦ってより強くなってもらわないと困る。
今のままじゃ絶対神なんて倒せないのだ。
「そういう事で‥‥今からみんなで行く‥‥でもその前に‥‥今日これからの場所は危険だから‥‥みんなの力‥‥教えておいてほしい‥‥」
力を教えてほしいか。
「そういうのって各自事情もあるだろうから、話せなかったりするんじゃないのか?」
「オデは問題ないお!チート能力者だしなんでもできるお!」
ライトの魔法すら持ってなかったけどな。
「僕も話して問題ないのです。剣客ですから、そんなに魔法や能力は必要ありません」
「‥‥」
まあこいつらに話したところで問題ないか。
猫蓮もなんだかんだ誰かに話すような奴じゃなさそうだし。
俺を見る狛里に対して、俺は黙って頷いた。
「じゃあ私から‥‥話すね‥‥魔法は‥‥召喚と‥‥集合のベルを告げる魔法だけ‥‥能力は‥‥斬る武器でよく斬れる‥‥今はこれがあるから‥‥何でも斬れると思う‥‥」
狛里はそう言って、リビングバンテージを剣のような形にして見せた。
なるほど何でも斬れるか。
どちらかというと狛里の戦闘スタイルは武道家だが、斬るという一点において特に優れている能力者。
しかし能力も魔法も少なすぎるな。
これだけの魔力を持ちながら、あまりに惜しいぞ。
尤も話した事が全てかどうかなんて分からないけれど、俺はなんとなく嘘が分かるのだ。
隠しているという様子もない。
だいたいこの子はそんな器用な子ではないと思う。
まだ会って一週間も経ってないけどさ。
この子は信用できると俺は判断していた。
「それじゃ次はオデが話すお。聞いて驚くんだお。魔法は‥‥」
「よく分かった‥‥」
「結構やりますね。でも力は僕の方が勝ってるのです」
「‥‥」
まだ話していないのに、もうみんな理解しているのか。
凄い能力じゃないか!
なんてツッコミはやめておいてくれ。
猫蓮の自慢は此処までみんな結構聞いていた。
だから既にだいたいは分かっていたのだ。
簡単に説明すると、異世界転生者が欲しがる能力が一通り揃っている感じかな。
攻撃魔法は精霊魔術で全属性をカバー。
チート魔法使いそのままだと思ってくれればいいだろう。
ただし持てる魔法の数が制限されている世界だから、正直六個も攻撃魔法が必要なのかと問いたい所だ。
「では次は僕ですね。僕は兎束流剣術が使えます。全耐性とマジックプロテクションが能力です。魔法は絶対魔法防御と全回復魔法、マジックミサイルも使えます」
「ほう」
「凄い凄い‥‥」
「オデの方が凄いお。でも流儀と認められる剣技はレベル以上の強さを発揮できるので強いお」
記憶喪失なのにその辺りは大丈夫なんだな。
完全に能力扱いって所か、或いは体が覚えているって感じか。
「じゃあ最後は俺か」
正直俺が実際に使える魔法は十どころではない。
妖精霧島の持つ魔法はもちろん使えるし、少女隊プラスと合体すれば更に数は増えるのだ。
さてどう説明しようかね。
「説明に時間はかかるが、とりあえず全部話すぞ」
俺はそう前置きしてから、なるべく強く感じないように話していった。
例えば『適当ロイガーツアール』は邪神最強の物理攻撃魔法とレッドブルーライトニングの合わせ魔法であるが、カマイタチで斬る雷属性魔法とだけ伝えたりね。
「おかしいんだお!どうしてチートのオデよりも色々とできるんだお?」
「凄すぎる‥‥」
「大した事はないのです。これを器用貧乏というのですよ」
効果を安っぽく言った所で、まあこれだけできれば十分チートだよな。
俺自身が使える攻撃魔法は三つだけだが、妖精霧島の魔法にも攻撃魔法は二つ以上存在する。
二つ以上というのは、攻撃限定が二つであり、攻撃に転用できるものが他にもあるって事ね。
「失敗したお‥‥。オデも透明化魔法を取得しておくんだったお」
猫蓮、聞こえているぞ。
確かに透明化できれば覗きも可能かもしれないけれど、お前の気持ち悪い気配は隠せないから無駄だ。
使えなくて良かったな。
「そうすると‥‥想香以外は大丈夫だね‥‥」
死なないという意味かな。
想香のレベルでマジックプロテクションが働いているなら、この辺りで死ぬ事はまずないだろう。
絶対魔法防御も回復魔法もあるなら、正直一番死ぬ可能性が高いのは狛里かもしれない。
俺は少女隊プラスにテレパシーを送った。
『おまえら、想香や狛里の命に危険があると感じたら助けてやってくれよ』
『仕方がないのです。助けてあげるのです』
『策也タマのお願いを一つ聞くごとに、妃子たちの運気が一つ上昇するのね』
『なんだその設定は?』
そんな話は聞いた事が無いぞ?
『信じる者は救われるのね』
『菜乃たちは信じれば何でもそうなるキャラなのです』
確かにそんな所があるな。
こいつらが信じて失敗したのを見た事がない。
少し怖くなってきたので、これからは安易なお願いは避ける事にしよう。
「じゃあ‥‥出発する‥‥策也ちゃんは‥‥想香ちゃんがピンチの時は‥‥助けてあげて‥‥」
自分よりも想香か。
まあ言われなくても両方守るつもりだけどな。
「了解」
「オデも守るんだお」
「結構です。なるべく近くに寄らないでください」
猫蓮がこの世の終わりのような顔をしていた。
女性って本当に男性に厳しいよな。
好みじゃない男は徹底的に避けるんだよ。
だけど頑張れ猫蓮!
中身さえ入れ替えたらお前はイケメンなんだからさ。
そんな訳で俺たちは、西の森を目指して出発するのだった。
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