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重税の町の生贄とフェンリル

人は踏襲する。
だから歴史は繰り返される。
きっと世界が変わろうとも変わらない。
それは人の性なのか。
結局人とは、そうそう変わるものではないって事なのだろうな。

この日の昼過ぎ、俺たちは鬼海星領内にあるワカメの町へと到着した。
森に近い町なので、ここも割と防壁が高かった。
それでも今度は、大多数の住民が人間の町だと聞いている。
つまりウミウシ砦の町とは違って普通の町なのだろう。
ただし一点、普通ではないと感じた所があった。
町の出入りを監視する防壁門の門番が、やたらと多かったのは印象的だった。
そんな門番と挨拶をかわしながら、俺たちは町へと入っていった。
「なんか‥‥元気ない‥‥」
狛里は一言そういった。
たった一言ではあるけれど、皆それが全てだと感じていた。
この雰囲気はどこかで感じた事がある。
アルカディアのとある町と同じだ。
なんとなく又かと思った。
店は通りに出てはいるが、町行く人が少なく活気はなかった。
昼過ぎであるからどこかで食事をしているのかもしれないけれど、食べ物の店に人はなかった。
価格は少し高い程度か。
やはり物が無い訳ではなさそうだ。
そんな通りを歩いていると、一ヶ所だけ人が集まる場所があった。
「あそこだけ人が集まっているみたいですね。きっと美味しい店があるのです」
「そうかも‥‥しれない‥‥美味しい店なら‥‥入ってみたい」
食いしん坊の想香と、美味い物が食べたい狛里は、その店の方へと走っていった。
その店からは多数の人の気配を感じる。
出ている看板を見ると、そこはどうやら冒険者ギルドのようだった。
この世界の冒険者ギルドにも、飯屋飲屋が併設されている事は多い。
ならばそこそこの物は食える可能性が高そうだ。
「冒険者ギルドなんだお。ここだけはにぎわっているんだお」
「それならここで食事と行きましょうかぁ~」
少し遅れて猫蓮と天冉も後に続いた。
俺はその後をついて行った。
先に狛里と想香が建物に入って行き、俺たちは少し遅れて入って行った。
思った通り中には多くの人が溢れていて、食事処は満席と言った感じだった。
そして席が空くのを待っているのか、冒険者ギルド側にも人が多かった。
いや、そちらにある座席やテーブルも利用して、食事をする人の姿も見受けられた。
「ここだけ大繁盛なのです。きっと美味しい店に違いありません」
「でも冒険者ギルドの食事処は、どこも同じようなメニューだって聞きますよぉ~」
「匂いは‥‥他の冒険者ギルドと‥‥同じ料理に‥‥思える‥‥」
狛里は匂いで料理が分かるのかよ。
俺は鼻は利くけれど、特に覚えている訳じゃないからなぁ。
しかし狛里が言うのだから間違いはないだろう。
となると、なんで他と変わらない此処だけがこんなにも繁盛しているのだろうか。
俺は何となく壁にあるメニュー表を見た。
「あれ?この店は他の町と同じくらいの価格だな」
「それはそうなのです。ギルドは何処も同じ価格になるようにしていますからね」
想香は記憶喪失なのに、こういう事は覚えているんだよな。
しかしそういう事なら、ここだけが繁盛している理由にはなるか。
他の店は何処も少し高い印象だったし、安い店に人が集まっている訳だ。
でもどうしてこういう価格差が生まれたのだろうか。
冒険者ギルドの権力だったり流通力という事も考えられるが、商人ギルドがそれに負けるとも思えない。
他だと、アルカディアでの経験から税の違いが考えられる訳だが‥‥。
仮に何らかの理由で此処だけが免税されているとして、だからと言って価格差が大きく気になるほどでもないんだよな。
俺たちなら別に外で食っても、大して負担にはならないだろう。
精々一割高くらいのものだ。
アルカディアで何倍もの高値を経験している俺にとっては、誤差程度に感じる。
ここで席が空くのを待つくらいなら、外で食べてもいいよな。
