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冒険の旅に出発!旅の目的は?

江戸時代、お伊勢参りが流行った。
江戸から伊勢神宮まで歩いて数ヶ月の長旅だ。
当然長旅にはお金がかかる。
それでも伊勢を目指す人は大勢いた。
どうしてお金もかかるのに、神宮を目指す人が大勢いたのだろうか。
その理由の一つに、皆が助けてくれた事が挙げられるだろう。
目印である柄杓を持って行けば、それにお金を入れてくれる人が大勢いたのだ。
つまり、柄杓一本あればできる旅だった。
色々な人が助けてくれるので、『お蔭参り』なんて云われたりもしたね。
それはヒッチハイクの旅とか、バイク充電の旅に似ているかも。

俺たちはナマヤツハシの町を出て、北へ向かって歩いていた。
いつか走って通り過ぎた道だけれど、こうしてゆっくり進めば景色もまた違って見える。
この辺りは長閑で、本当にいい所だ。
「ところで天冉、この旅の目的ってのはあるのか?」
俺はいくつか目的を持っている。
ひとつは狛里たち仲間を、不老不死にする事。
そして猫蓮を俺以上に強くする事だ。
少なくとも俺以上に強くないと、この世界の神を倒す事なんて不可能だからね。
後はそうだな、楽しむ事も目的と言っていいだろう。
やっぱり異世界に来たらそれを外しちゃダメだよな。
「旅の目的?それわぁ~‥‥そこに行けばどんな願いでも叶うと言われている『伊勢神宮』って所に行く事かしらぁ?」
いや俺に聞かれても。
つか伊勢神宮って、この世界にもあるのかよ。
そしてやっぱりこの世界にも『どんな夢も叶えてくれる場所』ってのがあるのか。
世界が変わっても、そういう所は用意されているものなんだな。
「伊勢神宮とかオデのいた世界みたいだお。そこにはオデの住んでいた国の最高神がいるんだお」
そうそう、そう言われているよな。
でも俺、転生する時にアマテラスちゃんとは会ってたりするんだ。
実際はよく分からない所にいるみたいだぞ。
そう言えば妖凛の苗字は天照だったりするわけで、伊勢神宮がこの世界にあるならとりあえず妖凛を連れて行きたくもなる。
「それで天冉は、伊勢神宮に行ってどんな願いを叶えてもらいたいんだ?」
本当にどんな願いでも叶うなら、みんなを不老不死にしてもらいたい所だ。
だけどそんなに簡単じゃないだろうし、簡単に願いを聞いてくれるのなら、きっと行くのがとても難しい場所なのだろう。
「私の願いは内緒だよぉ~。それにそれはあくまで口実みたいなものなのぉ。そこを目指しつつ、旅が楽しめたらなぁ~って。それだけだよぉ~」
なるほど。
やっぱり旅ってのは楽しまないとな。
でもさ、こんな何にも無い世界で旅をすると、当然こういった問題も出て来る訳で。
「ところで皆さんは、お腹が減ったりはしませんか?」
「出発したばかり‥‥まだ減らない‥‥」
「流石にさっき朝食を食べたばかりなんだお」
そういえば想香は、旅の前に食べられるだけ食べるぞって、朝食山盛り食ってたよな。
そんな想香がそんな事を言うのは、思いっきり違和感しかない。
「僕もお腹は減ってないのですが、食べたら普通生理現象がありますよね?」
「なんだトイレか」
そりゃあれだけ食べれば行きたくもなるわ。
「ハッキリ言わないでほしいです!」
想香は少し顔を赤らめ、ポカポカと俺を叩いてきた。
こいつも女の子だったな。
少女隊を相手にするような感覚だとやっぱマズいか。
ここはさりげなくトイレを異次元収納から出すのがいいだろう。
俺は何も言わず、ただ異次元収納から簡易トイレを取り出しその場に置いた。
