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夢の話

2013年7月9日【火】13時09分39秒
夢の話。
退屈な日々をすごしていた。
売れないモノ書きの私は、今日も部屋に閉じこもり、グダグダと暮らしていた。
もう50歳にも近付こうかというのに、結婚もせずにボロの平屋で一人暮らし。
ボーっと窓の外を眺めながら、何か面白い事はないかと思ってみても、変わった事と言えばトイレが詰まって水があふれるくらいだ。
どうも先日から、トイレの調子が悪い。
毎日、ほら、あのパコパコするやつ?あれを持ち出してきては、トイレと格闘している。
時にはトイレに気合を入れる為にぶったたいたりもしているが、どうも私の気持ちは伝わっていないようだ。
やはり暴力で躾けるのは間違いなのだろうか。
私はコップに入っていたコーヒーを一気にあおった。
ぬるくなっていたそれは、決して美味しいとは言えない未知の飲み物に感じた。
しばらくそのまま固まって、再び窓の外の空を眺め続けた。
ゆっくり動く雲と、蝉が奏でる雑音は、私に暑い暑い夏を告げていた。
受け入れたくない季節だった。
さて私は、現実に戻ってきた。
尿意が私を、このくだらない世界へと引き戻したのだ。
全く、人間はどうしてトイレをしなければならないのか。
面倒くさいったらありゃしない。
アイドルに生まれれば良かったのに、そう思った。
私は重い腰をあげて、ゆっくりとトイレへと向かった。
トイレはすぐそこだった。
平屋と言えばそれなりに広いイメージをもっているかもしれないが、我が家はとにかく狭かった。
部屋が二つとトイレと風呂だけのシンプルな間取りだ。
私が一人で暮らすには、丁度良い広さだった。
トイレについた私は、小便をしながら嫌なものを眺めていた。
別に小さなナニに悲しんでいたわけではない。
むしろ「kawaii」が流行っている現代では、喜ぶべき部分だろう。
それよりも、トイレの一部が欠けて、そこに小便が流れ込んでいるのが見えて、私の心を沈ませた。
どうやら、暴力による躾けは間違いだったようだ。
近いうちに新しくここにくるであろうトイレには、優しく接しようと心に誓った。
私は用を済ませると、流す事もせずに、がっくり肩を落としてトイレを出た。
「業者に電話して、取り替えてもらうか」
ついでに、トイレの詰まりもチェックして‥‥
金がかかるな、そう思った。
業者に電話を入れると、夕方過ぎに来るという事だった。
夕方過ぎって、もう夜じゃねえか!
夜遅くになるかもしれないと考えた私は、今のうちに風呂に入っておくことにした。
下水がトイレと繋がっているようで、トイレが詰まった時、風呂場の排水も流れなかった事を覚えていた。
トイレの取り換えと一緒にやってもらうつもりの下水管のチェックの為に、いつもの時間に風呂に入れなくなる可能性も考慮する必要がある。
私は特に着替えも持たずに、風呂場へと向かった。
風呂場のドアはいつも解放してある。
一人暮らしでは、家の中にあるドアはどれも必要ない。
トイレだけは一応開け閉めをしているが、それは臭いが広がってくる事を阻止する為だ。
しかし、我が家自体が臭いので、最近もう必要ないと感じていた。
はてさて?