「それじゃ~、席が空くまでにパーティー申請でもしておくぅ~?」
天冉は待つつもりね。
確かに食事の為に人は集まっているけれど、ギルドの職員は暇そうにしているしそれもいいか。
俺たちは何となく天冉について行った。
「冒険者パーティーの登録をお願いしてもよろしいかしらぁ~」
冒険者パーティーとは、クエスト達成実績を分配する為の仲間である。
例えばレベル五十の|仕事《クエスト》を一人で達成した場合、その者は冒険者レベルをランク五十まで上げられる。
しかしパーティーで達成した場合には当然そうはならない。
パーティーの構成や予想される活躍によって、ギルド側が個別に冒険者レベルを決める事になる。
だから冒険者レベルが近い者でパーティーを組む方が、みんなレベルを上げやすい。
冒険者レベルがランク八十の狛里がパーティーにいれば、大抵のクエストは楽勝だからね。
何もしなくても冒険者レベルが上げられるとか、そんなオイシイ話は無いのだ。
尤も、俺たちがパーティーを組むのはレベル上げが目的じゃないので、その辺りはどうでもいい。
あくまで『萬屋ぼったくり』として活動するという表明の為であった。
登録用の用紙が渡された。
「必要事項の記入はできますか?」
受付嬢にそう尋ねられたのは、やはりこの世界の識字率が低いからだろう。
そしてもしも記入が出来なければ、ギルド側が有料で記入してくれるに違いない。
「大丈夫です。僕たちは優秀なので」
想香のマウントポジション発言に、受付嬢は少し残念そうだった。
さて、みんなが記入している間にちょっと聞いてみるか。
俺は受付嬢に話しかけた。
「ところでこの町の事について少し聞きたいんだが、何処か寂し気に感じるのは何か理由があるのか?それにここ以外の店では、物価が若干高い気がするのだが?」
俺の質問に、受付嬢は少し驚いた表情を見せた。
そして顔を近づけて小さな声で話し始めた。
「物価が高いと感じるのは重税のせいですね。この町では他よりも高い税が徴収されているのです。物を売ったりして代金をいただいたら、その一割を税として収める必要があるのです」
やはり税が高いのか。
つか完全に消費税じゃん。
最も経済活動が抑制されてしまう税を導入するとか、民の幸せを考えている統治者とは思えないな。
何処の世界でも税が高くなれば、民の幸福度が低くなるのは同じ。
しかしその程度と言ってはなんだけれど、それだけで此処まで町に活気が無くなるのもおかしい。
「それだけでは此処と他との温度差は生まれないだろ?この冒険者ギルドは他の町と変わらないように感じる。しかしこのワカメの町は異常とも思える」
俺も小さな声で話した。
すると受付嬢は辺りを気にしてから、更に小さな声で話し始めた。
「これはあまり話していいものではないのですが、この町の住人は全て『罪人』か『大きな借金を持った債務者』と『その子孫』たちなんです。この町は一種の牢屋みたいなものなんですよ」
ああ、それで門番が沢山いたのか。
つか割とアッサリ話してくれるのね。
それにしてもこれは結構面白いシステムの町だな。
犯罪者なんて牢屋に閉じ込めておけば、ただの金食い虫ニートと同じだ。
しかしこうして町で仕事をさせて生活させれば、納税者へと変わる。
更にその税も多い訳で、よく考えられたシステムと言わざるを得ない。
でもだからと言って、皆がおとなしく働くとも思えないんだけどな。
犯罪者の再犯率は五割くらいあると言われているし、中にはこの町で犯罪を犯そうとする者もいるだろう。
その分警察のような者たちを充実さているとは思うけれど、それでもおとなしく従うとは考えられない。
それにこの町の雰囲気が寂し気なのはしっくりこないよな。
「たとえそうであっても、寂し気な理由にはならないんじゃないのか?」
「はい。これもあまり話していいものではないのですが‥‥。毎月納税額が一番少ない人か、或いはこの町で罪を犯した者は、東の森に住むフェンリルの生贄にされるのです。その噂が静かに広がるにつれ、外食を控える人も増えて町から活気はドンドンと消えてゆきました」