まあアレだ。
イベント会場や工事現場に置かれるような、そんな屋外用簡易トイレを想像してもらえればいい。
「もしかしてコレはトイレですか?」
「そうだぞ?いや礼には及ばない。みんな大変なのは分かっているから作ってきてやったんだよ」
冒険もののアニメとか見ていても、トイレってあまり出てこないんだよな。
旅の心配っていったらまずはトイレだろうに。
「できれば此処ではなく、闇の家に連れて行ってはもらえませんか?壁が有ってもその周りが外だと落ち着きません!」
女心は難しいな。
でもイベント会場なんかだと、女性もみんなこのトイレを利用していたと思う。
一つだけってのがもしかしたら駄目だったのかもしれない。
「分かったよ。他に行きたい奴がいたら、今のうちに済ませておけよ」
俺は深淵の闇を開いた。
なんだかんだ全員が入って行った。
トイレは出来る時にしておくのが旅のセオリーかな。
俺も入らないとみんなが戻ってこられない訳で後に続いた。

闇の家は最初に作ったあと増築に増築を重ねて、かなり大きく丈夫な建物へと変貌を遂げていた。
一階中央の出入り口スペースの周りにには、リビングや食堂などがある。
その周りに個室が沢山あり、その外にトイレや洗面所、或いは風呂も設置している。
各部屋にもトイレや風呂はあるけれど、大きな風呂やすぐに使えるトイレもあると便利だよね。
中心から十メートルの所には四つ出口設置用スペースがある。
そこには螺旋階段があって、二階に上がれるようになっていた。
二階には、アイテム倉庫や工房などがある。
現在増築して二階建てになっているが、必要に応じて更に増築する予定だ。
ちなみにこれは俺の深淵の闇の中にある訳だが、少女隊や妖凛の方にも建物は作っておいた。
『間違って入ったら死んだ』なんて事になっても怖いからね。
少女隊の方は魔法実験場になる大きく丈夫な建物にし、妖凛の方には落とした者を闇に漂流させる仕掛けが施してあった。
仕掛けは妖凛のコントロール下にあり、不老不死な敵を闇の世界に島流しにできるようになっている。
深淵の闇の中を遠くまで飛ばせば、もう二度と深淵の闇から戻る事はできなくなるだろう。
「スッキリしました。これで晴れやかな気分で旅が楽しめます」
「策也殿がうらやましいんだお。自動排泄はオデも欲しかったんだお」
「生きた宝石を作る方法が分かればなぁ。皆にも効果を付与できるんだけどさ」
魔石が無い世界って本当に不便だよ。
魔法に関してはだいぶ分かってきたんだけどさ。
アルカディアでチートをやっていた頃が、懐かしく感じてきたぜ。
俺たちは元の世界に戻ると、マッタリゆっくりの旅に改めて歩き出すのだった。

ナマヤツハシの町を出て三時間ほどで中央村へと到着した。
この村は前に依頼で来た事があった。
畑を元気にする為にね。
まだアレから半月程度しか経っていないが、既に畑には畑らしく緑が見えていた。
村は町とは違って、防壁で周りが囲まれていたりはしない。
一応柵はあるけれど、魔物が来れば簡単に侵入されるだろう。
ただその代わり、町よりも魔力の高そうな人がちらほら感じられた。
「村人は町人と違って‥‥子供の頃から‥‥戦闘訓練を‥‥受けている‥‥」
「それで町の人たちよりも魔力が高いんだお」
「でも、正直この程度じゃ心配じゃないか?いくら平和な地域とは言え、全く魔物が出ないって訳でもないんだろ?」
新巻鮭王国の町や村は、領土の中心の平地にある。
その中でこの中央村は、真ん中辺りの安全な場所にある村だ。
それでも平地の周りには森があり、極少数ではあるけれど魔物が入ってくる事もある。
