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必要なものは?魔法書を手に入れろ!

新しい物を手に入れると、人はそれを試してみたくなる。
新しい服を買えばすぐに着て行き、スマホの機種を変更したら普段やらない事をやり始める。
当然新しい魔法を覚えれば、使ってみたくなるのが人というもの。
店を閉めた後のリビング会合で狛里が突然言った。
「今から‥‥南の山に‥‥魔物狩りに‥‥行くよ‥‥」
「それはクエストなんだお?」
「違う‥‥特訓‥‥」
「特訓ですか?想香はもうこれ以上強くならないくらいに強いです」
正直このメンツに入れば、想香も猫蓮もゴミなんだよな。
ほら見ろ、狛里が凄く微妙な顔をしているじゃないか?
『えっ?何言ってるのこいつ?頭にカブトムシの幼虫が湧いてるんじゃない?』みたいな顔だぞ?
「わ、分かりました。まだ少しくらいなら強くなる余地も残されている気がします」
「じゃあ行くか。今日も妖凛UFO頼むぞ!」
(コクコク)
こうして俺たちは、俺が大熊魔獣を狩ったあの辺りの山に行く事となった。

辺りは真っ暗なはずだけれど、妖凛UFOのおかげで草野球ナイターくらいの明るさは確保できている。
簡単に言うと十分な明るさだ。
見えなかったという言い訳は通用しないって所か
いきなり現れた大熊魔獣が、猫蓮にかぶりついた。
何やってんだよ全く。
俺は妖糸で猫蓮もろとも切り刻んだ。
「油断するなよ。いくら死なないとは言え醜いからな」
猫蓮はすぐに元の状態へと戻っていった。
「痛いのを心配してほしいんだお!ちょっと見えなかっただけだお!」
「見えなかったなら‥‥仕方がない‥‥」
「そうですね。暗いから仕方がないのです」
その言い訳通用しちゃうのかよ!
こいつらグルになって、俺の心を読んでるんじゃないだろうな。
何にしても大熊魔獣は、特訓には手頃な相手だ。
俺はなるべく手出しせずに三人を見守った。
「ロイガーツアール‥‥ロイガーツアール‥‥ロイガーツアール‥‥」
狛里、もしかしてこの魔法の試し打ちがしたかっただけじゃね?
特訓とか言ってたけど、これじゃ特訓にもならないだろ。
「凄い魔法なんだお。流石は狛里様なんだお。こんな魔法を持ってたんだお」
こいつ、先日の能力発表をもう忘れているのかな。
こんな魔法その時には言って無かっただろ。
「そんな魔法、先日まで使えませんでしたよね?狛里店長、そのカチューシャによる魔法なのですか?」
ほう、流石は想香。
猫蓮ほど馬鹿ではなさそうだな。
「違う‥‥元々の実力‥‥」
狛里が堂々と嘘をつきました。
「隠していたのですね。ちょっと悔しいです」
信じるんかーい!