だからそんなにペラペラ話していいのかよ。
しかし罪人や借金を返せない者たちから、生贄選考する為の町だったか。
ある意味それも罰と言えばそうかもしれない。
転生前の世界だったら、人道上どうなんだって言われるんだろうな。
だけど誰かを生贄に出さざるを得ないなら、それはそれで間違いとは言い難い。
「策也ちゃん‥‥後は策也ちゃんが‥‥書くだけだよ‥‥」
狛里にパーティー登録用紙を渡された。
パーティーメンバーそれぞれが名前を書く必要があるのか。
そしてギルドカードにあるナンバーもね。
番号は覚えているし、俺はすぐに必要事項を書き終えた。
「はい。書いたよ」
「じゃあ‥‥お姉さん‥‥パーティー登録‥‥お願い‥‥」
狛里はそう言って受付嬢に登録用紙を渡した。
「はい、それでは確認させてもらいますね。パーティー名は、『萬屋ぼったくり』ですか」
「うん‥‥そう‥‥」
「パーティーメンバーは四人ですね。あれ?五人いるようですが?」
「あ、私はパーティーには入ってないのぉ~。このパーティーのマネージャーみたいなものですからぁ~」
「えっと、そうなですね」
そうだったんだ。
まあよくは知らんけどさ。
天冉は一応新巻鮭のトップみたいなもので、狛里はその側近片腕みたいな感じみたいだからな。
「それでメンバー一人ずつ冒険者カードを確認させてもらいますね。リーダーは萬屋狛里さん‥‥えっ!?萬屋の狛里?」
名前を見て受付嬢は驚いて声を上げた。
それを聞いたギルド内の冒険者が一斉に注目した。
そして騒がしかった食事処も含めて、更に騒がしさが増したようだった。
「萬屋狛里だと?!」
「もしかしてあの、魔王を倒したという少女か?」
「この国の王が最も恐れる者だと聞いた事があるぞ」
「一人で世界を壊滅させられると言われている‥‥」
本当の事もあるけれど、なんか話がメチャメチャ大きいな。
つか冒険者のほとんどが狛里の事を知っているみたいじゃないか。
やはり狛里は超有名人のようだ。
確かに狛里は圧倒的な魔力を持っているようだし、正直チートだとは思う。
でもそこまで有名だとはあまり想像していなかったよ。
皆が騒ぐ中でも、狛里は粛々と冒険者カードを取り出して確認してもらっていた。
「これが僕のカードです。レベルは五十です。しっかり確認してください」
「オデのカードはコレだお。まだ登録したばかりなんだお。だからレベルは十しかないんだお」
続いて想香と猫蓮もカードを出した。
そして俺も遅れて提示する。
すると受付嬢は更に驚いていた。
「皆さん‥‥レベルが高いですね。流石は狛里さんのパーティーメンバーです」
表示されているレベルは低いけれどね。
受付嬢がそう言うと、更に冒険者たち一堂は騒がしかった。
こんなに人がいる所でパーティー登録はマズったかな。
まあ想香や猫蓮は認められたい願望があるようで、冒険者が騒ぐほどに鼻が伸びているようだけどさ。
目立ちたくない俺としては、正直早くこの場から立ち去りたい気分だった。
でも受付嬢はそうさせてはくれなかった。
「萬屋狛里さん!あなたの噂はかねがね伝え聞いております!何でも『人がやらない仕事』を引き受けてくださるとか。それでお尋ねしたいのですが‥‥鬼海星領の冒険者ギルド、我々からの仕事は引き受けて下さるのでしょうか?」
どうやら、此処の冒険者ギルドには、誰も引き受けてくれない仕事があるようだな。
狛里は天冉を見た。
天冉は一歩カウンターに近づいて言った。
「萬屋ぼったくりへの仕事依頼は、マネージャーである私を通してくださいねぇ~。という訳で、お話をお聞きしますぅ~」
なるほど、萬屋の仕事は狛里の意思ではなく、天冉がどうするのか決める仕組みなのか。
つまりこれまで受けてきた仕事は、多くが天冉から依頼されたものと考えられる。
或いは天冉に話が通っている者からか。