「うん‥‥前に来た時にも思ったんだけど‥‥魔力の強い人が‥‥沢山減ってる‥‥気がする‥‥」
「そうなのか」
だよな。
この程度の強さじゃ、一匹強いのが紛れ込んで来たら対応ができないだろう。
俺たちがそんな会話をしていると、村の女性が話に入ってきた。
「おっしゃる通りです。村を守る役割の男性の多くが、現在村にはいないのです」
俺たちは一斉に、右側からやってきたその女性に視線を送った。
あまりに息が合っているその動きに、俺は少し噴き出しそうになった。
いや、傍から見ると結構面白いんだよ、こういうのって。
「どちらかに出かけているのぉ~?」
何かあったのだろうか。
それはきっと誰もが思う事だろう。
この女性はそういう言い方をしていたのだから。
その中でこういう風に聞ける天冉は、やはり天然と言わざるを得ない。
「そうですね。出かけていると言えばそうなのですが、帰ってはこないし連絡も無くなっているのです」
女性は心配しているといった感じだった。
前に来た時は村の入り口までだったから、今日ほどは何も感じなかったんだよね。
でも狛里曰く、あの時から強い男たちはいなかったんだよな。
だから俺たちに畑仕事の依頼が回ってきた。
「連絡が無いって事は、どういう事なんだお?」
「いやその前に、どうして男たちは出ていったんだ?」
話の流れと女性の表情から、何かしらの用事で出て行ったのは分かる。
そして予定通りには帰ってこなかったって事だろう。
だったら何かトラブルにあったか、或いは死んでいる可能性もある。
俺はお前たちみたいにストレートには聞けないよ。
「村の男性たちは、今から三ヶ月ほど前でしょうか。盗賊狩りに行くと言って出て行ったんです」
盗賊狩りか。
だとすると盗賊に返り討ちにあったって所か。
「盗賊狩り‥‥新巻鮭領内には‥‥盗賊はいない‥‥」
「そうなのか?」
「いませんよぉ~。ここで盗賊なんてやっていたら、狛里ちゃんにボコられちゃいますからぁ~」
確かに狛里がいるこの国で盗賊なんて自殺行為かもしれない。
「いやでも盗賊紛いの奴らは前に見たそ?」
魔法書を奪って婆さんを拉致していた奴ら。
盗賊というには少し違ったけれど、ただのチンピラにしては色々な奴が集まっていた。
見た目年齢もマチマチだったしな。
「ただの盗人‥‥程度は‥‥見逃してる‥‥治安部隊の‥‥管轄‥‥」
つまりあいつらは、ちょっとヤンチャが過ぎたヤンキーみたいな感じだったのかな。
おっさんから若者まで揃っていたけどな。
「じゃあもしかして、その盗人にやられたんだお?」
猫蓮よ、ハッキリ言ったら村人女性がショックを受けるだろうが。
しかしあのチンピラ程度に普通に負けるだろうか。
そこそこ強かったけれど、この村にはそれと同じくらいの魔力を持った者が他にもいる。
出て行った者がこの村の精鋭だとしたら、負ける相手じゃない。
「やっぱりそうでしょうか。盗賊には敵わないんじゃないかとは思っていたのですが、ただのチンピラ程度なら簡単には殺られないと思うのですが‥‥」
でも帰っては来なかった。
あいつらに殺られてしまった可能性は高いな。
「だけどどうして盗賊狩りなんかに行ったのでしょうか?村を守る男たちがいなくなるのも問題がありますよね?僕はそこが気になります!」
『気になります!』キター!
つかこの世界では想香が『気になります』キャラの担当なのか?!
「確かに村人が盗賊狩りに行くなんて変よねぇ~」
「盗賊が実際にいたとしても、そういう仕事はギルドに依頼するものなんだお」
確かにみんなの言う通りだ。
だったら何故、村人たちは盗賊狩りに出かけたんだ?