今更思うんだけど、天然三馬鹿が集まってるんじゃないか。
でもだからこそ俺がしっかりしてやらんとすぐに死人が出るぞ。
「想香!お前は死んだら生き返る事ができない。間違って狛里の魔法に巻き込まれたら死ぬぞ。常に絶対魔法防御は張っておいた方がいいんじゃないか?」
「えっ?そう言われればなんとなく恐ろしい気がします。忠告感謝します」
全く、幼児に拳銃を持たせたような怖さがあるよな。
MMORPGだとパーティーメンバーの攻撃魔法には当たらない設定とかあるけれど、現実ではそんな事はあり得ない。
常に味方を巻き込まないよう気を付ける必要があるんだ。
それを狛里には分かってもらわないとな。
狛里の顔を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「狛里!このメンバーなら大丈夫だ!想香さえしっかり絶対魔法防御を張っていれば問題ない。それだけ確認すれば好きに戦えるぞ!」
本当にマジで子供を相手にしているようだ。
でも狛里は子供では無くてちゃんと反省もしている。
後で頭をポンポンしておけば大丈夫だろう。
それにしてもみんな、思った以上に弱いと感じていたがそうでもないか。
強くなっているのもいるしな。
狛里は今回覚えた魔法を使って遊んでいるけれど、動きも全て今までとは雲泥の差だ。
あのカチューシャによって、力が解放されたようなそんな気がする。
俺が本気で戦っても、結構耐えられるだけの耐久力もありそうだ。
想香は絶対魔法防御とマジックプロテクションで、強力な物理攻撃以外には対処が可能だろう。
しかも兎束流剣術はレベル以上の強さを発揮できている。
それもかなりのものだ。
本気で思う存分戦えたら、虎魔獣の群れの中でも十分勝てたのではないだろうか。
猫蓮はなんだかんだ不老不死だし、鈍いせいか痛みにも結構耐えて頑張っている。
『痛みに耐えてよく頑張った!感動した!』と、小泉君もむせび泣いているだろう。
魔法はどれもマスタークラスレベルだから、こいつも一人なら虎魔獣の群れが相手でも勝てたはずだ。
つまりこいつらみんな団体戦が苦手なんじゃないだろうか。
守らなければならないとか、変な事を考えて信頼し合えていない。
「みんな!今の状態なら誰も死ぬ事はあり得ない。誰かをかばうとかそういう気持ちを抜きにして、思いっきり戦ってみろ!」
俺の言葉に、みんな目の色が変わった。
「好きに戦う‥‥」
「オデの魔法で死んでも知らないんだお?」
「ふふふふ。僕の全開放した力を拝むがいいのです。兎束流剣術を見せて上げます!」
みんなの力が更に上がった。
大熊魔獣の群れに飛び込んで行っても、全く殺られる気配はない。
傷一つ負う事もない。
想香には既に妖糸で編んだ巫女服をプレゼントしてある。
大熊魔獣程度の攻撃なら傷付きもしないだろう。
その出番もないくらいだ。
猫蓮だけは狛里のロイガーツアールに当たりに行っている感もあるが、上手い具合に敵も巻き込んでいる。
こいつらの力をフルに発揮させるには、ソロで戦わせるか、或いは不老不死を手に入れるか。
不老不死の能力が魔法術式によるものなら、アイテムによって使用も可能なんだよな。
尤もそうではないし、アイテムが体から離れれば意味がないからあまり使えない。
例えば不老不死の指輪をしていたとしても、その腕が切り落とされた時点で不老不死ではなくなる。
ベルトだとしても、猫蓮のようにミンチにされたら終わりだ。
ただ他の魔法や能力なら、アイテムで使えるかも知れない。
ハードルは必要な宝石が手に入れづらい事と、術者がその魔法を使いこなせるかどうか。
狛里なら大抵の魔法や能力を使いこなせるだろうが、そのマジックアイテムを作れるだけの宝石は手に入れづらい。
魔石の無い世界ってちょっと難易度がハードだよなぁ。
リビングバンテージを作ったダイヤモンドが、とても貴重であった事に今頃気が付いた。
あのダイヤモンドには、魔力と意思が込められていた。
魔石に魂が残っているような状態だった訳だ。
だから生きた魔道具を作る事ができた。
そういう宝石を作るにはどうしたらいいのか分からない。
異次元収納は高度な魔法ではあるけれど、魔力レベル的には最低レベルだ。
だから簡単に作れたけれど、魔力を必要とするものは相応の宝石が必要になる。
異次元収納ですら、収納スペースを大きくするには倍々ゲームで大きくて良い宝石が必要だ。
そして常態魔法や自動発動魔法をアイテムでやるには、当然生きた宝石が必要になる。
まとめると、不老不死にするにはやはり方法を見つけるしかない。
それ以外の強い魔法が使えるようにするにも、生きた宝石を作る方法を見つける必要がある。