「えっと‥‥。そうですか。ではお話します。実はこの町の東の森にはフェンリルがいるのですが、それを討伐してもらいたいのです」
ほう、生贄を欲するフェンリルを倒せと。
それって町の者を助けてやってくれって話なのかな。
「依頼者と依頼理由を聞かせくださいますかぁ?」
「はい。依頼者はこの町に住む住人約百人ほどです。そして理由は『生贄となりたくないから』だと考えられます」
俺は天冉に先ほど聞いた話を説明した。
「という訳で、毎月誰かがこの町から生贄に出されるらしいんだ。自業自得にも思えるが、重すぎる罰とも言える」
さて天冉はどう判断するのかね。
「分かりましたぁ~。それでは報酬と仕事の細かい内容を確認させていただきますねぇ~」
どうやらやる事になったみたいだ。
冒険者パーティーとしての萬屋ぼったくり初の仕事か。
ミッションコンプリートで一応冒険者としての評価はされるらしい。
ただ請け負うのは冒険者としてではなく、あくまで萬屋ぼったくり。
よって報酬は天冉に支払われ、天冉が改めて狛里に仕事料を支払う形となる。
更にそこから俺たち従業員にギャラが分配される仕組みだ。
ちなみにこれは支払われる現金報酬の話で、手に入れたアイテムや素材に関しては概ね俺が預かる事になる。
各自必要な物や欲しい物があれば、俺の裁量で判断し加工等して渡す事となっていた。
「クエスト達成の条件わぁ~、フェンリルの死体を持ち帰る事ねぇ~。或いはこの次の生贄の日に、フェンリルが姿を現さない事でも達成としてもらったわぁ~」
結局倒してしまえばいい話だな。
ただ二つ目の条件は天冉が交渉して入れたらしい。
完全消滅させてしまうような可能性も考慮したんだろうけれど、さてフェンリルとはどの程度の相手だろうか。
アルカディアのフェンリルで考えるのなら、猫蓮じゃ相手にならない。
想香も魔力では負けている。
でも狛里なら圧倒できそうなんだよな。
報酬は天冉しか知らないが、マネージャーの取り分はそんなに多くはないらしい。
何にしても俺たちは、次の日にフェンリル退治をする事となった。

この日俺たちは、朝食をとってからすぐに東の森へと向かった。
東の森に入る所には、生贄を捧げる場所と思われる社が建っていた。
|注連柱《しめばしら》で囲まれた舞台もあった。
「生贄は駄目なんだお。でもフェンリルは怖いんだお」
「僕は楽勝で勝てると思います。でも倒すのは誰かにお譲りしましょう」
「私が‥‥倒す‥‥悪い子には‥‥お仕置きする‥‥」
天冉の話によると、フェンリルはこの世界でも伝説の魔獣と言われていた。
当然マスタークラスの冒険者でも倒す事は難しい。
冒険者レベル百の者が十人集まっても勝てるかどうか。
一見すると、これはいきなりとんでもないクエストを与えられたとなるのだろう。
でも既にアスモデウスを倒している狛里を知っている訳で、フェンリルに負けるなんて誰も思っていなかった。
実際ロイガーツアールで瞬殺だとは思うよ。
でも何か忘れている、そんな感じがした。
森に入ると狼魔獣や赤目狼魔獣が次から次へと襲い掛かってきた。
正直この森に入るだけでも並みの冒険者では難しいと感じる。
だけど俺たちは並みの冒険者ではない。
この世界の事はまだ何も知らないに等しいけれど、最上級のパーティーである事は断定してもいいだろう。
冒険者レベルが百までしかないのは、それ以上はほぼいないという事だろうからさ。
今回のこのクエストだって、本当に倒せると思って頼んで来たのかも微妙だ。
ここで萬屋狛里がやられれば、それはそれで喜ぶ者もいるに違いない。
鬼海星王国から見れば、新巻鮭王国の狛里は最大の障害である訳だしね。
さてそろそろ森の気配が変わって来たぞ。
魔獣の気配も更にヤバくなっている。
「この気配は‥‥灰色赤目だ‥‥」
「それって、赤目狼魔獣よりも強いんだお?」
「僕の知識によれば、狼魔獣の三倍は動きが速いそうです」
赤目で約倍のレベルと言われていたよな。