いつも通り風呂場で服を脱いで風呂に入ろうと思ったのだが、子供が一人、私よりも先に浴槽につかっている。
いや、常に浴槽にお湯が入っているわけではないので、どうやら子供がお湯をはったようだ。
湯気がたっていないので水かもしれないが、まあこのクソ暑い夏だから問題ないのだろう、そう思った。
いやいや、問題はそこではない。
何故、見ず知らずの子供が、我が家の風呂に入っているのだろうか。
見た目十歳前後の男の子のようだが、私は結婚もしておらず、当然子供もいない。
最近玄関のカギをかけた記憶がないから、勝手に入ってきたのだと、私はすぐに理解した。
「おい、ひとんちの風呂に勝手に入ったらダメだろ!」
私がそう言うと、子供はしぶしぶといった感じで風呂からあがった。
そして適当に、そこにあったタオルで体を拭いた後、着てきたのであろう服を着てから、私の横を通って無言で玄関へと向かった。
私はなんとなく、その子の後についていった。
すると玄関には、子供の関係者であろう人物が二人立っていた。
一人は玄関の中、少し可愛いい中学から高校生くらいの女の子、そしてもう一人は外にいて背中しか見えないが、体の大きさから保護者だと判断できた。
子供は玄関から出ると、その保護者っぽい男に何やら話しかけていた。
出ていく子供と入れ替わるように、今度は女の子が私の家に上がろうとしていた。
「おい!ここは俺の家なんだけど?」
私がそう声をかけて、家に上がろうとする女の子を止めようとすると、女の子は笑顔でこう言ってきた。
「いいじゃない。風呂くらい」
ま、まあ、確かに、別に風呂くらいはかまわない。
でも、見ず知らずの家に勝手に上がり込んで風呂に入るのはどうかと思うわけで。
「いや、知らない人の家に勝手に上がり込んじゃダメでしょ?」
私は当然の事を言ったつもりだった。
普通の人なら、これで納得させられるはずだ。
しかし女の子は笑顔で「私たちの話を聞けば、それは問題じゃない事が分かるよ」私を納得させて風呂に入ろうと目論んでいるようだった。
ここで、ずっと家の外で背中を向けていた保護者らしき人物がこちらを振り返った。
若い男だった。
体は大きいが、どうやら未成年のようだ。
なるほど、子供三人で、何か訳ありの生活をしているのだと悟った。
そしてこの女の子は、今から辛い身の上話でもして同情を誘い、私を納得させようとしているのだろう。
確かに、こういった子供達がこのような事をしていれば、感動的な話の一つでもあったりするだろうし、興味もあったので、私はその女の子の話を聞く事にした。
と思ったら、話しだしたのは、一番年上であろう体の大きな男だった。
話を聞くと、予想通りというか、少し悲しい身の上のようだった。
ただ、あまりに予想通り過ぎたのか、その子供達が不幸だとは思わなかった。
正直私には、もう興味もなくなっていたし、どうでもいい気分だったが、それでも私と男の話は惰性で続けられた。
「で、君はどこの生まれなんだ?」
何気ない、どうでもいい私の質問だった。
しかしそれに対する答えは、私の興味を引きつけるものだった。
「笑いと、エロと、狼」
グダグダだった私の思考回路が、一気にシャキーンと音を立てた気がした。
「ほう、笑いというと大阪か?」
「そんな単純じゃない」
「ふむ‥‥エロか。ブラジル?」
男の顔が、どうも私の知り合いのブラジル人に似ていた事から、なんとなくそう感じた。
しかしそれも、男の表情から判断するに、どうやら違ったようだ。
では狼は、嘘という意味だろうか。
それとも‥‥
私は捨てられた子供が、狼に育てられる話を思い出していた。
すると突然、我が家の風呂に入っていた、一番年下であろう子供が笑いだした。
「そいつ捨てられたんだよ!うける!」
そう言って、より大きな笑い声をあげて、腹を抱えていた。
子供は楽しそうだったが、見ていて、気分の良いものではなかった。
他人の不幸を、素直に笑える子供が少し憎らしく感じた。
「おい、お前ら友達なんだろ?どうして笑えるんだ!」
私は子供に対して声を荒げていた。
自分でも信じられないが、私がこれほど感情的になるのは、30年ぶりくらいだった。
そんな私に一瞬驚きの表情を見せた子供だったが、すぐに親の仇を見るような表情にかわった。
そしてポケットからナイフを取り出し、私の顔に突きつけてきた。
「ああ?てめぇに俺らの気持ちが分かるかよ!?ぶっ殺すぞ!」
勝手に我が家の風呂を拝借した子供と、同一人物には見えなかった。
だからと言って、私は恐怖する事も同情する事もなかった。
「自分たちだけが不幸だと思うなよ!」
私は言い返していた。
「ほう。だったらてめぇはどんな人生おくってきたんだよ!?」
子供がそう言ってきたので、私は自分の人生を振り返り、話す事にした。
「金持ちの家に生まれ、何不自由なく暮らし、高校大学と出て、普通に生きてきた」
「なんだよ?全然不幸じゃねぇじゃねぇか!」
ああ、そうなのか。
私はやっぱり不幸ではないのか。
そんな風に思ったところで、私は夢から覚めた。
何やら面白い夢だった。
そして気が付いた。
モノ書きをしているから、私のような普通はもっとも不幸だったんだ。
そして、不幸を語る君たちが、とても羨ましく感じたのだ。
この夢は、私にとっては、とんでもない非日常だった。
この程度の夢が、私にとっての精いっぱいの幸福(ネタ)である事に、自分がとても不幸な選択をしていると感じた。
ところで、「笑い」と「エロ」と「狼」って、いったいなんだったんだろう。
夢だから意味はないのだろうが、オチが無くて残念だ。
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