或いはその魔法に耐えられるだけの、大きくて良い宝石が必要だ。
そしてその魔法を使いこなせるだけのレベルを、使用者が持っている必要もある。
宝石が壊れてもいいなら、一回使わせて覚えてもらうのもアリだ。
ただ狛里や想香が一回で覚えられるとは思えないし、何度も行う必要はあるだろう。
できれば魔法書やスクロールが有ればいいのだが、その辺り調べてみないとな。
そんな訳で俺は、この特訓の次の日、町で魔法書やスクロールに関して調べる事にした。

俺は午前中から町をウロウロとしていた。
狛里に聞いた所、この世界にスクロールというものはおそらく存在しないという事だった。
魔法書はあるけれど、そこには大きな宝石が埋まっており、お城が建つくらいの値段で売られているらしい。
あのお城云々の話はマジだったんだな。
とても貴重な物であり、この町中探しても見つからないだろうと言っていた。
それでも初心者魔法程度しか載っていない魔法書なら、もしかしたらあるかもしれないと言うので俺は探している訳だ。
武器屋や魔道具屋などを見て回ったが、結局魔法書は見つからなかった。
実物が見られれば、作り方も分かるかもしれないと思ったんだけどな。
ならばそれで特訓させるという手が使える。
ちなみに能力は、持って生まれた資質や素質が影響する。
得ようと思って中々得られるものではない。
そして不老不死はおそらく魔法ではなく能力でしか得る事ができない。
なかなか大変な目標を立ててしまったものだ。
おやつの時間も過ぎ、今日はソロソロ諦めようかと思った時だった。
後ろから婆さんが声をかけてきた。
「これお主、魔法書を探しておると聞いたのじゃが?」
とりあえず見た事がない婆さんだった。
「そうだけど?」
「此処に一冊魔法書があるんじゃが」
婆さんの手には、それらしい本が握られていた。
魔力は全く感じない。
ただ本の背に小さな宝石が埋まっているのが見えた。
それらしくはある。
でも本物とは思えないちゃちな作りだ。
「ほう。本物なら是非譲ってもらいたい所だが‥‥」
「本物じゃよ。ただし最低レベルの魔法書ではあるがの」
最低レベルであろうと、魔法書として機能するなら研究素材にはなるんだよな。
「どうしたら譲ってもらえる?」
「そうじゃのぉ。一億円でどうじゃ?」
こりゃまた吹っ掛けてきたな。
狛里の話だと、最低でも一千万円はくだらないと言っていた。
その十倍の価格だ。
でも俺としては本物なら欲しい。
確認する為と言って試させてもらう事ができれば、その時解析してしまえるかもな。
俺は少女隊にテレパシー通信を送った。
『菜乃、妃子。お前ら金だけ集めてただろ?一億はあるか?』
『あるのね』
『でも菜乃たちのものなのです』
あるか。
ならば‥‥。
『ちゃんと返すから、貸してもらうぞ』
『金利は十パーセントなのです』
『それも一週間ごとなのね』
酷すぎるぞこいつら。
まあでも今まで集めた武器防具やただの装飾品は売ってしまってもいいだろう。
最悪ドラゴンの巣をあさるか盗賊のアジトを襲撃して集めてくるとしよう。
「それが本物と確認できれば買ってもいい。一度は試させて貰えるよな?」
「分かったのじゃ。でもこちらも持ち逃げされたりしてはたまらんのでな。ちゃんと金を用意してから、町の北にある屋敷の廃屋まで来てもらえるかの?」
既に何人かに監視されているな。
つまりこの魔法書は本物である可能性が高い。
「分かった。一時間後には行く」
「待っておるぞ」
婆さんはそう言って去って行った。
動きが気持ち悪いくらいに速かった。
結構な使い手だな、ありゃ。
こんな婆さんがこの町にいたのか。
とは言っても猫蓮にも劣るけどさ。
俺は直ぐに町の外へ出て、少女隊から金を受け取った。
この世界のお金は全て硬貨だ。
一円から百万円硬貨まであって、不便だけれどそんなに不便はない。
持てば本物と分かる辺りはアルカディアと同じ仕様だ。
ただお金を入れておける住民カードは存在しないので、全部手で持つ必要がある。
百万円硬貨百枚は割とずっしりとくる量だった。
俺はそれを持って、指定された場所へと赴いた。
中はチンピラのたまり場と言った感じだった。
盗賊ではなさそうだけれど、ヤクザか暴走族か半グレか。
若い奴から結構年配の男までいる。
いずれにしてもまともな取引ができるのかは微妙な相手だな。
「なんだてめぇは?」
雑魚っぽい男が話しかけてきた。
「婆さんに魔法書を売ってもらおうと思ってな。ここに来るように言われたんだが?」
「婆さんだとぉ?誰だよそれ?」
そう言って男はニヤニヤと笑った。
もしかして婆さんにはめられた?