つまり猫蓮に近い強さを持った魔獣と言えるだろう。
つか猫蓮に近いレベルの魔獣って結構多いよな。
こいつ本当にチートなのかね。
まあ不老不死ってだけで負ける事はほぼ無い訳だし、チートと言えばチートなんだけどさ。
転生の際、その能力を得るために魔力を抑えられた可能性が高そうだ。
『少女隊は狛里と想香がヤバい時には助けてやってくれ。妖凛は天冉を頼む』
俺はテレパシー通信で、影の中の少女隊と妖凛に伝えた。
『死んだら終わりの世界は面倒なのね』
『魂集めをしていた頃が懐かしいのです』
『コクコク』
本当になぁ。
これが普通なんだけど、みゆきの創った異世界は本当に良かったよ。
不老不死になれれば、こちらの世界の方が多少楽だけどさ。
猫蓮は何度も灰色赤目に殺られていた。
流石にこの数じゃ、猫蓮のレベルだときつい。
しかし死なないので痛みにさえ耐えられればなんとかなった。
「ぐおぉー!痛いんだお!オデは魔法使いなんだお!壁が必要なんだお!」
このメンツで壁ができるのは狛里か俺なんだよな。
でも狛里はアタッカーだし、俺が出て行ったら猫蓮を鍛えるという趣旨に反する。
悪いけどお前は痛みに耐えて頑張ってくれ。
「策也ちんは助けてあげないのぉ~?」
「猫蓮の事か?あいつはもっと強くなれるし死なないから、本人の為に放置が良いと思っているんだ。それに俺は天冉を守るのが任務だからな」
「私を守る、ねぇ~‥‥。そうね、それが一番大切よねぇ~」
この姫さんはよく分からない所があるよなぁ。
自分よりも他人の事を考えていると思ったら、やっぱり自分が一番だと言う。
狛里にも天冉を守る事が一番大切って言われているし、それはそれでそうするつもりだけれどさ。
だったら何故に冒険の旅に出たのだろうか。
どう考えても自分が足を引っ張ると分かっていたはずだ。
それだけ伊勢神宮には何かがあるという事かもしれないが‥‥。
考えても無駄なので、俺はとにかくみんなが死なないようにするだけだよ。
「うがぁー!もう十回は死んでるんだお!いい加減この狼たちは学習するんだお!オデは殺しても死なないんだから攻撃はやめるんだお!」
『はははは!猫蓮は面白いのね!殺され過ぎなのね』
『その内痛みが快感に変わるのです』
『そう笑ってやるな。大抵の物語では死んだら強くなるのが定番だ。きっと猫蓮は死ぬたびに強くなっているはず。これもきっと神が与えた試練なんだよ』
とはいえ全く強くなっている気配は無しか。
厳密には死んではいないという事かもしれない。
それにしても狛里は流石だ。
全く危ない所がない。
カチューシャを付ける前は危なっかしい所もあったけれど、今の狛里は無敵だな。
想香は油断せずにやれば、このくらいの相手でも大丈夫か。
兎束流剣術は思った以上に能力を高めている。
絶対魔法防御とマジックプロテクションによって少々の事では死なないし、今の所は問題はなさそうだ。
襲い来る狼魔獣たちを蹴散らして、敵の気配もかなり減ってきた頃、一際大きな魔力を持ったものが俺の感覚圏内に入ってきた。
『来たのです!』
『更に倍なのね!』
妃子の言う通り、灰色赤目の倍はレベルが高いと思われる何かが近づいてきた。
ちなみに倍レベルが高いという事は、このレベルの魔獣だと魔力にして百倍以上強い事になる。
「フェンリルが‥‥来た‥‥」
「こ、こ、これは、僕の相手ではありませんね。狛里店長にお譲りします」
「オデは‥‥灰色赤目相手でもこのザマなんだお‥‥。倒せる気がしないんだお」
皆の判断は正しかった。
猫蓮だと死なないけれど勝てはしない。
想香も絶対魔法防御を張りながらの戦いでは力が足りないと思える。
かといって絶対魔法防御無しでは危険が大きい。
確実に倒せるとしたら狛里だけだ。
フェンリルが姿を現した。
アルカディアでリンがテイムしたフェンリルよりも大きい。
世界が変われば見た目も変わる。
神々しくも感じる圧倒的強者の風格があった。
「私の森を荒らすのはお前たちか?」
人間の言葉を喋っただと!?