「実は、名のある魔法使いだと思うのですが『|姜好《きょこう》』と名乗る方に仕事を依頼されたようなのです」
それを聞いた狛里が、絵にかいたような驚きの表情に変わった。
「狛里?知ってる人なのか?」
「うん‥‥私に召喚魔法を‥‥教えてくれた人‥‥」
以前に狛里が話してくれた。
確かその召喚士は、四ヶ月近く前にフラフラとナマヤツハシの町にやってきた冒険者だったな。
|経緯《いきさつ》は分からないけれど、町で出会った狛里に召喚魔法を教えた。
一度召喚するごとに寿命が十年も縮む魔法をだ。
結局狛里はそれから修行をして、俺の召喚によって初めて召喚に成功した。
狛里は感謝しているようだし、俺もそれが無ければこの世界には来られなかった。
だけどそんな魔法を教えたら、その時の狛里なら必ず使うだろう。
実際三回も使っているのだからな。
だから正直感情的には、俺はあまりその召喚士とやらに良いイメージはない。
その姜好が盗賊の討伐を依頼した。
漠然と何か嫌な予感がする。
いや、これから何かが起こるというよりは、おそらく盗賊討伐に出た村の男性は皆死んでいるという確信か。
「男性の方々から連絡がこなくなったのは何時頃なんですかぁ~?」
「今月の前半はまだ連絡があったかと思います。姜好さんが結構な額の報酬を届けてくださいましたから。ナマヤツハシの町にいると言っていました」
ナマヤツハシの町?
盗賊退治なのに何故?
「姜好が来た正確な日にちは分かるか?」
「確か、五日か六日だったかと思います」
あのチンピラどもを俺がぶっ飛ばしたのが九日だったか。
だとすると、あいつらを自分たちが倒した事にして報酬を得た訳じゃない。
だったら、まさか‥‥。
あのチンピラと思われる者たちが、この村の男性たちだったのではないだろうか?
姜好が依頼したのは盗賊退治などではなく、むしろ逆の闇バイト的な事だったら。
報酬が良かったというのなら、その可能性は十分にある。
そう言えばあのチンピラたちは年齢もバラバラだったし、悪い事をするには装備なんかが揃っておらず一般庶民的だった。
もしそうなら、この村の男性たちを死に追いやったのは俺か。
「確信はないけれど、もしかしたらこの村の男性は姜好に騙されて、盗賊紛いの事をさせられていた可能性がある」
「姜好は‥‥良い人だった‥‥そんな事‥‥しないと思う‥‥」
狛里は召喚魔法を教えてもらって感謝しているのだろうな。
でもそれが、召喚によって狛里の命を奪うのが目的だったとしたら。
「あくまで可能性だ。それで村の男性たちの特徴、人数なんかを教えてはくれないか?」
「はい」
村の女性は分かる範囲で教えてくれた。
その話を聞いていくうちに、俺の考えは確信に変わっていった。
間違いなくあのチンピラがそうだったのだろう。
姜好が悪いかどうかはともかく、結果村の男性たちはチンピラに成り下がった。
普通に考えれば、村を出る時から既に分かってついて行ったように思うな。
盗賊退治なんて村人がやれるものではないだろう。
「これはあくまで可能性の話として聞いてくれ。俺は今説明された男たちに見覚えがある。そしておそらくその者たちは既にこの世にはいない‥‥」
「やはりそうなんですね‥‥」
「姜好が指示したのかは分からないけれど、その男たちは盗賊紛いの事をしていたんだ。だから俺が倒した」
「策也ちゃんが‥‥殺したの?‥‥」
「いや、俺は皆気絶させただけだ。後の事は分からないが、詳しくは領主の片腕のメイド婆さんに聞けば分かるだろう」
ほぼ確実に婆さんが殺してるんだけどな。
ただ婆さんは、治安を守る為に悪い奴を排除しただけ。
あくまで職務に忠実だったのだ。
責める事はできないな。
一歩間違っていたら、死んでいたのは婆さんの方だったかもしれないのだから。
この件に関して、後は姜好に聞くしかないだろう。
おそらく死体ももうないだろうし、遺留品にしても遺品にしても全て婆さんが処分しているだろうからな。
こうして俺たちの旅の目的に、姜好を探すというのが追加された。
手がかりは狛里曰く『生姜が好きな美人女性』という事だけか。
それで狛里の所には生姜が置いてあったのね。
それにしても嫌な話だな。
人の人生ってさ、どんな人と出会うかでほとんど決まると言っていい。
もしも村に姜好が行かなかったら、最悪の事態にはなっていなかっただろう。
悪い事をする時ってさ、大抵友達の影響だったりするんだよな。
この日俺たちは、中央村を出た所で冒険を終了したのだった。
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