婆さんはカモになりそうな奴を此処へ連れてくる役割とか。
全く面倒だなぁ。
「その袋は金か?それを置いて行くなら命は助けてやるよ」
いきなり何言ってるんだこいつ。
やはり知っているんだ。
こいつらダメな奴だな。
死刑確定か。
でも異世界の神はあまり人を殺しては駄目だったっけ?
派手に人を殺すとその世界の神にバレる恐れもある。
「婆さん!いるだろ!出てこいよ!取引するんだろー!?」
俺は少し大きな声で、柱の裏のゴミゴミした所へ向けて声をかけてみた。
「何言ってるんだよ?!死にたくなけばさっさと金を置いて行きやがれ!」
はい脅迫罪。
「お前らには悪事に対する罰を与えないとな」
俺はそう言ってから、金を自分の影へと落とした。
そして辺りにいる連中に攻撃を開始する。
こんな奴らでは俺の敵じゃないんだよな。
死なないように手加減するのも難しい。
「なんだこいつ!?」
「動きが見えない!」
「強すぎる‥‥」
「こりゃマスタークラス‥‥だ‥‥」
はい終わりっと。
全員気絶程度に抑えられたと思うが、どうだろうな。
さて後は陰に隠れている婆さんだ。
俺は柱の裏手のゴミゴミした所に入っていった。
そこには縛られて身動きできない婆さんがいた。
掴まっていたのか。
「大丈夫か婆さん?」
俺はそう言って、喋れないように拘束している魔法を解いた。
「あんた何者なんじゃ?」
「俺?俺は萬屋ぼったくりで働く一従業員だが?」
「ああ‥‥なるほどのぉ‥‥。それでこんなに強いのか‥‥」
婆さんは倒れている奴らを見てそう言った。
萬屋ぼったくり、割と有名なんだな。
どう見ても町でマスタークラス以上は俺たちだけみたいだし。
婆さんは倒れている男の方へと歩いて行った。
そしてこいつらのボスらしき男へ近づくと、懐から魔法書を取り出した。
そいつが持っていたのか。
危うくぶっ壊してしまう所だったじゃないか。
「ほれ、持って行け。これはやる」
婆さんの投げた魔法書を俺は受け取った。
「えっ?マジで?金は用意してきたぞ?」
「ええんじゃ。このよぼよぼの婆さんが、金なんて今更もろうても仕方ないじゃろ。その代わり、さっさと帰ってはくれんかの」
魔法書を持ってさっさと帰れ?
どういう事だろうか。
『策也タマ。このババアは此処に倒れてる奴らを皆殺しにするつもりなのね』
『きっと策也タマに声をかけてきたのは、こうなる事を狙っていたのです』
なるほどな。
俺の強さを見抜いて、俺にこいつらを倒させる為にこうしたのか。
ならばさっさと去るか。
おそらくこいつらは盗賊みたいなものなのだろう。
少なくとも悪い奴らに間違いはない。
「じゃあな!」
俺は一言そう言ってから建物から出て行った。
この後婆さんは、奴らを殺して回ったと思われる。
建物を出た瞬間、血の匂いがしたから。
神としてはこれで良かったのだろうかと考えなくもない。
でもきっと、これでこの先救われる人は大勢いるのだろうな。
もう過ぎた事だ。
これ以上考えても仕方がない。
俺は気持ちを切り替え、人気のない所で魔法書を試すのだった。
その時見た少女隊は、何故かホクホク顔だった。
問い詰めたら直ぐに白状した。
ちゃっかりあいつらが集めた金目の物を、全部いただいてきたそうです。
ヤレヤレ。
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