それには流石に皆驚いているようだった。
「森を荒らす?‥‥魔獣が襲ってきたから‥‥退治しただけ‥‥」
狛里にとってはそうかもしれないが、猫蓮は結構魔法で森を焼いていたぞ。
「して何用だ?何か話し合いに来たという訳でもなさそうだが‥‥」
このフェンリル、意外と話せそうな奴じゃないか。
狼魔獣が仲間なのかは分からないけれど、同じ魔獣が殺られている中でこの対応。
話せばなんとかなる相手なのかもしれない。
「生贄は嫌だから、フェンリルを倒すよう依頼を受けたのです。人間を食べたりせず生贄も無しで良いなら見逃して上げましょう」
流石は想香だな。
このフェンリル相手にも上から目線とは恐れ入るよ。
此処までくると記憶喪失でもアホだと罵りたくなるな。
「生贄を出すと言ったのはこの地の国王、人間だ。そして我々は成長時期に人間を定期的に食らわないと生きてはいけない。既に我々は最大限譲歩している」
これは‥‥ちょっと難しい問題になってきたな。
話せる相手だから無暗に殺したくはないという思いも出て来る。
特に狛里はその気が強い。
しかし人間を定期的に食わなければならないなら、流石にそれは放置もできない。
「人間以外で我慢する事はできないのぉ~?」
「必要なのは生きた人間の心臓。他のヒューマンでも可能だが用意できるのか?」
このフェンリルは悪い奴じゃない。
それはこれだけ話せば十分理解できる。
だけど人食いなのだ。
人間だって食う為には人間すら殺す。
当然生きる事を否定はできないが、人間が殺されるとなれば対応するしかない。
転生前の世界では、命よりも権利を優先する声はあった。
今回は罪人とは言え人間の生きる権利か、魔獣とはいえフェンリルの生きる権利なのか。
「どうしよう‥‥天冉ちゃん‥‥」
「仕事は、必ず達成よぉ~。ただし条件は二通りあるわよぉ~」
なるほど、こういう時の為の条件追加だったか。
もしも敵の知能が高く人の言葉を話す場合、狛里には倒せない可能性があると天冉は分かっていたんだ。
「私たちは、今後あなたが生贄を求めて来るのなら、退治しなければなりません。ただし、この鬼海星領を出て法螺貝王国領にある森へと移り住み、もう生贄を求めないのなら見逃します。どうしますか?」
天冉のポワポワした雰囲気が消えた。
一応王女なんだな。
ちゃんと普通にもできるのか。
しかしこれでフェンリルが引いてくれるかどうかは分からない。
狛里はおそらく『引いてほしい』と思っているのだろうな。
祈るように返事を待っていた。
想香はドキドキを隠せないまま警戒しているようだ。
猫蓮は漏らしそうな小便を我慢している顔だった。
あくまで俺の想像ね。
「分かった。ここは引こう。しかしまだしばらくは人間を食さなければならない。それだけ人間が死ぬ事になるのだがいいのか?」
「良くはないわよぉ~。だけどうちの狛里ちんがお困りちんなのよねぇ~。殺したくないのに殺させるのも私としては本意じゃないのよぉ~」
「そうか。ではお言葉に甘えて去らせてもらおう」
フェンリルはそう言った後、チラッと俺の方を見た。
こいつには分かっていたようだな。
狛里は既にお前を殺せなくなっているという事をさ。
そして敵になり得るのは俺だけだと。
フェンリルは森の中へと入っていった。
直ぐに辺りからヤツの気配は消えた。
「ふぉ~!ドキドキしたんだお。痛そうな攻撃が色々想像できたんだお」
「ヤツは僕に恐れをなしたようです。今日は見逃してあげるのです」
「ありがとう‥‥天冉ちゃん‥‥」
皆一気に緊張の糸が切れた。
三者三様色々な強い感情が凝縮された時間だった。
その中で天冉だけは平常心だったのは、流石というか天然というか。
レベル壱の冒険者がフェンリルを前によくあれだけ冷静な対応ができるものだ。
これが一流の王女なのだろう。
そう言えばリンも立派だったよな。
アルカディアでリンと初めてあった日の事を思い出すよ。
俺の脅しにもまるで動じる所がなかったよな。
「フッ‥‥」
俺は少しだけ失笑した。

この後俺たちは、ワカメの町の冒険者ギルドへ報告に行った。
あった事を全てそのまま報告して納得はしてもらった。
それで一応次の生贄の日に確認をしてからクエスト報酬は貰える事になる。
この世界の冒険者ギルドは、アルカディアのような連携はされていない。
ワカメの町の冒険者ギルドは、ワカメの町の冒険者ギルドでしかないのだ。
町に複数ある場合も、それぞれ別だと考えなければならない。
共通するのは冒険者ギルドカードだけ。
よって報酬を貰う為には、確認後に取りに来なければならない訳だ。
まあその時だけは俺がぶっ飛ばして来ればいいだろう。
こうして一応冒険者ギルドからの初クエストは達成した。
しかし何ともスッキリしない気持ちが後を引くのだった。
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